VS 重王クリバトフ
前王クリバトフ、近くで見るとかなりの老齢だとわかる。
陛下の父親なら年齢は最低でも八十は超えているか。
この歳で一度は国王の座を失っても再起を図る。そのバイタリティは尊敬に値するかもしれない。
オレもあの年齢になってそこまでのバイタリティが維持できるか、自信がない。
そこへいくとあのクリバトフは己の年齢など無関係といった様子で、今回の戦争を引き起こした。
凄まじい執念としか言いようがない。
「小僧、先程からまったく魔力を感じないな」
「そうだ、オレには魔力がない」
「ホッ! カッカッカッ! 欠陥人間か! こりゃ久々に見たわい!」
「欠陥人間だと?」
「魔力も持たずに生まれてしまったクズのことじゃ! ワシが王の時代なら全部死ぬまで奴隷にしてやっていたところじゃな! カッカッカッ!」
クズ、か。オレのことはどうでもいい。
魔力がないことで他人より劣っているのは事実だからな。
しかしオレ以外の人間に対する侮辱は違うだろう。
リエールから聞いた話によれば、このクリバトフが王だった時代では奴隷制度がまかり通っていたらしい。
オレのような魔力が低い人間は人間として扱われず、商品そのものだ。
金持ちや一般家庭に買われては悲惨な仕打ちを受けて死んでいったものが大半だったという。
前世でも奴隷制度はあった。
勇者達は解放を試みたものの、生まれながらにして奴隷だった人達はそうされたところで生き方を知らない。
誰かに従わないと生きられない人々なのだ。
あれはオレなんかが口出しできないほど根深い問題だった。
しかしそんな中、救われた命も確実に存在する。
闇と光が表裏一体のように、奴隷が救われる可能性があるからこそ勇者達は彼らを救出した。
オレも彼らの意思を少なからず継いでいるつもりだ。
たとえ実力が伴っていなかろうと、な。
「欠陥人間が我が手駒を倒すとは信じられん。が、魔術師にも当然優劣はある。お前が殺したのはせいぜい四級以下のザコどもじゃ」
「一歩間違えればオレがやられていた。あなたがそれ以上となれば、確かに勝ち目はないかもしれん」
「わかっておるではないか! 殊勝な態度を見せるのであれば、ワシの専属奴隷として買ってやってもよいぞ!」
「断る。あなたがどれだけ強かろうと譲れんものがある」
オレの言葉にクリバトフが口角を上げた。
それから玉座に座ったまま片手から黒い塊のようなものを放つ。
浮いたそれにオレの体が引き寄せられた。
「こ、これは……!」
「本来であれば欠陥人間ごときにワシの固有魔法を拝ませるなど考えられんが、たまにはよかろう」
オレの体が黒い塊に張り付いて、凄まじい圧がかかった。
体中を砕くかのようなこの圧力はまるで重力だ。
「ぐうぅぅ……!」
「これがワシの偉大なる重王術、万物は重力に逆らわずに生きることは敵わん。これが世を統べるに相応しい最強の魔法じゃ」
体が潰されそうになる中、オレは耐えた。
落ち着け。確かに凄まじい圧力だが、なんとなかるかもしれない。
オレは黒い塊に双剣を勢いよく突き刺した後、自身の体から引きはがした。
「おおぉぉぉぉ!」
「は? なんじゃて? あれから離れようというのか?」
「はぁぁあぁぁーーーーッ!」
双剣を黒い塊に刺した反動で、オレはクリバトフの頭上に浮いた。
真上からクリバトフに双剣を振ると結界によって阻まれてしまう。
バチバチと音を立ててはいるものの、威力が足りないか。
「ぬぐぅ! こやつ、まさか両腕だけでワシの重力に逆らっておるのか!?」
再び黒い塊に吸い寄せられたが、オレはめげずに双剣を刺す。
すると黒い塊が二つに割れて霧状となって霧散していく。
