昇級
「おぉ! ゴブリン討伐完了かい! こ、こんなに討伐したってのかい!? ハハハッ!」
王都に帰った後、はぐれ魔術師の二人を衛兵に引き渡してから冒険者ギルドにやってきた。
やたらと陽気なギルド職員にゴブリン討伐の成果を報告する。
予め持ち帰ったゴブリンの討伐証明をどっさり出すと多少驚いていた。
確かにあんなにゴブリンが集まっているなんて思わなかっただろうからな。
「こりゃ査定が必要だな! 終わったら呼ぶから来てくれよっ!」
「査定?」
「これは国家依頼だから、想定以上の成果が認められた場合には報酬を上乗せするんだよ」
「あぁ、確かに依頼書にはそのようなことが書かれていたな」
国家依頼についてルアンが補足説明してくれた。
依頼には二種類あって、国家依頼と民間依頼の二種類がある。
前者は国の各機関が必要に応じて冒険者ギルドに依頼を出すものだ。
あの村など、国の管理がなかなか行き届かない場所のトラブルは対応しにくい。
そのため、冒険者に依頼をすることが多いようだ。
よって報酬は国から出る。
そういえばあの村長、国の役人が来た際に現状を伝えたと言っていたな。
あの村には戦える者がほとんどいないから、王都まで行って冒険者ギルドに依頼を出すのはなかなか難しいだろう。
これは今の国王になってから取り入れられた制度らしい。
ルアンの父上による尽力の賜物だろう。
民間依頼は文字通り民間から出された依頼だ。
決められた額の報酬を冒険者ギルドから受け取る。
国家依頼と違って細かい取り決めがないから、中には割に合わないものもあるそうだ。
その点、国家依頼は条件などがしっかりしているな。
「ルアン、国家依頼はすべてここまでしっかりしているものなのか?」
「まだうまく機能しているとは言えませんけどね……」
「どういうことだ?」
「あまりに依頼の数が多い上に、ゴブリン討伐だと割に合わなかったり箔がつかないと言って引き受けない冒険者が多いのです。それにあれだけのゴブリンがいるというのは把握できていませんでした。もしわかっていたら最低でも三級以上の依頼ですね」
現状、国の手が足りなければ冒険者の手を借りるしかない。
理想には届かなくても、あの村のような場所まで守ろうとしている姿勢にオレは強く共感した。
それならば報酬の割に合わないなどと言っている場合ではない。
思えば勇者パーティは訪れた場所の困りごとをすべて解決したものだ。
小さなことから大きなことまで、彼らは嫌な顔一つせずに引き受けていた。
手強い魔物を討伐した際の報酬が回復薬一つだろうが、彼らにとってはそんなものどうでもよかったのだろう。
あの志を忘れるわけにはいかない。
勇者パーティの皆には微塵も及ばないかもしれないが、オレの体一つでやれるだけの依頼を引き受けよう。
「おーい! ウォレス君! 査定が終わったぞ!」
ギルド職員のところに行って報酬を受け取る。
報酬額はなんと二十万を超えていた。
確か提示されていた額は数万だったはずだ。
「こんなにもらっていいのか?」
「あれだけのゴブリンがいたんじゃね。それにはぐれ魔術師が関わっていたんじゃ、このくらいだろう。ところで君、まさかその剣で討伐で討伐したのか?」
初めて冒険者ギルドに訪れた時に思ったが、どうもギルド職員はオレに魔力がないことを知らないらしい。
つまり今のオレは魔力検査に合格した冒険者だ。
このギルド職員はオレを魔術師と思っている。
それならば適切な受け答えをすべきかもしれない。
しかし魔術師に及ばずとも自らが培った力を否定したくない。
「いや、これで討伐した」
「ハハハッ! 面白い兄ちゃんだ! ちなみに今回の討伐依頼で四級に昇級した! これからもジャンジャン活躍してくれよ!」
「オレが四級……」
「元準二級のはぐれ魔術師二人を討伐したんだから、準二級でいいじゃねえかって思うけどな。上は頭が固いんだ、勘弁してくれよ。な?」
「いや、身に余る評価だ。感謝する」
オレがルアンと同じ四級か。
喜ぶべきなのだろうがルアンはあくまで調査をメインとして活動していた。
つまり実質的な実力はもっと上ということになる。
これでルアンに並んだなどと考えるのは失礼だ。
「ウォレスさん! やりましたね! 依頼一つで四級に昇級した方はほとんどいないらしいですよ!」
「ありがとう、ルアン。そう言ってもらえるだけで嬉しい」
「……まさかまた私がお世辞を言ってると思ってます?」
「い、いや、そんなことはないぞ」
「思ってますよね?」
ルアンが頬を膨らませている。
図星なのだが、それすらも見抜くとは恐るべし。
オレ程度の考えることなど手に取るようにわかるわけか。
気を取り直してオレは再び依頼が張り出されているボードに向かった。
無数の依頼を眺めているとその中にちらほらと異質なものがある。
庭の草刈り、害虫退治、買い物、側溝清掃、建物内の清掃、下水清掃、建設現場の手伝い。
がけ崩れで発生したがれき撤去作業、飲食店の皿洗い。
これらはほぼすべて民間の依頼だが、下水道清掃は国家依頼だ。
「ウォレスさん、どうしたんですか?」
「思ったより民間の依頼が多いと思ってな。これらは誰も手をつけないのか?」
「はい、あまり人気がないですね。それらは冒険者をドロップアウトした方々が食いつなぐために受け付けている依頼です。依頼主も大して期待をせずに出しているんですよ。本来、その手の仕事を探す際には商業ギルドに行くのが普通です」
「しかし人手が必要なのだろう。ふむ……」
勇者エイシスは新しい町に着くなり、どんな仕事でも引き受けた。
勇者とは単に強く勇敢な者ではない。
人々を救う心があるのも強さの一つだ。
「ウォレスさん、まさか引き受けるのですか?」
「いや、今は難しい。人々を救うならば真っ先に何とかしないといけないものが多いからな」
「と言いますと?」
「……あぁ、ここではまずい。宿で聞いてくれるか?」
真っ先に何とかしなければいけないもの、その一つがはぐれ魔術師を雇った黒幕だ。
二人を雇ったのはブラケット公爵。王国の防衛大臣であり、国防の中枢にいる人物だ。
捕らえられたはぐれ魔術師を無罪として釈放したのもその人物だと、あのオネットとガンジルは言っていた。
しかし普通に考えてオレごときがどうにかできる相手ではない。
国の権力者に牙を剥くということがどういうことか。
そんなものは考えるまでもなかった。
こんな時、勇者エイシスならばどうしたか。
オレはどうすべきか。
ルアンに相談すると快諾してくれた。
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