ウォレス、戦場を駆ける
「なんじゃ? 変なのが湧いたな?」
戦場に駆けつけたオレが最初に見たものは魔術師と魔動機の大軍、そして椅子に座る老人だ。
その椅子がなんとも奇妙で、玉座を魔術師達が支えていた。
あの老人は魔術師達を鍛えているのか?
戦いを挑んでいる最中に?
それは別として、シンプルながら過酷な訓練で実に効果がありそうだ。今度、オレもルアンに頼んでやってみよう。
「リエール様、あちらがマナエストですか?」
「ウォレスさん、あなたを巻き込むわけにはいきません。陛下は冒険者を一切雇わず、正規軍の戦力のみで彼らを迎え撃とうとしているのです。彼らを生み出してしまったのは私達の責任ですから……」
「そうなのか? この国に生きる以上、オレにもその責任がないとは言えない」
「そんなことはないです! とにかくここは私達に任せてください!」
ルアンことリエールはそう言うが、何せあの大軍だ。
本当に彼女達の責任だろうか?
王女の命令に背くなど考えられないが、勇者達ならきっとこうするだろう。
オレは大軍に向けて双剣を突きつけた。
「ウォレスさん?」
「深い事情はわかりませんが共に重荷を背負ったほうが軽くなります」
「そうかもしれませんが、冒険者であるウォレスさんを巻き込むわけには……」
「彼らを甘く見てはそれこそ国の存続の危機です。オレごときでは大した力になれませんが、共に戦うことをお許しください」
そう言いつつオレは敵を見据えた。
炎をまとった魔術師と青髪の魔術師が一際目立ち、彼らが率先して前へ出てくる。
「おいおいおぉい、イドよぉ。ありゃなんだ?」
「私に聞くな。いずれにせよ決戦級とやり合えるといった時に余計なものが割り込んできたな。始末する」
青髪の魔術師ことイドの周囲に水が蓄えられた。
それが勢いよく天へと噴出して分散、辺りに大雨が降り注ぐ。
粒が肌に当たると痛みを感じた。
「これは……!」
「貴様一匹ごときに誰が時間など割くか。我が固有魔法、酸水術で一網打尽だ」
「酸……つまりこのままでは溶けてしまうわけか!」
「そうだ。それもこんな風に意外と早く死ぬ」
オレに張り付いた雨粒が蠢いて這いずり回った。
全身に焼けるような激痛が走り、思わず膝を尽きそうになる。
オレは生身だから直に影響を受けていて、他の魔術師達は結界で耐えているようだが――
「結界が恐ろしい勢いで溶かされていく! あちらの魔動機は無事のようだが……」
「粒上になることによって威力が分散しているからな! そのおかげで魔鉱石によって弾かれている! 第二魔術師団! あのイドとかいう奴を集中狙いだ!」
魔術師達の結界にも影響を及ぼすとはなんと恐ろしい魔術だ。
しかし味方のはぐれ魔術師にも影響を及ぼしているようにも見えるが。
「イ、イド様! 我々も被害が!」
「黙れ! こんなもので死ぬのならば死ね! より優れた者が生き残ればいいのだ!」
なんだ、あの男は。あまりに危険思想が過ぎる。
こうしてはいられない。
オレもすぐに攻撃に打って出よう。
「フハハハハッ! 見たか、愚王! これがお前達が没落男爵家と蔑んだ人間の力だ! 私はこの時をもってペスルト家の汚名を晴らす!」
「ペスルト家……思い出したぞ。お前の父は旅人を襲って私腹を肥やしていた! 大罪人ではないか!」
「貧乏男爵家など平民と大して変わらん! 飢えた我々が生きるにはそうするしかなかった! それなのに半端な爵位のせいで私達がどんな目で見られていたか、想像できるか!」
「行きつく先がクリバトフか! お前達を苦しめてきた張本人だろうに!」
「クリバトフ様は私の素質を見抜いてくださった! 愚王! 貴様には到底不可能だッ!」
陛下をあそこまで侮辱するとは信じられん。
前世でも飢えた人々はたくさんいた。悪の道に走る者もいれば、正しい者もいる。
そんな世の中でも人々は懸命に生きた。悪に屈せず、環境にも負けず生き続けた。
たとえ弱くてもオレはそんな人間が眩しく見える。
