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王都の勇者博物館

 予定通り、オレ達は四日で王都まで辿り着いた。

 ルアンは宣言通り、野営の準備などをやってくれて非常に助かる。

 オレが生で食おうとした肉を丁寧に下処理をしてスープにしてくれた。


 更に眠りやすいように魔道具による寝袋まで用意してもらっては好意に甘えるしかない。

 オレとしては地面だろうが座ったままだろうが眠れるのだが、確かに悪くなかったな。

 この魔道具は一般的に販売されているもので、他にも結界石というのもあるようだ。


 どれもオレの時代にはなかったものだ。

 もう交代で見張りを立てて野営をする時代ではなくなったか。

 便利なのはいいが敵の接近を察知するなど、その辺りの勘が鈍りそうで少し怖いな。


「ここが王都です。前の町とは比べ物にならないくらい大きいんですよ」

「こ、これは……」


 ルアンの言う通りだ。

 行き交う人々の数もそうだが、建物の高さがオレが知るものとは違う。

 あれは何階建てだ? ざっと見て五階はあるのでは?


「あんなに高い建物があるのでは、いざという時に飛び移れないな」

「ど、どういう時にそれやるんです?」

「グルボー組のような輩に襲われた時にやって見せただろう? この王都でも同じことが起きるかもしれん」

「あ、あんなのはさすがに王都にいませんよ! 衛兵の数や質が段違いですから! さぁまずは宿をとりましょう!」


 なぜか怒らせてしまったようだ。

 もしかしたらこの王都がルアンの故郷なのかもしれないな。

 だとしたら失礼な発言だった。


 宿に着くとこれも驚くほど室内が広くて清潔感がある。

 不愛想な老婆が無言で手続きをするようなことはなく、清楚な女性が笑顔で対応してくれた。

 着ている服にも染み一つない。


 宿の手続きはルアンがやってくれているが、オレも横で見て覚えることにした。

 そういえばルアンはいつもフードを深くかぶっているな。

 寝ている時でさえそれは変わらなかった。

 服屋の娘であれば、あれもファッションの一つかもしれない。


                * * *


「ここが王都の国営博物館です。ここには国の歴史を感じるものが多数展示されています」


 博物館への入場料を払うと、中には様々なものが展示されていた。

 どれもなつかしく、オレの時代で使われていた日用品などが展示されている。

 訪れた人々は皆、熱心に看板に書かれている説明を読み込んでいた。


 場所は生活エリアから冒険者エリアへと移る。

 昔の冒険者が使用していた武器が展示されていて、剣や槍など特に珍しくもない。

 しかし人々は物珍しそうに眺めていた。


「ねぇねぇ、昔の人ってあれ持って戦ってたんでしょー?」

「そうみたいだぜ。あんなもんでどうやって戦ったんだろうな?」

「あの槍とか絶対重すぎでしょー。魔法を使ったほうが早いっての」

「あれで魔物をぶっ刺してた時代もあるんだよ。ほら、そこの説明を見ろよ」


 男女が体をくっつけながら武器について感想を述べていた。

 時代が違うとはいえ、オレは軽く衝撃を受けた。

 あの槍のどこを見れば重そうと感じるのだろうか?


 しかしよく見れば男女の体つきは細くて、確かにあれでは難しいだろう。

 魔法がある分、体を鍛えなくてもいいということか。

 やはり魔法は武器よりも強し。

 オレが体を鍛えている間に彼らは魔法を駆使して遥か先へ進むのだ。


「やはり武器に対しては皆、あんな感じなのか」

「ま、まぁここにこなければほとんど本物を目にする機会なんてないですからね」

「それだけ魔法というものが優れている証拠だろう。一つの時代を作り上げたのだからな」

「ウォレスさんの力は魔法にも負けてませんよ」


 こういう時でもルアンがフォローしてくれる。

 甘えてはいけないが、こういう言葉を少しでも糧にしなければな。

 

 他の展示物は鎧や盾、兜となつかしいものが目白押しだ。

 特に弓矢が人気のようで、皆は信じられないといった様子で魅入っている。


「これでどうやって攻撃するの?」

「そこの説明を見ろよ。あの弓とかいうやつに引っかけて飛ばすんだってよ」

「いやいやいや! 無理でしょ!」

「説明によればかなり力がいるみたいだな。それに狙いを定めるのも難しいらしい」


 弓は確かに難しい。

 名手となると米粒ほどしか見えない標的の頭部に命中させるというのだからすごいものだ。

 オレはあまり弓は得意ではない。

 一時期、練習した時期があったが命中率が安定せずに剣で戦うようになった。


「昔の方々はあれで狩りをされていたようですね」

「オレの場合は直接接近して斬ったほうが早かったな」

「え?」

「あちらに何か立っているな。あれは?」


 更に奥へ進むとオレは言葉を失った。

 そこにあったのは紛れもないオレの銅像だ。

 札には黒鉄の戦士アルドと書かれている。


 なぜオレが銅像になっている?