「こ、この小僧! こんなことがあるか! ワシの魔法を剣だけで消すなど!」
「玉座に座らなくていいのか?」
「はっ!?」
オレの指摘通り、クリバトフが玉座から離れていた。
オレの攻撃を回避しようとして無意識のうちに下りたのだろう。
クリバトフを支えていた魔術師達の負担が一気に軽くなったな。
「こんなオレでもあなたを立たせることはできたな」
「この、この……! 欠陥人間の分際でこのワシに何をするかァーーーーッ!」
クリバトフの周囲に大小の黒い塊が現れた。
それぞれが重力を持つとしたら、これから起こる事態にゾッとしてしまう。
オレが黒い塊の一つに引き寄せられて叩きつけられ、今度は別の塊に叩きつけられる。
よく見れば塊の大きさが逐一、変化していた。
大きければより重力が強くなり、小さければ弱い。
大きい塊に叩きつけられた後でより大きい塊に叩きつけれれる。
オレは塊に遊ばれるようにして何度も重力に弄ばれた。
「ぐはッ! ごふっ!」
「ヒャヒャヒャヒャ! 大小それぞれ重力は違う! そしてこんなこともできる!」
今度は黒い塊からオレの体がものすごい勢いで引き離された。
そのまま地面に叩きつけられて、オレは這うようにして立つ。
「はぁ……はぁ……」
「反重力ってやつじゃ。それにしてもあれだけ痛めつけてやったのにタフじゃな……」
「鍛えているんでな……」
「じゃが、お前は欠陥人間じゃ。多少は戦えようが魔法がなければこんなもの。どうじゃ? まさか鍛えれば魔術師を上回れると思ったか?」
オレが魔術師を上回るなど生涯かけても無理だろう。
戦っての通り、これが魔術師の力だ。
いくらオレが力をつけようが魔術師はそれ以上の力で圧倒してくる。
オレにも魔法が使えれば。
何度目かわからない思いが頭をよぎる。
思えば勇者パーティの皆はこんなにも弱いオレに優しくしてくれた。
それもまた強さなのだろう。
自分より弱くても一人の人間として扱う。
それが当たり前にできることではないなど、あのクリバトフを見ればわかる。
あの男のどこに強さがある?
魔術師として強大な力をつけたものの、勇者パーティの皆はあの男にはできないことをやっている。
それこそが真の強さであり、数々の巨悪を打ち倒してきた力の源泉ではないか?
他者を対等に見ているからこそ守りたくなる。
オレは何を守る?
陛下、リエール、ソマリ、クータや村人。
その他オレによくしてくれた人々。
勇者パーティの皆だって苦しかったはずだ。
そのたびに守るべき者の顔を思い浮かべただろう。
だったらオレもその意思を継ぐべきだ。
「さぁて、そろそろかわいそうになってきたからの。次は一思いにやってやろう……グラビティ・エンペラーサイド」
クリバトフの頭上に巨大な黒い塊が出現した。
凄まじい重力と共にオレは巨大な黒い塊に叩きつけられる。
激痛で意識が飛びそうになり、血を吐いた。
「がはぁッ! ぬ、ぬおおぉぉーーーーー!」
「これでも死なんか! 普通ならばぺしゃんこになって跡形も残らんぞ! 欠陥人間というのはつくづくしぶとい!」
「クリバトフ……あ、あなたは優れた魔術師だ……オレなんぞが勝てるはずがない……だが、だがぁぁーーーーー!」
「また剣をぶっ刺したか!?」
巨大な黒い塊に貼り付けられながらオレはここから地上にいるクリバトフを見た。
クリバトフは薄ら笑いを浮かべて、オレをしっかり見ている。
子供騙しにしかならないかもしれないが、あれをやるしかない。
オレは押しつぶされそうになりながらも片方の双剣を振った。
「……ぐああぁあぁーーーーー!」
クリバトフが悶えて膝をついた。
その瞬間、黒い巨大な塊が揺らめく。
