兄と弟
「ルアン! あれに乗っているのはオレの兄だ! オレがなんとかする!」
ルアンにそれだけ告げてからオレは魔動機と向かい合った。
なぜゼシルがあれに乗っているのかはわからない。
あの様子からして優秀な兄にしてはいささか冷静ではないように思えた。
「ウォレスアァァーーーーー!」
「ゼシル! 落ち着け!」
魔動機の砲塔から火球が放たれて工場内を破壊していく。
凄まじい攻撃という他はない。
魔法と違って初動が読みにくく、放たれるまでの時間が圧倒的に短い。
その攻撃はまさに連射だ。
ただでさえ威力が高い火球を連射されてはオレも手の打ちようがあるかどうか。
火球を寸前のところで回避しつつ、オレは様子を見た。
「ウケケケケ! さすがシルフォント家のバカ息子だ! 魔力だけは無駄に高いからすんげぇーーーー!」
「大道芸人! ゼシルはなぜお前達に協力する!」
「知るかい! イドの奴がなんか力がほしいなら従えとか言ってたけど興味ないねーー! つまりあれがあいつの望んだことじゃん? ウッケケェのケー!」
「力だと……ゼシル! その素質がありながら力に溺れたというのか!」
オレの前世でも力が足りずに暗黒面に落ちた人間はいた。
中には救えなかった者がいて、傍から見ているオレでも悔しい思いをしたものだ。
そう、勇者達の力をもってしてもすべての人間は救えない。
オレごときには一人の人間を救うことすら難しいだろう。
しかしあそこにいるのはたった一人の兄だ。
魔法が使えないオレを厳しく指導してくれた兄、ゼシルだ。
「ここで救えずして何が恩かァーーーーーッ!」
オレは足腰に力を入れてから魔動機に飛びかかった。
迫る火球を斬り、双剣で魔動機の付け根を切断すると片腕が落ちる。
「ひょえっ! なんだよ、あいつ! 強化魔法すごすぎでしょ! ウッケケケェ!」
「オレに魔法は使えない!」
「は?」
更に肩に乗ってから砲塔を一刀両断。
その際に暴発してしまい、オレは勢いで投げ出されてしまった。
「ぐぅっ! ゼ、ゼシル!」
「ウォ、ウォレス……ナンデ、生キテ……」
「今は何も言うな! オレが必ずお前を救って見せる!」
「生キテイタナラ、ココデ殺スッ!」
なるほど、あの魔動機の影響でオレへの憎しみを持ってしまったか。
人の人格すら歪めてしまう恐ろしい魔動機、あんなものに兄を乗せておくわけにはいかない。
このオレの手で弟思いの兄を取り戻してやる。
「ウォレス流奥義! 木分双壊ッ!」
魔動機内にいるゼシルを救うためにはあの装甲を剥がさなければいけない。
双剣を×の字にして斬撃を浴びせると、装甲を斬り裂くことができた。
その奥にかすかに見えたのは兄だ。
その目はおそろしくつり上がって血走っている。
体中が線に繋がれていて、まるで捕らわれ人のようだ。
あれこそが兄を歪めてしまった元凶か!
「この悪しき魔道機めぇーーーー!」
「うわわわ! ま、魔動機が、く、崩れちゃう! お前! 何してるんだぁ!」
大道芸人が慌てているがオレは更に双剣で装甲を破壊した。
悪いがこいつは破壊させてもらう。
厳しくとも優しい兄に戻ってもらうためだ。
中に入って線を引きちぎり、兄を抱えて外まで出た。
その直後、魔動機がプスプスと音を立てて動かなくなる。
「ゼシル! 無事か!」
「クソッ! ウォレス……お前、なんで……!」
「何も言うな! 優しい兄に戻ってくれたなら、オレは何もいらない!」
「……は?」
ゼシルが呆然としている。
どうやらまだ捕らわれていた時の影響があるようだな。
「ウォレスさん! その方はシルフェント家の……兄ということは……」
「ゼシルはオレの兄だ。オレはシルフェント家の人間だったが、家を出る際に厳しい父上から二度と戻るなと言われてな。独立した後はシルフェント家の名を名乗ることを許されていない」
「え? それって厳しいというより追放じゃ……」
「本当に厳しい家だが、ゼシルや父上はオレを鍛えてくれた。今のオレがあるのも二人のおかげだ」
こうして目をつぶると家にいた頃の日々の思い出がよみがえる。
あの修行の日々は決して忘れないだろう。
衰弱したゼシルを見下ろすと、険しい表情を浮かべていた。
「ウォレス、お、お前は魔法が、つ、使えないんじゃなかったのか!」
「当然だ。しかし魔法が使えないなりにこうして不格好ながらも戦えるようになった。といってもまだまだ魔術師には及ばないがな」
「ま、魔法が、使えないのに戦えるわけ、ないだろ! ば、ば、化け物だ! 近寄るなぁ!」
「オレはお前の弟だ、ゼシル。よく見ろ」
