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村の平和と氷室

「ルアン、この二人がゴブリン達を使って村を襲わせていたようだ」


 ルアンと村人達の前にオネットとガンジルと名乗った魔術師を座らせた。

 二人は焦燥しきった顔で俯いている。

 どうやら魔法の行使はオレが思っている以上に消耗するようだな。


 そのせいでオネットはオレに追いつかれてしまったのだ。

 場所を変えようとしたようだが、本当に危なかった。

 地形に隠れつつ、うまく攻められたらこちらが殺されていたからな。


 ようやく捕まえたところで降参してくれて助かった。

 その後でオレが聞いたところ、オネットはどうやら生物を操る魔法を使うらしい。

 恐ろしい魔法だ。聞くだけで身の毛がよだつ。

 そのことをルアンに伝えると、驚愕していた。


「オネット……思い出しました。確か一年ほど前に野犬を使って貴族宅を襲撃した準二級冒険者の男ですね。その後、不自然な流れで釈放されてしまいましたが……」

「よく知っているな。そうさ、失敗しちまったが悪運は強いみたいでね」

「答えてください。あなたの無罪を決定づけた人物がいるはずです」

「さぁね……」


 ルアンの話によればこの二人は強盗事件を企てたものの、貴族に雇われている魔術師に返り討ちにあったらしい。

 詳しい事情はわからないが、この二人ほどの魔法を持ちながらも道を踏み外してしまうとはな。

 やはり魔術師とはそれほど厳しい世界なのかもしれない。


「どうしても教えていただけませんか?」

「俺は何も知らない。とっとと衛兵にでも突き出せよ。おっと、こんな田舎じゃそんなもんいないか」

「もちろんそのつもりです。しかし村を発つのは明日なので、それまであなた達はあそこの使っていない納屋で過ごしていただきます」

「そうかい。そりゃ快適だな」

「ただし……」


 ルアンが杖を納屋に向けると、木製の壁や屋根が所々凍り付いた。

 見るからに寒そうな納屋に仕上がると、村人達が二の腕をさすって寒そうにしている。

 二人を立たせてから納屋の中に入れると、悲鳴を上げた。


「さ、寒いッ!」

「凍えちまう!」

「この納屋の中は零度以下、扉を氷漬けにしてしまえば出られません。お二人とも、すでに魔力はほとんど使い切ってるようですね」


 ルアンの言葉の意味を察した二人が顔色を変えた。

 オレもこの寒さはさすがに堪える。

 昔、勇者パーティとして一緒に雪山を登ったことがあるがその時を思い出すな。


「おい、オネット! お前、炎の魔法が使えただろ!」

「これは第一階級じゃ無理だ! 半ば結界のような作りになっている! あの女、何者だよ!」


 ルアンの氷魔法は敵を苦しませずに眠らせるように殺す。

 それはルアンの優しさ、王女としての冷酷さの二面性を表していると言えるだろう。

 それが二人にも伝わったのか、寒い納屋の中で手をついて頭を下げた。


「わかった! 答える! 答えるからここは勘弁してくれ!」

「はい。ではここで話を聞きましょう」


 ルアンがニコリと笑って対応した。

 やはりルアンだけは怒らせるべきではないな。


                * * *


「ルアンさん、ウォレスさん。本当に行っちゃうの?」

「そんな顔をするな、クータ。いずれ会える」


 翌朝、俺達はオネットとガンジルを連れて村を発つことにした。

 ゴブリンの脅威を取り除いたのだから、いつまでも長居するわけにはいかないだろう。

 オレ達の旅立ちということで、村長を初めとして村人達が見送りにきてくれた。


「お二人にはなんと礼を言ってよいのか……。冒険者ギルドの報酬だけでは足りないでしょう。こちら、お受け取りください」

「これは村の蓄えでしょう。あなた達がご自分に投資すべきです」

「しかし、それでは……」

「村長、あなたが守るべきはこの村です。これからの村のことを考えてください」


 ルアンがそう言い切ると、村長は金を引っ込めた。

 ルアンの言う通り、この村はまだまだ発展途上だ。

 塀が完成したものの、これからも大変なことはあるだろう。


「ウォレス! あんたを見てオレ達も体を鍛えることにしたよ!」

「大した魔法が使えなくても、体一つで戦えるってわかったからな!」

「次に会った時はすげぇ体を見せてやるよ!」


 村人達は攻撃魔法をほとんど使えないが、己の頭で活路を見出したようだ。

 魔法が使えなくても一歩ずつ進むしかない。

 そのことに気づいてくれて本当によかった。


「あぁ、楽しみにしている」

「できればその剣があればよかったけどな。これを機会に俺達の手で一から作ってみようと思うんだ」

「それはいい。剣は魔法ほど強力ではないが、オレのような人間が命を預けるものだ……そうだ」


 オレはクータの前に三本目の剣を置いた。

 状況を飲み込めないクータがオレを見上げる。


「クータ。いつか成長したらこの剣を使え」

「ウォレスさん……いいの?」

「お前は己の道で強くなることを決意した。剣士の修行はもう始まっている」

「オ、オレ、持てるかな……」


 クータが両手で剣を持ち上げようとしたが、さすがに持ち上がらない。

 今は当然だがクータならすぐに持てるようになるだろう。


「へへ……全然ダメだ。でも目標がまた増えたよ。オレ、これを持てるようになるくらい鍛える」

「そうだ。決して腐らずに鍛えろ。そうすれば、お前の命はそいつが預ってくれる」


 クータが満面の笑みで喜ぶ。

 オレのような人間でも、他人にこんな顔をさせられるものだな。

 こうなれば負けていられないな。

 クータに追いつかれないよう修行あるのみだ。


「それでは村長さん。あちらにある納屋は開け閉めを可能にしておいたのでご自由にお使いください」

「おぉ、食料品を冷凍で保存できるなど夢のようだ。ありがとう、ありがとう……」


 涙を流してオレ達の手を握る村長と別れを告げた。

 道中、オネットとガンジルが逃げないようにオレが目を光らせておかねばな。

 何せルアンのおかげでこの二人はとんでもない情報をもたらしたのだから、証人になってもらう。


「ルアン、この二人の話が本当だとしたら先手を打たねばなるまい」

「しかしそれだけでは証拠が足りません。それに彼は国に多額の投資を行っている人物でもありますので、もしこじれたらと思うと……」

「気持ちはわかるが、そいつもバカではない。この二人が拘束されたとなると、すぐに証拠隠滅を企むだろう。ならば早いほうがいい」

「早いほうが、とは?」


 この二人の背後にいる人物が黒だとすれば、到底許せるものではない。

 権力を悪用して私腹を肥やす。

 これでは下々の者達が浮かばれないではないか。


 おそらく勇者エイシスがいれば絶対に見逃さないだろう。

 オレは勇者ではないが、その志は理解しているつもりだ。


「お前ら、まさかあのお方に歯向かう気か?」

「そのつもりだが?」

「だったらやめておきな。あのお方にはとんでもない魔術師がついているんだ。実はオレ達、あのお方の屋敷を襲撃してな。そこで見事にあの魔術師に返り討ちにあったのさ」

「お前達ほどの者が……?」


 オネットが言うにはそいつの名はクレシード。

 国内に十人といない一級魔術師の一人にして、一人で二級相当のはぐれ魔術師五十人をたった三分で倒してしまったらしい。

 それを聞いたオレはさすがに身震いした。


 だが怖気づいている場合ではない。

 許せぬ者を許す道理などないのだからな。

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