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ルアンの両親とウォレス

「娘を助けてくれた礼をしよう」


 オレはごくりと生唾を飲んだ。

 どうやら国王は本当にオレに感謝しているらしい。

 ましてやこんなオレに頭まで下げたのだ。


 前世であれば考えられない。

 オレはあくまで勇者パーティのお荷物だったのだから。


「ウォレス、そなたは冒険者ギルドに登録したいのであったな? 私から冒険者ギルドにそなたの登録を促そう」

「そ、そんなことが、できるというのですか?」

「本来であればよろしくないことなのだがな。しかしリエールの話を聞いていると、そのまま腐らせるべきではないと判断した。そなたは魔力がないというのに魔術師の群れを一掃したそうではないか。私はそれについても興味があってな」

「あれは彼らが未熟だったからであって……。それに魔力がないオレが冒険者登録する資格などありません」


 グルボー組のことを仰られているのだろう。

 あの場ではつい強気に出てしまったが、オレとしてはあれで勝ったつもりはない。

 あのグルボー達はおそらく魔術師になってそこまで日が経っていないのだろう。


 個の力が弱いならば集団で固まるというのは理にかなっている。

 ただでさえ強い魔術師が自分の弱さを理解して、更に精進すればどうなっていたか?

 そうなればオレなど手も足も出ないだろう。


「ウォレスさん。グルボーは三級冒険者、決して弱くないんです。他の魔術師達も四級ですし、だからこそ誰も手を出せなかったんです」

「リエール様。優しいお言葉、ありがとうございます」

「は、はい?」

「オレを傷つけまいとそのようにおっしゃってくださることは理解できます。思わずあなたに惹かれてしまいそうになります」

「なっ! ひ、惹かれてって!」


 突如、リエール様が顔を赤くして狼狽え始めた。

 またオレは余計なことを言ってしまったかもしれない。

 確かにリエール様の優しさに惹かれたなど、オレごときがおこがましいにも程がある。


 あれほど顔を真っ赤にして怒るということはそういうことなのだろう。

 国王と王妃、それぞれが顔を見合わせるほどの事態だ。


「ハハハハハッ! ウォレス、そなたは面白いな! 久しぶりに愉快な気分になった!」

「お、怒ってはいないのですか?」

「そなたは己の強さに溺れず、実に謙虚だ! 最近の魔術師連中もぜひ見習ってもらいたいものだな!」

「いえ、オレのほうが彼らに追いつかなければいけません」


 オレがそう言うと、ついに王妃様までふき出して笑ってしまった。

 護衛の魔術師達もクスクスと笑う。

 オレが話すこと自体がすでに笑い話だというのか?


 これは一瞬でも国王に認められるかもしれないと勘違いしかけた自分を恥じるべきだ。

 オレは何一つ認められていない。

 現にこうして話すだけで笑われてしまうのだ。


 魔力がないような取るに足らない存在が何を囀っている。

 そういう意味で笑っているに違いない。

 ではどう話せばよかったのだろうか?


 聞きたいところだが、そんなものすら自分で考えられないようでは話にならないだろう。

 とりあえずオレはこの状況を甘んじて受け入れる。

 今のオレはどう笑われてもしょうがないのだから。


「うーむ! その謙虚さは貴重だな! ひとまずそなたの冒険者登録はこちらで進めよう。後日、使いの者に冒険者カードを持たせる」

「それでは他の冒険者達に示しがつきません。どうお考え直しください」

「国王の権限で特例という形で登録させる。よってこれは国王の命令だ。これでも異論はあるか?」

「……では謹んでお受けします」


 そう言われては引き下がるしかない。

 これは幸運と考えておこう。もちろんオレの実力で勝ち取ったなどと思いあがるつもりはない。


「ウォレスよ。この国において、そなたのような人間は生きにくいだろう。だからこそ私は前王が築き上げた悪しき文化と風習を改革せねばならん」

「前王とは?」


 オレがそう聞いた時、陛下の表情に暗い影が落ちた。

 また余計なことを言ってしまったか?


