子爵令嬢カミラ・上
王族である僕の婚姻相手は通常なら上位貴族、伯爵以上の家柄というのが原則。
でも今は貴族の数が減ってるからね、上位貴族の推薦があれば下位の家からも受け付けてる。
もし結婚となったら、上位貴族に養子縁組したり小細工する。
面倒だけど、形式って大事にしないといけないときもあるからね。
「カミラ嬢は子爵家だっけ?」
「ええ、そうですね。推薦はスラッシュ伯です」
リチャードが書類を確認してくれる。
スラッシュ伯、と聞いて思わず眉間に皺が寄っちゃう。
いや、仕事はできる人だよ、スラッシュ伯爵。
早いし、正確だし、今は宰相補佐だったかな。凄く有能。
ご令嬢と会ったこともある。
スラッシュ伯はできる人で、人格者なんて評判もあるんだけど、どういう訳かご令嬢たちは、なんというかな、癖が強い。
駄目だ、腐ってやがる。的な癖の強さ。
ああいう文化はどこでも一緒なのかな。
趣味は個々人で好きにすればいいけどさ、僕とリチャードをチラ見してはニタニタされるとちょっとね。
一番上のご令嬢なんて、正面切って、
「殿下は受けですか?」って聞いて来たからね。
リチャードは意味分からなかったらしくてきょとんとしてた。
こっちにもそういう文化あるんだね、びっくりだよ。
まあ、持ち込んだの僕だけど。
いつだったかなあ。兄上たちと喧嘩して、腹いせにそういう話を書いて王城のメイド部屋にこそっと置いておいたら、なんか大流行しちゃった。
なんだかね、幼児だったから思考もそれに引き摺られちゃって、細かいこと考えてなかったんだよね。
とにかく、体格じゃ2人の兄に敵わないもんだから、別の方法で仕返ししてやれって。
恐いね、幼児って。
それがいつの間にかメイドだけじゃなく貴族令嬢やご婦人方の間でも流行って、かなり写しが出回ったみたい。
活版印刷がまだないから手書きで写したんだろうね。凄い執念だ。
何人か不敬罪で捕まったとかなんとか。詳しいことは知らない。係わらないようにしたからね。さすがに、元が幼児だとは誰も思わなかったから、僕を疑う人はいなかった。
個人の趣味はいいとして、見合いの席で相手に尋ねるこっちゃないよね。
しかもさ、僕がそっちの人間だと信じて疑わない。
「いいんです、誤魔化されずとも、分かっておりますから」
いや、なにも分かってないでしょ。
他人の妄想はどうしようもないけど、それを押し付けられるのは困るよね。
「殿下にこうしてお会いできましたこと、光栄に存じます。ドラクル子爵家のカミラでございます」
カミラ嬢は綺麗な礼をして型通りの挨拶をしてくれた。
年齢は12歳だったかな。僕より5つ上だ。それでも、これだけ綺麗な挨拶をする人はあんまりいないんじゃないかな。
ここまで綺麗な礼ができる子供って、他にはリアルテぐらいしか知らない。
シーラもミリアも礼儀作法はマイナス評価だから。
まあ、僕の前だけ気を抜いてるのかもしれないけど。
「そう堅くならないでよ。今日はゆっくりお茶を楽しんでお喋りしようというだけだから」
婚約者にするかどうかの最終面接だから、緊張するなという方が無理かな。
僕とのお茶会にまで来たということは、他の点は問題なかったということ。
赤毛のストレートで、顔立ちも整っている。ドレスも華美に過ぎず、地味でなく、良いセンスしてる。
所作も完璧。
まさしく令嬢って感じだね。
最近気付いたけど、僕が婚約者候補や婚約者とお茶するときって、リチャードいないんだよね。
「他人がいたら打ち解けるのに邪魔でしょう。仕事のときまで控えてます」
なんてもっともらいしこと言ってたけど、基本的に婚約者候補と2人きりになるってことないんだよね。
お付きの人や侍従、護衛。給仕をするメイド。そういう人たちはいつだって側にいる。
居ても居ないものとして振る舞うのが普通になってる。
どうしても極秘の話をするときだけ人払いするけど、婚約者候補とそんな話しないから。
そうそう、リチャードのは単なる口実。
僕がお見合いやらデートやらしてるときは、リチャードも自分の婚約者と会ったりしてるんだよ。
3人ぐらいはいたはずだよ、リチャードにも。
そう、3人もいるんだよね。だからリチャードを側近にしておくと、彼女たちの人生にも影響を及ぼしちゃうから、そこが心配。
元は長兄・王太子の側近候補だったのに、第3王子の側仕えになったから、リチャードの婚約者たちはがっかりしてるかもしれない。
将来、田舎に引っ込むなんてことになったら彼女たちはどうするんだろ。
リチャードは有能だから今更手放してあげられない。でも、令嬢たちにとって田舎暮らしなんてきっと予想外だろう。
それでリチャードの家庭が壊れたりしなきゃいいけど。
まあ、第2夫人を王都に住まわせて領地に第1夫人を、なんて人もいるらしいから、そういう形になるのかな。
一夫多妻当たり前でもさ、奥さん同士が仲がいいとは限らないんだよね。
だから領地と王都で家庭を分けられるのは、むしろ助かるみたい。




