スタンピード?
ゼシルと大道芸人はルアンの判断により、重要参考人ということで城に引き渡すことになった。
第四魔術師団が行方不明となった今、下手をすればゼシルが何らかの罪に問われる可能性があるという。
そうなればオレが全力で擁護しよう。
大道芸人のほうは犯人達の一味ということで拘束されるようだ。
こちらは仕方ないな。もしまた大道芸人としてやり直したいのであれば、オレが協力しよう。
そして城門前で衛兵が駆け寄ってきた。
「そ、そこにいるのはゼシル殿!」
「第四魔術師団はどうなったのですか!」
「待ってください。彼も混乱しているので後で説明します」
騒ぐ衛兵達をルアンが制した。
「ゼシルさん。気を取り直して報告しましょう」
「……あぁ」
道中、取り乱していたゼシルだが王都に着く頃には落ち着きを取り戻したように思う。
確かに色々なことが起こりすぎた。オレも考えをまとめる時間がほしい。
「ゼシル、ここでお別れだ」
ゼシルと別れる際にオレは最後の挨拶をしようと思った。
しかし返事はない。
オレと目も合わせず、まだ心ここにあらずといった感じだ。
「今はまだ混乱しているだろうが、お前ならきっと立ち直れると信じている」
「……うるさい」
「一時の気の迷いなど気にするな」
「うるさいッ! お前は何なんだよ! 訳が分からない!」
ゼシルがオレの胸倉を掴んできた。
歯茎を剥き出しにして、今にも殴りかかってきそうなほどだ。
ゼシルにそうされてはオレも太刀打ちする術がない。
かといってウソをついてお世辞を言うつもりもない。
「僕はお前と違ってシルフェント家の跡取りだ! 父上や母上だってそう信じている! だけど今回の件で二人は僕を見放すだろう! もうお終いなんだよ!」
「それは違うぞ、ゼシル」
「何が違うっていうんだッ! お前に何がわかる! 魔力もない欠陥品のくせに!」
「魔力がない欠陥品だからこそわかる。まずはこう考えろ。お前に更に強くなる機会がきたということになる、と」
ゼシルにはオレの言ってることが伝わっていない様子だった。
仕方ない。口下手ではあるが誠意をもって噛み砕いて説明しよう。
「オレはお前より圧倒的に厳しく育てられた。あの日々は確かにきつかったが、今ではいい糧となっているからな。ではゼシル、今度はお前に修行の日々がくるのだ」
「それはつまり僕がいじめられるってことじゃないか! お前、本当に何を言ってるのかわからないぞ!」
「いじめなどではないッ!」
オレは大声で一喝した。
ルアンやゼシル、城の前にいる衛兵が耳を塞いでいる。
「獅子は子を育てるために谷底へ突き落すという。それは生き抜く力を身につけさせるためだ。ならば這い上がるしかないだろう」
「なんで、なんで僕がそんなことをッ!」
「よく考えろ。オレのような落ちこぼれが耐えられたのだぞ。お前ほどの魔術師なら乗り越えられるだろう。あの日々のオレを思い出せ。そして今、オレはここに立っている」
「……何なんだよ、お前は。散々いじめてやったのにつらっとした顔で現れて……挙句の果てに異次元の強さ……この、この僕が、なんでこんな思いを……うっ……ううっ……」
ゼシルが涙を流してしまった。
オレの言葉が響いたかわからないが現実を受け入れるしかない。
「あの、ウォレスさん。そろそろ……」
「そうだな、すまない」
ここであまり長話をするわけにもいかない。
ルアンがゼシルを連れて行って去る間際、オレはもう一言だけ伝えることにした。
「ゼシル! お前は強い! 自分を信じろ!」
オレがゼシルの背中に向けてそう叫んだが、やはり返事はなかった。
* * *
ルアンと相談した結果、ゴーレム討伐の件は虚偽の情報を混ぜて報告した。
マナエストの件は伏せておいたほうがいいとのことだ。
後で陛下を通じて説明しておくとのことで助かる。
指定通りの報酬を受け取り、オレは再び王都内を奔走した。
ゴーレム討伐から一ヵ月が経ち、オレもそれなりに充実した日々を送っている。
