2.Paper plane
ハマサジから差し出された手。レンがそれを握り返すより早く、彼女はその手を引っ込めた。
それはレンに触れることを嫌がったわけではない。彼女の瞳は、既に別の場所へ向いている。
レンはその視線の先を追った。
「あれは……!」
背後。トンネルの先には無数ののっぺらぼうが出現していた。
女の分身ではない。老若男女様相さまざまなのっぺらぼうたちが、ゆらりゆらりとこちらに歩いてきていたのだ。
「ちょっと待っててね」
ハマサジは一度こちらに微笑むと、強い瞳で化け物を睨んだ。次の瞬間には駆け出し、再び呪文のようなものを唱える。
「地の巫術、『重絶』!」
それが発動すると、ハマサジの身体は月の上を歩くかのように重力の縛りから解き放たれる。術の名が意味する通り、彼女は五体を地に縛りつける力を絶ったのだ。
ハマサジはその術によりトンネル内を跳ね回りながら、別の術を詠唱した。
「風の巫術、『空風波』!」
それは限りなく細い筒を一直線に突き抜けていく空気砲。対象を高速かつ正確に打ち抜く風の術式だった。
ハマサジはそれを連発し、のっぺらぼうを次々に撃破していく。レンはただ、呆気に取られた顔でそれを見つめていた。
「すっげ……」
まるで漫画やアニメで見るような戦闘だ。縦横無尽に飛び跳ねながら目に見えない遠距離攻撃で敵を倒していくハマサジの姿。それはまさしく全ての少年が子どもの頃に夢想する一幕であった。
のっぺらぼうは急速に数を減らしていく。ハマサジの放つ風の巫術に抵抗する術などなく、なんとか組み付いて近接戦闘を試みても、それすら及ばない。
ハマサジは三体もの化け物から攻撃を受けるが、地を舐めるように低く屈んでそれをかわすとそのままの体勢で一回転。円を描くようなローキックを放ち、三体の体勢を崩した。
そのまま『重絶』の効果を利用してふわりと飛び上がると、物理法則を無視した滞空時間で別の化け物たちに向けて次々に回し蹴りを浴びせる。
その姿は、蝶に似ていた。花の周りを優雅に舞う蝶。ひらり、ひらりと飛び回るように、化け物たちを薙ぎ倒していく。
ただその美しい光景に気を取られ、呆けていたレンは後ろから接近していた化け物に気付かない。
「うわっ、なんだ!?」
羽交締めにされ、人質にされる。化け物たちは嗤うような奇妙な声を上げた。
「この野郎、離せ!」
「じっとしてて!」
ハマサジは迷いなく『空風波』を詠唱。もがくレンの頭から二センチほど右、のっぺらぼうの頭を正確に撃ち抜いた。
射角があと数センチずれていたならレンの頭が貫かれていただろう。それを思えば、羽交締めから解放された後も背筋は凍ったままだった。
しかしこういった状況でも躊躇しないのは、彼女にそれだけの実力があるからなのだろう。
ハマサジは強い。勉強や運動だけではない。異形との戦闘もこなすことができる、完全無欠の少女なのだ。
「だけど、それならあの儚げな印象はなんなんだろう」
のっぺらぼうたちを叩きのめすハマサジ。
だけどその表情はどこか、悲しげに見えた。それは戦いを良しとしない彼女の優しさゆえなのか、はたまた別の理由があるのか。
レンには理解してやることができない。彼女に寄り添ってあげることはできない。
ハマサジの過ごす世界は、レンから見ればあまりにも遠すぎるから。
そうして彼女は全ての化け物を倒し、無数の屍を並べていた。最後の一体が倒された瞬間に、それら全ては黒い炭のようになって消えていく。
彼らは死んだのか。そもそも、生きていたのか。化け物の正体を知らないレンには、わからない。
「帰ったんだよ」
ぽつりとハマサジがこぼした。
それは懺悔するように。そして、願うように。
「彼ら妖怪は実体を求めて、私たちとは違う世界――常世から来た存在なの」
「妖怪……常世……?」
