王都会議
「四賢士で揃っているのは二人か」
私、ソマリは緊急の王国会議に出席していた。
出席している人物は私と四賢士のバウラ様、リエール様と各大臣を務める重鎮達。
円卓のテーブルにてバウラ様以外は誰一人としてカップに手をつけずにいた。
普段の予算の割り当てや災害地域への対応などが議題じゃない。
そんな和やかな雰囲気なら大臣達の表情が一様に強張っていないはずだ。
議題の内容が明るくないことは誰の目から見ても明らかだった。
「堅苦しい前置きはやめよう。知っての通り、拘束されたブラケット大臣が繋がっていた組織が判明した。非魔術同盟マナレス、反魔力主義を掲げて反対運動を行っている組織だ」
その言葉に大臣達が一層どよめく。
非魔術同盟マナレス。前から王都のあらゆる場所で魔力による文明社会を批判してきた集団だ。
だけど集団で道を歩いて主義や主張を叫ぶだけで、特に危険はなかった。
そんな集団を陛下は大袈裟にも組織と呼んでいる。
そう、それはもはやただの集団ではなくなったからだ。
今やどこからか仕入れた魔道具で国内でテロを起こす。
先日の爆破事件はマナレスの構成員によって引き起こされたものだ。
魔道具ブラストボム。ピンを弾いた後、放り投げれば誰でも第一階級程度の威力の爆破を起こせる。
国内において制限されているはずの魔道具だけど、犯人がいくつか所持していたことが判明した。
「へ、陛下。マナレスのことは以前から把握しております。しかしそこまで過激な連中とは思えません」
「大臣。爆破事件の男が白状したのだ。魔道具の入手ルートなどは追って調べるが、ブラケット大臣が関わっていたのは確かだ」
陛下にそう言われると質問した大臣が黙った。
ブラケット大臣のことは良く知らない。
魔術師として特に魅力を感じなかったからだ。
彼を大臣に任命したのは前王だった。
前王は魔力至上主義を掲げていながらあんな男を起用するなんて、どういうつもりなのかと思った覚えがある。
まぁそんなことは今更どうでもいいか。
「ブラケット大臣は以前からマナレスに資金の提供などを行っていたようだ。理由はまだ口を割らないので不明だが、いずれは国家反逆罪で厳しい沙汰が待っているだろう」
「お父……陛下。犯人の男が独断で行ったのではない以上、早急な対応が必要では?」
「うむ、現在は警備を強化しておるが油断はできない状況だ。例のウォレスが犯人を捕まえなければどうなっていたことか」
「マナレスに違法魔道具が行き渡っているとしたら……。いえ、そもそもなぜ今頃になってこんなことが?」
リエール様の疑問を皮切りに、会議の場で様々な意見が飛び交った。
マナレスを拘束して処罰すべきという意見に対して、過激なことをやれば国民の感情が高まると反論される。
この二つが対立してお互いが口汚くなった時、バウラ様がカップを受け皿にカツンと置いた。
たったそれだけの仕草なのに、この場の誰の発言よりも注目を集めている。
四賢士の一人、バウラ様は齢九十を超える老齢の女性魔術師だ。
物腰が穏やかで普段はあまり目立たない。
陛下の相談役を引き受けるほどの人望があるけど、前王の時は影が薄かった。
何せ前王はこのバウラ様を嫌っていたのだからしょうがない。
「まぁまぁ、落ち着くのじゃ。興奮するほど真理から遠ざかる。このババアがこの歳まで生きてこられた秘訣でもあるぞえ。ふぇふぇふぇ」
「バウラ、何かいい知恵があれば貸していただきたい」
「知恵か、そうじゃな……。今のところ、年寄りの与太話くらいしか話せんなぁ」
「あなたの与太話には何度も助けられた。頼む」
陛下はバウラ様に全福の信頼を置いている。
王位についた陛下は慣れない政を行うために、何度もバウラ様に助けられた。
私も魔術師として唯一尊敬するのがバウラ様だ。
なぜなら近くにいて敵わないと肌で感じる魔術師なんて、後にも先にもこの人だけだから。
「んーー……これこそ興奮せずに聞いてほしいのじゃが難しそうかのう。結論から言えばマナレスはほんの一端に過ぎんじゃろう」
「となるとやはりブラケット大臣が黒幕であると?」
「ブラケットのボウヤも含めてじゃ。あのボウヤは典型的な魔力至上主義じゃったからのう。そこを突けばある程度の頭が回る者ならば簡単に利用できる」
「というと、ブラケットの背後に何者かが?」
五十は過ぎた男性をボウヤ呼ばわりすることに誰一人として疑問を持っていない。
バウラ様にはそれができるだけの実力と貫禄があるからだ。
このお方からすれば、この場にいる全員がボウヤで私はもちろん小娘でしかない。
「それが誰かなど、おぬしが一番よく知っておると思うがの」
「私が……?」
「ワシのかすていらを分けてやろう。糖分を摂取すれば、その頭がよく回るかもしれんの。ふぇふぇふぇ」
「い、いつの間にこんなものを……うむ、うまい」
バウラ様は同然のように、お菓子込みのティーセットを持ち込んでいた。
私も甘いものには目がないので少しばかり食指が動いてしまう。
「私がよく知る人物……いや、しかしあの男は地下牢に幽閉されているから違うだろう……」
「ま、与太話だと思っておくれ。それよりもソマリや、かすていらを食べるかい? 甘いものが好きだったろう?」
「え……」
さすがに受け取るのは気が引ける。
だけどバウラ様のあまりに穏やかな笑顔に負けた。
それにこれは王都内にある高級菓子店のゴールドかすていらだ。
お、おいしすぎる。
「ま、いずれにせよ証拠がなければ大きくは動けんじゃろう。当面は王都内の警戒に当たるしかない」
「それしかないか。しかし歯がゆいものだ」
「ところで犯人を捕まえたのは例の魔力がないボウヤと聞く。何かがあってもそのボウヤがいれば安心じゃて」
「彼は確かに強いが、あくまで冒険者だ。過度な期待をするのはよくないだろう」
「そうかのう。犯人を事前に察知して取り押さえるなど、ワシにもなかなかできんて」
あのウォレスのことだ。
ようやく心の枷が消えかけたと思ったのに、ここにきて思い出すはめになるとは。
この私が生まれて初めて恐怖したなんて未だに認めたくない。
ウォレスが向かってきた時の絶望感は他の何に例えればいいのかわからない。
魔法が一切通じず、何をやっても止まらない。
それはもう災厄に等しいのでは?
あの時の光景を思い出すたびに体が震える。
攻撃も防御もすべて無に帰す、そんな怪物がいるなんて。
いや、あれは怪物なんて生易しいものじゃない。
「へ、陛下! ご、ご、ご報告します!」
「騒々しい。会議中であるぞ」
突然、魔術師が血相を変えてやってきた。
尋常ではない事態と察した陛下は、魔術師の無礼を無視する。
「ぜ、前王のクリバトフ様の姿が、牢のどこにも……み、み、見当たりません!」
その報告で私は一瞬、頭の中が真っ白になった。
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