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八章・結婚式


 十六歳になり、ある日のこと。



「問題になっているぞ?」


 秘密の小部屋の、極秘のお茶会中、入ってくるなりロバートが言った。


「なにが?」


 お茶を飲んでいたコズリが言う。


「三年連続、ダンス・パーティーでアンバー・アポロリックと踊ってる」

「だから?」


「だから、ではないよ。妙な噂がたっている」

「無視すればいい」


「そうもいかない。君、生徒に手を出しているわけではないよね?」

「そんなつもりはない」


「では、どういうつもりなんだ?」

「まだ、そういう関係ではない」


「まだ?」

「そう、まだ、だよ」

「まだ、なんだな?」


「そう、まだだよ」

「分かった」


 デュオニュシウスは飄々とした態度でロバートに聞く。


「お茶は?」

「ああ、いる」




 コズリは次々と新刊を執筆。

 さまざまな業界からの称賛を浴びる。

 約束通り、初版の一冊をアンバーにプレゼントしている。

 もちろん、他の者には秘密で、だ。


 バーリオンの像のあるスペースを陣取っては、読書をするようになった。

 時折、アンバーと居合わせ、互いが互いの世界を邪魔することなく、過ごす。


 デュオーリオンは無事卒業、大学に通う道を選んだ。


 一年後。

 ショカが卒業。

 実は、一学年上だ。


 アンバーは単位を計算して・・・

 留年することになった。


 ササラは六年に進学。

 将来の夢は、教師らしい。

 そのために、勉強を頑張る、と言っていた。

 その夢を応援したいと、アンバーは思った。






 時は過ぎ・・・。



 十八歳のコズリは、平均身長並みに成長していた。



 

 図書館。


 アンバーは読書をしていた。

 向かい側に誰かが座るのを目の端で把握している。


 オレンジ色の髪。

 と、認識したとほぼ同時、本の頭を指で傾けられて内容が読めなくなる。

 顔を上げる。


「わざと落としたな?」

「何の話ですか?」


「単位だよ」

「あれは―・・・」


「必修科目が足りなかった」

「偶然、具合を悪くしたんです」


「教師に嘘をつくのか?」

「なんのことです?」


「なぜ落とした?」


 アンバーは黙る。

 数秒の沈黙。 


「・・・ん?」


 アンバーは首を傾げる。


「なんだ?」

「何でだろ・・・」

「わざとか?」

「いえ、違うんです」

「君は嘘をついている」

「そうです」

「わたしはどうしたらいいんだ・・・」

「え?」

「いや、何でもない・・・」


 コズリ氏は髪をぐしゃぐしゃとかいて、席を立った。

 その一拍あと、ふらりと、彼の体が傾く。


 床に倒れる。


「・・・え?」


 コズリは、その場で気を失った・・・。


 保健室。


 コズリはゆっくりと目を開ける。

「先生っ」

 側には、アンバーがいた。


 思わず手を伸ばし、コズリはアンバーのほほを撫でる。

 アンバーの瞳から、涙が出てきた。


「貧血だって、保健の先生は言っていました・・・」

「ならば何故泣いている?」


「だって・・・」


「ああ、わたしが短命種だからか・・・」


 コズリはゆっくりと起き上がる。


「短命種について、本を読んでいたな?」

「いつの話をしているんですか?」


「忘れた」

「あの時?」


「そう、あの時だ」

「まさか・・・本当に前兆が?」


「最近の短命種には、前兆があるらしい・・・もしかしたら・・・」


「やめて下さい。聞きたくないっ」


「分かった・・・やめる・・・」


   

 十一月十六日。

 デュオーリオンの依頼が通り、晴れてHRKで結婚式が催されることになった。

 もちろん、デュオーリオンとショカの結婚式だ。


 魔法界、アトリムグには神父や牧師はいない。

 仲人兼司会者は、コズリ氏。


 噂は瞬く間に広がり、無償で音楽部の楽隊がつくことになった。

 場所はパーティー会場。


 イスが用意され、長い長い、赤い絨毯が真ん中に敷かれる。


 親族も呼ばれ、ショカが本当に小人族の者であることが分かった。

 みんな小さい。


 ショカの父親は、天涯孤独らしいので、親族を見る機会はできなかった。

 ショカの両親は、もちろん一番前の席に座っている。


 ササラとアンバーは、ショカの親族側のお付きになった。

 ロバート氏はデュオーリオン側のお付きだ。




 控え室。


「緊張する・・・」

「大丈夫?」

「お水ある?」

「今、入れる」


 ササラがコップを渡すと、アンバーが水を注いでショカに渡した。


「ショカ、本当に綺麗」

「ありがとう」


 ショカのはにかみ笑い。


「ねぇ、知ってる?」

「なに?」

「デュオ先輩が注文できるだけ長いヴェール頼んだわけ」

「なに?」

「長ければ長いほど、幸せになれる、っていうジンクスがあるんだよ」

「へぇ」

「知らなかった・・・」


 ササラは口元を上げた。


「ショカ、幸せになってね?」

 ショカは泣きそうになった。

「うん」


 鳥たちがさえずった。

 空に飛んで行く。


 ベルが鳴って、湖の人魚が楽し気に魚と共に水上に跳ねて飛沫を遊ばせた。



「新婦入場」



 コズリ氏が言う。

 参列者が立ち上がった。


 大きな扉が開かれる。

 真っ白で、豪華なドレスを着たショカが現れる。


 アンバーとササラは、仲介人の側で待っている。

 長い長いヴェールを持っているのは、ショカの親戚の子供達だ。

 色とりどりの花びらを散らしている。


 ショカの隣には、父親。

 スーツを着ている。

 一歩、一歩、確実に、仲介人の方を向いて待っているデュオーリオンに歩み寄る。


 交代の時。

 娘を、頼む、とか、渡す、とかいう意味らしい。

 白いスーツを着たデュオーリオンの腕を、ショカが掴む。


 仲介人の側まで、ふたりは歩いて行く。

 説教めいた祝詞があげられる。


「汝、デュオーリオン・ホーエンは、ショカ・フロースを妻と認めるか?」

「認めます」

「汝、ショカ・フロースは、デュオーリオン・ホーエンを夫と認めるか?」


「はい、認めます」

「では、誓いのキスを」


 新郎と新婦は互いに向き合った。

 はにかみ笑い。

 ショカは背伸びをする。


 身長差がそれでもあるので、デュオーリオンがしゃがんだ。

 ぴょん、と、飛び込んで、ショカはデュオーリオンに抱きついた。

 だっこされた状態でキスをする。


 祝福の拍手がおこった。

 ショカの母親は感激の涙を拭う。


「ショカ~」


 それに気づいたショカの父親が、胸のポケットからハンカチを取り出して渡す。


「ショカ~ッ」


 ショカの母親はしゃくりあげながらブー、と鼻をかんだ。

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