準二級
「よっ! ウォレス! 今日からお前は準二級だ!」
冒険者ギルドのオヤジさんが軽快に告げる。
オレは耳を疑った。
「お、オヤジさん。それは本当か?」
「ウソついてどうするよ。なんだかわからんけど上がお前をかなり評価してるみたいでな。こんなスピード出世は久しく見てないよ」
おそらくマナレスの構成員やコムソンという魔術師を捕まえたからだろう。
しかしそれだけで準二級に上がるものだろうか?
冒険者ギルドの内部事情はわからないが、オレとしては今一実感が湧かない。
「オレも朝、出勤した時に支部長から言われてさ。寝耳に水ってやつで、おかげで目が覚めたけどな! ハッハッハッ!」
「準二級は二級とは違うのか?」
「準二級は二級候補、受験資格を得られたってところだ。昇級試験に合格すれば晴れて二級だな」
「昇級試験か……」
試験とはつまり試される場だ。
オレが二級に相応しい人間かどうか、第三者がきちんと見て判断する。
ダメだ、まるで自信がない。
そもそも魔法が使えないオレが二級など、おこがましいにも程があるだろう。
受験資格が得られたとは言っても、ただそれだけだ。
これに浮かれず今は日々の精進を積み重ねるべきだろう。
「そう緊張するな。昇級試験の日時はまだ決まっていないみたいだからな」
「試験は控えさせてもらう。今のオレには分不相応だ」
「ありゃ? まぁわかるが、別に落ちたからといってペナルティなんてないぞ? 一発で受かる奴なんてほとんどいないし、中には何年も落ち続けている奴もいる」
「そうかもしれんが……」
少しでも魔術師に近づかなければいけない以上、避けて通れないのはわかっている。
今更ではあるがこの世界の冒険者が魔術師ばかりであるなら、そこにオレが座る資格があるのだろうか?
こんなオレが恐れ多いというか、魔術師と肩を並べるというのはどうしても気後れしてしまう。
冒険者ギルドがオレを評価してくれているのもわかっている。
何せ四級に昇級した時とは違って、今回は数日ほどかかった。
きっと等級が上がるにつれて真剣に吟味されているのだろう。
「他の連中は知らんけど、お前の頑張りは認められているぞ。お前、ここ最近は王都内で仕事をしていただろう? お前に対するお礼の手紙がたくさん来ているんだ」
「オレにお礼の手紙が?」
オレのように定住していない人間に手紙を出す場合、冒険者ギルドに預けるようだ。
オヤジさんは手紙を何枚も持ってきてくれた。
手紙を読むと確かにオレへのお礼の言葉が綴られていた。
ありがとう。また来てほしい。困ったらうちで働かないか?
そんな言葉が目白押しで、オレは目頭が熱くなった。
「他の連中は魔物討伐や冒険にしか興味がないからな。それらも大切な仕事だが、俺としてはお前さんも負けないくらい人様に喜ばれているよ」
「……こんなオレでも役立てたのか」
涙が溢れそうになるのを堪えた。
これで満足してはいけないとはわかっていても、この気持ちは抑えがたい。
勇者パーティのお供をしていた時にもこんな気持ちにはならなかった。
皆、一様に勇者達にお礼を言っていたからな。
オレは常に一歩も二歩も引いて彼らの活躍や称えられる場面を見守っていた。
勇者達が人助けに奔走していたのがよくわかる。
「ウォレスさん、お待たせしました……ウォレスさん?」
「あ、あぁ。ルアンか。待ち合わせの約束をしていたな」
今日はルアンと仕事をする約束をしていたのだったな。
ルアンは城での仕事が忙しくて、オレとはしばらく別行動をしていた。
「目が赤いですけど、何かあったんですか?」
「目に砂が入っただけだ」
「室内で?」
こんな情けない姿をルアンに見られてしまったか。
オレは目をこすってから、ルアンに準二級に昇級したことを伝えた。
「わぁ! おめでとうございますっ! ウォレスさんの実力と実績なら当然ですよ!」
「実力はともかく実績というと?」
「それは……ほら、例の貴族の件で……ヒソヒソ……」
「やはりブラケット大臣の件も評価されているというのか!?」
「シーーーーーッ!」
オレは大声を出した後で後悔した。
あの戦いのことが評価されているとしてもオレは大したことをしていない。
ブラケット大臣を拘束したのはルアンだ。
ルアンならば一人でもあのクレシードに勝てたのではないか?
何せオレよりも早くブラケット大臣と決着をつけていたのだからな。
むしろあの戦いはオレが待たせてしまったようなものだ。
ルアン、等級で換算すればどのくらいの実力なのだろうか?
一級以上の強さはあるとすれば特級か?
オレがルアンを見つめていると、なぜか顔を逸らされてしまう。
「な、なんですか……」
「す、すまない」
失礼なことをしてしまった。
顔を赤くするほど、オレに見つめられるのが屈辱だったようだ。
少しは成長したと思って調子に乗るのはよくないな。
気を取り直して今日の仕事を選ぼう。
「オレは準二級でルアンはまだ四級だが、引き受けられる依頼に制限はないのか?」
「問題ありません。ここでしっかり実績を残せば私も昇級できる可能性があります」
「それは素晴らしいな!」
「ただ最近では等級が高い冒険者に低い冒険者がついていって何もしない……なんてことがあるようです。傍から見ればこれでも実績作りになっちゃいますからね。ですから最近ではこういった場合、レポートの提出を求められます」
これはルアンの父親である現国王が冒険者ギルドへ促した制度らしい。
巷ではこのやり方を養殖と呼んでいるようだ。
この組み合わせはいわば新人教育や研修といった見方がされるようで、冒険者ギルドも厳しく目を光らせている。
そうなればオレがルアンを教育するという立場になるが、それはそれで問題だ。
「難しいな。オレがレポートなど書けるかどうか……」
「私が教えますので、仕事のほうを選びましょう。どれどれ……ゴーレム討伐なんて珍しいものがありますよ」
「ゴーレムがそんなに珍しい魔物とは思えないのだが?」
「場所が森なんですよ。ゴーレムが精製される条件はある程度の鉱石が豊富な場所で、尚且つ魔素が充満していること……。それか誰かが作ったか。この森に鉱石なんてありませんし、そうなると……」
なるほど、ルアンの言わんとしていることがなんとなくわかった。
特殊な状況であれば何かしらの問題が起こっている可能性があるということ。
もしゴーレムが人里に現れたら大変なことになる。
よし、久しぶりに魔物討伐と行こう。
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