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少女達の戦い

「宮廷魔術師……親衛隊長ソマリ! 小娘がその地位とは、よほどたらしこんだようだな」

「実力が足りてないと、そういう発想しかできないものね」


 魔術師イド。見たところ一級程度か。

 はぐれ魔術師にしては驚異的な実力だと思ったら元男爵家の息子と暴露した。

 魔力の総量や才能は血筋に影響される場合が多い。


 イドは元男爵家ながら高い魔力と才能に恵まれたはずだ。

 真面目に細々と生きていれば、たとえ家が没落しても冒険者として名が広まった可能性がある。

 一方で私がここにいるのは魔力と才能による結果だ。


 これは仕方ない。

 私だって好きでフォンデスタ家に生まれたわけじゃない。

 生まれ持った才能があった上で魔法漬けの人生にされただけだ。


 勝手に嫉妬されても知ったことじゃない。

 単に様々な要素が重なってこうなっただけ。

 この男の魔法が水遊びにしか見えないのも、私の才能のせいだ。


「高みにいるつもりでいるならば、今から引きずり降ろしてやろう!」

「つもりじゃない。高みにいるのよ」


 私の言葉を皮切りにイドが噴水のように酸水を放った。

 水を粒子状にした後、私の結界に張り付く。

 雨の日、窓ガラスに張り付く細かい雨粒のようだ。


 幼い頃はろくに外にも出してもらえなかったから、私は窓の外を眺めるしかなかった。

 代り映えしない風景の中、雨が降ると外の様子が変わる。

 庭の木々が雨に濡れて、雫がポタポタと落ちていた。


 窓を細かく叩く雨粒の音を寝るまで延々に聞くのが楽しみだった。

 風が吹けば窓が揺れる。

 そんな些細な変化すら楽しんでいた日々を思い出した。


「ハハハハハッ! 私の酸水術が粒上となれば、あらゆる回避も意味を成さない! もはやそこから一歩も動くこともできまい!」

「……え? あぁ、ごめんなさいね。ちょっと昔のことを思い出したの」

「なるほど! 死ぬ間際には思い出が頭に浮かぶというからな!」

「もう終わったわ」

「なに?」


 各魔道機がギチギチと音を立てて動きが鈍る。

 やがて腕や足を無理に動かそうとして各部位が壊れ落ちた。

 魔動機の至るところに私の銀水が浸食して、それが固まっている。


 魔動機の相手をしていた魔術師達が戸惑っていた。

 それから間もなくして魔動機の胴体の装甲が剥がれて、動力源とされていた魔術師達が剥き出しになる。


「魔動機の動きが……おい! 救い出せ!」

「さすがソマリ様だ!」

「おい! 生きているか!」


 第四魔術師団の救出はあの人達に任せていいか。

 仕事を終えた私は軽く背伸びをした。

 相変わらず何の達成感もないな。


 これならあのウォレスと戦っていた時のほうがよっぽど心が動いた。

 今だから認めるけどあれは絶望としか考えられない。この私が、ね。

 おかげで少しの間、寝込んじゃった。


「バ、バカな! 何が起こっている!」

「私の銀水術は大きさや形状、性質を変化させられる。時には水のように、時には鋼鉄のごとく硬くなる。そして時に……」

「う、うぐ、か、体が、うご、かん……」

「体を冒す」


 銀水は地面に浸透した後、イドの足元にまで迫っていた。

 これが液体の強さだ。

 水は形を変えて、わずかな隙間さえあればどこにでも侵入できる。


 特に二流以下の魔術師なら足の下の結界がおろそかになりがちだ。

 地面は土なんだから、水くらいいくらでも染みこむ。

 そして今、イドを襲っているのは一言で言うなら毒の水だ。


「私の銀水は時に神経を冒す。頭にまで回ったらもう手遅れね」

「あごご、ろ、ろま、え、こんらぁ、ひどい……」

「呂律も回ってないようだし、あなたは終わりよ。あなたはこの銀水と同じようにこの国を冒そうとした。その報いを受けなさい」

「あ、あっ、あ……」


 イドがどしゃりと倒れて体中を痙攣させた。

 この様子を見たマナエストの魔術師が一斉に逃げ出す。


「イ、イド様が、イド様があっさりと!」

「これが決戦級! 化け物だ!」


 彼らの足元から銀水が飛び出して包み込む。

 イドみたいな死に方はかわいそうだから、せめて窒息させてあげる。

 目も鼻も耳も塞いでから最後に全身を潰した。

 魔術師達が一斉にぐしゃりと潰れた後、私は動かなくなったイドの前でしゃがみこんだ。


「あなたの相手なんて片手間だったの。どちらかというと魔動機から魔術師団を救出するほうが手間だったわ」


 なんて呟いたところで意味はない。

 あのウォレスと戦った時とは打って変わって呆気ない結末だ。

 ウォレス。初めて私を恐怖させた男なんだから、しっかりやりなさい。

 そう思いつつ、ふと王女様の戦いが視界に入った。あちらも問題ないか。

 でも相変わらず甘いお方だ。


                * * *


「おいおい……おぉーーい! お前の氷じゃオレは溶かせねぇよ、王女様よぉ!」


 炎の魔術師バシュバリオムという男を相手に私は戦っていた。

 彼の魔術は手足に炎をまとわせることによって、そこから圧縮された炎を打ち出す。

 とっくに失われた格闘術の要領で戦う珍しい魔術師だ。

 なんだかウォレスさんを思い出すな。


 炎といえば広範囲に熱をもたらすメリットがあるけど、彼の場合はあえて一定の範囲に絞ることで威力を上げている。

 射程は狭くなったけど、魔鉱石くらいなら一瞬で溶かせるほどの炎だ。

 私は彼の攻撃を氷の盾で防いでいるけど相殺されて消されてしまう。


「おいおぉい! 王族ってのはすげぇ魔力を持ってるんじゃねえの? これじゃあの決戦級をイドに譲ったのは失敗だっただろうが! おぉコラ! どうしてくれんだッ!」

「あなたは戦えれば満足なんですか?」

「おいおぉーーい! 人生といえばケンカとメシだろうが! 王女様の楽しみなんてせいぜいお茶会くらいかぁ?」

「城を出る前はそうでした。しかし今は身近なところに楽しみがあります」


 私の答えにバシュバリオムは怪訝な顔をしている。

 そんなにおかしなこと言ったかな?


