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王都でのお仕事

 ソマリはオレに指導した後、ずっと部屋から出てこないようだ。

 よほど無理が祟ったようだな。オレも悪いことをした。

 彼女ほどの魔術師であれば、オレなどに構っている暇などないはずだ。

 それなのに無理を通したのだから、機会があれば改めて礼を言うべきだろう。


 陛下からクロとブラックをいただいてから数日、オレは冒険者ギルドで仕事に勤しんでいた。

 冒険者ギルドには何も魔物討伐の依頼だけが寄せられるわけではない。

 建設作業、側溝清掃、庭の草むしり、害虫駆除、飲食店の調理補助やホールの仕事など。

 人手を必要としているところはいくらでもある。


 今日は建設現場での仕事を手伝っていた。

 仕事終わり、夕暮れ時に雇い主が手を握ってくれる。


「ウォレス! 今日は助かった! おかげで工期が縮んだよ!」

「それは何よりだ」

「魔法が使えないと聞いた時は門前払いしようかと思ったが、猫の手も借りたいからな! そしたらお前、一人で木材を三つも四つも抱えやがってよ!」

「魔法が使えない分、体を使うしかないからな。こんなオレでも役に立てて嬉しい」


 雇い主達は皆、強化魔法をかけて作業をしていた。

 彼らは朝一番から魔力が許す限り仕事を続ける。

 魔力が尽きればそこで終わりという運びだったようだ。


 オレは魔法など使えないから体で示すしかない。

 魔力が尽きれば後はオレが一人でやればいいだけの話だ。

 気がつけば翌日の仕事まで終わらせていたようで、また手伝ってほしいと懇願される。


 そうは言っても今夜は飲食店での仕事がある。

 翌日は側溝清掃や下水清掃と仕事を入れるつもりだから、余裕があるかわからない。

 ルアン曰く、この仕事は昇級にはほとんど影響がないようだ。


 冒険者ギルドの評価基準は魔物討伐や未踏破地帯の探索力で計っている。

 冒険者なのだからそれは当然だ。

 しかしオレは勇者を見習って、困っている人々を助けることにした。


 王都は広い。連日のように依頼をこなしてもまるで減らないのだ。

 魔法が使えないオレ一人がいたところで大した力にはなれないが、いないよりはマシだろう。

 オレはめげずにひたすら仕事に打ち込んでいた。


「も、もう皿を洗い終わったのか!? 速すぎるだろ!」

「やることがないのならホールに回ろう。あちらもだいぶ忙しいはずだ」


 飲食店では皿洗いとホールスタッフを兼任した。

 他の従業員は身体強化や風魔法での持ち運びを駆使して仕事をしているが、オレには当然そんなことはできない。

 オレ一人では同時に五皿運ぶのが限界だ。両手にそれぞれ二つ、頭に一つ。

 バランス感覚さえ養っていれば容易い。


「なんだあれ……。重力魔法の類か?」

「いやいや、そんな上位魔法を使える奴がこんなところで働くわけないだろう」

「案外簡単にできるのかもな……今度やってみようかな?」

「やめておけって……」


 オレの姿がよほど滑稽なのか、客が注目した。

 オレはどういわれようと構わない。

 この日も雇い主から感謝されて、気持ちのいい一日だった。


                * * *


「ウォレスさん、お疲れ様です」

「ルアン、お前は別の仕事をしていたのか」


 仕事終わりの夜、ルアンと合流した。

 ルアンはオレと共に行動をしているが、いつも一緒にいるわけではない。

 彼女自身、冒険者でもあるのでたまには仕事をしているそうだ。

 この王都といえど、王女の顔は誰も認知していないらしい。


 元々庶民の前に出る機会などほとんどない上に、大切な場面では陛下や王子達が出ていた影響だと話している。

 王女とは名ばかりで王位継承権は第一王子にあるとのことで、その分広く動けると喜んでいた。


「ウォレスさんは明日もお仕事でいっぱいですか?」

「あぁ、体がいくらあっても足りないほどにな」

「そうですか。そろそろ魔物討伐のほうも一緒にやりたいと思っていたのですが……」

「では明後日あたりに予定を入れよう」


 そう言うとルアンの表情が明るくなった。

 魔物討伐などルアンがいれば十分だろうが、きっとオレの修行を見越しての発言だろう。

