骨董品屋にて
「ウォレスさん。私は所用があるので別行動します。夜には宿に戻ります」
突然、ルアンがこんなことを言い出した。
オレに彼女を束縛する理由がない。
王都に帰ってきたのだから両親にでも挨拶をするのだろう。
服屋の娘とのことだが、一度訪れてみたいものだ。
ファッションには疎いが、彼女の服装は完成されている気がする。
どんな店か気になるというものだろう。
さて、一人になったオレは王都を歩いた。
こうして見ると三百年前とは様相が違う。
道端に物乞いがいないし、柄の悪い男達が昼間から酒を片手に歩いていない。
あの時は魔王の脅威もあって人々の心が荒んでいたというのもあるか。
道行く人々があまりに身綺麗な格好をしているので思わず魅入ってしまった。
オレに見られているのに気がついたようで彼らは慌てて目を逸らしてしまう。
こうして店を見ると見事に武器屋が一つもないことがわかる。
しかし武器屋はわかるが防具屋すらないのはどういうことか?
守りは魔法でどうとでもなるということか?
ちらりと外から魔道具屋の内装を見ると、使い道が想像もつかないものが並んでいた。
中に入って見てもやはり何が何だかわからない。
ルアンがいれば解説してもらえたかもしれないな。
再び当てもなく歩いていると、気が付けば人通りが少ない道に出ていた。
いわゆる路地裏という場所か。
さすがにこんなところに用はないと思ったが、ふと店の看板が目に入る。
看板には骨董品店と書かれていた。
何か惹かれて店内に入ると、老人が椅子に座ったまま居眠りをしている。
オレの来店に気がつくと、老人は置いていたメガネをかけた。
オレがまず驚いたのは店内にある品々だ。
雑に置かれた剣などの武器や鎧が大量にある。
ひどいものになると壺にまとめて入れられていた。
「客とは珍しいの。これはずいぶんと若い骨董品マニアじゃ」
「ここにあるものがすべて骨董品か? あの剣や槍が?」
「当然じゃろ。今時あんなもので戦う奴などおらん」
骨董品とは言うが、どれも状態は悪くない。
今でも使えそうなものばかりだ。
「しかし買う人間がいるのだろう?」
「いわゆる骨董品マニアじゃな。こういう年代物の中には高く売れるものもある」
「つまり使いもしないのに集めている奇特な人間がいるのか」
「お前さんはマニアではなさそうだな。道にでも迷ったか?」
図星なので頷いて答える。
使われもしない武器がこんなところで骨董品として売られている事実にオレはややショックだった。
これらは時代が違えば、持ち手が命を預けていたものばかりだ。
それが今や骨董品などと、時の流れの残酷さを感じずにはいられない。
とは言うものの、オレが見た限りだとこの武器は状態がよくてもあまりよろしいものではないのは事実だ。
いや、武器とすら呼べないかもしれない。
そこでオレは一つの疑問を老人に投げかけることにした。
「これらは本当に武器として使用されていたのか?」
「そこの剣はかつて剣士と呼ばれた者達が使っていたものだ。おおよそ二百年前のものじゃな」
では少なくとも二百年前までは武器での戦いが行われていたのか。
それから話を聞くとそれぞれ年代は違うものの、新しいものがおおよそ百年前だ。
そこからは武器の需要が減って、今では魔術師の時代となった。
オレは一本の剣を手に取った。
感触としては思った通りだ。
「これは武器と呼べるものではないな。これの持ち手は満足していたのだろうか?」
「なんじゃ? お前さん、ワシの売りものにケチをつけようというのか?」
「そういうわけではない。ただ思ったことを言ったまでだ」
「それはおおよそ百五十年前の第一次テルキア戦争で使われたものだ。多くの血を吸っていると思うぞ。ふぇふぇふぇ……」
老人が怪しげに笑う。
確かにそうかもしれないが、オレにとってはとても命を預けられるものではない。
オレが訝しんでいると老人がギロリと睨んできた。
「そうまで言うなら、お前さんはそいつを扱えるのか? 無理じゃろ?」
「やってみてもいいが壊れるかもしれん」
「なんじゃと? カカカカッ! 小僧が異なことを!」
「弁償はできないが、それでもいいならやってみてもいい」
老人があまりにけたたましく笑うので、オレは剣を握った。
すると柄が砕けてしまいそうな感触を得る。
やはりな。武器として大切なのは剣士の握りに堪えうる柄だ。
戦いの最中に剣が持ち手から離れてしまうようでは話にならない。
それ故に剣士は剣を強く握る。
その握力で握られた武器は何人たりとも弾き飛ばすことは敵わない。
剣士から剣を奪うのであれば、命を奪うほうがまだ簡単だろう。
「では外に出よう」
「ほっほっほっ! ええぞ! ずいぶんと形から入るのじゃな!」
老人は笑っているが、オレにとっては笑いごとではない。
これに命を預けた剣士がいることに驚いているのだ。
一体何があったのだろう?
何者かに脅されてこんなものを持たされていたと考えれば、しっくりくる。
そうでなければこんなものを持つ理由がないのだ。
オレが剣を握ると刀身にもわずかに亀裂が入る。
「む? むむむ? なんじゃ?」
「握りの段階でこれだ。では振るとどうだろう。はぁッ!」
オレは思いっきり剣を振った。
風圧で老人が飛んで、地面に斬り込みが入る。
その次の瞬間、刀身が根元から砕けてしまった。
「ふぉわわぁーーーー! あぁぁ! な、なんじゃ!」
老人が壁に手をついて中腰の姿勢をとっている。
それ見たことか。
この程度の剣では老人一人転ばすこともできない。
「剣が、わ、割れて……」
「言った通りだろう。オレ程度の力にすら、この剣は耐えられないのだ。これが武器と呼べるか?」
「バ、バ、バカなことを言うなぁ! お前さん、何者じゃ! 強化魔法でもかけているのか!」
「オレに魔法は使えない」
老人がホウキとチリトリを持ってきて砕けた剣の破片を集めている。
承諾を得てやったものの、少し悪い気がした。
オレも手伝ってようやく片付く。
「うーむ……魔法が使えないとなるとお前さんはいったい……」
「もう少し武器を見ていいか? マシなのがいくつかあれば買い取りたい」
「構わんが高くつくぞ。何せ年代ものじゃからな」
老人はオレをジロジロと嘗め回すように観察した。
最近、やけに見られる機会が多いな。
高くつくと言っていたが、手持ちの金で足りるだろうか?
ルアンからもらった報酬に加えてあの後、治療院の外まで追いかけてきた前の町の衛兵長に謝礼金をもらったはずだ。
それに加えて宿代のことも考えれば、買えない可能性が出てきた。
「と、言いたいところじゃがお前さんには格安で売ってやろう」
「いいのか?」
「驚かされたがこんな珍客はそういない。面白いものを見せてもらった礼も兼ねている」
「ありがとう。では三本もらおう」
オレが目をつけていた三本の剣は壊れた剣よりはマシなものの、長く使えるものではない。
武器としては及第点といったところだろう。
しかし背に腹は代えられない。
クロとブラックが手に入る見込みがない以上、あるもので戦うしかないのだ。
「では三本で五万ゼルいただこう」
「五万……む、ギリギリか」
「言っておくがこれ以上は安くせんぞ。本来であれば数十万はもらうところじゃからな」
「そう聞くとありがたいが……」
悩んだ挙句、オレは購入することにした。
宿代がかなり怪しくなってしまったが、いざとなれば野宿でいい。
ルアンには悪いが説明すればわかってくれるだろう。
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