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ブラケット大臣

「ブラケット大臣、オネットとガンジルを連れてきました」


 衛兵が私の屋敷にオネットとガンジルを連れてきた。

 二人はよほど恥ずべき状況だと理解しているのか、フードで顔を隠して黙ったままだ。

 こいつらは以前、愚かにも私の屋敷に強盗に入ったところを専属魔術師クレシードに捕らえられた。

 取るに足らん小物ではあるが、なんと準二級というではないか。


 一度は牢にぶち込んだが気が変わって利用することにしたのだ。

 あれこれを手を回して釈放の手続きをしてやったが、また捕まったようだな。

 このまま牢に入れたままだと足がつく可能性があるので、今回は私の屋敷に呼び寄せた。


 さすがに二度目の釈放はない。

 こいつらもここに連れてこられた意味をよく理解しているだろう。

 

「では私はこれで失礼します」

「うむ、よく手引きしてくれたな。後で褒美をやろう」


 あの衛兵も私の手駒だ。

 防衛大臣として、私はあらゆる人間に根回しを行っている。

 末端からある程度の権力者まで、今や私の意のままに操ることができるのだ。


 もちろんこれが反逆に値する行為なのは理解している。

 しかしそうまでしなくてはあのお方の理想郷は完成しないのだ。

 今はまだあの暗いところで息をひそめておられるあのお方のためなら、私はいくらでも手を汚そう。


「ブラケット大臣、困ったものですねぇ。せっかくの手駒が戻ってきちゃいましたね」

「クレシード。こいつらは一応、準二級だろう? どこの魔術師にやられたのだ」


 一級魔術師クレシード。

 こいつは私の人生において、最高の掘り出し物だと思っている。

 元々は町で盗みを働いていた小僧だが、その魔力と魔法の才能を見抜けたのは私だけだろう。

 何せその場で追いかけてきた男を魔法で瞬殺してしまったのだからな。


 当時はわずか十歳、聞けば親の名も知らぬという。

 誰に教わったわけでもなく、こいつは魔法を使って見せたのだ。

 私はこいつに名を与え、衣食住と教育を提供した。


 それからたった十年で一級魔術師の座に上り詰めたのだ。

 その才覚たるや、あのシルフェント家やフォンデスタ家にすら比肩するだろう。

 クレシードを見ているとつくづく思うことがある。


 本物の天才に師などいらぬ、と。

 事実、クレシードは教育に意味などあったのかと思わせる成長ぶりを見せてくれた。

 私の馬車を遮った二級魔術師相当の盗賊団を造作もなく片付けたのだからな。


 この話は瞬く間に王都中に広まり、脂ぎった貴族どもの私を見る目が変わったよ。

 懇親会では誰もが、より私の機嫌を取るようになった。


「それがですねぇ。衛兵が話を聞いたようなのですが、どうも要領を得ないらしいのです。双剣を持った山の神にやられたとか、まるで意味がわかりません」

「山の神だと? そんなものがいるわけなかろう」

「名前も聞いたことがないような村を襲っていたようですが失敗したようですね」

「どこで稼いでいるかと思えば、まったく……」


 私は床で跪いているオネットとガンジルを見下ろした。

 こいつらは一言も喋らずに俯いたままだ。


「下らん連中だ。大方、山の魔物と見間違えたのだろう」

「まぁ何年も準二級止まりの無才ですからね。こんな奴らが僕と同じ魔術師だと思うと反吐が出ますよ」

「大体、考えてみれば準二級というのもおかしい。二級に満たないのであれば三級ではないか」

「二級昇級試験の受験資格があるというだけですからね。こいつらは実質、三級ですよ」


 クレシードが鼻で笑う。

 こいつは魔法学園にも通わせず、ほぼ我流で成り上がったようなものだからな。

 一方で中年にもなって準二級の無才など、軽蔑にすら値するだろう。


 このクレシードこそが、私からあのお方へ捧げる魔術師だ。

 完璧な魔術社会の実現を理想とするあのお方であれば、クレシードは必ずお気に召す。

 固有魔法(オジリナル)は天才の果てに独自の魔術式を刻んだ者にこそ与えられる。

 

 クレシードは固有魔法(オリジナル)に至ったのだ。

 そこで項垂れているゴミ二人のそれとは格が違う。

 今はまだ第四階級の魔法が限界だが、いずれ人類未踏とされる第八階級に至ることも可能だろう。


「僕からすればオネットはどんなに甘く見積もっても第二階級、ガンジルはギリギリ第三階級といったところです。だけど準二級などという肩書きがバカを勘違いさせる」

「クレシード、そいつらの処分は任せよう。ただし後始末が面倒にならんようにな」

「はい、そのつもりです。それにしてもこいつら、まったく喋りませんね?」

「恐怖で声すら出ないか? おい、せめて顔を見せろ」


 二人のフードをめくると私はぎょっとした。

 そこにいたのはオネットとガンジルではなかったからだ。


「話は聞かせてもらった」

「な、なんだ貴様は!」

「オレはウォレス。こっちがルアン、悪いが潜入させてもらった」


 謎の小僧の隣にいたのは紛れもないリエール王女だ。

 なぜ王女がこんなところに?