 確かに今の仕事では剣の腕など上がらないからな。

 オレがそこに気づいたことでよほど嬉しかったに違いない。


「じゃ、じゃあ必要なものは私が用意しますね!」

「いや、それはさすがに」


 そう言いかけた時、背後から爆発音が聞こえた。

 どうやら通りの奥にある建物らしい。

 オレは反射的に走り出す。


「な、なんだこれは!」


 現場に到着すると建物の正面が見事に破壊されて、巻き込まれた人達が倒れていた。

 すでに何人か野次馬が駆けつけているが、誰一人として動けずにいる。

 この建物は民家のようだが、他に犠牲者はいるのか?


「待て! 勝手に入るな!」

「衛兵か。犠牲者がいるかもしれない」

「それはこちらに任せろ! 君は下がっていなさい!」

「それと犯人がすぐに近くにいる可能性がある」

「他に原因があるかもしれない! いいから下がってろ!」


 いよいよ衛兵を含めて人が集まってきた。

 破壊された建物はごく普通の民家だ。

 何かの事故でここまでの爆発が起こるものだろうか?


「私は応援を呼ぶので、あなた達は倒れている方々の救助をお願いします」

「なんだお前は! 引っ込んで……え、お、王……もがっ!?」


 ルアンが衛兵の口を塞いだ。

 衛兵が何かを察したように頷く。


 こういうことが前世でも起こったことを思い出す。

 この手の事件だと犯人が近くにいる場合が多い。


 あの時は王国に反旗を翻した賊の仕業だった。

 今回が同じとも限らないが可能性はある。

 オレは野次馬達をよく観察した。


 もし犯人がいるのであれば、自分の犯行を見ているはずだ。

 賊ならば王国の財産が自分の手でどのように破壊できたか、じっくりと観察したがる傾向にある。

 野次馬を一人ずつ確認するとその中に呆然としている人物がいた。


 一見して他の者達と変わらないように見えるが、口元がかすかに歪んだのを見逃さない。

 そして急ぐようにその場から早足で逃げ出そうとした。


「待てッ!」

「うぇ!?」


 オレは駆けてその男の腕を掴んだ。

 するとポケットから楕円形の形をした何かが落ちる。

 見たこともないような物体にオレは戸惑ったが、男が一瞬だけ苦々しい表情になった。


「な、何をするんだよ。危ないなぁ」

「それを拾うな」

「はぁ?」

「それが爆発物だろう? お前の拾おうとする仕草があまりに急いでいたからな。よほど見られたくないのではないか?」

「な、なんだよ、なに言ってんだ。意味わかんね……」


 再び拾おうとした男にオレは体落としをかけた。

 背中を打ち付けた男は痛みで呻く。


「ぐああぁっ! いてぇぇ……え、衛兵、こいつ、お、おかしい!」

「どうした!」


 ルアンが連れてきた衛兵がやってきた。

 衛兵が仰向けに寝ている男とオレを見比べてから、落ちている丸い物体を拾い上げる。

 まじまじと見つめた後、男を見下ろした。


「おい、これはお前が持っていたのか?」

「い、いや、そっちのガキだ。俺じゃない。見ろよ、俺が何もしてないのにいきなりこいつが攻撃してきたんだ」

「そうなのか?」


 衛兵がオレをジッと見つめる。

 しかしすぐにふいっと目を逸らすと男を起こした。


「詰め所で話を聞こう。来い」

「はぁ? あいつは!?」

「いいから来るんだ! 抵抗したらどうなるか、わかっているな!」

「なんでだよ! クソォォーーーーー!」


 男が衛兵に連行されていく。

 よくわからないが助かったようだな。

 オレが安堵しているとルアンが親指を立てている。


「ウォレスさんのことは私やお父……陛下から伝えてあります」

「そういうことだったのか。しかしそれではあの男が少し気の毒だな」

「大丈夫ですよ。彼らは尋問のプロです。ウォレスさんに非がないことくらい、これからわかります。それにこれはウォレスさんが勝ち取った信頼なので気に病むことはありません」

「ひとまず好意を受け取っておこう」


 オレがここであれこれ言ったところで覆るわけでもないだろう。

 あの男が何者で、何の目的でこんなことをしたのか。

 あの丸い物体は何なのか。

 すべては翌日になってルアンが教えてくれた。

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