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戦士ウォレス、変わらず

「うぅ、ク、クレルフ……」

「父上、あなたの負けだ」


 クリバトフの敗北によってマナエストの大半の魔術師が投降した。

 諦めが悪い残りの魔術師は徹底抗戦の構えを見せたが戦力差は一目瞭然だ。

 勝負になるはずもなく、無駄に命を散らしていく。


 マナエストの最高戦力であったイドやバシュバリオムは倒れて、クリバトフも今や虫の息だ。

 幼少の頃、畏怖の対象だった父が今や血を流して倒れている。

 これがあれほど魔力と強さに固執していた男の最後と思うと儚さを感じずにはいられない。

 

「クレルフ……後生だ……命だけは助けてくれ……」

「一度は助けた。それを台無しにしたのはあなただろう」

「すまなかった……本当にすまなかった……。今、目が覚めたのじゃ……ワシは死にたくない……」

「……情けないッ! 魔力至上主義を掲げたならば最後まで貫き通せ!」


 戦後の処理は他のものに任せているとはいえ、こんな姿を誰に見せられようか?

 こんな男と血がつながっていると思うと、今すぐにでも自害したいくらいだ。


 王位を奪われても夢を見て反旗を翻す。

 それほどの覚悟があった人間がどうして命乞いをする?

 最低の人間ではあったが、その異常なまでの信念を貫こうとする姿勢は認めていたのだ。

 方向性は違えど、私にも見習うべき部分だと思っていた。


 それが今はどこへ捨ててしまったのか、助かることしか考えていない。

 負けを認められず、今は震えている始末だ。


「あの小僧はどこだ……どこへ行った……」

「ウォレスのことか。魔力至上主義のあなたが魔力がない人間に倒されるなど、これ以上の屈辱はあるまい」

「どこだ、どこだ、早く、早く私を、逃がしてくれ……あの小僧が、小僧がこないうちに!」

「なんだと……?」


 驚いたことにクリバトフが涙ぐんで喚いている。

 ウォレスが彼を倒したのは知っているが、この怯えようはどうしたことだ?

