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七章・マスカレード



 図書館。


 アンバーは読書中。

 集中していたが、向かい側に誰かが座るのが分かった。


「アンバー・アポロリック」

「え?」


 顔を上げる。

 そこにはコズリ氏がいた。


「調べがついたので報告に来た。五年の薬草学の教師が、毒を横流ししていたらしい」

「そうなんですか・・・」


「そう。それだけだ」

「わざわざありがとうございます」


「いや、いい」


 アンバーは口元を上げた。


「何を読んでいる?」

「短命種についての本です」


「そうか」

「はい」

「短命種に興味が?」

「先生が出した『短命種と薬学』で」

「ああ、あれな」


「あの薬の調合はとても意外で斬新って言うのですか、画期的です」

「ありがとう」


 コズリの微笑。


「短命種について、どれぐらい知っている?」

「少しだけです」

「例えば?」

「短命」


 さらに、コズリの微笑。


「それから?」

「天才」

「そうだ」

「子供が作れない」

「そうだ」

「ひとりも、ですか?」

「そう。わたしが調べた限り、短命種は子供を作れない」


「そうなんですか・・・」

「なぜそうなのか、今、考えているんだ」

「ん?」

「なぜ短名種に子供ができないのか、憶測をたてたんだ」

「それは・・・」

「それは?」

「それは、どういう?」


「伝達、だよ」

「伝達?」


「そう。これは本に出す予定だから、ここまでしか言わないでおこう」

「じゃあ、これ・・・」


「極秘事項だ」

「まぁ。すごい」


 コズリは歯を見せて笑う。


「今回の事件解決に貢献した、ご褒美だ。次に出す本から、初版をプレゼントしよう」

「本当ですかっ?」

「ああ」


「やったっ」

「しっ」


「あ・・・すいません・・・」


 アンバーは小声であやまった。







 二学期が始まり、とどこおりなく時は過ぎていった。


 十月三十一日は、伝説人シドらがおこした『仮面の乱』にあやかり、マスカレードをする風習が魔法界にはある。


 HRKは催し物目当てで途中編入してくる者がいるくらい、催し物レベルが高い。

 マスカレード実行委員会によって、ちゃくちゃくと準備は進んでいった。


「相手決まった?」

 ササラの質問。

「いや、まだ」


「なんで私には誘いあるのに、あんたには無いのさ?」

「いくつかあったんだけど・・・」


「もしかして、あのひと狙い?」

「え?」

「コズリ先生だよ」

「なんで?」

「なんでって?」

「いや・・・ショカは?」


「もちろん決まってるよ」

「デュオ先輩?」

 ショカははにかみ笑い。

「まぁ、そう」




 

