閑話 狩猟祭前・上
酷い目に遭った。いや、遭ってる。
本番はまだ先。
狩りはね、時々あるイベントなんだよ。
で、近々年に一度の狩猟祭がある。
狩りの好きな貴族たちは暇を見つけては狩りに行く。
今度のはお国の祭り。規模が違う。
貴族の狩りは勢子に獲物を追い立てさせて弓矢で射止めたり、狩猟用の槍で突いたり。
勢子役は近隣の農民を雇ったり、犬を使ったりと時と場合によるかな。
この世界、まだ肉を好きなときに食べられるほど畜産が盛んじゃないから、狩猟で肉を採るのは結構重要。
貴族が狩りに使う土地は庶民は禁猟。獲物がどれだけ居ても、狩っていいのは貴族だけ。
酷いよね、肉、みんな食べたいのに。
まあ、そこが特権階級だね。
狩猟祭のときは庶民への振る舞いもあるから、そういうところで不満を解消してんだろうね。
獲物は猪や鹿。
熊は遊びで狩るには手に余る。
各動物の解剖学的詳細は省くけど、便宜上そう呼んでるだけで僕が生まれながらに持っていた知識のそれとは色々と違う。
それっぽいものってだけ。
狩りはいいんだよ。肉は好きだから。
問題は、通常は僕の歳じゃまだ狩りをしないってこと。
狩猟祭は新成人、成人、熟練者の3部門があって競うんだけど、幼児部門はない。
新成人に成人間近な人が混ざることはあっても7歳ってのはいない。
大体早くて12歳とか。
7歳児は見学。当たり前のことだけど。
けど、なんか僕は参加しないと駄目みたい。
王族だからって訳じゃない。長兄も次兄も僕の歳じゃ参加してなかった。
そりゃ一応馬は乗れるよ。
お散歩ぐらいならできるよ。お散歩ぐらいなら。
獲物追っ掛けて矢を射るなんて無理。
そもそも僕の力で引ける弓は凄く限られてるんだよ。
鹿やら猪を仕留めるのは物理的に無理。仕留めるだけなら毒使うって手もあるけど、後で食べるんだから、毒は使いたくない。
やるとしたら、誰かに獲物を弱らせて貰って、トドメだけ譲って貰う。
貴族子弟に箔をつけるときに良くやる手だね。うん、嫌だよ、そんなの。そんなだったら不参加で見学しる方がマシ。
大体、王太子である長兄ならまだしも、僕に箔つけてどうすんのさ。
公務だと言うなら仕方ないけど、公務は見学者としての参加で十分だからね。それなのに、
「一狩り行こうぜ」
いきなりミリアがそう誘って来た。
どこのハンターな人達だ。
断ろうと思ったら、もう僕が参加するから一緒にって捻じ込んだ後だった。
完全な事後承諾。
しかも僕の名を勝手に使って。
そりゃ僕の一言で参加を撤回もできるけどさ、そんなことしたらまたミリアが五月蠅いんだよね。
ミリアだって一人じゃまだ無理なのに、できるつもりなんだよ。
剣とかは熱心に訓練してるから僕より強いよ。
それでもさ、肉体年齢が絶対的に足らない。質量が足らない。
兎や山鳥ぐらいなら行けるけど、狩猟祭のメインは大物だからね。
小物を狩りたいなら別でやればいいんだよ。大人に混じって狩猟祭に出る必要なんてない。
そう言っても聞かないから、ミリアは。
もうね、婚約者って言うより悪ガキ仲間って感じ。
悪友として気に入ってるんだろうね、僕も。
だから、今忙しい。
急いでコンパウンドボウ完成させないと。
子供用のサイズでも、コンパウンドボウなら結構な威力だったはず。
実際に狩猟に使ったことはないし、構造も曖昧なところがあるから試行錯誤。1から発明するのじゃないからマシだけど、結構大変な作業。
材質もね、アルミとかカーボンファイバーないから、かなり劣るものになっちゃった。
子供用の威力だから大丈夫そうだけど、大人用は厳しいかな。
「でさ、見てて面白い?」
リアルテとカミラ嬢が僕の作業をずっと見てる。
いつの間に仲良くなったんだか。
2人で訪ねて来たから、カミラにそのことをこそっと聞いたみた。
「未来のご正室様ですから」
だって。
将来、生涯に渡っての上司(?)になるから、擦り寄ってるらしい。
カミラ嬢はそういうところ強かというか、確りしてるというか。
そりゃ奥さん同士仲良くしてくれるなら言うことないけど。
……。
カミラ嬢とは婚約してないけどね。
「面白い、です。見ていてはお邪魔でしょうか?」
リアルテが感情の乏しい声で聞いて来た。
彼女は感情を表すということが苦手らしい。でも感情がないのとは違う。何度か会ううちに、僕には彼女の感情が少し分かるようになった。
いや、彼女の方が感情を出すようになった?
「いや、そんなことはないよ。リアルテたちが退屈してないんならそれでいいだ」
うん、ちょっと視線が気になるけどね。
今日は爆発するようなものないから、リアルテたちが楽しいならいいよ。
高確率でやらかすリーチェは外で待たせてるしね。
……考えてみたら、護衛騎士が一番危ないってどうなんだろ。
しかも専属。
賊に襲われる前にリーチェにうっかりやられそう。




