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ⅤS 一級魔術師クレシード

 一級魔術師クレシード。

 年齢は二十歳前後といったところか。

 この若さにして貴族の専属魔術師にまで上り詰めたのだから、強くなることの難しさは理解しているはずだ。

 それなのになぜあのような態度をとるのだろうか?

 

 つい熱くなって勝負を挑んでしまったが、この双剣は限界が近い。

 オレの握りに耐え切れずに亀裂が入っている。

 クロとブラックほどの信頼性を望むのは酷だが、もう少しだけもってほしかった。


「で、えーと……あなた、なんでしたっけ ウォーリー?」

「ウォレスだ」

「おっと、そうでしたね。ウォーレー君、これは大変失礼しました」

「違う。ウォレスだ」


 どうもクレシードは人の名前を覚えるのが苦手なようだな。

 一級魔術師ほどの人物にも苦手なものがあるということか。

 それよりもこのクレシード、オネットやガンジルが恐れるだけのことはありそうだ。


 貴族の専属など、オレには逆立ちしてもなれないからな。

 勇者エイシスに拾ってもらわなければ、オレは生涯に渡って村仕事をしていただろう。

 相手は一級魔術師、片や荷物持ち。格の違いは理解しているつもりだ。


「それでウォーリャー君はまさかそれで戦うつもりですか?」

「そのつもりだ」

「はぁ……そもそもなぜ魔力がない人間が王女と共に現れたのですか」

「オレから頭を下げてお願いしたのだ。オレが尊敬する人物ならば必ずこうした。だから見習いたいとな」


 かつて勇者エイシス達は悪事を働いていた貴族の屋敷に忍び込んだことがある。

 もちろん褒められた行為ではない。

 しかし人々を苦しめる悪徳貴族を成敗すれば多くの命が助かる。


 そういった状況であれば勇者達は迷わずその手を汚すことを決断したのだ。

 しかしその貴族の正体が魔物だったおかげで心置きなく成敗できたのは幸いだった。

 今回はそういうわけでもなさそうだ。


「リエール王女、ご乱心も大概にしてください! オネットやガンジルなど知りませんぞ!」

「ブラケット大臣、彼ら以外にも多数の証言を得られました。あなたと繋がっていた方々は大方、拘束されています。詳しい捜査はこれから行いますけどね」

「ぐぅぅーー……! もはやこれまでか! だがッ!」


 ブラケット大臣が身にまとったのは羊のような毛皮だ。

 もこもことした毛に包まれたブラケット大臣が苦しい表情を見せつつも、ルアンと戦う気概を見せた。


「こうなれば後のために、せめて王女だけでも死去していただかなければなりませんな! この固有魔法(オリジナル)、綿妖術を舐めないでいただきたい!」

「いいでしょう。私も久しぶりに固有魔法(オリジナル)をもって戦います」


 ルアンの固有魔法(オリジナル)だと?

 これはぜひ目に焼き付けたいところだが、オレの相手はブラケット大臣ではない。


「フフフ……ブラケット大臣がアレを出しましたか。ところで君の固有魔法(オリジナル)はどのようなものですか?」

「オレは魔法を使えない」

「おっと! そうでしたね! いやぁ、失礼! では特別に見せてあげましょう!」


 クレシードの発言の直後、オレの左腕に何かがかすった。

 反射的に回避したが、かすっただけで焼けつく痛みを感じる。


「さすがに速いな……!」

「おぉ、まさかかわすとは。偶然にしては素晴らしい」

「光だな」

「……なに?」


 オレの経験則から考えて、これほどまでに速い魔法など光以外に考えられない。

 そうなれば魔法が放たれた方向から考えて、攻撃の発生源もなんとなく予想がつく。

 いや、オレの予想が当たっている保証などないがな。


「攻撃の発生源はオレの背後の上にあるシャンデリアだ」

「驚きました。当てずっぽうとはいえ、褒めてあげましょう。しかし理解したところでどうにもならないのが僕の固有魔法(オリジナル)、光明術です」

「ほう……それは怖いな」

「光の発生源があればどこからでもあなたに光線を浴びせることができるのです。光の速度故に不可視、不可避。これはあの四賢士……ソマリにすら勝てると確信してます。フフ、フハハハッ!」


 確かにそう豪語するだけはある。

 オレがいくら鍛えようと、光の速度で攻撃を繰り出すなど不可能だ。

 これが魔法、これが一級魔術師。

 

 格の違いなど最初からわかっていたことだ。

 それでもオレは彼ら魔術師に追いつかなければいけない。

 何よりこれはオレが望んだ戦いだ。

 オレは双剣を×の字にして構えた。

 