 当日。


 マスカレードは夜に始まる。

 HRKにはパーティー会場がある。

 そのパーティー会場に、アンバー・ササラ・ショカが入ってくる。


「もうこんなに集まってんだ?」

「なんだかわくわくしてきた」

「そう言えば、アンバーは初めてよね?」


「そうなの」

「前の学校、女学院だっけ?」

「そう、ねぇ、あれ本物?」


 アンバーの視線の先に、天使みたいな羽を持つ男が歩いているのが見えた。


「いや、あれ背負ってんじゃん」


 よくよく見てみる。


「ああ、なんだ」

「あんた獣人的なひとがタイプなわけ?」

「ん~・・・そう、意外とそうかも」


「じゃあコズリ先生は?」

「なんでちょくちょくコズリ先生のこと聞くの?」

「なに、や、なの?」

「違うよ」


「じゃあ嬉しい?」

「そうじゃなくて・・・なんで?」

「なんでってなんで?」

「それ、この前もそんな話してなかった?」

「え?デジャ・ヴュ?」

「違うわよ。言ってたでしょうに」


「ごめん、忘れた・・・」

「もう、いい」


 男子は『仮面の乱』を再現するため、軍服に似た制服を着ている。

 金色の仮面が、顔半分を隠している。

 女子の仮面は白。

 赤と黒の市松模様のドレス。


 マスカレードのダンスの相手は、選ぶことができない。

 事前に約束していた相手と偶然出会えたら、恋人になるか、結婚する、というジンクスがある。

 男子達の恰好の告白期間だ。

 男子達にある権限で、女子から誘ってはいけないルール。


 音楽の授業は二学期に入ると、マスカレードにつぎ込まれる。

 全員が同じ動き、だったらしいが、設定が変わった。

 学年ごとにさびの振り付けが違うらしい。


 HRKは六年制、まだ創立二年だが、もう六年まで全学年、編入者がいる。

 アンバーはマスカレード初体験だ。


 踊るのかどうか、未だに迷っている。

 コズリ先生と踊れたら・・・

 そんな淡い思いが、なくもない。


「あ。いたよ」

「え?」


 そこには、仮面をしている男。

 明らかに教師の集まり。

 そこに、オレンジ色の髪をして、仮面をつけている人物がいる。


「行って来なよ」

「でも・・・」


「ほらっ」

 ササラに腕を引かれる。


 意を決し、近づく。

 曲が始まる。


 みんなが会場の真ん中に集まりだす。

 相手と順番の約束はしてはいけないことになっている。

 側にいる相手が、ダンスの相手だ。

 あぶれる者にも、ひとりで踊る振り付けがある。

 道化役にならなければいけないが、交代があるので、順番制だ。


 ササラは積極的だ。

 アンバーの腕を引っ張りながら、教師陣の側に寄る。

 ショカは鼻歌をうたっている。


「すいません。飲み物取ってもらえます?」

「ああ、どうぞ」


 コズリ氏が飲み物を三人分、渡してくれる。


「ありがとうございます」


 コズリ氏の表情が、変わった気がした。

 誰なのか気づいたのだろう。


「君達、相手は見つけたかい?」


 ロバート氏でしかないひとが聞く。


「彼女はまだですよ」

 と言って、ササラはアンバーを示す。


「誰とも約束をしなかったのか?」


「誘いがなかったわけではないのですが・・・乗り気になれなくて・・・」


 飲み物を一口飲む。


「そこの方々~」


 声をかけられ、コズリとアンバーは振り返る。

 パシャ。

 ジー・・・

「え?」

「なんだ?」

 生徒らしき者が、カメラを持っている。

 出てきた写真を渡した。

「どうぞ」


 アンバーが受け取る。


「まぁ・・・私、あんまりカメラ写りよくないのね・・・」

「じゃあ、もう一枚頼めるかな?」

「いいですよ」


 生徒がカメラを構えると、コズリはアンバーの手を取った。

 ひじの上まである手袋の甲に、いきなりキスをした。

「えっ?」

 パシャ。

 ジー・・・

 写真が出てくる。


 アンバーは呆気にとられている。

 コズリ氏は口元を上げた。

 今度はコズリ氏が写真を受け取り、満足そうにポケットにしまいこんだ。


「行こうか」

「え?」


「わたしでは不満か?」

「まさか」


「では、行こう。二年の振り付けだったな?」

「はい」


「じゃあ、私達も混じって来るね~」

「じゃ~ね~」


 ササラとショカは手を振りながら、相手を探しにダンスの渦に入っていく。

 はにかみ笑いを浮かべながらアンバーは、手を振り返す。


「行こう」

「あ、はい」


 渦の中に入る。

 両手を握り、いきなりターン。

 三回転したあと、また両手を握る。

 

 この気持ちを、何と例えよう?

 恋?

 そう。

 敬愛・尊敬と、恋愛感情は似ている、と誰かが言っていた。

 どれだろう?

 コズリ先生に感じている、この感情は・・・?


 ステップ。

 盛り上がり場。

 スッキプ、ステップ、前後前後。

 ターン。

 ドレスが広がり、円を描く。

 彼の顔を確認しようとする。

 口元を見て、ご機嫌なのが分かった。

 自然と笑えてくる。

 それを見つかる。

 目が合う。

 彼は、歯を見せて笑いかけてくれた。

 笑い返す。

 幸運?

 いえ、幸せ。

 

 なんだかとっても、幸せ。


 アンバーはさらに笑った。


 あとで聞いた話だが、フリーダンスの時、ショカはデュオ先輩と出会えたらしい。

 ササラも、約束していた数人の内、ひとりだけ出会えた人がいたようだ。

 ジンクスは、都合のいい時だけ信じるようにしている。

 二人が、この縁で、もっと幸せになったらいいな、と、アンバーは思った。


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