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農村の才能がない少年

 ゴブリンの被害を受けているのは王都から離れた場所にある農村だ。

 王都を初めとした大きな町には衛兵なんかが配備されているが、こういったところはなかなか行き届いていない。

 この世界の人間全員が攻撃魔法を駆使して戦えるわけではないようだ。

 オレ達が村に到着すると歓迎された。


 村でもオレ達の存在はかなり珍しいらしく、大人から子どもまで注目を浴びる。

 なんだかなつかしい。

 勇者達もこんな風に人々から羨望の眼差しを向けられていたものだ。


「よく来ていただきました! 私が村長のゾックです! ささ! お荷物をお持ちしましょう!」

「いや、それはいい。村長、それよりこの村はゴブリンによって被害を受けていると聞いたが?」

「はい、実はそうなのです。以前からどこかにゴブリンが住み着いたらしくて、度々畑が荒らされました。それだけではなく近頃は村人までも襲うようになって、手がつけられんのです。一応、お役人様が訪れた際に現状をお伝えしていたのですが……」

「ふむ、それは一大事だな」


 村中を見渡しても農具の類すらない。

 どうやって畑を耕しているのか気になるところだ。

 オレ達は村長の家に案内されて話を聞くことにした。


 この村には戦える魔術師がいない。

 以前は村長を始めとした大人達が自衛していたのだが、段々と戦える魔術師が減っていった。

 皆、村を出て王都へ行ったり殺されたりなどしたようだ。


 今は村長と残った同年代の者達がかろうじて村を守っているが、数が多いゴブリン達にはなかなか対処がしにくい。

 冒険者基準で言えば彼らは全員が五級にも満たない程度であり、小型の魔物の一匹や二匹を追い払うのが関の山だ。

 だからいざゴブリンなどが攻めてきた時に対応ができずに困っていた。


 これまではゴブリンが大量発生するなど考えられなかったと村長は話す。

 オレの乏しい知識で言えばゴブリンは繁殖力が高い。

 だから一度住み着かれたら割と厄介なのだ。

 それを村長に告げると肩を落とした。


「長年住んでいた場所ですがもう限界かもしれませぬ。かといって他の地に移るだけの体力もない。昔は皆の王都行きを激しく反対したものだが、彼らのほうが正しかった」

「住み慣れた土地を離れたくないという気持ちはわかる。しかしどんな場所だろうと危険がないわけではない。つまりこういった地に住むには相応の覚悟と力がいるということだな」

「まったくもってその通りです……」


 ふとオレの脇をルアンがつっついた。


「ウォレスさん。さすがに言いすぎでは?」

「む、傷つけてしまったのならオレが悪い。村長、非礼を詫びる」


 オレはまたやってしまった。

 思えば勇者達のお供をしていた時も荷物持ちの分際で同じことをやってしまった記憶がある。

 皆が戦える力や勇気があるわけではない。


 自分と同じものを他人に求めてはいけないと勇者エイシスにたしなめられた。

 そうであるなら自分達など必要とされていない、と。まさにその通りだ。


 気がつくと村長の家の入り口に誰かがいる。

 あれは村の少年か?

