ウォレスの働き
「元宮廷魔術師だと!?」
宿の部屋にて、オレを襲撃した魔術師の正体をルアンから聞かされて声を上げてしまった。
壊れたドアの修理代はルアンが払ってくれたが、いずれオレの手で返さなければならない。
相手が襲撃犯ということで宿の主人にも理解してもらえたが、ルアンがいなかったらどうなっていたことか。
魔術師の名前はコムソン、前王の時代に仕えていた宮廷魔術師だという。
前王派は現国王、つまりルアンの父親が王位についた時に軒並み処分が下されている。
前王が行った数々の不正に関わっていたとされていて、コムソンもその一人のはずだった。
しかし彼だけは前王の失脚前に宮廷魔術師を退いている。
そして失脚後、すべての前王派は姿を消したと思われていた。
しかし前王派のブラケット大臣だけが難を逃れていることから、真に狡猾な前王派は他にもどこかにいるのだろう。
コムソンもその一人で、王都内で身を隠しながらマナレスに接触して指示を出していた。
与えた魔道具の流通経路を割り出したところ、密かに前王派だった人間が更に浮彫になったようだ。
「彼の実力は二級魔術師相当ですが、まさか蹴り飛ばすなんて……」
「運よく当たり所がよかったのだろう。彼がもっと本腰を入れて襲いかかってきていればどうなっていたか……」
「はいはい……」
また不正解の発言をしてしまったか。
ドアごと蹴り飛ばすなどという原始的な手段を用いては弟子として認められるはずがない。
確かにもっと他に手段があったかもしれないな。
それは置いておくとして、ずっと気になっていたことがあった。
「君のお父さん……陛下は魔力至上主義を否定しているのだろう? マナレスとはわかりあえないのか?」
「平民から見る王族というのは遠い存在なのでしょう。どのような言葉で説いたところで不信感は簡単に消えるものではありません」
「そういうものか。難しいな」
「ウォレスさんだってお父様の前では緊張していたでしょう。そういうものなんですよ」
言われてみれば、ルアンが接点となってくれなかったら国王とは一生関わる機会などなかった。
実際に会ってもオレはあの様だったし、ましてやマナレスから見た王族など雲の上の神に等しいだろう。
「それに王都はマシになりましたが、ウォレスさんと出会った町では未だに勘違いした魔術師達が幅を利かせてました。まだこの国に夜明けはこないんです」
「平民……特にマナレスの者達の気持ちがわかる。オレも魔術師という存在は畏怖の対象でしかない」
「あ、はい……」
オレはまた不正解の発言をしたか?
そもそもこういった場面では黙ったほうがよかったのかもしれない。
「ウォレスさん。今後マナレスのほうは国が何とかします。コムソン他、数名の実行犯がいれば彼らを摘発する理由になります」
「ではオレのほうはどうすればいい?」
「ひとまず報酬のほうをお渡しします。それと今回の働きはお父様を通じて冒険者ギルドに報告しておくので、昇級の可能性があるかもしれません」
「そうか……」
これ以上、オレの出る幕はないということか。
それならそれで仕方ない。
「ウォレスさん、お仕事もいいですがたまにはゆっくり休んでくださいね。それとまだ今度、一緒にお仕事しましょう」
「そうだな、楽しみにしている」
ルアンが部屋から去っていく。
また明日から冒険者ギルドに登録されている依頼を引き受けよう。
確か下水道清掃の依頼が残っていたな。側溝清掃を先に引き受けるか悩ましいところだ。
* * *
「この僕が討伐隊の一員に?」
僕、ゼシルは謁見の間に招待されて震えが止まらない。
王族からの依頼は珍しいことじゃないが、今回の仕事は父上が僕に任せると言ってくれた。
こういった大きい仕事は父上が行うと思っていただけに、感動で胸がいっぱいだ。
仕事内容ははぐれ魔術師が潜んでいる魔道具製造工場の壊滅だ。
先日、マナレスが王都内でテロを起こしたと聞いている。
そのマナレスに与えられた魔道具を製造している工場の存在が最近になって明らかになったみたいだ。
そこで討伐隊を編成して、シルフェント家として僕も加わることになった。
またはぐれ魔術師かと思うところだけど、今回は規模が違う。
もしそこが王国の反乱軍の根城であったなら、その壊滅の功績は計り知れないものとなるだろう。
マナレスといえば声ばかり張り上げて、魔力が伴っていない出来損ないの集団だ。
陛下もこれまで歯牙にもかけていなかったが、今回の事件で完全に摘発したようだ。
おとなしく無能同士で寄り添って傷のなめ合いでもしていればよかったものを。
(持つべきものは魔力なんだよなぁ。そうだろ、ウォレス?)
