マナレス撲滅運動
「ウォレスさん、この国は未曽有の危機を迎えようとしています。どうか力を貸してください」
宿の部屋にてルアンがオレに頭を下げてきた。
先日の爆破事件を起こしたのはマナレスという集団の一人であり、他にも犯行が予想される。
彼らは基本的に平民の集まりだが、何者かが取引で禁止されている魔道具を提供した可能性があるのだという。
そうなれば非力な身でもあの規模の爆破事件を起こせてしまう。
それが違法魔道具の力だ。
ルアン達にとって厄介なのは魔力が低い相手なだけに、魔力感知がうまくいかない。
そこで爆破事件の犯人を見つけたオレに頼みたいというのだ。
オレとしては断る理由などない。
師匠の身でありながら弟子のオレに頭を下げる器の大きさ、さすがといったところか。
「もちろんこれは依頼です。冒険者としての昇級もありますし、報酬を用意するつもりです」
「言われずとも動く予定だ。これも修行の一環なのだろう?」
「修行?」
「弱いオレに少しでも強くなってもらいたい。だからルアンはオレに恐ろしい魔術師の相手をさせずに、まずは魔力がない連中を捕まえさせることにした。どうだ?」
「え、えぇと、違いますけど……」
オレは頭に雷が落ちるほどの衝撃を受けた。
絶対にこれがルアンの真意だと思っていただけに、オレはショックのあまり椅子からずり落ちそうになる。
「ウォレスさん!?」
「い、いや、すまない。まだまだオレの見解は浅いようだ。精進する……」
「そもそもウォレスさんは私の弟子とかじゃありませんから!」
「な、なん、だと……」
今度は体の芯から冷える感覚を覚えた。
オレは今までルアンの弟子だと思っていたが、それ以前の問題だった。
お前ごとき弟子ですらない。
ルアンはあえてオレに厳しい現実を突きつけた。
そうなるとオレはどこまで勘違いしていたのか?
そうか、オレはまず弟子になるところを目指さなくてはいけないのだ。
「あの? ウォレスさん? 私はあなたの師匠になれるような人間ではありません。あなたは十分強いんですよ?」
「ルアン……わかった。この現実は甘んじて受け入れよう」
「また何か勘違いしてますよね?」
「いや、わかっている。何も言わないでくれ、もうオレは絶対に間違わない」
ルアンは魔術師だ。
それだけにオレに対する評価は当然シビアなものとなる。
魔術師を除けばお前は強い。
これがルアンの言わんとしてることだろう。
しかしオレはあえて口にはしない。
こうなればオレにできることはやはり精進あるのみだ。
「と、とにかくお願いしますね。生け捕りが難しかったら殺しても構いません」
「わかった。努力する」
オレごときに生け捕りなんぞできるわけがない。
そう言いたいのはわかる。
さすがのオレもそこまで言われては熱くなるというものだ。
生け捕り、やって見せようではないか。
* * *
「そこまでだ」
王都の中央通りを歩く中年の男の腕を取った。
男は一見して普通に歩いているように見えるが、視線をせわしなく動かしている。
自分がマークされていないか、あるいは犯行を行う場所があるか探していたのだろう。
男のポケットに手を突っ込むと例の丸い魔道具が出てきた。
これはルアンによればブラストボムという魔道具らしい。
金属製のピンを外して投げれば数秒後に爆発する。
「なんだ、このッ! うぐあぁぁぁーーー! いでぇ! 腕、腕がぁ!」
「抵抗しなければ折らない」
「わかった! 大人しくする!」
「ではこのまま衛兵の詰め所まで連れていく」
男を衛兵に引き渡す。
事前の情報通り、男はマナレスの一員だったようだ。
後のことは彼らに任せるとして、オレは再び王都を歩く。
怪しい動きというものは魔力がないオレでも案外見つけやすいものだ。
挙動、歩き方、視線、呼吸、初動。
これらの情報を統合すれば必然的に直後の動きがわかるというもの。
飲食店に入っていく男を見つけると、首根っこを掴む。
驚いた男に構わず、オレは男の懐から魔道銃と呼ばれるものを取り出した。
これは片手で遠距離の各属性の弾を放てるもので、手軽に人の命を奪えてしまう。
おそらくこの魔道銃を使って立てこもりか殺人を目論んでいたのだろう。
いっそマナレスの構成員を拘束すればいいのでは、と思ったのだがそうもいかないようだ。
もし彼らが用意周到に証拠を隠滅していた場合、不利になるのは王家だ。
国民から反感を買う恐れがある以上、秘密裏かつ迅速に対応するしかない。
この調子でオレがその日、捕まえたマナレスの人間の数は六人だ。
一度宿の部屋に戻り、オレは改めてマナレスについて考えた。
この六人、全員が王都内で何らかの事件を起こそうとしていたのか。
マナレスは元々過激なことはやらない集団だと聞いている。
それがなぜこんなことになっているのか?
彼らを操っている人間がいるとしたらオレはそいつを許せない。
魔力がなくてつらい気持ちはオレだってわかっている。
その気持ちにつけ込むようなやり方だけは我慢ならない。
確かにオレを含めて魔力に恵まれない人間は大勢いるだろう。
そんな彼らでも現実を受け入れて日々を過ごしている。
あの村の人達がいい例だろう。
彼らは魔力に恵まれてるとは言い難いが、毎日畑を耕して互いに協力し合って幸せを見つけているのだ。
「ドアの前にいるのだろう。開けて入ってきて構わんぞ」
ドア一枚隔てた向こうに何者かが立っている気配があった。
ルアンならばノックをして入ってきているだろう。
オレの言葉にも反応せず、ドアの向こうにいる人物は動かない。
このまま開けずに何かを仕掛けるつもりか?
そうなると面倒なことになりそうだな。
「はぁぁッ!」
オレはドアに向けて蹴りを放った。
ドアが破壊されて、そのまま奥にいた人物の腹部に蹴りが直撃する。
「がはッ……!」
その人物は壁に叩きつけられてから痙攣した。
血をゴフッと吐いて動けそうにもない。
見たところ魔術師のようだが当然知らない顔だ。
マナレスに魔術師がいるとは思えない。こいつが背後にいる人間か?
「これは困ったな。ひとまず衛兵の詰め所に連れていくか」
「ご、ごふっ……う、う……」
「彼の容態も心配だが、このドアもどうしようか」
勢い余って蹴り破ってしまった以上、弁償は覚悟しなければいけない。
大きな音を立てたせいで宿の人間が集まってきたな。
「今の音は……うわっ! なんだこれ!」
「ドアが……」
「お、お前がやったのか!?」
やはり騒ぎになってしまった。
こうなるのであれば最初から丁寧に迎え入れるべきだったか?
しかし相手は魔術師だ。そんなことをして戦闘になればオレは負けていた。
命は金で買えないのだから、ここはドアの修理代を払うべきだろう。
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