双剣の行方
オレは食事をしながらこれからのプランを考えていた。
対面にはルアンが座っており、相談役をやってもらっている。
さすがにこれ以上世話になるのは迷惑だと思ったのだが、なんと彼女から申し出てくれた。
前世の記憶がよみがえってから十年が経ったとはいえ、まだまだわからないことだらけだからな。
おまけに食事まで食べさせてもらって、どう感謝すればいいのかわからない。
「たまにはちゃんと調理されたものを食べてくださいね。栄養だってちゃんとあるんですよ」
「これは確かにうまい。うむ、うむ」
「フォークに肉を刺してそのまま食べてる……」
この程度の肉の硬さならばナイフはいらないだろう。
肉ごと齧ったほうが効率がいい。
そこでふと思ったことがある。
(食事用のナイフとフォークはあるのだな。武器だけがこの時代から消えてしまったのか)
そう思うと奇妙なものだ。
武器とてナイフやフォークと同じように、使い方次第では十分役立つ。
魔法が使えないオレだからそう思うのかもしれないが。
しかし前世では勇者エイシスとて剣を振るって戦っていたのだ。
彼は魔法が使える身でありながら、武器の扱いも一流だった。
その剣さばきは見惚れるほどで、オレも度々参考にさせてもらったのがなつかしい。
正直、何度嫉妬したかわからない。
武器だけでなく魔法まで使えるなど、何をどうやっても敵わないだろう。
そんな人間と肩を並べて戦ったなど、口が裂けても言えるはずがなかった。
オレのような人間が少しでも強くなるにはやはりあれが必要不可欠だ。
「ルアン、クロとブラックがどこにあるか知っているか?」
「……はい?」
「かつて勇者パーティに同行していたアルドという男が持っていた双剣だ」
「もしかしてバルディンとフォルムングですか?」
「む? そんな名前だったのか?」
ルアンに怪訝な顔をさせてしまったな。
もしかしたらオレが知る双剣とルアンが知る双剣は違うかもしれない。
それでもオレが使っていた双剣に値するものがあるのであれば、ぜひお目にかかりたいところだ。
「よくわかりませんが黒鉄の戦士アルドが使っていた双剣なら王都の勇者博物館に展示されています」
「おぉ、そんなものがあるのか」
「はい。かつて世界を暗黒に落とした魔王を討伐した英雄達の遺品が残されているのですよ。私も時々お忍びで見に行きます」
「お忍び?」
オレが聞き返すとルアンがハッとしたような顔をした。
きっとオレの実家のように厳格な家庭なのだろう。
家からの外出すらなかなか許されないのであれば、親近感を感じる。
「と、とにかく興味があるのであれば案内しますよ」
「ぜひ頼む。ここから王都まで遠いのか?」
「四日ほどの距離でしょうか。少しかかりますね」
四日であれば問題はない。オレは席を立った。
「ごちそうになった。ではさっそく発つとしよう」
「ちょ! もう日が落ちてますよ!」
「合間に十分ほど眠れば問題ない」
「十分で眠れるんですか!?」
「訓練したからな。オレのような人間は少しでも睡眠効率を上げて強くならねばな」
ルアンが口を開けたまま呆れている様子だ。
また無様な話をしてしまったか。
しかし一緒に行動するのであればいずれわかることだ。
「ウォレスさん、魔法が使えない身でありながら、それほどの強さをどのようにして身に着けたのですか?」
「ん? どのようにしてと聞かれると困るな。ひたすら己の肉体と精神を鍛え上げた。それと魔法が使えない以上、頼れるのは己の勘も大切だ」
「勘、ですか?」
「そうだ。いわゆる勝負勘だ。敵が次にどう動くのか、自分はどうしたらいいのか。それは戦いに身を置くことで培われる。だからこそ、グレイル山での修行が必要だった」
「グ、グレイル山って確か魔物の平均等級が三級以上の……魔の山ですか?」
そのような名称があるのは知らなかったが、オレは頷いた。
あの山は強くなるのに最適な環境だった。
何せ眠っていようが魔物どもはお構いなしだ。
おかげでこちらの勘も随分と冴え渡るようになったものだ。
特にあのエンペラーボアとかいう魔物はいいライバルだった。
奴とは何度も渡り合った。
それがようやく討伐できたのがつい最近というのだから本当に要領が悪い。
魔法が使えないからしょうがない、などと何度泣き言を呟きそうになったことか。
「勝負勘……なるほど。それは盲点でした」
「魔術師は魔法がある分、オレのような泥臭い真似をする必要などないさ」
「いえ、ウォレスさん。あなたの言う通りです。私達は魔法という便利なものに頼る余り、大切なことを忘れていました」
「そういうものか?」
魔術師ではないオレにはピンとこないが、ルアンが何か気づきを得たならばよかった。
こんなオレでも役立てたのだからな。
「魔法社会となって二百年余り……便利になりました。しかし魔力感知、魔力の優劣、そんなものばかりで決めては私達は弱体化する一方です」
「そういうものか?」
「はい。ウォレスさん、私もあなたを見習って勝負勘と言うものを身につけます。ですからぜひお供させてください」
「そういうものか?」
いかん。あまりに未知の世界の話をされて思考が働かない。
ルアンの問いに応えねば。
「よくわからんが、オレでよければ問題ない」
「はい、ありがとうございます! まずは王都までご案内させていただきますね! 野営の準備などはお任せください!」
「頼りにしているぞ」
ルアンが顔を赤くしながら立ち上がってそそくさと料理の代金を支払う。
まさか熱でもあるのか?
会計を見ると、なかなかの金額で少し驚いた。
そういうことか。これは確かに動揺しても仕方ない。
これもいずれ返さなければな。
そのためには何としてでも体一つで稼げるようにならねばいけない。
* * *
「あぁ、あのお店って意外と……」
「どうかしたのか?」
「いえいえ! それよりウォレスさん、急ぐ旅でなければやっぱり宿に泊まりましょう!」
「む、それもそうだな。確かに急ぎ過ぎてもいいことがない」
ルアンが金の心配をしていたように見えたが気のせいか?
オレが覗き込むとルアンが慌てて財布を引っ込めた。
「大丈夫ですよ! あれ? それより誰かいますね?」
「こんな深夜に何をしている? 散歩か?」
オレ達の前に数人の人影があった。
真ん中に立つのは目に傷が入った男だ。
その男を中心に二人ほど立っていて、後ろからも何人かやってきた。
「グルボーさん! あいつですよ! オレ、何もしてないのにいきなり殴ってきやがった奴です!」
「おう、かわいそうになぁ。お前は何もしてないのにひでぇ奴だ。ましてやグルボー組の誘いを断ったとあっちゃな」
なるほど、あの傷の男がグルボーか。
そして隣にいるのが先日、ルアンに絡んでいた魔術師だ。
後ろにいる者達もグルボー組という奴らか?
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