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事件後

「こりゃ下手したら治らんかもなぁ」


 ブラケット大臣とクレシードが、待機していた魔術師団によって治療されている。

 このままでは命が危ないということで、治療班の魔術師が二人に回復魔法をかけ続けているがなかなか目を覚まさない。

 二人ほどの魔術師のことだ。

 少なくともオレの拳程度で最悪の事態には至らんだろう。

 

「思いっきり顔面に入ってますねぇ」

「リエール様。クレシードがうっすらと目を開けました」


 魔術師団の手前、オレはさすがに敬語を使った。

 ルアンが何か言うと思ったが、そうでもないようだな。


「よかったです。この人ほどの魔術師を失うのは損失でした。それにしてもウォレスさん、このレベルの魔術師をここまで追い込めるなんてこの国でも限られてきますよ」

「オレが勝てたのもほんの偶然です。様々な要素が重なっただけにすぎません」

「……はぁ」


 この分析もルアンは不満だというのか?

 オレはつくづくダメな人間だな。

 ルアンとしてはオレが自力で答えを見つけ出すのを待っているのだろう。

 あまり失望させてしまうわけにはいかないので、今夜あたりじっくりと考えよう。


「い、痛い! 痛い!」

「コラッ! 暴れるな! パラライズ!」

「ぐあっ!」


 クレシードが目を覚ました途端に暴れ始めた。

 魔術師達が数人がかりで魔法をかけると、クレシードの体が痙攣してから動かなくなった。

 パラライズは覚えがあるな。

 確か体の動きを司る神経系統に干渉して麻痺させる魔法だったか。

 あのクレシードをいとも容易く大人しくさせるとは、恐ろしい連中だ。


「そ、そこの! そこの小僧は危険です! 早く討伐してください!」

「ウォレスという少年のことか?」

「得体のしれない魔法を使うんですよ! 僕の光明術すらまるで効いていないのですから! 国の危機です! あれは一級なんてものじゃない! 魔物で言えば災厄級ですよ!」

「まぁ落ち着け。そんなことよりお前達には話してもらわねばならんことが山ほどある」


 クレシードがああ言っているが、効いていないなんてことはない。

 今も回復魔法をかけてもらったのに全身の痛みが引かないのだからな。

 さっきまで脂汗を流しながらも、立っているのがやっとなほどだった。


 偶然にも当たり所に恵まれたようで助かった。

 前世と変わらずオレは悪運によって生かされているようだ。


「あれは剣術……ハッ! そうです! 剣術という固有魔法(オリジナル)です! 魔法が使えないわけがない! そうでなければ僕がこうなってるわけないんだ! おい! 聞いてるのか!」

「完全に取り乱しているな。連れていこう」


 尚も叫ぶクレシードが魔術師団によって拘束されたまま連行されていく。

 オレの剣術が固有魔法(オリジナル)だなんてとんでもない。

 しかし一級魔術師ほどの人物にそう言ってもらえたということは、少しは成長しているということか?

 いや、慢心はよくないな。

 誰がなんと言おうとオレは魔法が使えない落ちこぼれなのだから。


「ブラケット大臣、気がつきましたか?」

「リ、リエール、王女……い、命だけは……。私が敵う相手ではなかった……頼みます、命だけは……」

「あなたの綿妖術はあらゆる魔法をクッションのように吸収します。しかし私の固有魔法(オリジナル)とは相性が悪かったようですね」

「冷気がジワジワと……あぁ! あぁぁぁッ! やめてくだされ! これからは心を入れ替えて国に尽くします! 命だけはぁぁーーー!」


 ブラケット大臣、よほどルアンが恐ろしかったと見える。

 彼の立場を考えるとオレもやはり寒気がした。

 あの堅牢な毛皮すら包み込む冷気など、オレなら耐えられる気がしない。


 きっと恐ろしく精巧に練り上げられた魔法なのだろう。

 ルアンのような人間を見ると、どうしてもないものねだりをしてしまいそうになる。

 オレにも魔法が使えたら、と考えるがこれが現実だ。

 オレは落ちこぼれでルアンは魔力に恵まれて、そしておそらく努力も惜しまない。

 一生かかっても追いつける気がしないが、それでも走り続けるしかないのだ。


 ふと横目に映ったのはあのソマリだ。

 陛下の側近のような立場だが、こんなところに来ていたのか。


「ウォレスさん、あのクレシードに勝ったようね」

「偶然だ。勝たせてもらったと言ったほうが正しいな」

「クレシードは四賢士や特級魔術師を除けば国内で五指に入る実力の持ち主よ。少なくともあなたの実力は魔術師でいえば一級……だけど、まだまだ詰めが甘いわ」

「というと?」


 まさかソマリからも指摘をもらうことになるのか?

 オレは覚悟を決めて指摘を受け入れることにした。


「私なら魔術師団の回復魔法ですら治療困難なほど痛めつけられた。それもかなり手加減した上でね」

「それは……確かにすごいな。オレでは不可能だ」

「情報を喋らせたいだけなら、口と頭だけ動けば十分よ。クレシードに勝つことだけに精一杯だったあなたには不可能でしょ?」

「当然だ。ソマリ、やはりお前は恐ろしく優秀な魔術師だ。そうだな……君も新たな目標に加えることにした」

「……は?」


 優秀な魔術師はルアンだけではない。

 ソマリのような決戦級魔術師のことを考えれば、何も師匠を一人だけに絞る必要はないのだ。


「ソマリ、これからはお前を師匠として精進する」

「い、意味がわからないのだけど……」


 ソマリが困惑している様子だが、そこへルアンが割り込んできた。

 何やら興奮している様子だ。


「ソマリッ! 余計なお喋りをしてないで魔術師団の捜査を手伝って!」

「申し訳ありません!」


 ルアンがソマリを一喝した。

 あのソマリが直立して頭を下げた後、屋敷内へと向かった。

 さすがはリエール王女といったところか。


「まったく……あの子がお父様のそばを離れるなんて……。そんなにウォレスさんのことが気になるの? それに余計なことを言ったせいでまたウォレスさんが勘違いしちゃってるじゃない……ブツブツ」


 ルアンが何やら呟いている。

 そういえばルアンとソマリ、どちらが強いのだろうか?

 ふとそんなことを考えてしまった。

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