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ルアンの実家

 剣を買って宿に帰ったオレは筋肉トレーニングを済ませてから風呂へ入った。

 この時代の宿は風呂までついているのがなんとも素晴らしい。

 オレの時代ではろくに風呂も入れずに独特な臭いを放った連中が寝泊りしていたからな。


 こちらの夕食は鶏むね肉やサラダといった栄養豊富なメニューで、これにも驚かされる。

 ルアンが帰らないので先にいただいたが、かなりおいしかった。

 オレの時代では何の肉かわからないものが塩スープに入れられていたりと、なかなか個性的な料理が多かったな。

 風呂や食事を済ませてさっぱりしたところで寝る前のイメージトレーニングを行う。


 今日の反省点を洗い出して明日への戦いのブラッシュアップをする。

 オレのような凡人はやれることをやるしかない。

 いざ始めようと思った時、ドアがノックされた。

 訪ねてきたのはルアンだ。


「ルアン、帰ったのか」

「ウォレスさん。明日、私と一緒に家に来ていただけますか?」

「いきなりだな。やはり実家に帰っていたのか」

「大切なお話があります。お願いできますか?」


 今のルアンはどこかオレに挑戦的な表情をしている。

 何としてでもオレに承諾してほしいのだろう。

 世話になった身である以上、オレとしては断る理由などない。


「いいぞ。ルアンの家族にも挨拶しておきたい」

「ありがとうございます。私も食事と入浴を済ませておきますね。ではおやすみなさい」


 ルアンが部屋から出ていく。

 思いがけない出来事だったが、オレはイメージトレーニングを始めた。

 道中で戦ったマンティスブラッド戦について思い返しつつ、オレは眠りにつく。

 決着に六秒もかかっているようでは甘いな。

 魔法ならばこの半分以下で終わっていた戦いだっただろう。


                * * *


「ウォレスさん、こちらへどうぞ」


 朝食を済ませた後、ルアンの実家に向かう。

 服屋というからには商店街のようなところにあるかと思いきや、辿りついたのは城の裏手側だ。

 人通りが少なくて薄暗い。

 高い塀に申し訳程度に取り付けられた扉を開けてルアンがオレを招く。


「ル、ルアン。オレの認識違いでなければ、ここは城だろう?」

「大丈夫です。さぁ早く来てください」


 ルアンに促されるがままについていくと、城の中庭へと周った。

 そこでルアンがオレに向き直り、フードを取る。


「ウォレスさん。お気づきかもしれませんが、私の家は服屋ではありません。私はセルクリッド王国の王女リエール、今まで正体を隠して冒険者として活動していたのです」

「……ルアン? 何を言っている?」

「ルアンは仮の名前です。私はとある理由で一年ほど前から冒険者として生活していました」

「待て、理解がおいつかない」


 オレは頭を抱えた。

 ルアンが冗談を言っているようにも見えない。

 そんなオレをルアンは更に城の中へと誘う。


 城の中に入ると兵士達が歓声を上げてルアンを迎えた。

 その立ち振る舞いはとてもオレが知るルアンではない。

 それは何度も見た王族然とした優雅な所作であり、話し方もまるで別人のようだった。


「敬礼ッ!」


 この魔術師らしき者達は兵士か?

 衛兵もそうだったが、兵士が魔術師一色というのは新鮮な光景だ。

 