「うん。そして、私達巫術師が彼らを倒すことで元の世界に帰ってもらうの」
「巫術師……」
そういった存在がいることを妄想したことは幾度もあった。しかし実際に目撃した今もまだ、信じられない自分がいた。
よりにもよって学年一の美少女であるハマサジがそういった世界の人間だとは思わなかった。
「そうだ。君の友達、まだ取り込まれる前だったから助けられたよ」
「え!?」
ハマサジがトンネルの壁際を指差す。そこに倒れていた化け物が消えた後、ヤナギとネジキが現れた。
レンは急いで駆け寄り、二人の息があることを確認する。
「よかった。ああ、よかった」
親友たちは死んではいなかった。この春休みが終わった後も、同じように学校で会える。
そういうなんということもない日常が、これからも続けられるのだ。
「君は優しいんだね」
「……え?」
ハマサジはこちらに歩いてくると、レンと同じ目線に屈んだ。
「普通、こんな怖い目に遭ったら逃げるでしょ?」
無謀にもたった一人で化け物に立ち向かっていったことを嗜めるように、彼女は困った笑みを浮かべる。だけど、それに対しての答えは決まっていた。
「普通、誰かが危ない目に遭ってたら助けにいくだろ?」
恐怖はあった。勝算なんてなくて、二人が生きているのかもわからなくて、だけどそれでもまた三人で笑い合える明日が欲しかった。
レンにとっては、こうする方が普通だったのだ。
ハマサジは目を見張る。レンの主張は本当に力を持つものから見ればちっぽけな抵抗、あるいは蛮勇に映るのだろう。
誰かを守る英雄。そういう存在になれるような力は残念ながらレンにはない。それでも、そうあれたらと思うことは間違っていないはずだった。
「君に、あれば良かったのに……」
「え?」
「んーん、何でもない」
何か引っ掛かるような事を言い残してハマサジは立ち上がると、こちらに背を向けた。
「決まりがあるの」
「決まり?」
「そう。巫術師が一般人にその力を見られた場合の決まり」
不穏な気配を感じた。
巫術などという現実離れした異能を実情として誰も知らない理由。それは、存在自体が完璧に秘匿されているからだ。
では、どうやって。
「記憶を、消させてもらうね」
「記憶、だって?」
「うん」
ハマサジはそこでこちらを向くと、氷のような無表情でレンを見つめる。
「君たちはお化けになんて遭わなかった。記憶はあやふやだけど、肝試しは何事もなく終わって家に帰った。そういうことにするの」
「そんな……」
この体験は無かったことになる。
化け物に襲われ、それを学年一の美少女が倒してみせた。このフィクションのように幻想的な一幕。その記憶を失い、レンは明日から何ということもない日常に戻る。
その方がきっと、良いのだろう。
覚えていてはいけない記憶。それを保持したままでは、あらゆる意味で危険が付きまとうのだ。
ハマサジはおそらく、善意でレンの記憶を消そうとしている。
だけど――。
「どうにか、ならないかな」
レンは、彼女が提示した決まりに背く。
「大丈夫だよ。寿命が減るとか、後遺症が残るとかそんなことはないから」
「わかってる」
「巫術が一般人に知られることは禁止されてるの。この力が一般社会に浸透すれば、間違いなく混乱を招くことになる。だから、知ったまま帰ればどこかで消されることになるわ」
「それも、何となくわかってた」
「じゃあ、どうして?」
ハマサジには理解ができない。
全ての記憶を失うわけではない。トラウマにもなりかねない恐怖体験の一瞬だけを取り除くと言っているのだ。それを拒む意味がわからない。
忘れてしまえば、不安も後悔も残らない。それにレンがいくら拒んだところで、彼女には無理矢理に実行する力もある。
それでもレンは、この体験を忘れたくない。
この記憶を、ハマサジという少女のことを忘れたくない。