座り込んで後ずさりまでして、かなりよろしくない状態だな。
オレが化け物に見えるほど精神が錯乱しているようだ。
「落ち着け、ゼシル」
「寄るな! 父上に報告しないと! シルフェント家に化け物が生まれたんだ!」
ゼシルが涙ぐんで立ち上がろうとした。
しかしふらついて倒れそうになったところをオレが支える。
「クソッ! 汚らわしい! 放せ!」
「ゼシル、オレはお前に敵わない」
「な、なんだと?」
「言わなくてもわかる。暗黒面に落ちるかもしれないと知りながらも、力というものに惹かれてしまったのだろう。しかし裏を返せば、それは飽くなき向上心の表れ……魔力と才能に加えて、凄まじい向上心だ」
ゼシルは言葉を失った。
力に惹かれる人間は己の限界を認めず、がむしゃらに上を目指すものだ。
それは決して悪いことではない。
ゼシルにはどうやらオレの思いが伝わったようだな。
が、オレが言いたいことはこれだけではない。
「ウォレス、お前は何を言って……」
「しかし反王国組織は間違っている。そんな連中の力を借りるのは感心しないぞ。そうまでしなくても、他に方法はあるだろう」
「違う! 僕には力がなかった! だから第四魔術師団も全滅させてしまった! 力がほしかったんだ! だから捕まった後もあいつらの提案に従った! 優秀な魔術師が乗るほど力を発揮する魔動機に乗ればいいってな!」
「第四魔術師団が全滅したのはお前のせいじゃない。単に奴らがより強かった、それだけの話だ」
オレも信じられないことだが、ゼシルによれば奴らは魔術師団以上の力を持つらしい。
しかしそれでゼシルが弱いことにはならない。
オレとしてはあのゼシルすら上回る敵がいる事実に震えが止まらないのだ。
そんな強大な敵が現れたなら、魔が差してしまうのもしょうがない。
「そ、それが何の慰めになる! お前もなんだかんだ言って僕を見下しているんだろう! いい気味だよな! お前をいじめた僕が今はこうして惨めな姿をさらしているんだ!」
「それは違うぞ、ゼシル。お前はオレを徹底して鍛えたに過ぎん」
「鍛えただって……?」
「魔法が使えないオレに耐魔法戦を叩きこもうとしたのだろう。今もそうやって厳しいことを言ってるが、オレは優しさだと思っている」
「は? 何を、何を言ってる!」
認めたくない気持ちはわかる。
それに今は衰弱して混乱しているだけだろう。
オレはゼシルをルアンに預けて、大道芸人のところへ向かった。
「ゼシル。出来の悪い弟だが、お前の向上心につけ込んだ連中はオレの手で何とかする。いや、させてくれ」
あの大道芸人、オレが勝てる相手ではないかもしれん。
あのルアンの魔法を無効化してしまうほどの魔術師だからな。
「ウケケケケッ! お前、面白いな! 強化魔法じゃなかったら何だって言うんだ?」
「オレの武器は技と肉体、精神のみだ。それらをこの双剣に託しているに過ぎない」
「おーーーもろぉっ! だけどその双剣だってどーせ魔法で……あれ? なんで変化しないんだ? んん? 魔法で作ってるんじゃないのか!?」
「大道芸人、生活がつらいのはわかる。これ以上、お前を悪の道に走らせはしない」
「ちょ! お前ほんとーに魔法が一切……」
これ以上の問答をするつもりはない。
オレは双剣を構えて、大道芸人を睨む。
「な、なぁ! 魔法が使えないのにそんなのあり!?」
「無様な戦い方で申し訳ない。納得はしてないだろうが、これがオレの姿だ」
「いや、意味わかんないし強化魔法じゃないのにこんなのあり得ない! やだやだやだわかんないつまんないこんなのクソクソクソクソ! やめてぇーーーー!」
双剣で敵を左右から挟み込むようにして切断するこの奥義、その名を――
「窮双猫噛ッ!」
「け、っかい、がっ……一撃、で……あふっ!」
窮双猫噛によって結界が砕かれて大道芸人が泡を吹いて倒れてしまった。
まだまだこれからの戦いだったが、どうも疲れていたようだな。
無理もない。これほどの工場で働いていたのだ。
失禁までしてるということはよほど長い間、用すら足せなかったか。
今はゆっくりと休んでほしい。
ふとゼシルを見ると、ルアンに保護されていたようで何よりだ。
「ううぅっ……何が、何がどうなっている……うあああぁーーーーーーっ!」
「ゼシルさん、落ち着いてください!」
ゼシルはルアンに任せよう。
このまま工場をどうするか、オレが決めることじゃない。
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