引っ掛け問題 サービス問題
100話記念で別の話、とも思ったんですが中途半端は良くないんで続きです
割と重要な話のせいか、長くなってます
まだ暫く続きますね、これ
カノスは初代国王の孫の1人。
大牛退治、魔法の指輪捜索、地下墓所の調査、数々の命知らずな冒険で名を馳せて今に伝わってる。割とメジャーな人。
昔々で言うとなんだろう。
ヘラクレスとかヤマトタケルみたいな人ってのかな。
12の冒険、12の偉業
ま、かなり盛ってると思うけど。
それに、一応存在はしてたと公式記録があるから、聖徳太子とかの方が近いかな。いや、聖徳太子も非実在説とかあったな。政治的な意図で、逸話を盛って作ったとかなんとか。
僕らに紙とペンが配られる。ペンと言ってもサインペンとかシャープじゃないよ。
草の茎を加工したペン。
割と普及してるタイプ。
安いのはインクの吸いも悪いし書きにくい。配られたのはそこそこ高級品。適した草と加工技術が要るから値が張るんだよね。
羽根ペンよりは安いけど。
紙も質のいい奴だから高いよ。
コピー用紙500枚でいくら、なんて売ってないからね。
なんで紙の質とか価格が分かるかと言えば、販売元だから。
みんなテーブルの方に行って黙々と書き始めた。
「簡単過ぎねえか」
「お喋りは禁止でしょ、こういうの」
デュパンさんが訝しみながら声を掛けて来た。
確かにね、簡単だよ。
12の冒険は子供に読み聞かせるお話だから、大抵の人が知ってるからね。
12の冒険なら。
簡単な問題だからすぐに終了、解答用紙回収。
見習い少女が解答用紙をカーテンの向こうへ持って行き、すぐに小さな笑い声が聞こえた。
「正解者は1人だけね」
え、という顔をした面々。
デュパンさんもか。
折角、ヒントあげたのに。って、余裕ぶって僕も間違えてたら恥ずかしいな。正解発表を待とうか。
「英雄カノスの最初の冒険と言えば大牛退治だろう。それからはぐれ狼との決闘」
金持ちらしいおっさんが指折り数える。
12の冒険なら、その順だよ。
「解説をお願いできるかしら、小さな紳士さん」
「……いいですけど、リヴィ嬢もいい性格していますね」
「あら、正解できたのはあなたも同じだからでは?」
高級娼婦で客の選別が厳しいとなれば、お高く止まってるかと思ったらそうでもなかった。いや、子供相手だから気さくなだけかな。
問題は意地悪だったし。
ああ、おじさんたちの注目が集まる。
嬉しくもなんともない。
「リヴィ嬢の質問は12の冒険についてではなく、『カノス王子の最初の冒険』についてです」
デュパンさんは、あっ、という顔をしたけど、その他のおじさんたちは分からない人が大半かな。
「良く知られている12の冒険。そのことについて書かれた本は多いですけど、大本になってるのがカノスの自伝と言われる『我が冒険の書』という本。
複製本がいくらでもありますし、知識階級の方なら一度は読んでるかと思います。
それによればカノス王子は8才のときに王宮を独りで抜け出して城下に下りました。好奇心旺盛な子供ならやりかねない話です。実際には、護衛を撒くのが大変だと思いますけど」
僕は護衛らしい護衛いないからね。
最近はダークエルフのアルティーネが気配を消してついて来てるけど。
ちなみに、彼女は外で待機中、のはず。
さすがに中までは来てないと思うよ。隠密行動中の彼女は僕でもどこにいるか分からないからね。
「さきの書を引用すれば、『このときの無断外出が、思えば私の最初の大冒険だった』とあります。つまり、そういうことです」
12の偉業とはなんの関係もない。
ただ城を抜け出して遊んだことが彼の最初の冒険というわけだ。
子供の頃に城を抜け出していた話は誰でも知ってるし、本についても有り触れてる。この話は知ってて当たり前のことだ。
ただカノスの冒険と言われるとみんな12の冒険を思い浮かべるからね。
要するに、単純な引っ掛け問題。
昔々はもっと底意地の悪い引っ掛け問題が山ほどあった。
なんのためにそこまでやらないといけないのか意味不明な引っ掛け問題の数々に苦しめられた記憶がある僕に、この程度のものはどうということはない。
……言ってて悲しくなって来るな。
「では、不正解の方はお引き取りを」
うわ、今のでアウト?