「おいおぉーーーい! 熱が足りねぇよ! ケンカも人生も熱量がなきゃ楽しくねぇ! どうりでお前との戦いは熱くならねぇわけだ!」

「戦いに熱さ、ですか。必要ですか?」

「生きるってことは戦うってことだ! 常に誰かを蹴落として選択し続ける! だから人生は熱いんだよ! 人生の熱量が足りてねぇ奴ほど不平不満をブツクサ言う! てめぇでてめぇの人生に熱くなってねぇんだからよ!」

「なるほど。そういったモチベーションの保ち方もあるのですね」


 私の答えに満足したのか、バシュバリオムは再び手足に炎をまとわせた。

 熱気だけで喉が渇きそうなほどだ。


「お前、もういいわ! やっぱり生まれながらに恵まれてるとそうなっちまうよなぁ! 人生、熱くなれねぇ奴との戦いはつまらねぇ! その点、イドの奴は熱いぜ! 王族もろとも支配層をぶっ潰すってんだからなぁ!」

「いいでしょう。では私なりの熱をお見せします」


 バシュバリオムの炎の拳が放たれた。

 私の氷の盾はたとえ炎でも第三階級程度なら防げるけど、一撃で簡単に溶かされる。

 バシュバリオムの攻撃一発が第四階級相当と考えると、範囲を犠牲にしても余りあるメリットだ。


 しかもあの炎の拳、遠距離まで届く。

 私が回避すれば後ろで戦っている魔術師団に被害が及んでしまう。

 熱風と風圧だけでもかなりの被害が出るはずだ。


 これほどの魔術師が今まで国内に潜んでいたなんて信じられない。

 魔法は本来、しっかりとした基礎知識と確かな技術によって構成されるものだ。

 だから魔法学園が存在する。


 バシュバリオムがクリバトフによってこれほどの力を身に着けられたと考えると恐ろしい。

 人間性はともかくとして、クリバトフは魔法に限定すれば大陸でもトップクラスの知識と技術を持つことになる。

 それだけの力がありながらどうして。


「さぁて! とどめといくかぁ! こいつは防ぎきれねぇ! バァァーーーーーーニングゥゥアァァーーーーーー!」


 バシュバリオムが両手を突き出した。

 炎の竜巻が両手から2つ分放たれて、私の氷の盾を貫通する。


「おいおぉーーい! 終わったぜぇ! 王女は俺が殺した! これだから人生は熱いんだよッ!」

「少し足りてないですね」


 炎の竜巻が私の直前で凍り付いた。

 それから間もなくしてパキパキと氷化が加速する。

 やがてバシュバリオムの腕まで凍り付いて、更には肩まで浸食した。


「は、はぁぁ!? 体が、クソッ! こんなもの! 燃やし尽くしてやる!」

固有魔法(オリジナル)、永凍術。炎だろうが雷だろうが凍り付きます」

「炎が、凍るなんて、聞いたことねぇぞ!」

「知らないんですか? 魔力の質には個性があります。例えばソマリは捉えどころのない揺蕩う大海のような魔力、あなたの魔力の質は燃え盛る地獄の炎のようです。特徴を捉えるのに少し時間がかかりました」

「どういう、ことだぁ」


 すでに首だけを残して凍り付いたバシュバリオムが苦しそうに呻く。

 私は彼に近づいて頬を撫でた。


「魔力の質を捉えて、分子レベルの動きさえ理解すれば炎だろうと凍ります。つまり私はあなたの魔力の分子……魔素レベルまで凍らせているんですよ」

「ふ、ふっざっけるなぁ! そんなことできるわけねぇ!」

「できるんですよ。あまり言いたくないのですが、魔法の知識と技術は支配層が独占しています。だから魔法学園などで学ぶ必要があるんです。クリバトフは教えてくれなかったんですね」

「あ、あのお方は、オレはただ熱くなればいいって言ってくれたんだ!」


 そういうことか。いくら知識と技術があっても、教え方が適切とは限らない。

 クリバトフ、魔術師としてはともかく指導者としては三流以下だ。

 それは王としての資質にも表れている。


「あ、あたまが、意識が、クソォ……」

「寒いでしょう? あなたを殺すだけならもっと早く済んだのです。今も放っておけばそのまま眠って2度と目覚めません。ですがあなたには喋ってもらうことがあるのでひとまず捕えます」


 バシュバリオムの意識がなくなったところで、私は魔法を解除した。

 魔力ごと凍らせているから目を覚ましてもしばらくは何もできない。


「生きるか死ぬかの人生において常に冷静に考えています。あえて言うなら、これが私の熱です」


 すでに聞いていないバシュバリオムにそう呟く。

 人生の熱か。その点ではウォレスさんほど真っ直ぐで獰猛な熱は存在しないかもしれない。

 とっくに頂上にいるのに更に天を目指そうとしているようなものだから。

 だから一緒にいて楽しいんだけどね。

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