「どうしてって――」
その言葉は、無意識に出た。
「――君が、悲しそうな顔をしてるから」
「――――」
学校生活でも、戦いの最中でも、ハマサジはずっと、どこか悲しそうな顔をしていた。
その理由を、レンは戦いが嫌だからなのだと考えていた。
しかし、違う。そういうことではないのだ。
親友が生きていたことに安堵するレンを見る彼女の表情。今ならわかる。そこには羨望があったのだ。
「君は、『普通』が羨ましいんだ」
「――――」
勉学の才を持ち、教師陣からすでに難関大学の受験を持ちかけられている少女。
運動の才を持ち、あらゆる部活動から応援の声がかかる少女。
そして妖怪を撃ち倒す才を持ち、巫術師としての使命を背負った少女。
ずば抜けた才覚は、当人が望まぬ期待を周囲に押し付ける。持て囃され、讃えられ、本人の感情を他所に名声だけが飛び交っていく。
誰もが彼女の存在を知り、しかし彼女は誰の存在も知らない。
みんなが憧れるハマサジにはいないのだ。
真に心を預けられる友人、親友が。
「だから俺が、君を『普通』にする」
「私の、ため……?」
「命の恩人に、そんな顔して欲しくない」
ハマサジのことを忘れてしまえば、レンは普通の生活に戻れる。だけど彼女は、永遠に普通にはなれない。
もちろん、レンに大したことができるわけではない。ハマサジから才能を奪うような魔法は使えないし、彼女を超える存在にもなれない。
だけど彼女に寄り添い、理解しようとすることはできる。
この体験を忘れなければ、レンはハマサジの理解者になることができるのだ。
「君だって、幸せになって良いんだ」
レンは、普通の高校生だ。
だから、彼女の求めるものがわかる。
「普通に友達と登校して、休み時間は昨日見たバラエティ番組の話なんかで盛り上がって、放課後は部活に行ったり、カラオケに行ったりして、休日はどこかに遠出する」
何ということもない、ありきたりな生活。凡人が憧れるべくもない、至って普通の毎日。
だけど世界には、それに焦がれる少女がいるのだ。
「君にだって、そういう普通の生活を送る権利があるはずなんだ」
先程引っかかった言葉。
君にあればよかったのに。それは、才能の話だ。
ハマサジが持つすべての才能が他の誰かにあれば、彼女は普通になれた。普通の毎日を送れた。
「私、普通じゃないよ?」
ハマサジの唇は震えていた。
今まで、こんなことを誰かに言われたことすらなかったのだろう。その憧れはずっと、ハマサジの中に封印されていたのだ。
それは周囲が彼女を持て囃すから。持って生まれた人間は、『普通になりたい』などと言えるはずがない。
たとえ当人が心の底から焦がれていたとしても、それは軽蔑になってしまうから。
普通とは、ハマサジにしてみれば望んでも手に入らない立派な『才能』なのに。
「こっちの世界に来れば、君にはずっと危険が付き纏うよ?」
「俺は、本当はここで死ぬはずだった。今俺に命があるのは、君のおかげなんだ」
レンは命を救われた。
その恩人が困っているならば、放ってはおけない。
そんなどうしようもないお人好しに、ハマサジは再び困ったような笑みを浮かべた。
「君は本当に、優しいんだね」
「普通だよ」
心霊スポットの薄暗いトンネル。そんな場所に似つかわしくもない二人の笑い声が、しばらくの間反響していた。
とはいえ、ここで記憶を消さないためには体裁が必要だった。レン、ハマサジの二人は気絶したままのヤナギとネジキを家の庭に寝かせると、学校近くの公園に移動した。
「さすがにこの時間に家のインターホンは押せねえよな……」
「ポケットから鍵を漁って勝手に入るのも悪いしね……」
ベンチに腰掛けたハマサジに、レンは入り口で買った缶ジュースを渡す。
「てか、まさか三人と同じ高校とは思わなかったよ!」
