高級娼婦 関係性
更新するの忘れてました
慌てて更新です
「ノワールというのは古い古い国の言葉で『黒』という意味だそうですよ」
そういう設定。
ノワールの由来を聞かれたときに、そういうことにした。
フランス語って言って分かるはずもないからね。
「正解よ。知ってる人は殆どいないはずなのだけれど、竜公女の信奉者なの?」
ううん、信奉はしてないな。ラーラなら信奉者って言うんだろうけど。
「信奉者ではないですよ。竜公女のことは好きですけど」
大切な婚約者です。
「そう」
「あっちは、あんたなんか相手にしないでしょうけどね」
とは、お付きの少女。
普通はそうだよね。
公爵令嬢だし、王族の婚約者だしね。
「ミーシャ」
リヴィ嬢が窘めるように声を掛ける。
本来、少女は僕らの会話に口を挟んでいい立場にないからね。
うん、それより、ちょっと待った。
「ミーシャさんと仰る?」
「だったら?」
「いえ、似た名の人を知っていたので。その人はもう亡くなったそうですけどね。
リヴィ嬢に付いて長いんですか?」
「妹よ」とリヴィ嬢。
妹、妹ねえ。
ミルシャ・ホーンワースは妹じゃないでしょ。
「お姉さんとは余り似ていらっしゃらない?」
「なんでそう思うの?」
「絶世の美女だそうですから」
「あんた、ちょっと表出なさい」
「ミーシャ」
喧嘩腰のミーシャにリヴィ嬢がぴしゃりと言う。
客にそういう態度は駄目だよね。
自分より年下の客なんて珍しいだろうし、侮りたくもなるだろうけどさ。
「あなたも、余りからかわないで」
「失礼。とても可愛らしい妹さんだったもので」
たぶん、血の繋がらない妹。
……って、ミーシャさん、なんで顔を赤くしてんの?
いや、可愛いとは言ったけど、え? マジで照れてんの?
チョロ過ぎにもほどがあるんじゃない?
「試験は続行して貰ってもいいですけど、2人だけではいけませんか?」
「ミーシャは邪魔ということ」
邪魔とか、そんな直球で行ったらヘソ曲げるでしょ。
って、分かってて言ってるんだな、たぶん。
「少々込み入った話もしたいと思うので、できればお人払いをお願いします」
「ちょっと、姉様と2人きりなんて許されるわけないでしょ。大体、わたしと姉様の間には隠し事なんてない」
「知らない方が良いということもあるんですよ。リヴィ嬢ならお分かりでしょう?」
別に脅す気はないよ。
でも、知らない方がいいってこともあるのは本当。
「それを聞かないという選択肢もあるのじゃなくて?」
カーテンの向こうでリヴィ嬢がにっこりと笑っ……ているような気がする。
見えないからね。声の調子からの判断。
「もちろん、無理強いはしません。けれど、俺の勘違いでなければお二人にとってとても重要な話になるかと思います」
我ながら焦ってる。
ちゃんとした確認取ってから、と思ってるのにどうしても前のめりになる。
「2人にとってというのなら、ミーシャを下がらせる必要はないのではなくて?」
「リヴィ嬢の南方訛り、態とですよね」
互いに警戒してばかりじゃ話が進まない。
性急にも思えたけれど僕から斬り込むことにした。
「どうしてそんなことをしなくちゃいけないのかしら?」
「あなたの肌の色ですよ。小麦色の肌だそうですね」
見えないけど。
「だから?」
声音に警戒の色が強くなる。
「南方部族には褐色や小麦色の肌の人が多い。
小麦色の肌の女性が南方訛りで話していれば、大体の人は南方出身者だと思うでしょうね。あっちでは部族間抗争とか多くて、有力者の令嬢が娼館に売られるのもあることですから」
部族同士の抗争も色々あるけど、敗者を隷属させる部族もあるとか。
奴隷として勝者に使われるか売り飛ばされるか。
女性だと奴隷というか、活躍した戦士に与えられて子供を産まされる。
ただ、そういう部族間衝突は部族の統合が進んだ結果近年減ってるそうだけどね。
それでも負けた部族の扱いがいいものじゃないのは変わらない。
「でも、褐色系統の肌の色というなら、もう1つ有名な人々がいますよね。
もし、そちらの出身の人が自分の出自を隠したいと思えば南方部族出身を装うのが一番簡単で見破られにくい。態と顕著な訛りを喋って見せるとかね」
訛りって分かり易い特徴だからね。
有名な訛りだと真似もしやすい。エセ関西弁とかね。
それにこういうお店だと過去を聞くのは野暮ってもんだし、聞かれても適当に誤魔化したとして咎められることもない。
訛りと肌の色からリヴィ嬢は南方部族出身らしい、となって誰も深く考えない。