結構な料金取っておいて。
ぼったくりもいいところだ。
でも、無理強いはしてないんだよね。金のない人間を嵌めてるのとも違う。金に余裕があるスケベどもだけ。
「おい、いくらなんでもそりゃないだろ」
あ、みんな聞き分けいいかと思っていたらそうでもなかった。
1人のおっさんが怒った。
ううん、怒っていいと思うけど、無粋だよね、こういうところで怒るのって。
はっきり言って、ここで怒らないといけない懐事情ならここに来ちゃいけないと思うんだよね。
「やめとけよ、最初からそういう話だったろ。リヴィ嬢が問題を出す。正解できなければ退場」
デュパンさんが怒れるおっさんの肩を叩く。
他の客は、やれやれ、って顔してる。
「うるせえ。こんなの納得でき……」
痛そう。
怒れる客のおなかにデュパンさんの拳がめり込んでる。結構強いんだよね、この人。
貴族家の男子としてそれなりに武術をやってるはずだからさ。
「ありがとうございます」
「なに、女性の部屋で暴れるってのは男として見ちゃいられないんでね。それじゃ、俺は待合に居るからよ」
最後のは僕に対しての言葉。
一緒に来たというか、子供を連れて来た手前、帰りを待ってくれるらしい。
この部屋で最後まで一緒にいるって言われたら困るから、デュパンさんの親切に感謝。
店の男衆が来て、デュパンさんに伸された男を連れて行く。
他たちも、それじゃ、と帰って行く。
また今度、と言ってるから再度挑戦するんだろうね、あの人たち。
「それで、問題は1つじゃないんですよね?」
「ええ」
僕は適当な椅子を引っ張って腰掛ける。
「まだ、名前を聞いてなかったわね、小さな紳士さん」
「それは直接顔を合わせたときに、としておきましょう」
ここで名乗るべきはレクスだ。
けれど、僕はそう名乗りたくなかった。名乗りたくなかったし、今の段階で本名を名乗るわけにも行かない。
どちらを名乗るかは、顔を合わせてからだ。
「こういう場に慣れていらっしゃるのかしら?」
「まさか、ずっと緊張してますよ」
この手の店に慣れてはいない。
緊張もしてる。たぶん、リヴィ嬢が思うのとは別の理由でだけど。
「先日、別のお店で大金で新人を身請けした子がいたそうだけれど、なにかご存知?」
……そりゃ噂になるよね。
知ってた。
「その話なら俺も聞きました」
自分のことだとは言わない。否定もしない。
「小さな紳士さんは私も身請けするのかしら?」
「条件が揃えば、そういうこともあるかもしれませんね」
小馬鹿にしたように笑ったのは見習いの少女だ。
この子は中学生ぐらいかな。
リヴィ嬢のお付きというか、専属メイドとか、そういう役回りなんだろう。
……邪魔だな。
まあ、この子にしてみれば僕みたいな子供がリヴィ嬢に会おうとしてること自体が馬鹿馬鹿しい話だろうし、まして身請け、それも選ぶ立場にあると思っていることが愚かに見えてるんだろうね。
トップクラスの高級娼婦となるとそこらの商家の身代を潰しかねない額になるから、得体の知れない子供が払えるとは思ってないんだろう。普通だよ、それが。
「あなたのお眼鏡に適えばいいのだけれど」
「その前に、俺があなたの眼鏡に適わないといけませんけどね」
試験を突破しないと顔を見ることもできないんじゃね。
「それで、次はどんな問題ですか?」
「ここからは小さな紳士さんだけだから、口頭での問答にしましょう」
紙に書いたりしてたら手間だし、紙も安くないからね。
「竜公女は当然知ってるわね?」
「ええ」
昨夜も一緒に寝ました、まだまだ甘えたがりで困ってます。とは言えない。
「彼女のドラゴンの名はご存知?」
「それが問題ですか?」
「いいえ、ドラゴンの名を付けたのは第3王子だそうだけれど、どこかの国の古語だそうよ。その意味はなにか? それが問題よ」
わあい、サービス問題だ。
名付けた本人に聞いちゃ駄目だよね。間違えるわけがない。
まあ、僕以外じゃ知らない人のが多いだろうし、僕の正体知らないんだから仕方ないね。
……まあ、これで不正解とか言われても、僕のが正しいって証明は酷く難しいんだけどね。我こそは第3王子なるぞ、って言えれば別だけど。
次回、レリクスがリヴィ嬢を訪ねた真相が明かされる