「ははは、紹介が遅れてごめん。タイミングがなくてさ」
ここにくる途中で、レンは自分の素性を明かした。同じ高校に通っていること。ハマサジのことは噂程度に知っていたこと。
彼女を囃し立てる一部であったことを明かさなければ、真に友達となることはできない。
そして彼女は、黙っていたことを責めなかった。
「進級したら、同じクラスになれるかな?」
「そこまで運が続くかはわからんけど、別に違っても会いに行くよ」
「さっすが私の友達!」
「まあな」
二人は笑う。五時半の公園にはまだ人がおらず、声は少しだけ響いた。
これからひと目につきたくない話をする。そろそろ人々が活動し始める時間帯なので、話は手早く済ませる他なかった。
「今から、君にはすごく簡単な巫術を体得してもらいます」
「え!? 俺巫術師になれんの!?」
「ばか! 声が大きい!」
「あ、すまん」
人差し指をレンの口に向けて怒るハマサジ。怒った顔も可愛い。言ってる場合か。
「別に戦えるわけじゃないんだからね! そもそも普通だったら、生まれた時から精霊と対話を重ねてようやく体得するものなんだから」
「なんだよ。俺がハマサジと共闘する展開はないの?」
「ない! 無理に決まってるじゃない」
「ちえー」
レンも男の子だ。漫画やアニメで見るような展開を期待したが、そこまで都合よくはいかないらしかった。
「これからレンに覚えてもらうのは、紙の巫術『紙風』って術式」
「おお、かっこいいじゃん」
「無から紙飛行機を作って飛ばすだけの術式だけどね」
「え、何の意味もねえ……」
「はいそこ、露骨に落胆しない」
ビシッと顔に指を突きつけられ、大人しくレンは指導に従う。素直に話を聞く姿勢を見せると、ハマサジは満足気に頷いた。
彼女は胸の高さに手で狐を作ると、トンネルでも聞いたフレーズを発する。
「憑依」
瞬間、空気がピリつくような感覚がした。
世界とハマサジが共鳴するように震える。これが、超常の存在と渡り合う巫術師たちの基本なのだ。
「それは……?」
「こうして、私たちは魂の扉を開けるの。精霊たちが入って来れるように」
「精霊?」
「そ。万物には魂が宿るっていうでしょ? 私たちは、万物に宿る精霊と対話して力を分けてもらうことで妖怪と戦ってるの」
言うと、ハマサジは公園の入り口に貼ってあったポスターに目を向ける。小学生が描いた交通安全のポスターだ。
ハマサジはそこに宿る魂と対話を行う。
「紙の精霊さん」
『ハイハーイ! 紙の精霊でーす!』
「うお、随分テンション高いな!?」
実体はない。どこから発されたものかもわからない声だけが聞こえた。
「紙の精霊さんには、この子に『紙風』の巫術を許してあげて欲しいんだ」
『えぇーー? だってこの子、巫術師じゃないでしょー? 一般人でしょー? ダメじゃなーい?』
「うん。本当はダメなんだけど、今回は特別。私の顔に免じて、許してくれないかな?」
そう言って、ハマサジは虚空に向けてはにかむ。精霊は少し考え込むように黙った。
『うーん。まぁ、君レベルの巫術師のお願いを断れるわけないよねー。今回は特別でーす!』
「やった! ありがと、精霊さん!」
『ハイハーイ!』
話が纏まると、ハマサジはこちらを向く。その表情は初めて誰かに感動を分かち合えたがごとく高揚していた。
改めてレンは自分の選択が間違っていなかったことを理解する。
そう。戦えなくてもいいのだ。彼女は別に、共に戦場に立つことを望んでいるわけではない。
彼女はただ、友達が欲しかったのだ。
自分の背負うすべてを明かすことができる友達が欲しかったのだ。
「それじゃあレン、ちょっと紙の精霊さんを憑依してみて!」
「は!? どゆこと!? 何言ってんの!?」
「大丈夫! 私がついてるから、ほら深呼吸して」
