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討伐報酬

 あのワニは惜しいが置いていくことにした。

 また町まで持っていくと騒ぎになると言われたら頷くしかない。

 ただし解体はルアンが魔法でやってくれた。


 その手腕にオレは思わず目を奪われる。

 まずは丁寧に切りやすい部分に目をつけてから、風の刃で斬る。

 腕、頭、胴体と切り分けてから内臓を取り出す。

 

 ルアンは食べられる肉と討伐証明の鱗をアイテムポーチというものに収納した。

 そのアイテムポーチに入る最大アイテム数はなんと三百種類だ。

 オレの時代ではポーチではなくアイテムボックスだったが、せいぜい五十種類が限度だった。


 おかげで常にアイテムボックス内がカツカツで、新しいものを手に入れるたびに手持ちのアイテム選別に悩まされた。

 アイテムポーチはアイテムボックスよりも軽量化しており、体に身につけられるサイズだ。

 時代と共に進化したアイテムポーチというものにオレはいたく感心した。


「素晴らしいな。オレも手に入れるべきか」

「そうですね。少なくとも魔物を引きずって歩くよりは……」

「ハハハ! 手厳しいな。それはそうと、肉の味はどうだ?」

「あ! 生で食べたらお腹を壊します!」


 久しぶりにワニ肉を食べてみたがやはりうまい。

 この癖のある味がいい。


「腹を下すのは体が適応できていない証拠だ。食えば体はそれを食料と認識する」

「そ、そういうものなんですか?」

「もちろん最初に生で食べた時は腹痛で死ぬかと思ったがな! ハッハッハッ!」

「ダメじゃないですか! よく生きてましたね!?」


 確かに腹は下すし、死にかけたことがないと言えばウソになる。

 しかしオレのような人間が強くなるにはこのくらいのことをするのは当然だ。

 まずは強靭な体を作り上げて、少しでも魔法の力に対抗できるようにしなければいけない。


 だがそれを乗り越えれば、どんなものでも血肉となる。

 それに焼かないで食べるメリットは十分ある。

 焼くことで消失する栄養源もあると仲間の治癒師であるイレイアから教わった。

 つまり焼かないで食べることができれば、栄養を血肉とできるのだ。

 ならば生で食べない手はないだろう。


「と、とにかく行きましょう。途中でお腹が痛くなったら言ってくださいね」


 ルアンはオレのような人間にも気を使ってくれる。

 とてもよくできた少女だ。

 服屋の娘と言っていたが、よほどいい教育を受けたのだろう。


                * * *


「確かにアーマーアリゲイターの鱗ですね。討伐おめでとうございます」


 ギルド職員の女性の視線はオレではなく、ルアンに向いている。

 当然だろう。魔力がないオレがあんな化け物を討伐したなど、誰が信じるだろうか。

 だがこれでいい。

 少なくともルアンが見直されて、オレがアーマーアリゲイターを討伐したという二つの事実があれば十分だ。

 特に結果に関しては確かな自信となってオレに刻まれている。


 他の人達に信じてもらうのは二の次といったところか。

 何にせよ、今のオレでは信じてもらえなくて当然だ。


「いえ、討伐したのはこちらのウォレスさんです」

「え……? いえ、でもこちらの方は……」

「ウォレスさんは素手でアーマーアリゲイターを討伐しました。誰にも信じてもらえなくても、私が信じます」


 ルアンが堂々とギルド職員に告げた。

 オレは結果さえ出して満足していればよかったのだが、ルアンはそうではないようだ。

 真実を伝えた上でオレを尊重してくれたようで胸が温かくなる。


「ですから今回の報酬はウォレスさんに渡します。はい、ウォレスさん」

「あ、あぁ。しかし本当にいいのか?」

「ギルドがあなたを評価しなくても私が評価します」

「う、む……」


 オレは言葉に詰まった。

 ルアンの言葉には一切の迷いがなく、自信に満ちている。

 これにはギルド職員や遠巻きに見ていた冒険者達も黙るしかない。


 こうまでされては受け取るしかない。

 ありがたく報酬が入った袋を手に取った。


「ルアン。何から何まで感謝する」

「いいんです。あなたのような人を待っていたのです」

「どういうことだ?」

「あ、いえ。それよりこれからどうするつもりですか?」

「そうだな。ひとまず武器を探そうと思う」


 今回は素手で戦ったが本音を言えば武器がほしい。

 少なくとも双剣が揃えば今よりマシな戦いができるはずだ。

 ただし生半可な武器ではダメだ。


 できればオレが勇者パーティと共に戦っていた際に使っていた双剣を入手したい。

 オレの記憶が正しければ、あれらはあの人物のところにあるはずだ。

 しかし今の時代ではどうなっているか。


「武器ですか。それならば王都へ……」

「おい」


 ルアンが何か言いかけた時、魔術師達がオレ達の前に立ちはだかった。

 男女混合で何の用だろうか?


「何か用か?」

「アーマーアリゲイター討伐おめでとう。最初は疑っていたが、どうも本当みたいだな」

「こちらこそありがとう」

「そんなお前らをぜひグルボー組に勧誘したい。グルボー組はなんと言ってもこの町一番の冒険者パーティだぞ」


 冒険者パーティ、前世のオレが同行していた勇者パーティのようなものか。

 しかしアーマーアリゲイターを討伐したとはいえ、魔力がないオレが所属してもいいものか?

 オレを笑っていた連中が認めてくれるのは嬉しいが、どうも気が引ける。

 オレが迷っているとルアンが首を左右に振った。


「グルボー組……強引に仲間を増やしては討伐報酬などのほとんどをカンパと称して巻き上げる。ハッキリ言ってろくでもない方々です」

「それはよくないな。冒険者ギルドは何も言わないのか?」

「ギルドは冒険者同士のトラブルについては非介入を貫いてます」

「そういうことか。うーむ……」


 初対面の人間を疑いたくはないが、ルアンがデタラメなことを言っているとも思えない。

 ルアンと目の前の集団、見比べてからオレは決断した。


「すまない。勧誘は丁重に断らせてもらう」

「ルアンが言ったことなら気にするなよ。確かに少しばかり徴収させてもらうが、その分の恩恵はでかい。皆で絆を深めることができるし、一生の仲間ってやつが出来るんだ」


 男が何を言っているのかわからなかったが、ギルド内の魔術師達を見て納得した。

 誰もグルボー組を見ようともしない。

 つまりこいつらは決して善意の集団ではない。

 こいつらが魅力的な者達であれば、視線を外すなどありえないのだ。


「いや、断る。ルアン、行こう」

「はい」


 オレ達はグルボー組を素通りして冒険者ギルドを出る。

 その際にちらりと後ろを見たが、眉間に皺を寄せて明らかに不満を抱いているように見えた。


 ギルドを出た後でルアンに聞いたのだが、最初に彼女に絡んだあの男もグルボー組だと言う。

 なるほど、場合によっては対処が必要かもしれない。 

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