すでにどこかでくたばっているウォレスのことはたまに思い出す。
思えばかわいそうな奴だった。
あいつだって好んで魔力ゼロの能無しに生まれたわけじゃないからな。
だけど運命を味方につけるのも実力のうちだ。
今回の依頼は言ってしまえば僕の運命力によって引き寄せられたものだろう。
先日のはぐれ魔術師討伐は実に呆気なくて物足りなかった。
あんなザコ相手じゃ確かに父上が腰を上げるはずがない。
それなのに今回の大仕事は僕に任せるという。まさに僕の運命力が成せる結果だ。
「シルフェント家の当主ハルバーは息子の君に託したのだろう。ならば私もそうしよう」
「ハッ! 至らない点はあるかと思いますが、僕の魔法はすでに第四階級に至っております! シルフェント家の名に恥じない働きをお見せしましょう!」
「若さは気になるが、こちらにいるソマリも似たようなもの。そなたの将来性にかけてみよう」
そのソマリは陛下の隣でいけ好かない顔をしている。
僕と同じ年齢ですでに陛下の側近を務めているのが納得いかなかった。
僕は昔からこいつが嫌いだ。
すべてを見下して、まるで自分が一番とでも言いたそうな顔が憎たらしい。
しかしこいつは親衛隊長、陛下の側近ということでここから離れられない。
つまり必然的に何の活躍もできないということだ。
当然だろう。そう頻繁に陛下の身に危機が迫るなどあり得ないのだからな。
途端に優越感に満ちた僕はソマリを見てニヤリと笑った。
「陛下、そちらのソマリ隊長は加わらないのですか?」
「彼女は引き続き私の身辺を守ってもらう。最近は特にな……」
「なるほど、それは僕では務まらない大役です」
皮肉たっぷりに言うとソマリの眉が少し動いた。
これは意外な反応だ。
以前、舞踏会で会った時にさりげなく皮肉を込めてみたが何一つ表情を変化させなかった。
それが今回はどうしたものか?
何か余裕をなくす出来事でもあったのかな?
いい気味だ、そう思った時だ。
ソマリが一歩前へ出た。
「陛下、お言葉ですがこのゼシルに討伐隊が務まるとは思えません。ましてや敵は極一部の方にとっては馴染みのない魔道具を使います」
「おい、そこのごく一部ってのは誰のことだ? さすがに口を慎めよ」
「少なくとも第四階級程度で満足されている方のことではないわ」
「あ? 決戦級なんて甘やかされているみたいけど、僕の固有魔法は……」
その時、陛下の片手から凄まじい破裂音が放たれた。
魔力を込めて破裂させたのか?
陛下が閉じていた目をゆっくりと開ける。
「仲がよいことだ。それならば今後、親睦を深める場を設けようではないか。ただし日程としては討伐日と重なってしまうがな」
「そ、それはさすがに……!」
「ソマリ。強者然とするならば最後まで貫け」
「は、ハッ! 申し訳ありません!」
僕の心臓の音が激しく聞こえる。
いがみ合う僕達など、陛下の魔力の前では小さいことだとそう言われている気がした。
さすがは現国王、前王に次ぐ魔力の持ち主と聞いている。
「力による抑圧は気分が悪いだろう? 私はこのようなことをなくしていきたいのだ。体感することで、ほんの少しでもわかってもらえるとよいのだがな。ハッハッハッ!」
僕とソマリは何も言えなかった。
前王と違って人格者で知られている現国王だけど、甘いわけじゃない。
悔しいけどやっぱりシルフェント家とは格が違うのか?
クソッ、僕も王族にさえ生まれていれば。力があれば。
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