女騎士リーチェ・上
「げ、なんでいるの?」
僕が出掛けるときは必ず護衛騎士がつく。
僕に限らず王族なら当然のことだ。
一応専属の護衛騎士がいる。長兄や次兄ほどの人数はいないけどね。
なのに、待ち構えていたのはリーチェだった。
騎士団長の娘で姉の友人。
まあ、姉と言っても沢山いるんだけど。
貴族そのものの人数減ってる上に男子の出生率が下がってんだよね。どういう理由なんだか知らないけど、うちは男3人、女は倍はいる。
赤い髪は色だけ見るとカミラ嬢と似てるけど、こっちの方が明るいというか、落ち着きがない色をしてる。
それをポニーテールにして軽鎧姿。
活発な剣道女子、みたいな。
長兄である王太子の専属護衛であり、側妃になる予定の彼女はちょっと苦手な人の1人だ。
って、抱き付かないで。抱き締めないで。
まだ豊かじゃないけど、胸、顔に当たってるから。
7歳児だって女の子の身体に触れるとドキドキするんだよ。
微妙なお年頃なんだから。
「酷い言い方だ。でも許す。可愛いレリーなら許しちゃう」
だから、解放してよ。
最年少組でも騎士やってるだけあって力は強い。ホント、強い。
見た目はごつくないのに、大人とも打ち合えるぐらい力がある。いや、大人より強いかな。
ミリアも大概脳筋系だけどさ、リーチェは更に上を行くんだよね。
なにせミリアが師匠と崇めてるぐらいだから。
もう少し早く生まれていれば戦争の英雄になったろうって専らの噂。
むしろ、間に合わなくて良かったと思う。リーチェが思う存分に暴れたら敵兵が気の毒過ぎる。
盗賊退治に行けば同行した騎士たちは盗賊との戦闘より暴走するリーチェを抑える方が大変だとか。
チート能力でも持ってんじゃないかって話。
ついでに、リーチェは僕をレリーって呼ぶ。
許してないけどね、そんな愛称。
「ね、レリー、折り入ってお願いがあるんだけど」
やっと圧迫から解放された僕にリーチェが潤んだ眼を向けて来る。
ああ、嫌な予感。
大体さ、潤んだ眼をするならせめて見上げてよ。見下ろさないで。
「なに?」
「レリーのお嫁さんにして」
は?
「リーチェは兄上の婚約者でしょ。側室が内定してたんじゃないの?」
「婚約破棄されちゃった」
破棄って……
なにをしたらそうなるのか。
「一体なにしたの? 兄上がそこまでするって余程だよ」
「なにも」とリーチェは眼を逸らす。
なにもしてないなら、何故眼を逸らすんだい?
「もう1度聞くね。正直に答えなかったら話はここまでだよ。
で、なにをしたの?」
「王太子殿下に稽古をつけてたんだけど」
「だけど?」
「本気で掛かってこいと言うから」
「……まさか、本当に本気で相手したの?」
あははは、と笑う様は実に可愛らしいんだけどね。
リーチェに本気で、って言う方も言う方だけど、乗る方はもっと問題だよ。
本気のリーチェの相手ができるのって、騎士団のトップクラスだけじゃないか。
そりゃ、長兄だって王太子として武芸は小さい頃から習ってるだろうけどさ、無謀に過ぎるよ、それは。
例えるなら、クラブ活動で剣道やってるだけの学生が、宮本武蔵に死合申し込んで無事で済むわけないでしょ。
長兄もなにを考えてるんだか。
リーチェの実力知らないわけでもないだろうに。
「事情は分かった。ラズロ兄上に取りなしてあげるから、それでいいでしょ」
「いや、それはいい」
やけにあっさりきっぱり言うね。
「なんでさ。昔からの付き合いでしょ」
「家同士でそう決めてただけで、別に王太子殿下が好きだったわけじゃない。悪い人じゃないのは知ってるよ。これからも良い友人ではいるつもり」
「でもさ、王太子である兄上に婚約破棄されちゃったら、嫁ぎ先ないでしょ」
互いに事情があって、話し合っての破談ならともかく、破棄じゃねえ。
それだけで悪い評価になるし、王太子の不興を買った人間を娶ろうなんて貴族はいないでしょ。
下手したら自分まで王太子の怒りを買っちゃうかもだから。
王族の権力が余り関係しない平民に嫁ぐか、他国へ行くか。
王太子の権力を恐れない人間に娶って貰うか……だから僕か。
「事情は分かったけど、僕だって兄上との仲にヒビを入れたくないんだけど」
って、なんでそんなキョトンとした顔をするのさ。
年上のくせに、そんな可愛い顔したって同情しないからね。
「ああ、そうか。冗談か。レリーはいつもながら冗談が下手だな」
冗談って、なにが?
なにがどうしたらそういう話になるんだ?
どうもリーチェの脳筋思考は理解できないんだよね。
「なあ、頼むよ。わたしにはレリーしかいないんだ」
そう迫れてもね。この人、見た目はいいから困る。
「レリーが貰ってくれないと、わたしはもう修道院へ行くぐらいしかないんだ」
いや、騎士でしょ、あなた。騎士団にいればいいじゃん。
まあ、貴族家の女性で結婚できてないと色々と陰口叩かれるだろうけど、そんなのを気にする玉でもないじゃん。
「独身のまま将軍にでもなったら?」
「わたしだって人並みに結婚はしたいんだよ。将軍にもなりたいけど」
なら、王太子を叩きのめさなければ良かっただけでは?
「殿下、殿下。リーチェ嬢、ちょっと殿下をお借りしますね」
リチャードが僕の腕を引いてリーチェから少し距離を取る。




