集団戦
グルボー組、ルアンの話では強引に冒険者を勧誘してカンパを巻き上げるという話だったか。
カンパというのは本来、善意で行うものであって強制するべきものではない。
それはカンパではなくてただの恐喝だ。
要するにそこにいるグルボーの周囲にいる奴らは仲間ではない。
ただの手下だ。
その手下どもは現状を理解しているのか、集団でオレ達を囲んでヘラヘラしている。
ルアンはそんな連中が許せないのか、杖を握りしめていた。
「ルアン、そしてウォレスだったか。いけねぇよなぁ、グルボー組入りを断っちゃよ。そういうことするからこうなるんだ」
「グルボー……本当に見下げた男ですね。恵まれた魔力を持ちながら、いつまでこんなことを繰り返すんですか?」
「バカ言っちゃいけねぇ。恵まれてんのは貴族階級だろうが。有益な魔法の知識、豊富な魔力、すべてオレ達にはないものだ」
「……それは認めます。しかしこんなことをしても腐っていくだけです」
なぜかルアンが思いつめたような表情をしている。
ルアン含めてオレ達がグルボー組入りを断ったから多人数で脅しかけてくるのか。
この男、グルボーは何を考えているのだろう?
ルアンの言う通り、魔力に恵まれているならば上を目指さない手はない。
少なくともオレと同じ訓練をすれば、オレより遥かに強くなれるだろう。
こいつは強くなりたいのか? そうではないのか?
何がやりたいのか?
「オレは思うんだけどよ、ルアン。なんでオレ達は働いても楽にならねぇ? なんで休みなく働いてんのに金持ちになれねぇ? これってどう考えてもこの世界を支配してる奴がいるからだよな?」
「それは……」
「きたねぇことやってる貴族様はお咎めなしでオレ達がやったら悪人扱いなのはなんでだ? なぁ?」
「どっちも悪人でしょう。もしそんな貴族がいるのであれば、いずれ裁かれるはずです」
「どうだかねぇ」
グルボーが仲間と共にゲラゲラと笑っている。
なんだこいつらは?
オレ達にこんな茶番を見せるために足止めしたのか?
「貴族様はすんげぇ魔力と魔法でこの世界を支配してるだろ? それはいわゆる弱肉強食ってやつだ。だったら文句は言わねぇよ。でもな、オレ達も下の奴らにそうする権利があるってことだよな?」
「下らん」
「なんだって? そこのガキ、なんて言った?」
「下らんと言ったのだ。詭弁も大概にしろ。お前達は恵まれている。生まれた時から奴隷にされているわけでもないだろう? 自由に働けるだろう? それがいかに幸せなことか、よく考えろ」
グルボーにはオレの主張が理解できなかったようだ。
表情を歪ませて、いよいよ敵意を隠さない。
「何を寝ぼけたこと言ってやがる」
「寝ぼけているのはお前達だ。ここでは水を飲みたければ井戸に行けば飲める。世界には一滴の水さえも得られない人々がたくさんいるのだ」
「ははーん? さてはお前、いいところのお坊ちゃんだな? 貴族はすぐに下をちらつかせて自分達を正当化するからな」
「そうではなく事実だ。お前達は甘えているに過ぎない。一度、水さえもない環境で生きてみろ。そんな考えではすぐ野たれ死ぬだろうがな」
言い返せなくなった様子のグルボーが歯軋りをしている。
オレ自身、あまり裕福ではない村で生まれた。
それでもその日を生きるために皆、賢明に働いたのだ。
彼らは自分達を不幸などと思っていただろうか?
オレにはそう思えない。
たとえ貧しくても彼らなりに真剣に生きてきたはずだ。
「場所を変えようぜ。ここじゃ目立ちすぎる」
「場所を変えて何をするつもりだ?」
「わかってることを聞くなよ。痛い目にあってもらうんだよ。おっと、逃げようなんて無駄だぜ? こっちは十人以上いるんだからな」
「ふむ……」
オレはグルボーに接近して顎に拳を入れた。
グルボーの顎が砕かれて、どしゃりと倒れる。
「げ、あ、ア……あが……」
「グ、グルボーさん!?」
驚いた手下にすかさず蹴りを叩き込む。
更に隣にいた男に金的をくらわせると声にならない声を上げて悶絶した。
この一瞬で三人も片付いてしまった。
「この、野郎ッ! ストーンバレット!」
「アイシクルランスッ!」
「ウインドカッターッ!」
あらゆる魔法が飛んでくると同時にオレは近くにある家の屋根に飛び乗る。
オレを見失った男達がきょろきょろとしている間にオレは屋根から跳ぶ。
一人にかかと落としをくらわせた後、着地して回し蹴りを放ってもう一人の腹に直撃させた。
「ぐっ、う、うぇぇッ! ガハッ! し、じぬぉ……」
血が混じった嘔吐物をまき散らした男が苦しそうにしている。
そいつを踏みつけつつ、再び詠唱を始めた男に飛び蹴りをくらわした。
後ろにいた男を巻き添えにして吹っ飛んでいく。
「や、や、やべぇ! このッ! ファイアー」
「遅い」
「あがっ!」
男の顎を掴んで詠唱を中断させた。そのまま力を入れて顎を外す。
腹に一発入れて倒したところで、残りの男達が戦意喪失して逃げの姿勢を見せる。
もちろん逃がすはずもない。
そく追いついたところで後ろから髪を掴んで後ろに倒してから踏みつけた。
「わ、悪かった! もうやめてくれぇ!」
「何が悪いものか。お前達の意思に良いも悪いもない」
「ぐあぁッ!」
片手を振り下ろして男の肩にめり込ませて、骨ごと砕いた。
夜空に響き渡るかのような声を上げて泣きわめきながら転げまわっている。
残った者達も逃がさず、二人それぞれに一発ずつ拳を入れて昏倒。
残った者達がやぶれかぶれに魔法を放つが、冷静さを欠いていれば怖くはない。
デラメな軌道を描いた魔法がオレの脇をかすめた後、走り込んで頬に拳を叩き込んだ。
「残ったのはお前達三人か」
「も、もうやだ、すみませんでした……助けてください……」
「ダメだ」
「あぎゃあぁぁッ!」
蹴りを一人の腹に入れた後で更に踏み込み、左右にいた二人を裏拳で沈めた。
終わってみれば静かなもので、血を吐きつつ涙でぐしゃぐしゃになった顔でグルボーが地面を這いずっている。
「あう、あっ、えっ、えっ、えいへー、さぁん……」
「お前達が隙を見せなければ、こちらが危なかった」
おそらく人の目につかない場所で戦いたかったのだろう。
そんなものと勝利を天秤にかけているようでは話にならない。
それにしてもこのグルボー組、なかなかタフだな。
オレの攻撃が浅かったということか?
「オレもまだまだだな……まぁいい。後は衛兵に何とかしてもらうのだな」
これほどの対人戦、それも集団戦はあまりに久しぶりだ。
そこで声すら出さないルアンなど、あまりの不出来な戦いに呆れ果てているだろう。
「あ、あう、あ、あ……えーと……彼ら、強化魔法は確かにかかっていたはず……」
優しい彼女のことだ。
きっとオレを慰めるだろう。それに甘えてはいけないのはもちろんわかっている。
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