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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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高級娼婦 2人の目的


 カーテンが開く。

 小麦色の肌をした若い女性は肌の露出の多い衣装を着ていた。

 南方部族風のデザインなのは、そこでも南方出だと思わせるためなんだろうね。

 リヴィ嬢はよろよろと歩んで来た。

 途中、ミーシャを押しのけるようにして僕の前に立ち、僕の顔を両手で撫でる。

 眼に一杯の涙を溜めて。

 彼女は、この瞬間をどれほど待ち望んでいたんだろうか。

 国を失ってから10年余、リヴィ嬢とミーシャがどれだけの辛酸を舐めて来たのかを思うと胸が痛い。

 僕にはどうしてやることもできなかった。

 僕が生まれる前に死んだはずだったから。

 彼女たちが生きているとは知らなかった。

 そう、仕方のないことだ。仕方のないことだけれど、僕は酷く無力感を覚えた。

「ああ、ああ、この瞳の色、それにお顔立ち。あの子の、あの方の面影がある」

 正確には髪もだけど、今は染めてるからね。

 さすがにカラーコンタクトは無理だった。

「姉さま?」

「お控えなさい、ミルシャ・ホーンワース。この方は、いえ、この方こそ、わたしたちがお仕えするべきただ1人のお方です。

 どうか、ご無礼をお許しください、第3王子レリクス殿下」

 リヴィ嬢は1歩離れて片膝をつき、頭を垂れる。

 貴人に対する礼儀。

 主家の人間に対する敬意。

 ミーシャは、え、という顔をしている。

 そりゃ戸惑うよね。いきなり王子様だとか言われてもさ。

「こうして顔を合わせたのだから約束通り自己紹介しよう。レリクス・トゥラン・マクエラルスだ。

 リヴィエラ・バロット、ミルシャ・ホーンワース、よくここまで来てくれた。

 よく、今日まで生き延びてくれた。マクエラルス王家の者として君たちを歓迎する」

 僕は、レリクス・トゥラン・マクエラルスと名乗ってる。

 マクエラルスはこの国の王族の姓じゃないんだよね。

 それは失われた王家の名。

 今、恐らく僕しか使えない名。

 嫡子じゃない僕はこの国の王家の姓ではなく、母の家の姓を使ってる。

 パパンが悲劇の王家の名を残そうとしたんだろう。絶やすことに責任を感じてたのかもしれない。大人の思惑は知らない。どうでもいいから聞いたこともない。

 ただ、今はマクエラルスの名が残っていたことが良かったと思う。

 そうでなかったら、この2人を失望させたろう。

「ミルシャ、そろそろそれをしまうといい。家紋入りの短剣、おいそれと人目に触れさせるものじゃない」

 ミーシャことミルシャ・ホーンワースはまだ納得行かない顔をしつつも短剣を鞘に戻した。


 僕の母の実家は小国、実質的な属国の王家だった。

 その国がうちの国にいちゃもん付けられて潰されたのは僕が生まれる直前。

 だから、僕が生まれたときには既に王家は滅亡して、母は実家を失っていた。

 リヴィエラ・バロットは母の幼少期から嫁ぐまで間、母の侍女として仕えていた。

 ミルシャ・ホーンワースは直接の家臣ではなく、家臣だった騎士の娘だ。ホーンワース家は代々マクエラルス王家に仕えていたから、流れで行けば彼女もそうなってたんだろうね。