ハマサジに両手を握られてしまえば、レンは何も言い返せない。深呼吸すると、とりあえず先程ハマサジがしていたように言葉を発してみた。
「憑依」
瞬間、自分の心に何か空間ができたような錯覚が起こった。おそらく、これが魂の扉を開けた状態。この不快感を、トランス状態というのだろうと思った。
「ほらね。憑依っていうのは、そのプロセスを直感で理解したら誰でもできるの。みんなは知らないだけ」
「なる、ほどな……」
「そうやって自分の心を開放したら、今度は紙の精霊と対話してみて?」
と言われても、どうしたものか。
レンは先程ハマサジがしていたように、入り口のポスターを見つめた。
「よ、よし。とりあえず俺に力をくれ」
「あ、対話下手くそすぎ! そんなんじゃ、精霊さんにそっぽ向かれるよ!」
うるせえ、こっちは初めてなんだぞ。とは言えず、レンは助けを求めるようにハマサジを見つめる。
「まずは、精霊さんと仲良くなろうとするの! 巫術師の実力の本質はコミュ力の高さなんだからね!」
「なるほど、じゃあ俺あんま向いてないかもしんない」
「はいはい、良いから話してみて」
そう言われても何を話せばいいというのか、レンは前髪を撫でながら考える。
巫術師は精霊から力を貸してもらう。つまり、彼らから好感を得る必要があるわけだ。
レンは今、ハマサジの紹介で紙の精霊との対話を許されている。そこで、好感を得るためには。
「俺は、この子の友達になってあげたい」
実直に、自分の感情を言葉にすることだと思った。
「たとえ些細な巫術でも、扱えれば巫術師だ。そういう体裁がないと、俺はハマサジと出会った記憶をなかったことにしなくちゃいけなくなる」
命の恩人。その子が抱える悩みを忘れたくない。命を助けてもらったというのに、そのことを忘れてのうのうと生きていきたくない。
誰にも知られず、世のため人のために悲しい顔で戦い続ける彼女に寄り添ってあげたい。
「だから、俺に力を貸してほしい」
その思いは、精霊の心を動かした。
『全く、二人揃って良い子なんだからー。案外お似合いかもねー、お人好し同士』
「はぁ」
『いや本当はねー、君たちを襲ってた妖怪は他の部隊が退治に向かってる途中だったんだー。だけど人が襲われてるって聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃったハマサジが超スピードで駆けつけたってワケ!』
「も、もう! 言わなくて良いから!」
紙の精霊が暴露すると、ハマサジが恥ずかしそうに両手を振り回す。
レンは心の底から安堵した。何に、と聞かれればそれはわからない。ただ自分が手を差し伸べた相手が、ハマサジで良かったと思ったのだ。
優しいんだね、と彼女は言った。そんな彼女自身も、どうしようもなく優しいのだ。そのことに、レンは安堵した。
『じゃあ、君に『紙風』の術式を授けるよーん。ほら、術式の名前を唱えてごらん?』
言われて、レンは集中する。
そして、唱えた。
「紙の巫術、――『紙風』!」
すると、両手で作った皿の上にふわりと紙飛行機が出現した。
レンはそれを、少し離れたところにある砂場に目掛けて放る。エネルギーの塊のようにオレンジ色をした紙飛行機は、弱い推力で空を進んでいくと砂場に着く前に霧散した。
それだけの巫術。それだけの術式。だが。
「できた……!」
ハマサジと同じ世界に立つことができた。
これでレンにだけは、すべてを明かすことができる。
初めてを巫術を成功させ、レンはハマサジの方を見た。彼女の瞳は、少しだけ潤んでいる。
「……どしたの?」
わかっていて、レンは聞いた。些細な意地悪だった。ハマサジもそれを理解して、恥じらうように言う。
「なんでもないよ」
その言葉には、彼女の隠しきれない嬉しさが滲み出ているようだった。