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バルディンとフォルムング

 翌日、オレは陛下に呼び出された。

 謁見の間に通されて、オレは肝を冷やしている。

 どう考えても昨日の一件のことだろう。


 何か余計なことをしていないか、思考を巡らせるが心当たりしかない。

 出しゃばってルアンに同行したこと。

 ソマリが言うように、クレシードとの決着方法があまりにお粗末だったこと。

 それらの件を加味すれば、とても穏やかな反応を期待できない。

 オレを見ていてくださいなどと言ったが、その結果が優れないとなれば?

 

「うおおぉぉーーーーーーっ!」

「なんだ! 何事だ!」

「ハッ! も、申し訳ありません! 至らぬ自分をお許しください!」

「……よくわからぬが、至らぬどころかそなたは十分すぎる働きを見せてくれた」


 陛下の口からとんでもない言葉が出た。

 絶望のあまり叫んでしまったが、オレの杞憂だというのか?

 しかしあのソマリの視線があまりに冷たいな。

 彼女は厳しい人間だから、オレのような落ちこぼれを許さないのだろう。


「オレが十分すぎる働きを……?」

「ブラケット大臣捜査の件、そなたが持ち掛けたとリエールから聞いている。おかげで先手を打ってブラケット大臣の悪事を暴くことができた」

「確かにオレの案です。しかし本来であれば褒められた行為ではないことは承知しております」

「もし我々だけで判断をしていたのであれば早々に証拠を隠滅された可能性がある。何せブラケット大臣のことは信用しておったからな……」


 陛下の落胆ぶりを見ていると、その言葉が本当だとわかる。

 信じていた者に裏切られるというのは誰もがつらいものだ。

 前世で勇者達と旅をしている時、そういった裏切りの場面を見たことがある。


 裏切られた者の心はなかなか修復しない。

 そう考えるとブラケット大臣を殴りたい衝動に駆られる。


「ここにはいない二人の王子にそなたのことを魔道具による伝書で伝えたところ、大変評価しているようだな。機会があれば紹介しよう」

「王子様ですか! お二人は今どこにおられるのですか?」

「一人は先日、侵攻してきた蛮族を滅ぼしたと連絡があった。さすがは四賢士の一人に数えられているだけはある。もう一人は被災地の救援に向かっておるな」

「それは素晴らしい……!」


 王子でありながら自ら国のために働くとは、人としても完成されている。

 それはまるで勇者のようだ。

 まだ見ぬ王子様、早く会ってみたくてうずいてしょうがない。


「それはともかく、そなたをここに呼んだのはバルディンとフォルムングを進呈するためだ。今回の活躍、認めぬわけにはいかぬだろう」

「それは……いや、しかし……」

「言っておくが絶対に受け取ってもらう。これは命令だ。こうでもせんと、またそなたはつっぱねるだろうからな」

「……では陛下にオレの働きを認めていただけたということですね」


 オレは歓喜に打ち震えるのを堪えた。

 陛下がオレを見てくれて働きを認めてくれたなど、身に余る幸福だ。

 これで喜んでいられないのはわかる。わかるが、どうにも抑えが利かなかった。


「これ、震えておるぞ。持ってこさせたので受け取るがよい」

「は、ハッ! あぁ……! クロとブラック!」


 オレの目の前には台座に置かれたクロとブラックがあった。

 オレはかつてこの双剣に命を預けていたのだ。

 三百年ぶりの再会だが、オレはもうアルドではない。


 今はウォレスとしてクロとブラックを迎える。

 おそるおそる柄に触れると、前世で戦った記憶が思い起こされる。

 クロが邪神竜の首を斬り落として、ブラックが神魔獣の足を斬り飛ばした。


 オレが強く握ってもこの双剣は微塵も亀裂など入らない。

 世界でもっともオレが信頼する剣、それがクロとブラックだ。

 オレはしっかりと双剣を握って立つ。


「クロとブラック、このウォレスと共に戦ってくれ!」

「……以前から思っていたのだが、それはもしかしてバルディンとフォルムングの名前なのか?」

「はい。武器はオレと共に戦ってくれる相棒です。こんなオレを支えてくれるのだから、名前くらいつけないと失礼に値します」

「そ、そうか。それは素晴らしい」


 双剣を鞘に納めるた時の重量感がなつかしい。

 それはまるで前世のオレが憑依したかのような感覚だ。

 全身に力が漲り、今すぐにでも戦いたい衝動に駆られる。


 その時、ソマリがオレを鋭く見つめていた。

 剣ごときではしゃいでいるオレに怒りを感じているのか?


「……陛下、お願いがあります」

「ソマリ、申してみよ」

「そちらの剣を持ったウォレスと試合をさせていただきたいのです」

「試合とな……。驚いたぞ、そなたがそれほど他人に興味を示すとはな」


 驚いたのはオレもだ。

 おそらくソマリは剣を持ったくらいで浮かれているオレのような軟弱者を許せないのだろう。

 試合とは言うがこれは教育であり叱咤だ。

 ならば甘んじて受けるしかない。


「ソマリ、本当にいいのですか? しかしウォレスさんの意思も尊重しなければいけません」

「はい、リエール様。もちろんウォレスさんに了承していただければ、の話です」


 そう言いながらソマリはオレを見下すかのように見つめた。


「陛下、オレからもぜひお願いします」

「そなたが言うのであれば……。ただし危険と判断した場合は即中断する。よいな?」

「はい、承知しております」


 オレの心臓の音がよく聴こえる。

 おそろしいほどに緊張している上に恐れを感じているのだろう。

 しかしこれはオレ自身の成長のためだ。

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