 横暴の根源のような男が他人に怯えるなど考えられん。


「奴は、奴は怪物だ! 人ではない! クレルフ! ワシを、ワシをかくまってくれぇ!」

「やめろ、離れろ」

「頼むぅ! ご、ごふぅっ! あが、あがが……」

「チッ……勝手にくたばるのは許さん! アイシクルランスッ!」

「うぐっ……」


 氷の槍がクリバトフを貫く。

 クリバトフの体が大きく痙攣した後、地面に投げ出されるようにして倒れた。

 あれほど恐れた父の呆気ない最期に私は言葉を失ってしまう。


「陛下! 負傷者や捕虜の確保と第四魔術師団の救出が完了しました!」

「……うむ、よくやった。細かい調査は後日として、王都へ帰還しよう。民が待っている」


 夕暮れの時、騒然としていた戦場もようやく静けさを取り戻しつつある。

 真っ赤に染まった夕焼けがまるでここで流れた血のように思えてならない。

 どんな理由があろうと私もこの手で父親を殺してしまった。

 こんなことが起らない国を目指したはずなのだがな。


                * * *


 クリバトフ率いるマナエストとの戦いから数日が経過した。

 王国軍に敗れたマナエストは捕虜になった者以外は死亡している。


 同時に捕虜から情報を引き出して、国内にいる大小の反王国組織を洗い出すそうだ。

 オレのほうはというと、クリバトフとの戦いでの怪我が凄まじかったらしい。

 クリバトフは結局、陛下によって討伐された。


 オレの力及ばず、陛下の手を煩わせてしまったことを激しく後悔している。

 ルアンなどはオレが討伐したと励ましてくれたが、それが慰めであることは明白だ。

 今思えばクリバトフは常軌を逸した相手だった。


 あれほどの魔術師にオレが勝つなどあり得ない。

 唯一、オレ自身が認められるのはクリバトフ相手に逃げずに立ち向かったことくらいだ。

 実力はともかく、オレは挑む勇気を持っている。


 後は勇者達に実力が追いつけばいいのだが、世の中そう甘くないか。

 勝てなかったからといって悲観している暇などない。

 オレは医務室にて、今も訓練を行っていた。


「あのー、ウォレスさん? そろそろ下ろしてもらえます?」

「すまない。つい訓練に没頭してしまった」


 オレは椅子に座ったルアンを持ち上げてスクワットや歩行を行っていた。

 クリバトフが部下の魔術師をそうやって鍛えていたからな。

 前王ほどの人物が課した訓練なのだから、効果は間違いない。

 しかしどうにも今一つ、物足りなさを感じていた。


「ルアン。今も重いのだが、もう少し重くならないか?」

「なっ!? ウォ、ウォレスさん! なんてことを言うんですか!」

「む? よくわからんが失礼だったか? すまない」

「女性にそういうことを言ってはいけません!」


 オレはまた余計なことを言ってしまったか。

 ルアンほどの魔術師ならば魔法で重くすることもできると考えていたが軽率な発言だったな。

 魔術師でもないオレが魔法でどうこうしろなどと、無礼どころではない。


「もうおしまいです! そもそもまだ怪我のほうが心配ですからおとなしくしてくださいね!」

「怪我はもう治っているのだが……」


 その時、医務室に入ってきたのは陛下とソマリだ。

 今回の戦いにおける功労者の登場とあってはオレも頭を下げるしかない。


「ウォレス、怪我のほうは問題……ないようだな。それは何の真似だ?」

「ハッ!? すみません! これは訓練です! すぐにルア……リエール様を下ろします!」

「それならばよいのだが……。それとそなたに限り、リエールのことはルアンと呼んで構わんぞ。もちろんリエール次第ではあるがな」

「それは……」


 オレがルアンをちらりと見る。


「えぇ、ルアンでお願いします」

「リエー……ルアン様。しかしそれでは他の方々が納得しません」

「様もいらないんですよ。城の人達にはすでに話を通してありますし、何よりあなたは国の英雄です」

「オレが……英雄?」


 ルアンは何を言っているのだ?

 オレなど戦いにおいて何一つ役立っていない。

 イドという魔術師には歯が立たず、クリバトフには敗北した。


 部下の魔術師達に勝ったといえばそういう見方もある。

 しかし彼らはクリバトフの部下の中でも未熟な魔術師だ。

 言ってしまえばオレがやったことなど魔術師の卵を相手にした程度だろう。


 そう考えるとオレなど――と思っていたら、ソマリが頬に手を当ててきた。


「なっ! 何をする!」

「これは初動で見切れなかったのね」

「敵意がない動きまで集中できん……」

「こうして触れても一切魔力を感じない。そんなあなたになんで私がクリバトフを任せたと思う?」


 これは難問だ。

 確かにあの場面であればソマリでも問題なかったはずだ。

 いや、待て。ソマリは魔動機から魔術師達を救出していたはずだ。


 それはソマリにしかできない。

 つまりあの時点においてはオレをクリバトフと戦わせる理由になる。

 結果は散々なものだったがオレ自身、得るものはあった。

 ならば答えは一つしかない。


「オレに未熟さを嫌と言うほど思い知らせたかった。そうだろう?」

「……は? 何を言ってるの?」

「ソマリに指導をしてもらった時、お前は体調が優れなかった。それなのにオレに勝ったと思われるわけにはいかない。ではどうするか? 強大な敵にオレをぶつけて現実を思い知らせる、こうだろう?」

「いや、あなたなら勝てると思ったからなんだけど?」


 ソマリの呆れ顔が顕著だ。

 オレが正解を言い当てたにも関わらず、オレなら勝てると言い張る。

 オレからすればクリバトフは恐ろしい敵だったが、ソマリは徹底してオレの慢心を砕きたいようだ。

 負けたオレに追い打ちをかけているのがよくわかる。

 あの程度の敵なら勝てると思ったんだけどね、と。


「あのね、あなた本当に……」

「ソマリ、その辺でいいだろう。ウォレス、この度の活躍はそなたがなんと言おうと私が認めている。望む報酬を与えようと思うが何かあるか? 領地、金、名誉、なんでもよいぞ」


 陛下がとんでもないことを言い出した。

 オレにそんなものを貰う権利などない。

 オレは前世の時と同じように言葉に詰まってしまった。


「どうした? 言ってみるがよい」

「その報酬はオレではなく、オレと同じように魔力がなくて苦しんでいる人々のためにお使いください」

「なんと! 本気でそう申しておるのか?」

「オレ達がゴブリン討伐を引き受けた際に向かった農村などは未だに未発達であると感じました。力のない彼らを守ってあげられる人材が必要です。陛下、彼らのような人々を一人でも救ってください。強いて言うならそれがオレが望む報酬です」


 少し生意気な口を利いてしまったか?

 これがオレの嘘偽りのない本心だ。今のオレは何もいらない。

 一人で生きていく力をつけるためには、身の丈に合わない財産などを持つべきではないのだ。


 そうでもしなければ魔力がないオレが魔術師と肩を並べる日など永遠にこない。

 オレは真剣な眼差しで陛下を見た。


「……わかった。そなたがそこまで強く望むのであれば、そうしよう。確かに救うべきものを見誤ってはいかんな」

「ありがとうございます。オレはオレでまだまだ精進します」

「しかし、私個人としては礼をせねばならんと思っている。やはりそなたは国を救った身だ。いつか必ず礼をさせてほしい」

「暖かいお言葉、感謝します」


 こうしてオレはいつもの日常も戻った。

 オレはまだ冒険者ウォレスとして何も成していない。

 冒険者ギルドの依頼を一つでも多く引き受けて、一日でも早く皆に認めてもらえるようがんばろう。

 手始めにまずは途中で放置してしまった庭の整備だな。

ここで完結となります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで一気に読みました。 面白かったです!
[一言] 面白かったです。 楽しく読ませていただきました!
2023/11/16 08:43 退会済み
管理
[良い点] 完結おめでとうございます! クリバトフの命への執念、外見は見苦しいけど王たるものはこうでなくては!逆にクレルフ陛下は少し潔すぎるところもあるかも? 褒美に魔力無しの人びとへの援助、男前…
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