「何の真似ですか?」

「オレには魔法が使えないからな。だからせめて技を使わせてもらう」

「技? もしかして剣技というやつですか! ぜひ見せてください! そんなもの劇場でしか見たことがないものでして!」

「では……いくぞッ!」


 オレはクレシードに一気に詰め寄った。


「なっ! い、いつの間に!」


 双剣を×の字のまま同時に振ることで、複雑な防御すらも解除させることができるこの剣技――


「アルド流……じゃない! ウォレス流剣技! 双利大刃ッ!」


 双剣が激しい音を立ててクレシードの結界に直撃した。

 やはりこれがあるか。これこそが上位である魔術師の強さの一つだ。

 あらゆる攻撃に対して身を守る結界を張ることで、被害を最小限に抑える。


 優秀な魔術師であるほど当然強力なものとなる。

 オレの仲間の魔術師など、ドラゴンのブレスを防ぎ切ったこともあるほどだ。


「け、結界が……ッ! まさか、た、耐えられッ……」

「おおぉぉぉぉッ! まだまだぁッ!」

「ま、待ち……あががっ!」

「オオオォーーーーッ!」


 オレは続け様に斬りつける。

 オレの剣が激しい音を立てて結界を斬りつけるが、クレシードもバカではない。

 シャンデリア、テーブルに置いてあるティーカップ、金属製の食器など。

 あらゆる箇所から光の光線が放たれた。


「ぬぐぅぅッ!」

「フハハハハハッ! 直撃です! これは死にましたねぇ!」


 激痛で倒れそうになるがオレは踏ん張った。


「まだだッ!」

「えっ?」


 全身に光線を受けてしまうが、倒れるわけにはいかない。

 どうやらクレシードの魔法は光を放つものだけでなく、光を反射するものさえも対象とするようだ。


「恐ろしい魔法だな……だがッ! ハァァァァァッ!」


 オレは激痛に負けずに双剣を止めなかった。

 連続で絶え間なく結界を斬りつける。

 

「まだまだだぁーーー! 双利大刃ッ!」

「ぼ、僕の固有魔法(オリジナル)、光明術を受けて立って……け、結界がッ! や、や、破れッ!」


 ここでオレの双剣も砕け散る。

 この無防備となった瞬間、どうすべきか?


 オレは一瞬だけ思考が停止しかける。

 しかしこの程度のピンチなど勇者達は何度も乗り越えていた。

 思考を巡らせた結果、オレは足腰に力を入れる。


「隙が出来ましたねぇ! 光明術はあなたから狙いを外してませんよ!」


 再び部屋中のあらゆる箇所から光線が放たれるか。

 オレは咄嗟に跳んだ。


 タイミングが合っていたようだな。

 その直後、光線はオレが元々いた場所に集中砲火を浴びせる。

 更にオレは左右それぞれに回避、光線がオレを素通りした。


「な、なぜ、なぜ当たらないのですッ!」


 この光明術、攻撃自体は恐ろしい速度だが発生源がわかりやすい上に直線的な動きしかできない。

 つまりかすかな発動直前の初動さえ掴んでしまえば、オレでも回避することが可能だと気づいた。


「集中砲火ですよ! 今度こそ死になさい!」


 全力の攻撃がくるか。

 オレは拳を握り、足に力を入れてからクレシードに突進した。


「フンッ!」

「がッ……ふあぁッ!」


 拳を思いっきり振りぬくとクレシードの顔面に直撃した。

 鼻や顎の骨が砕けた感触を感じながら、クレシードが窓にぶち当たってガラスを破る。

 そのままこの二階の窓から転落していった。


「む、しまった。さすがにまずいかもしれん」

「あ、あわわ……あのクレシードをあそこまで一方的に……」

「ルアン、終わったのか?」

「い、一応……」


 ルアンが指したところを見ると、頭以外のすべてが氷漬けになったブラケット大臣がいた。

 周辺が雪原のようになっていて、口をパクパクと動かしている。


「た、すけ、て……だれ、か……ねむ、い……」


 よほど恐ろしかったのか、涙さえも凍り付いている。

 それを見たオレは文字通り寒気がした。

 一級魔術師相当の相手を造作もなく生け捕りにするなど、オレにはできない。


「さすがルアンだ。オレよりも早く決着をつけていたか」

「あんなボロボロの剣で一級冒険者相手に勝つほうがすごいですって……」

「いや、どうもクレシードは油断していたようだ。オレのつけ入る隙があったということはそういうことだろう」

「はぁ……まったくこの人はぁ……」


 ルアンが頭を抱えてため息を吐いた。

 呆れられたようだが今回は自己分析の結果が間違っていたからだろうな。

 油断でなければ何だろうか?

 よくわからんが、やはりルアンにはオレなど足元にも及ばないということだろう。

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