閑話 狩猟祭前・下
「変わった弓ですね」
「そうだね」
カミラ嬢の質問には態と素っ気なく答える。
実家がバリッバリの武闘派、軍人さんだからね。こういうのを欲しいと言われても困る。
今は平和な時代。
軍の玩具にはしたくない。
まあ、素材がないから大人用は作れないと思うけどね。カーボンファイバー欲しいな。あれあると色々作れるんだよね。
「レリクス様は、狩猟祭に出られるんです、よね?」
「出るというか、ミリアが勝手に手配しちゃったんだけどね」
「狩りは、お嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ。ただね、弓にしろ剣にしろ、まだ扱えるものが限られるからね。大物を狩るのは難しいんだ」
鷹狩りしてみたいけど、鷹を腕に止まらせるだけの力がない。
まあ、鷹でも色々いるから小物狙いの小型の鷹を使えばなんとかいけそうだけど、それでも危ないんだよね。
一番大きい鷹だと、僕が獲物として持って行かれそう。
早く成長したい。
再来年ぐらいに鷹を飼い始めようかな。そうすれば、僕の身体ができる頃には鷹も狩りに使えるようになってる。
……駄目だ。鷹を訓練する間、僕、まだ小さいじゃないか。
身体ができてからじゃないと飼い始めても駄目かな。
そりゃ鷹匠を雇って訓練を付けさせるってことはできるよ。鷹匠の数は少ないけど、居ることは居るから。
でもさ、それじゃ楽しみ半減でしょ。
やっぱり、自分で1から育てないとね。
「そうだ、リアルテ」
「なんでしょう?」
「大きな鳥は平気?」
猛禽類だって鳥類。鳥には違いない。
「どれぐらい?」
「まあ、鷹なんだけどね」
「鷹は、好きです。大きくて、力強い」
「それじゃさ、そのうち飼育してみない? ペット用じゃなくて、鷹狩り用に訓練するの。僕はやろうと思っててね。一緒にどうかな」
あ、なんか、ミリアの「一狩り行こうか」並の発言だったかな。
令嬢に鷹狩りすすめるとか、駄目じゃん。
「やってみたいです」
って、やるんかい。
……リアルテさん、過去一、眼が輝いてませんか?
そんなに魅力的かな? いや、言い出した僕が言うのもなんだけど。
鷹狩りって貴族令嬢の嗜みから一光年は離れてる気がする。
まあ、リアルテが喜んでるからいっか。
大事なのはそこだよね。
「鷹でしたら、父の知り合いを紹介できるかもしれません」
え、鷹に友達が?
んなわけないよね。鷹匠だよね、知り合いは。
しかし、カミラ嬢は抜け目ないね。素早く僕らの間に入って来る。
「そうなの?」
「はい、昵懇にしている鷹匠がいますので。
父も鷹を飼っていますし、年に一度か二度は鷹狩りをします」
武門の人だから、そういうの好きそうだよね。
正直、カミラ嬢に借りを作るのは気の進まない話ではある。
歳に似合わず、なあんか、腹に一物ある感じなんだよねえ、カミラ嬢は。
お父上は優れた軍人。
優れた軍人は抜け目がない。
「先日、白羽鷲の雛を見せていただきましたが、とても可愛かったですよ」
「それは、私にも見せていただけるでしょうか?」
カミラ嬢はリアルテが可愛いもの好きであることまで突き止めているらしい。
僕がどうこう言わなくても、勝手に僕の婚約者になってそうだよ、この子。
「お望みでしたら」
リアルテににっこりと微笑みながら僕をチラ見する。
あれかね、将を射んと欲すればまず馬を射よ、的な?
「ああ、でも、お父様から許可がいただけないかもしれません。淑女たるもの余り外出などするなと言われておりますので」
しゅん、とするリアルテ。
これも珍しい姿。レアなリアルテ、略してレアルテ。
冗談はともかく、そりゃ厳しいね。
淑女と言ってもまだ子供だよ。それも夜遊びしようとか言うんじゃないのに、リンドバウム公爵家ってそんな厳しいの?
そう言えば公爵とはあんまり会ったことないから、為人を知らないな。
まあ、自分は大魔王になります、とか言っちゃう娘だから外に出したくなかった?
僕は気にしないけどね。
ん、カミラ嬢、なに、その目配せ?
ああ、そうか、そういうことか。
「僕も一度見てみたいな。構わないかい、カミラ嬢?」
「はい、殿下」
「なら、リアルテも是非一緒に行こう。僕のお供ということならお父上も許可してくださるに違いない」
「是非」
うん、良い笑顔。
SSRだね。
人形だなんだと言われてたけど、少なくとも僕の前じゃ時々だけど感情出してくれるようになった。いいことだ。
人形姫のままでも可愛いけどね。
リンドバウム公爵がどういう教育方針だとしても、将来の夫とのお出かけなら駄目とは言えないよね。
僕から誘ったとなれば余計に。
ホントは、公務がゲロ吐くほど忙しいけど、リアルテが喜ぶならそれぐらい……死なない程度に頑張るよ。
面倒なことはリチャードに丸投げしよう。
僕は可愛い婚約者には甘いんだ。
可愛いは正義!!(2回目)