 奥へ進んで大きな扉が開くと玉座に座った国王と王妃、護衛の魔術師達がいた。

 王族に会うのは初めてではないが、いつだって緊張するものだ。

 本来であればオレごときがこうしてお目にかかることすらできない人物なのだからな。


「リエール、昨日話していた少年を連れてきたようだな」

「はい。こちらがウォレスさんです」


 国王が皺が目立つ表情でオレを見る。

 この王族特有の視線は何度経験しても慣れるものではないな。

 隣に座っている王妃はややほほ笑んでいるような表情で、これもきつい。


 実はルアンがこの国の王女で、突然城に招待されたと思えば目の前には国王と王妃だ。

 オレのほうも知らなかったとはいえ、王女に対してずいぶんと無礼な口を利いた気がする。

 だとすればオレへの粛正があってもおかしくない。


 ルアンは信じているが、両親が必ずしも心優しいとは思えない。

 王族として時には非情な判断を下すのが国王というものだ。

 ましてや今は魔法社会、オレのような魔力がない人間が足を引っ張っていいはずがない。

 オレはますます緊張してしまった。


「そなた……」

「大変申し訳ありませんッ! ルアン様が王女とは露知らず、オレの勝手で振り回してしまいました!」

「む? いやいや……」

「無作法者とはいえ、決して許されるものではないと認識しております! どのような厳罰も受ける所存です!」


 言い終えた後でオレはしまったと思った。

 国王の言葉を遮るなど、それこそ許されるものではない。

 しかもルアン様ではなくリエール様だ。

 オレとしたことが。いや、オレだからか。


 このまま消えてしまいたい。

 オレは床に膝をつけたまま震えた。


「そう緊張せんでよい。まず平民のそなたに作法など求めるわけがない上に、罰どころかこちらは感謝しているのだ」

「えッ……!」

「そなたがリエールを救ったという話はすでに聞いておる。暴漢の手から守ったそうだな」

「オレがルアン様、いや。リエール様を救った……」


 オレがいつそんなことを?

 むしろ助けられたのはオレのほうだ。

 右も左にわからないオレを冒険者ギルドまで案内してくれて、魔物討伐にまで同行してくれた。

 更に王都まで来られたのもリエール様のおかげだ。


「私が暴漢に腕を掴まれた時にあなたは助けてくれました。私はその正しい心に打たれたのです」

「あ、あぁ、もしかして前の町でのあれか……ハッ! 前の町でのあの出来事ですか!」

「気持ちはわかりますが気楽に話してください。ここにいるのはあなたが知るルアンです」

「そ、そんなことはッ!」


 国王やリエール様はオレのような人間にも気を使ってくれるのか。

 オレは呼吸を整えた。

 水がほしいところだが、そんなものを要求できるはずもない。


「ウォレスさん、私はお父様に無理を言ってとある任務を遂行していました。冒険者ルアンとして民の中に紛れ込み、魔術師の実態を調べる……昨日はその結果報告のために一度別れました」

「は、ハッ! それは! ご立派です!」

「……調査結果は思った通りでした。未だ魔術師達の選民思想は強く、弱者を平然と踏みにじる者達が多かった。グルボー組を見たでしょう。あのような輩が闊歩しているのがこの国の実態です」

「それ、はッ! 確かにッ!」

「……ウォレスさん。少し休憩しましょう」


 リエール様のはからいでオレは数分だけ心を落ち着ける時間をもらえた。

 いかん。実は前世でもこのような場面はあったのだ。

 あれは魔王討伐の褒美を聞かれた時のことだったか。

 頭の中にあった答えをなかなか喋ることができず「オレは……」から随分と沈黙してしまった。


「……そろそろよいか? 私は国王として、父親として娘にそんなことをさせたくはなかった。しかしリエールは自らこの役目を買って出た」

「そ、そう、でしたか……」

「そなたのことは聞いている。冒険者ギルドで随分な辱めを受けたであろう。気を悪くさせてしまったのは、未だ国の改革がおぼつかない私の責任でもある。すまなかった」

「なっ……!」


 驚いたことに国王が玉座を離れてオレに頭を下げた。

 一国の主の行動とは思えない。

 責められるべきは魔力を持たずに生まれてきたオレだ。


「お父様、そろそろ本題に……」

「うむ、そうだな」


 国王が頭を上げた。

 オレへの罰はなさそうだが、まだ心臓の高鳴りが収まらない。

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