この日は民家の庭の整備ということで双剣で雑草を刈り取り、木の葉を切って形を整えていた。
その最中、中年の女性二人の立ち話が聞こえてくる。
「なんだかねぇ。最近やたらと物騒じゃない? この前の爆破事件といい、何が起こるのかしら?」
「心配しすぎよ。あれも魔術師団が解決したでしょ」
「でもねぇ、衛兵や魔術師団が慌ただしくない? この前も買い物をしていたら、大勢がドタドタと城に向かって走っていったわ」
「そりゃあんな事件があったんだからしばらく警戒するわよ」
住民の不安が感じ取れるな。
確かに事件後の警戒態勢というのもあるが、それにしても動きがやたらと活発的な気がした。
最初こそ走り込みの訓練を行っていると思っていたが。
「やぁねぇ。なんだか戦争でも起こるみたい」
「今の王様に限ってそれはないわよ。前の王様ならまだしも……」
二人の会話が遥か遠くで鳴った轟音によって途切れた。
オレもすぐにそちらを向く。
「今の、な、なにかしら?」
「おい! そこの女性二人! すぐに家の中に避難しろ!」
「なに!? 何が起こったの!」
「スタンピードだ! すぐに鎮圧するから安心してほしい!」
その言葉を聞いて女性二人がパニックに陥る。
スタンピードだと? この王都に魔物の群れが迫っているのか?
ならばオレもこうしてはいられない。
「こちらの庭、改めて整備をする!」
「あ、あぁ。ところでどこへ……」
依頼主の老人の言葉を待たず、オレは王都の中央通りに向かった。
そこでは予想通り、大騒ぎする住民達が衛兵によって押さえられている。
「おい! スタンピードってどういうことだ!」
「どんな魔物だ!」
「王都は大丈夫なの!?」
老若男女すべてが衛兵達に詰め寄っている。
スタンピードはオレの前世でも起こったし、このような状態になるのはしょうがない。
平穏に生きている者にとっては非日常だからな。
しかし気持ちはわかるがあれでは彼らも守れるものを守れなくなる。
オレは住民達に近寄り、なだめることにした。
「落ち着け。スタンピードなど魔術師団が……」
「どんな魔物かって聞いてんだよ!」
「だから少し落ち着け……」
「隣町に残してきた家族は無事なんだろうな!」
住民はまるでオレの言葉など聞いていない。
興奮状態に陥っていて、これでは何も響かないだろう。
しかしどうする?
このままでは衛兵達の職務を遂行できないどころか、人の波によって怪我人が出るかもしれない。
戦いが終われば負傷者で溢れて治療院の手も足りなくなるだろう。
どうする? こんな時、勇者ならどうした?
いや、勇者であればその言葉一つで人々は安らぐ。
何せ勇者なのだからな。しかしオレは違う。
オレはオレのやり方で理解させるしかない。
オレは双剣を掲げてから、全力で王都の石畳に突き刺した。
轟音と共に石畳が割れて凄まじい勢いで亀裂が走る。
「落ち着けと言っているッ!」
オレが叫ぶと静かになって衛兵や住民が注目した。
「……驚いたか? こんな大きな音を立てたが、オレには魔力がない。しかしそこにいる魔術師達はこれ以上の力を持っている。だから何も怯えることはない」
オレの言葉が響いたのかわからないが、皆が一様に黙ったままだ。
オレは双剣を抜くと再び天へと掲げる。
「つまり今以上の驚きなどないということだ。そうだろう、魔術師達よ」
「そ、そうだな」
魔術師達も納得してくれたようだ。
住民達の中には口を開けたまま現実を受け入れられないといった様子の者達がいる。
今はいい。後はオレ達が平和をもたらすしかないのだ。
「いや、あれって強化魔法じゃねえの?」
「よくわからんが納得しておこう……なんか怖いし」
住民達が口々に囁く中、オレは王都の外へと向かった。
今頃はルアン達も対応に当たっているはずだ。
微力ながら参戦しないわけにはいかないだろう。
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