「前王……私の父は魔力至上主義を掲げて王位についた。魔力なき者は人間であるべからず。魔力が優れている者が優遇される社会を長年にわたって作り上げたのだ。それは歴代の王が下地として作ってきたのだから、一概に父だけの負債とも言えないがな……」

「陛下……」

「幼いころから疑問には思っていたのだ。魔力が一定の基準に満たない兵士は解雇されて職を失った。そればかりかある日、私は見てしまった。父が彼らの大半を自らの手で殺しているところを……」

「そ、そんなことが!?」


 オレは思わず声を荒げてしまった。

 話を聞けば前王は魔力が一定以下の兵士達を、訓練と称して地下の訓練場に集めたそうだ。

 そして息がかかった魔術師達に狩りと称して次々と虐殺させる。

 前王も笑いながら彼らを殺していたらしい。

 幼い頃の陛下はその現場を見てしまって震えた。


 その時の父親が人間に見えず、悪魔としか思えなかったと震える声で語った。

 オレはこの話を聞いて思わず握り拳を作ってしまう。

 いくら魔術師とて、そんな非道が許されるのか?


「私が新たに王位につくのにずいぶん時間がかかってしまった。そして昨日、リエールの報告を受けて確信した。未だこの国に夜明けはない、とな」

「陛下、オレは……オレでは力不足かもしれません。しかし、二度とそのような悲劇を繰り返さないよう……オレは強くなります」

「ウォレス、よくぞ言ってくれた。だからこそ、そなたをここに呼んだのだ」

「オレは魔力がありませんし、魔術師の足元にも及びません。ですがそんなちっぽけなオレでも、いつの日か皆に認めてもらえるよう努力します」

「う、うむ」


 またも陛下を呆れさせてしまったようだが仕方ない。

 自惚れるなと言われてしまいそうだが、嘘偽りのないオレの想いだ。


「ところでそなたにバルディンとフォルムングを授けようと思う」

「はい!? クロとブラックを!?」

「クロとブラック?」

「い、いえ、なぜオレに? あれは博物館に展示してあるのでは?」

「損得勘定抜きでリエールを救ったそなたになら安心して託せる。それに武器として扱えるものがいるのであれば、置物にしておくわけにはいかん」 


 まさかクロとブラックがオレの手に?

 嬉しい。嬉しいがどこか釈然としない。

 陛下はオレがリエール様を救ったからとおっしゃるが、果たしてそれは正しいのだろうか?


「すぐにでも博物館から展示を取り下げよう」

「陛下、恐縮ですがそれはお待ちください」

「な、なんと?」

「恩一つで剣をいただくわけにはいきません。これではクロとブラックもオレを認めないでしょう」

「クロとブラックとは……」


 陛下だけではなく、リエール達もどよめく。

 こればかりは間違ったことを言っているつもりはない。

 そもそも陛下は本当にオレが正しい持ち手とお考えなのだろうか?


 オレがリエール様を助けたから、無理にでも礼を尽くそうとしているのではないか?

 まずオレ自身、やはり納得がいかないのだ。

 オレが前世で生き残ることができたのも、クロとブラックのおかげだ。


 そうでなければオレがドラゴンの首を斬り落とすなど出来るはずがない。

 オレがやったことの大半はクロとブラックによるところが大きい。


「陛下、どうかお考え直しください。こればかりはいかに国王の命令といえど従えません。もちろんいかなる罰をも受ける覚悟です」

「ぬ、ぬぅ……意外と面倒な、いや! 殊勝な少年だ!」

「ただ一つ、オレを見ていていただきたいのです。オレはこれから冒険者として活動します。その上で新たにご判断いただきたいのです」

「……わかった! ではそうさせてもらおう! ますます気に入ったぞ!」

「ありがとうございます!」


 陛下が快く承諾してくれた。

 一国の王が平民を見るなど、普通はあり得ない。

 だからやりがいがあるのだ。

 

 今日のことでオレは嫌というほど自分の立ち位置を思い知った。

 これは思った以上に気合いを入れて這い上がらなければいけない。

 もう勇者パーティの荷物持ち兼盾役などここにはいない。


 今日からオレは冒険者ウォレスだ。

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