 年齢は七つ程度に見える。


「あれが魔術師様かぁ……」


 少年がオレ達を物珍しそうに見ていた。

 村から魔術師がいなくなったものだから、あの年代の子どもは見たことがないのだろうな。

 しかしオレは魔術師ではないから誤解させるのはかわいそうだ。


「クータ! いいから家の手伝いでもしてなさい!」

「見つかった!」


 村長に怒られた少年クータが逃げていった。

 しかたない。誤解は後ほど解くとしよう。

 それはこちらの村長にも同じことが言える。


「村長、最初に言っておくがオレは魔術師ではない。魔力はないが、戦う力は備えているつもりだ」

「えぇ、わかっておりますとも。魔術師はそちらの方で、あなたはお供でしょう」

「まぁそうなるな。な、ルアン?」


 オレがルアンに振ると、釈然としないような表情をした。

 ここであれこれと訂正をしてもややこしくなって迷惑がかかる。

 目的はゴブリン討伐であって、オレ達のことなど本来はどうでもいいのだ。


「えっと、私達はそういう関係じゃ……。もう、ウォレスさんったら……。それより先ほどの子は?」

「クータですか。前に魔術師の話をしてやったら、すっかり憧れてしまったようでしてな。連日のように魔法の練習を欠かさんのです」

「それは立派ですね。では後で私でよければ指導いたしましょう」

「しかしそれでは迷惑では……」


 遠慮する村長だが、快諾したルアンはクータの魔法指導をすることにした。

 こうなるとオレに出来ることはゴブリン襲撃に備えて村中を見て回って歩くことしかない。

 この村に魔法の使い手がほとんどいないのであれば、やはり自衛するしかないだろう。


 オレ達がずっといてやれるわけではないからな。

 まずは手薄になっている部分を指摘して、新しく塀を作って強化することにした。

 資材はオレが森から調達すれば問題ない。


 丸太を担いで持ってくると、村人は口を開けたまま棒立ちだ。


「何をしている。これを製材して塀を作るんだ」

「あ、あんた強化魔法でもかけているのか?」

「いや、オレには魔力がない。だからこそ、このくらいのことはできないとな」

「そう、なのか?」


 何か納得できない様子だが、手を休めている暇はない。

 村に滞在している間、オレは村人達と一緒に作業をした。

 彼らは非常に気がいい者達で、オレのような人間に強く当たることがない。


 村の昔話、村一番の働き者が幼い頃に肥溜めに落ちた話。

 村に伝わる怪奇話など、仕事終わりの夜は焚火を囲んでそんな話で盛り上がった。

 オレ達が滞在している家は空き家だったようで、これも快く使わせてもらっている。


 ルアンは連日のようにクータに魔法指導をしているようだが、今一捗らないらしい。

 魔力量もあまり高くないようで、戦える魔術師となるには厳しいようだ。

 しかしそこで諦めるルアンではない。

 根気よくクータにつきっきりで指導をしているようだ。


 オレはすっかりこの村ののどかな雰囲気が気に入ってしまう。

 空気がおいしく、自然も豊かだ。

 何より素晴らしいのは農作業がすべて魔法で行われている点だった。


 地の魔法で畑を耕して、水は水の魔法で与える。

 種は風の魔法でふわりと飛ばせば完了だ。

 これでは確かに農具などいらない。


 オレはその光景が珍しくてつい魅入ってしまった。

 ずっと見ていられるほど美しい。

 そしてオレにも魔法が使えてたら、などと考えてしまう。


 そんな日々を過ごしつつ、皆が頑張った甲斐があって塀の完成が思ったより早そうだ。

 昼休憩の時、今日も皆で下らない話に花を咲かせる。


「なぁ、ウォレス。あんたさえよければ、ずっとこの村にいてくれないか?」

「うーむ、そういうわけにはいかないな。オレにも目標があるのでな」

「そうか……。でもそれだけすごいのに何を目指してるんだ?」

「一日でも早く魔術師に認められることだ」


 また怪訝な顔をされてしまうが仕方ない。

 オレはオレの目標を見据えているだけだからな。


 仕事終わり、日が落ちる前に空き家に帰ろうとしたら途中でルアンとクータがいた。


「クータ、もう少しがんばりましょう?」

「もういいよ……。オレには才能がないんだ。ルアンねーちゃんだってわかってるだろ?」

「そんなことない。誰だって最初はできないものよ」

「でも第一階級どころか基礎の基礎すらできないんだ。もうやだよ……」


 クータが悔しそうに拳を握って震わせている。

 思えばゼシルはクータと同じような年齢ですでにファイアボールを放っていた。

 あれがいかにすごいことなのか、よくわかった気がする。


 クータに才能がないのではない。

 これが普通なのだ。

 幼い頃から攻撃魔法が使えるのはゼシルのような特別な人間のみ。


 こればかりはオレにはどうしようもない。

 師匠であるルアンにも手に負えないのだからな。

 が、オレはあえてクータに近づいた。


「クータ。悔しい気持ちはわかる」

「えっと、弟子のウォレスさんだっけ?」

「クータ、オレにはお前が持つ少ない魔力すらない。しかしそれでも戦っている。魔物も討伐している。なぜそれができると思う?」

「ま、魔力がないのに魔術師の弟子? わけがわからないよ……」

「いいから考えろ」


 待ってみたがクータは何も言えなかった。

 仕方ないのでオレが答えを教えよう。


「それはオレ自身が弱いことを自覚しているからだ。己の弱さを知っているからこそ、何でもがむしゃらに取り組むことができる」

「どういう、こと?」

「魔力がないなら、この体で戦うしかない。体を鍛え上げて自信をつけるんだ。そうすればゴブリン討伐は叶うだろう」

「体を鍛えてって……そんなので戦えるわけ……」


 クータが言いかけた時、村人の一人が息を切らして走ってきた。


「ゴ、ゴブリンが襲撃してきた! 村の西、枯れ井戸のほうだ! 頼む!」


 ついに来たか。

 オレとルアンは急いで現場に向かう。

 その際にちらりと見えたクータは拳を握ったままだった。

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