魔力がないと冒険者になれないようだ
「お似合いですよ」
冒険者ギルドに行く前にオレはルアンに服を買ってもらった。
さすがに半裸で町を歩き回るのはどうかということだが、世話になりっぱなしだ。
服のタイプは上下が動きやすいハーフタイプのもので、風通しがいい。
「見た目としてもオレにすごく合っている気がする。ルアンは服屋の娘なのか?」
「え? ま、まぁそんなところです」
「そうか。ありがとう、気に入った」
魔術師用の服とのことだが、下手に防具を身に着けるよりこちらのほうがいい。
着替えたらなかなか新鮮な気分になった。
その足で冒険者ギルドに向かうと建物が見えてくる。
「……ここが? 大きくないか?」
「はい。こちらが冒険者ギルドです」
冒険者ギルドに到着するとオレは言葉を失いかけた。
外装はきちんと塗装がされており、大きな看板が入口にある。
オレの時代ではこれとは似つかないほどみすぼらしい建物だったな。
中に入るとこれもまた全然違う。
雑な作りの木製小屋でヒゲ親父がカウンターで居眠りなどしていない。
話しかけると舌打ちをして、いかにも面倒臭そうに対応などしない。
清掃が行き届いた室内で身綺麗にした者達がカウンターで受付対応していた。
冒険者達に丁寧にお辞儀をして「あなたにイレイア様のご加護があらんことを」などと言っている。
イレイア、それは勇者パーティの治癒師と同じ名前だった。
「ウォレス様? どうかされたのですか?」
「いや、なんでもない。すごく賑やかだと思ってな」
ここにいる冒険者達は見事に全員が魔術師だ。
剣や槍、斧といった武器を携帯している者などいない。
包丁はおろか武器まで使われていないとなると、オレとしては困る。
かつてのように双剣で戦いたいところだが贅沢は言ってられないということか。
問題はここからだ。
オレには魔力がないとのことで、もしかしたら冒険者登録ができないかもしれないらしい。
この世界では武器を持って戦う人間などいない。
今や魔術師社会なので冒険者も魔法を使って戦うのが当たり前だ。
ここに来る前にオレが撃退した男も魔術師だったな。
確認のためにルアンが受付と話している。
そして話がついたのか、オレが受付に呼ばれた。
「えっと、ウォレスさんですか。魔力が一切ないとのことですが、本当ですか?」
「あぁ、本当だ。両親がそう言ってたからな」
「もし本当であれば登録はお断りさせていただきます。念のため、魔力確認を行いますか?」
「やらずに諦めるのもどうかと思うので頼む」
魔力測定を行う部屋に場所を移すと、そこにはベッドと拘束具のようなものがあった。
どうやらこれに寝て、拘束具のようなものをつけて魔力を測定するらしい。
ギルド職員に促されるままに拘束具を装着すると、近くのテーブルに置かれている大きな針のようなものが光る。
しかしそれが一瞬光っただけでその後の反応はない。
終わるとギルド職員が拘束具を外してくれた。
「……すごいですね。こんなことは初めてです」
「どういうことだ?」
「魔力に応じてあちらの魔道具が高い場所まで光るのですが、あなたの場合は一切光りません。魔力がないというのは本当みたいですね」
「最初の光は?」
「あれは起動時の光です」
なぜオレは一瞬でも期待した?
オレに魔力などあるはずがないとわかっていたのに。
「ということはオレに冒険者登録はできないのか?」
「はい、申し訳ないのですが……。当ギルドとしても戦う力がない方を登録させるわけにはいかないのです」
戦う力がない、か。
それが魔法が使えない落ちこぼれに対する当たり前の評価だ。
オレとしてもたかが山で五年ほど過ごしたくらいで偉そうな顔をするつもりはない。
諦めて受付があった場所に戻ると、魔術師達がこちらを見て何か囁き合っている。
もしやルアンが選んだ服のセンスを見て驚いているのか?
だとしたらオレも嬉しい。
「さっき魔力が一切ないとか言われてた奴だって?」
「あぁ、オレがしっかり聞いた。マジでありえないよな」
「それでどうやって生きていくんだよ?」
「知らねーよ。ルアンの奴、大した実績がないからって下の奴を見つけて悦に浸ってんじゃねえのか?」
下の奴とはオレのことか。
仮にそうだとしてもオレが恨む筋合いなどない。
彼女がそんなことをする人間とは思えないがな。
ちらりとルアンを見ると、胸元で両手を握って何やら心苦しそうだ。
オレのせいで不快な気分にさせているのなら申し訳ないな。
「ルアン、気にしないでほしい。これからオレがそこにある討伐依頼書に書かれている魔物を討伐してくる」
「え? でも、冒険者登録は……」
「関係ない。報酬が貰えないだけの話だろう?」
「それでいいんですか?」
「問題ない。オレがほしいのは討伐したという事実だけだ」
ルアンが困惑している様子だ。
オレの言葉が少し足りなかったかもしれないな。
「オレは魔法が使えないからこそ、人よりも努力する必要がある。魔術師には劣るかもしれないが、オレの力を少しでも認めてもらいたいのだ」
「……わかりました。では私が討伐依頼を引き受けて同行します」
「なんだって? 本気か?」
「本気です。私はあなたの力が見たいのです」
ルアンが冗談を言っているようには見えない。
魔法が使えないオレを心配してくれているのはわかるが、そこまで世話になっていいものか。
「ただし私は四級なので、四級の魔物の討伐依頼しか引き受けられません」
「構わない」
ルアンが依頼が張り出されているボードのところへ案内してくれた。
四級の魔物討伐依頼は三つ、どれにしようか迷うところだな。
「ルアン、四級の中でもっとも手強い魔物はどれだ?」
「アーマーアリゲイターですね。堅い鱗に守られていて、生半可な魔法は通じません」
「ならばそれにしよう」
オレとの認識のずれがあったか。
せっかく聞いたのだからルアンの回答を信じよう。
そうと決まったのでルアンがアーマーアリゲイターの討伐依頼を引き受けるためにカウンターへ向かった。
「おいおい、アーマーアリゲイターだってよ」
「あんなクッソ堅いだけで面倒なもんを討伐するって?」
「ましてや魔法が使えない野郎のお守りとかルアンの奴、前世でどんな業を背負ったんだかな」
オレのことは構わないが、ルアンの悪口だけはどうにも耐えがたいな。
だがここで怒っても何の意味もない。
やることはただ一つ、実績を示すだけだ。
オレを信じてくれたルアンに報いるために必ず討伐しよう。
武器がなくても関係ない。
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