 確かに容姿だけ見れば悪くはない。

 しかし平均的といっていい容姿のオレの銅像など誰が作るだろうか?


 博物館にオレの銅像を設置する理由など一つ。

 勇者パーティで唯一魔法が使えなかったということへの見せしめだ。


 ここは魔法社会であり、アルドのような落ちこぼれになってはいけない。

 現代を生きる人間に銅像を通してそう警告しているのだ。

 博物館は単に昔のことを知るだけではない。

 過去の汚点を後世に伝える役割もあるということか。


「ウォレスさん、どうかしたんですか?」

「い、いや……。この銅像はよくできているな」

「黒鉄の戦士アルド、いいですよね」

「いい、のか?」

「彼は魔法が使えなかったようですけど、勇者パーティと肩を並べて戦いました。私、思うんですけどシンプルな強さってかっこいいんです」


 ルアンの言葉でオレは頭をぶん殴られた気分になった。

 オレは魔王討伐の後、すべての関りを絶って修行にあけくれたのだ。

 だからオレ自身が誰かに伝えるはずがない。


 後世にまでオレが勇者と並んで戦ったなどと伝わっている理由など一つしかない。

 あのエイシスがオレを立ててくれたのだ。

 荷物持ちかつ前線に立って盾になることしかできなかったオレを、あの男は称えた。


 それはルアンと同じく紛れもない優しさだ。

 勇者とはただ強いだけではない。

 他者を傷つけず思いやることができるのが勇者だ。


 ルアンが知る情報は勇者エイシスによって広められたものだろう。

 オレは己を恥じた。

 そうまで気を使わせてしまうほど、当時から弱かったのだ。


「魔法も何も関係ない……シンプルに力のみで戦う……素敵です」

「そ、そうか。それはよかった」


 気のせいか、ルアンが恍惚とした表情を見せている。

 これはいかん。

 間違った情報をルアンは信じてしまっている。

 かといって今のオレに訂正する手段などない。


「ウォレスさん、バルディンとフォルムングがあちらに展示されてますよ」

「……おぉ」


 忘れもしないオレの相棒が丁重に飾られていた。

 驚くことに当時と変わらず錆一つない。

 黒光りした刃がなんとも凛々しく、当時のオレにはもったいないものとすら思っていた。


 命を預ける相棒であれば名前をつけねば失礼だということで、クロとブラック。

 両方とも黒い刃ということでピッタリな名前だ。

 なつかしい。今すぐにでもケースをぶち破って手に取りたい。


「あれがアルドって奴が使ってた剣だって?」

「えぇ―? なんで二本もあるのぉ?」


 さっきの男女がやってきた。

 嘲笑まじりにオレのクロとブラックを眺めている。


「説明によるとアルドはこれを両手にそれぞれ持って戦っていたらしいな」

「ぷっ! 重すぎ! 色合いもダサいし、かっこわる!」


 オレの中で何かが煮えたぎる。

 オレのことはいくらでも言ってくれて構わない。

 しかしオレの命を守ってくれた相棒を貶すのは我慢ならなかった。

 不甲斐ないのはオレであり、相棒ではない。


 オレが男女に近づこうとした時、ルアンがつかつかと歩いていく。


「アルドはバルディンでドラゴンの首を、フォルムングでゴーレムの腕を斬り落としました」

「は? だ、誰だよ」

「あなた達の魔法なら当然そのくらいできますよね?」

「で、できるわけないだろ! そんなもん作り話だっての!」

「火のない所に煙は立ちません」


 ルアンの凄みに気圧されたのか、男女はすごすごと去っていった。

 なんというか彼女らしくないな。

 あまり好戦的なイメージがなかったが、一体何がどうしたのだろう?


「さ、ウォレスさん。雑音がなくなりましたし、ゆっくりと鑑賞しましょう」


 ルアンはうっとりとした表情でクロとブラックを眺める。

 ドラゴンとゴーレムを切断か。


 普通ならば笑い飛ばされるところだろう。

 何せ武器がなければドラゴンやゴーレムと戦えないのだからな。

 それでも今のオレにはクロとブラックが必要だ。


 どうにかして入手できないだろうか?

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