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冒険者ウォレスの初仕事

「ウォレスさん。私も同行させていただきたいのです」


 ソマリが出ていった後、入れ替わりでリエール様がいらっしゃられた。

 冒険者ギルドで冒険者登録の連絡を待つ間、オレは室内で鍛えていたところだ。

 汗まみれでこれから風呂にでも入ろうかと思っていたところだったので、思わず身を強張らせてしまった。


 オレが驚いているとリエール様が室内の席に座る。

 このオレがリエール様を同行などさせられるわけがない。


「リエール様がオレに? それはいけません。あなたは一国の王女です」

「ウォレスさん、ここにいる私はルアンです。以前と同じように接してください」

「それはできません。一国の王女にオレごときが」

「これは命令です!」

 

 オレは言葉が返せなかった。

 王族からの命令、それは絶対的なものだ。

 王族が死ねと言ったら死ぬしかなく、この国で暮らす以上は逆らえない。


「命令ですか……」

「ウォレスさん、これも修行の一環だと思いませんか? 私が王族だということを忘れて誰にでも平等に接する。それもまた強さに直結します」

「ハッ……!? それは確かに!」

「そう、これは修行です。ウォレスさん、この壁を乗り越えてください!」


 リエール様の言葉がオレの心に深く突き刺さる。

 修行、確かにオレは見落としていた。

 体を鍛えるだけでは修行とは言わない。


 肉体と精神を鍛える。オレが常日頃から意識しているではないか。

 リエール様が王族ということを忘れて、平等に接する。

 おそらくこれは精神修行の中でも初歩と言ってもいいだろう。

 なるほど、そういうことか。


「リエール様、いや……ル、ルアン。オレは修行をやり通しま……じゃなくて、やり通す」

「それでいいのです」

「今、ハッキリとわかった。リエール様、じゃなくてルアンはオレの師匠のようなものだと……」

「は、はい?」


 リエール様ことルアンはぽかんと口を開いている。

 やっとそこに気づいたのかと言わんばかりだ。


「陛下はおそらくオレをあまりに未熟と感じたのだろう。このままではどこかで倒れてしまう……そうならないためにリエー……ルアンを師匠として同行させた。そうだろう?」

「いえ、むしろ私はあなたから学ばせてもらうために同行したのですが……」

「師匠でありながら、弟子であるオレから学ぶ……飽くなき向上心、恐れ入った。オレも見習おう」

「……これ、ウォレスさんの冒険者カードです。私が預かっておきました」


 ルアンから手渡されたのは長方形の冒険者カードだ。

 オレの名前と等級が書かれている。

 オレは感動して冒険者カードを掲げて魅入ってしまった。

 陛下の計らいとはいえ、オレもようやく冒険者として認められたという喜びはどう言い表せばいいだろう?

 

「どうしてこうなるんだろうなぁ……」

「ルアン、さっそく冒険者ギルドへ行こう」

「あ、はい」


 居ても立っても居られないオレは冒険者ギルドへ向かった。

 さっそく今日から修行の始まりだ。


                * * *


 王都の冒険者ギルドは前の町とは比較にならない。

 いくつもの受付のカウンターがあって、職員達がせわしなく働いている。

 驚いたのは書類などを風の魔法を使って運んできているところだ。


 前の町ではあんなことはしていなかった。

 職員達は片手でそれをやっているのだ。


「すごいな……。優れた魔術師達が大勢いる。特にあの職員達はかなり強そうだ」

「あの人達は事務専門なので戦いはできませんけどね。紙などの軽いものを扱う魔法はここの職員としての必須スキルです」


 ルアンの話によれば、王都のギルド職員になるのはかなり難しいらしい。

 各地でのギルド勤務経験を経た猛者ばかりとのことだ。

 そんな職員達に敬意を表してオレはボードに張り出されている依頼書を眺めた。

 

 ルアンによればオレは五級だから引き受けられる討伐依頼は限られている。

 アーマーアリゲイターのような四級の魔物はひとまずお預けだ。

 だが、オレとしては不満はない。

 オレは一つの依頼書を手に取って受付へ向かった。


「ゴブリン討伐を引き受けたい」

「等級は五級ね、わかった。お、これは農村のやつだね。よし、手続きするからちょっと待っていてくれ」


 ギルド職員を依頼書を預かってから手続きをする。

 その依頼書を浮かして奥で座っている別の職員のところへ運んだ。

 よくわからないが、これでオレもようやく仕事を引き受けられた。

 この感動をどう言い表せばいいのだろう?


「ところであんた、相当な骨董品マニアだねぇ。そんなものを持って歩くなんてさ」

「いや、これは武器だ」

「アハハッ! あんた面白いねぇ! じゃあゴブリン討伐、がんばってくれ!」


 オレの何が面白かったのだろうか?

 まぁ笑われるのはいつものことだ、しょうがない。


 意外にも手続きはあっさりしていた。

 しかしきちんと冒険者カードを用意して、誰が引き受けているか記録を残すなど前世では考えられない。

 この時代ではギルド職員が渡す報酬を渋ったり、ちょろまかすなどということはないのだろう。

 引き受けてない人間がしれっと報酬を受け取るなどということはできないのだろう。


「ウォレスさん。一応、私も引き受けている形になりますがよろしくお願いします」

「いや、こちらこそしっかりと学ばせてもらう。それよりもルアンは四級だが、いいのか?」

「私はあくまで調査の一環として冒険者活動をしていただけなので、仕事内容は二の次です。ウォレスさんと共に等級を上げていく形になると思います」

「そうか。ではゴブリン討伐、やっていこう」


 オレがそう発言すると、近くにいた何人かの魔術師がこちらを見た。

 それでなくてもオレの剣が目立つのか、ちらほらと視線を集めてはいたのだが。


「おい、あいつが持ってるのって剣だよな?」

「あれって博物館にあるものと似たようなもんか? なんであんなもん持ち歩いているんだ?」

「ああいうのは意外と高く売れるらしいぜ。あいつもこれから売って金にするんだろ。まったくよ、どこで入手したんだかな」

「金のためとはいえ、よくあんな重そうなもん三本も持てるよ……」


 彼らの話の続きを聞いたところによると、低級冒険者の中には金に困って窃盗を繰り返す人間がいるらしい。

 どうやらオレもその類と思っているのだろう。

 さすがに窃盗犯と思われるのは心外だが、これもオレの身から出た錆だ。


「あの方々、失礼ですね! 盗んだものを堂々と持ち歩くわけないでしょうに!」

「そう怒るな。誰も使ってない剣に頼っているオレが悪い」

「ウォレスさんは少し自分に自信を持ってください! あなたはあの方々より遥かに強いんですから!」

「そんなことはないだろう。あれはまさしく強者の余裕だ」


 仮にオレが彼らの言葉に怒って襲いかかったとしてもまったく問題ないからこそ、あの余裕だ。

 そうでなければあんな発言など普通はしない。

 この王都の冒険者ギルドは国中から強者が集まっているという話だ。

 そう聞くとオレなどは魔獣の群れに放り込まれた子羊としか思えない。

 せいぜい食われないよう気を引き締めなければな。

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