そしてそんな人々を少しでも支えてやりたい。
痛みを堪えながらオレがイドに向かって駆けた。
「突っ込んできたか! バカな奴! たかが強化魔法一つでどうにかなるかぁ! くらえ! 酸竜ッ!」
酸水が竜の形を成して、オレの突進を阻止する。
あれに突っ込んでしまえば骨も残らないだろう。
ならば一瞬でも隙を作るしかない。
「双利大刃ッ!」
双剣の振り下ろしによって酸竜が真っ二つに割れる。
この三百年間、クロとブラックは錆も刃こぼれも一切ない。
酸で溶かされることなく、オレに道を示してくれた。
「……こいつッ!?」
「はぁぁぁぁぁッ!」
割れたところでオレはその間を駆け抜ける。
そして双剣をイドの結界に全力で叩きつけた。
結界が弾けた反動でオレは姿勢を崩しかけるが持ち直す。
「結界がッ! 冗談だろう!?」
「オオオォォォーーーッ!」
オレの追撃に対してイドが再び酸水で防御を試みた。
斬り込めばこちらも手痛い反撃を受けると判断したオレはさすがに身を引く。
「はぁ……はぁ……! なんだ、何なんだ! 貴様ッ!」
「さすがに一筋縄ではいかないか……」
どうしたものかと考えていた時、背後から銀色の水がじわりと現れる。
これはソマリの魔法か?
「ウォレスさん、その男の相手は私がするわ。あなたはあのクリバトフを殺して」
「ソマリ、オレに任せていいのか? む? そういえば酸の雨が降らなくなったな」
「水遊びは私が止めさせたわ」
ふと空を見るとソマリの銀水術が巨大な傘となっている。
オレは息をのんで言葉を失いかけたが、驚いている場合ではないな。
「貴様……今、なんと言った? 水遊びだと?」
「えぇ、酸性の水を雨として降らして操作する。それだけなら私が十歳になる頃にはできたもの」
「こっ、こぉっ! これだからっ! 貴族はッ!」
イドの周囲に竜巻のように水が集まる。
恐ろしい相手だが、あちらはソマリを信じて任せよう。
他の魔術師団の戦いというと、見る限り魔動機のせいでやや劣勢だ。
あの炎の魔術師はルアンが相手をしているようだし、オレはこのままクリバトフのところまで駆け抜ける。
気づいた他のはぐれ魔術師が次々と襲いかかってきた。
「まさかクリバトフ様を狙っているのか!」
「こいつ、あのイド様の魔法と結界を切り裂いていたな!」
「ただの強化魔法でないことは確かだ! 迎え撃て!」
オレは目を凝らした。
魔術師達の位置と初動を確認。それぞれ火、雷、地が二人。
奥の三人が氷、水、水。
次にオレが踏むべき安全地帯を把握。
そこをめがけて走りつつ、二人の魔術師を双剣で斬りつけた。
魔術師が倒れる際に近くにいるもう一人を巻き込む。
二人が絡まって倒れたところをすかさず斬った。
「バーニングッ!」
「サンダーショット!」
ここで残った魔術師達が魔法を放った。
が、すでに安全地帯を見越していたオレには当たらない。
そこから回転するようにして双剣を振るい、まとめて倒した。
「ぐあぁぁッ!」
「がふっ……!」
「こ、これだけの人数がいるんだぞ! なんとしてでも殺せッ!」
少し数が多いな。オレは跳んでから魔術師の肩を踏み台にした。
ジャンプで彼らを飛び越した後で一気に走る。
「くっ! 狙い撃てぇ!」
彼らの魔法が放たれるがオレに届かず、寸前のところで当たらなかったようだ。
危なかったな。あと少しでも遅れていたら当たっていたかもしれない。
先に進んだところで再び凄まじい数の魔術師がオレを取り囲む。
すぐそこにはあの妙な玉座に座るクリバトフだ。
苦々しい表情で肘をつきながらオレを見下ろしている。
「クリバトフ、やっと近くで会えたな」
「……少し頭が高いな、ザコ」
その様相はとても陛下の父親とは思えない太々しさだ。
皺だらけの顔で老齢を感じさせるが、不思議と衰えているとは思えない。
オレが勝てる相手とは思えないが、やるしかないか。
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