 王家なくなっちゃったけど。

 なにを隠そう、僕は2つの王家のハイブリッドなのだ。

 まあ、片方消えちゃったけど。

 マクエラルス王家が滅んだとき、リヴィたちがどうしたか。当然僕は知らない。生まれて無かったんだから知りようがない。

 生き残りがいるとは聞いてなかったけど、生きてたんだね。

 大人の事情であの紛争は有耶無耶にされたから、1つの王家を滅ぼしておきながら公式ではなんの賞罰もなかった。

 生き残りが厳しく追及されることもなかったんだろう。

 でも、追っ手が緩いとかはこっちの事情、リヴィたちは必死に身を隠して逃げてたことは彼女たちの現在の生活をみれば容易に想像できる。

 知ってたら、もっと早くなんとかしてあげられたんだけど、こればかりはね。

 どうしようもない、の一言で片付けるには余りに重い。それでも、そうとしか言えない。

 追っ手から逃げ隠れしてるだろう彼女たちが何故王都に来たのか考えたとき、彼女たちが頼る先が王都にあるのを思い出した。

 他ならぬ僕だ。

 マクエラルス王家の名を継ぐ最後の1人。

 亡国の臣にしてみれば心の拠り所。

 ……ぶっちゃけ、生まれる前に消えてる王家や国に思い入れなんてないよ。

 祖父母だってね、会ったこともないから情の湧きようがない。

 けど、母の友人だった人や、縋って来る相手を無下に出来ないでしょ。

 あの事件には思うところが山ほどあるんだし。

「それじゃ、今夜はゆっくりと話し合おうか。

 僕らには取り合えず相互理解が必要だと思う」

 亡国の臣がなにを希望しているのか。

 お家の再興ぐらいなら力になれるかもしれない。でも、復讐、この国に害を成すのが目的だとしたら協力できない。

 僕は王族であり、責任がある。

 2人の旧臣のためだけに、それらを投げ捨てることはできない。

 薄情と言われても、僕自身は今は亡き国に思い入れなんてないからね。


「殿下が仰ったように、王都に来たのはなんとか殿下とお会いできないかと考えてのことです」

 上に1枚羽織ったリヴィはそう騙った。

 1枚羽織って貰ったのはね、まあ、あれだ、目のやり場に困るから。

 下品でない程度のデザインだけど、ナイスバディの美女にそんな姿晒されているとどうも落ち着かない。

 噂通り、美人だからね、リヴィは。

 でも、将来的にはうちの子たちの方が美人になるに違いないけど。

「そうは言っても、身元を隠して娼館で働いている身じゃ簡単なことじゃないでしょ」

 オマケだろうと3番目だろうと王族だからね。

 ちょっと会いたいと言って会えるものでもない。

 身元が確かな者じゃないと王宮に入れもしないし、平民じゃ面会希望を申請したってまず通らない。

 王族が国民一人一人の面会要請に応じてたら切りがない。

 平民で王族に会えるとなると余程国に貢献している者とかだね。豪商や優れた技術者、賢人クラスの知者。過去には人命救助に尽力した者を表彰したとかもあったかな。

 宗教関係は貴族ではないけど平民でもない。大司教クラスなら面会要請通るかな。司祭や司教でも、上司を通して面会要請すれば、相手の気分次第では会えるかも。

 末端の王族でも事情は同じだ。

 王族が視察なんかで外に出たタイミングで直訴、なんてことも稀にはあるらしいけど、公式には僕は大抵王宮にいるからね。外出中を狙うのも難しい。

「はい、ですからまずは情報収集をしていました。それに、このクラスの店なら貴族の方がお忍びで来ることも珍しくありませんから、ツテが作れないかと」

「けど簡単じゃないし、あんたの評判悪いし、会わない方がいいかもって話してた」

「ミーシャ」

 歯に衣着せないミーシャにリヴィが咎めるような眼をしたけど、あんまり効果なさそうだね。気が強いというか、跳ねっ返りというか。

 まだ若いからね。

 それにさ、分からないでもないよ。

 僕が生まれる前に滅んだ国に思い入れがないように、ミーシャも会ったこともない僕に忠誠心なんてないでしょ。国が滅んだときは幼児だったんだから、国に対する思い入れもね。

 リヴィと同じ忠誠心を求めるのは酷じゃないかな。

 それを咎めるつもりはない。そんな資格があるとも思えない。

 世が世なら、ミーシャは母の実家の家臣だったかもしれないけど、そうはならなかったんだ。

「リヴィ、僕は君らの主筋ではあっても実際には忠誠を誓って貰ったわけでもないんだ。ミーシャが年下の僕に敬意を払うのは難しいでしょ。

 だからね、親戚ぐらいのつもりで接してくれるとやりやすいかな」

 リヴィは不満そうだけれどミーシャは、それなら仕方ない、という顔。

「あんたがさ、竜公女を虐めてるって話はちょっと気分良かったけどね」

 うん、君らにとっては、それは正当なことなんだろうね。

 でもね、そこは許せない。

「言っておくけれど、あれは演劇の話であって僕とリアルテは仲がいいよ。

 それに、君らがリンドバウム公爵を蛇蝎の如く嫌う気持ちは理解する。それをやめろというつもりもない。けれど、ただ酷い父親を持っただけのあの子に敵意を向けるのは許さないよ」

 リンドバウム公爵のやったことに関して、リアルテにはなんの責任もない。

 当時、あの子は僕と同じで生まれてもいなかった。

リンドバウム公爵、その駄目さは長く尾を引いてます


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