……首筋に冷たい感触って、あんまり気持ちのいいものじゃないな。
ミーシャ、刃物は危ないと思うんだ。
「おまえ、一体なんだ」
「そういう反応は良くないな。俺の指摘が正しいって言ってるようなもんだよ」
ミーシャの反応は痛いところを突かれた、つまり認めたようなもんだ。
しかも使ってる短剣も不味い。
お家の紋章入りの短剣。
たぶん、後生大事に肌身離さず持ってたんだろうけど、紋章から身元がバレたら元も子もないでしょ。
「答えろ」
「やめなさい、ミーシャ」
「……でも姉さん」
「それじゃ話もできない。少なくとも、すぐにわたしたちをどうこうするつもりではないでしょう」
さすがリヴィ嬢は頭が回る。
もし彼女たちに害意があるなら、子供1人で乗り込んでくるわけがないし、彼女たちのことを探っているとあからさまに示すわけがない。
まあ、ミーシャの態度で僕の考えが大体合ってることは分かった。
でも、だからこそ問題だ。
ミーシャはまだ若い。僕よりは年上だけど……。
若く、短慮というか、沸点が低い。
そういう相手に秘密を明かすのはかなりリスクがある。
大体、王都なんて人の眼が多い場所に……。
「ああ、そうか、成る程」
「なにが成る程なの?」
僕が1人で納得したものだからミーシャが、きっと睨んで来た。
短剣は変わらず僕に突きつけられてる。
「リヴィ嬢たちの目的が分かったかな、と」
「わたしたちの目的?」
「ノワールの名の意味、良く知ってましたね。ノワールって名さえ知らない人もいるのに」
ドラゴンを飼う公爵令嬢。
リアルテも本名より『竜公女』って方が有名なぐらいだ。
ましてドラゴンの名となるとね。
「竜公女は劇にもなっているから」
「劇になる前から調べていたんじゃないんですか? 竜公女ではなく、父親であるリンドバウム公爵を」
そう、彼女たちが調べたのはリンドバウム公爵であるはずだ。
リアルテのことは娘だからついでだろう。
ま、有名になってたせいってのもあるだろうけど。
「何故、リンドバウム公爵を調べたと思うの?」
「リンドバウム公爵の兄王に対する嫉妬心と功名心、そんな下らないものがあなたたちから多くを奪ったから」
かつて、あの馬鹿公爵は盛大にやらかした。
そのせいで友好的な小国が1つ消えた。いや、消された。
「小さな紳士さん、あなたは誰?」
「分かりませんか? ここまで知っているだけで大きなヒントだと思いますけど。
そうですね、少し僕の話を、僕の母の話をしましょうか。
母には2つ年上の侍女がいたそうです。侍女というより実の姉のように慕っていたそうで、実の姉は別にいたのに侍女との方が仲が良かった。姉が焼き餅を焼くぐらいに。
けれど政治的な問題でまだ幼くして宗主国の王族に嫁がなくてはならなくなった。侍女を連れて行きたかったけれど許されず、単身で馴染まぬ国へ赴いた」
王侯貴族じゃそれほど珍しい話でもない。
家同士の縁組、その実績が必要となれば一桁の年齢だって結婚させられる。
時には20才や30才差のある相手ともね。
主目的が組織作りだから個人の幸不幸は二の次。
所謂政略結婚の場合、嫁ぎ先でどういう扱いを受けても簡単に実家に帰るってわけには行かないから酷い話だね。
家のために子供は作っても、完全な仮面夫婦。結婚生活は仕事、みたいな夫婦もあったりね。
……うちはそういうの嫌だから、大人の事情で決められた結婚であっても良い関係を築きたいと思ってる。リアルテを筆頭に婚約者たちに甘過ぎるって言われたりもするけど、あの子たちまだ子供なんだから甘やかしたっていいじゃないか。
幸い、それができる環境にあるんだから。
評判の悪い、政治的にも微妙な立ち位置の第3王子の婚約者をやらされてるんだから、それぐらいはねえ。
「ひょっとしたら、母をご存知じゃありませんか?」
母が誰より信頼し、もう一度会いたいと願っていた人。
「そんな、そんなはずは……このような場所にいらっしゃるはずが……」
リヴィ嬢の声が小さく震えていた。
これで、やっと確信できた。
ミーシャは訳が分からないようで短剣を僕に向けたまま戸惑っている。
「12で嫁ぎ、13で子供を産んだ母は14まで生きられなかった」
表向きは産後の肥立ちが悪かったということになってる。
子供を産むには幼過ぎたから、誰も疑わなかった。
僕以外は。
レリクスの過去は結構重い
彼が彼でなかったら耐えられなかったかも
次回は忘れないよう予約しておこうかな