重力が弱くなり、オレは地上へと落ちて着地した。
「うぐっ! き、斬られた! 痛い! 痛いぞぉ! ど、ど、どうして!」
「錯覚だ。あなたは斬られていない」
「なに!?」
「人は視覚情報を誤認することがある」
クリバトフは釈然としない様子で脂汗を流している。
彼の体はどこも傷ついていない。
しかし痛みはしっかりと感じているのだ。
「以前、オレの知り合いに訓練を頼んで炎の魔法を放ってもらったことがあってな。あまりの恐ろしさにオレは全身が燃え盛る感覚を覚えた。しかし実際に魔法はオレに当たっていなかったのだ。どうやら寸止めしていたようだな」
「このワシが誤認したというのかッ! 貴様の攻撃などをッ!」
「目の前にリアルな魔法が迫った時は本当に焼かれたと思った。あれ以来、オレは考えたのだ。この剣を極めれば似たようなことができるのでは、とな」
「ワ、ワシが、ワシが騙されたなど……偽物とわかっていれば怖くなどないわ!」
クリバトフが再び黒い塊を展開した。
巨大なものも健在で、オレはまた重力に弄ばれつつある。
「ワシは最強の魔術師であり世界の王だ! 欠陥人間! ワシの世界に貴様の存在などない! あってはならんのだぁーーーーッ!」
巨大な黒い塊に引き寄せられたがオレは双剣を刺して堪えた。
それから黒い塊に足をつけて立つ。
「は? は? え? なんと?」
「凄まじい負荷だが、おかげで鍛えられた。なんとか堪えられるようになった」
「堪え、られるようになった?」
「人は訓練すれば鍛えられる。より強い負荷にも耐えられるのだ。次は跳べるか……やってみる!」
黒い球体から地上にいるクリバトフ目がけて跳んだ。
とはいえ、半端な攻撃ではあの結界を破ることはできない。
今までの誰よりも強力なあれを破るにはこれしかない。
「ウォレス流奥義! 刻死夢双ッ!」
双剣を連続で斬りつけることによって衝撃を重ねた。
いわゆる滅多切りだが、同じ個所に当て続ければ多少は負荷をかけられる。
なぜこの奥義を選択したか?
それはオレがクリバトフに接近できる時間がわずかだからだ。
不安定な空中では足場がなくて力が入らない分、木分双壊や双利大刃ではあまり威力が出ない。
オレが黒い球体の重力によって引き戻される間、手数で攻め立てようと考えた。
勝利など夢ではあるがわずか一刻とて無駄にしない連撃の奥義、刻死夢双。
その想いが成就するかは別だが果たして。
「結界が、バカな! バカなぁぁ! やめろ! やめろぉぉ!」
「時間切れか……!」
オレは再び黒い球体に引き寄せられつつあった。
しかし次の瞬間――
「ぐあぁぁッ!」
クリバトフが斜めに斬られて血を噴き出す。
どうやらオレの最後の一撃が結界を貫通したようだ。
クリバトフが倒れると同時にオレはふわりと空中に投げ出される。
どうやらクリバトフが倒れると同時に魔法も消えたようだ。
不自然な格好で落下する形になったな。
これはまずいかもしれん。
が、落ちた後でオレの体は柔らかい何かに包まれた。
これは銀色の液体、となると――
「ソマリ……」
「お疲れ様。さすがね」
ソマリが呆れたようにオレを見下ろした。
どうやら彼女に助けられたようだな。
そうなるとオレのお粗末な戦いぶりも見ていたに違いない。
それならばこの呆れ顔も納得できる。
「ウォレスさん! ご無事ですか!」
続いてリエールが駆け付けてきたか。
もっともこの姿を見られたくない相手だが、未熟さを隠しても仕方ない。
甘んじてすべてを受け入れるしかなかった。
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