「ブラケット公爵、お久ぶりです。二年前の舞踊界以来ですね」

「リ、リエール王女! これはいったいどういうつもりですかな!」

「あなたの悪事はオネットとガンジルがすべて白状しました。現在、彼らは別の場所に監禁しています。それとこの屋敷は魔術師団によって包囲されていますよ。大人しくしてください」

「あく、悪事ですと! 人聞きの悪い!」


 窓の外を見ると確かに魔術師団が並んでいる。

 なぜここまで潜入できた?

 この二人を連れてきた衛兵は何をやっている?


「先ほどの衛兵に指示をしていた衛兵長もあなたの息がかかっていたようですが、白状していただきました。もっとも、彼はあなたと違ってずっと悔やんでいたようですけどね」

「だから何の話だと……」

「彼の母親の治療費をご支援なさっていたようで素晴らしい博愛精神です。ただし従わなければ支援を打ち切るというのは乱暴に思えますよ」

「グッ! あの男め! 恩を仇で返しおって!」


 これはとんだ形勢となってしまった。

 リエール王女なんぞ二人の王子や四賢士、魔術師団長達と比べれば陰が薄かったからまったく警戒していなかった。

 まさかこんな大胆な行動に出るなど予想できるはずがない。

 

 それに隣の小僧は何者だ?

 剣など携えおってからにバカにしているのか?

 クソッタレめ。


「私が合図すれば、すぐにでも魔術師団が突入します。おとなしく従ってください」

「フッ、魔術師団ねぇ。一度戦ってみたかったんだ」

「あなたは確かクレシード……」

「おぉ! まさか王女様に名前を覚えていただけているとは光栄ですね!」

「あなたがブラケット公爵に恩があるのは知ってます。しかし恩人だからこそ、是々非々で考えるのが本当の優しさでしょう」


 クレシードがクククと笑う。

 こいつまさかリエール王女と戦いたいのか?


「クレシード! 王女と戦うつもりであればやめておけ! 王族の血筋と魔力は知っているだろう!」

「すみません、ブラケット公爵。実は以前からその王族というのが気に入らなかったのです。たかが生まれ一つで強者を気取っていられるような連中が気に入らないのですよ」

「今、なんと言った」


 ウォレスという小僧が口を挟んできた。

 珍妙な風体をしおってからに、一丁前に怒っているのか?

 しかもこいつ、やはり魔力というものが感じられない。


 いや、ここまで露骨に感じられないものか?

 こんな生物がいるというのか?

 大なり小なり、平民といえど多少の魔力は保有しているというのに。


「なんだ、小僧。余計な口出しはしないほうが長生きできるぞ」

「ルアンが生まれ一つで強者気取りだと? クレシードとか言ったな。すぐに訂正しろ」

「な! 私を無視しおった!」


 小僧が私の言葉を無視してクレシードに近づいていく。

 こんな小僧にまでコケにされるのか!


「ルアン? 僕が訂正?」

「お前はルアンのことを何も知らないだろう」

「ですからルアンとは?」

「リエール王女のことだ。オレにとってはルアンだがな」

「そ、そうですか」


 クレシードが困惑している。

 よくわからんが、この小僧がいかれているのは確かだ。

 そもそも王女とはどういう関係だ? 訳が分からん。


「傍で見ていたからこそよくわかる。あれほど練り上げられた魔法は一長一短で身につくものではない」

「そもそもあなたは誰なんです? 魔力をまったく感じられないんですが?」

「オレには生まれながらにして魔力がない」

「魔力が……ない? フ、フハハハハハハッ! これは面白い! 実に面白いジョークだ! ハハハハハッ!」


 クレシードには奴の魔力のなさを感じられないのか?

 だとしたらまだまだ未熟か。

 仮にも防衛大臣にまで上り詰めた私だからこそわかる。

 奴が言ってることは本当だ。


「ウォレスさん! 私のことはいいんですよ!」

「ルアン、お前はオレの師匠だ。だからこそ引けない」

「師匠? え? えっ?」


 訳が分からないまま、ウォレスという小僧は二つの剣を鞘から抜いた。

 ずいぶんと亀裂が入っているようだが、ますますあいつは何がしたいのだ?

 まさかあれで戦うというわけではあるまい。

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