表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

五章・飼育塔の殺人事件



 飼育塔の飼育室。


 夏休みに入ると、もちろん動物達の数も生徒の分、ぐんと減る。

 飼育委員は、内申がいいので人気が高い。


 ショカは今年やっと、念願だった飼育委員に関わることができた。

 夏休み要員だ。

 生肉の入ったバケツを持っている。


「ハァイ」


 ご機嫌なショカ。

 鼻歌をうたいながら、バーリオンのいる檻に近づく。


 実は基本的に主人以外に禁止されているが、委員は檻の鍵を持ち、開閉が出来る。

 純粋に、バーリオンと戯れたかっただけだった。

 バーリオンのいる檻の鍵を開ける。


「あ」


 何かを思い出したようで、ショカは他の檻に近づく。

 デュオーリオンの、双頭カラスの檻だ。


 カシャン。


 錠前が床に落ちる音がする。

 ショカはその音に気づかない。


「具合よくなった?」


 バーリオンはそろりと扉に近づいた。

 押すと、簡単に扉が開く。


「君、ひとりかね?」


「え?」

 ショカは振り返る。


「お疲れ様」


 バーリオンの喉が鳴る。

 そこには、夏休み要員、用務員の男と飼育室担当員の男がいた。



 バーリオンは、大きな唸りをあげながら、ショカに飛び掛った。





「大変だっ」

 返り血を浴びた用務員が、保健室で叫んだ。

 保険医が声の方に振り向く。





 廊下をせかせかと歩く集団。

 ホーエン。

 ロバート。

 コズリ。

 数名の教師。

 デュオーリオン。

 偶然居合わせた、アンバーとササラ。


「本当に?」

「ああ、そうらしい」

「そんなことする奴じゃないっ」


「バーリオンは他種族に、あまりなつく生き物ではないんですよね?」

「あいつらは違うんだよっ」


 先ほどからデュオーリオンは、必死にバーリオンをかばっている。


「実際にひとり、喉笛を噛み切られて死んでるんだぞ?」

「でもっ・・・」


「でも、ではない・・・早急に判断せねば・・・」

「判断って・・・まさか処分っ?」


「その可能性もありうる」

「なんでっ?」


「だから殺人事件なんだぞ」

「きっと事故だっ。なにか理由があるんだよっ」


「ショカ・フロースの行方は?」

「分かっていません」


「用務員が言うには、突然ショカ・フロースに襲い掛かったと・・・」

「飼育小屋担当員は?」


「助けようとした所、喉笛を噛み切られたそうです」

「それで発砲を?」


「はい。彼、用務員の彼は魔法が使えませんので・・・銃を携帯していたそうです」

「許可は?」


「実はとっていないそうなんです」 

「彼が言うには、窓ガラスを破って森の方に入って行った、と」


「ショカ・フロースを背中に乗せて?」

「はい」


「バーリオンは獲物を背中に乗せる癖がありますなぁ」

「さっきからなんなんだ、あんた」


 デュオーリオンは教師のひとりを睨む。


「用務員は?」

「今、保健室で傷の手当をしています」


「ケガを?」

「腕に」


 数秒の、間。

 ホーエンの提案。


「まず、ショカ・フロースとバーリオンの行方を捜すのが先決だ」




 教師による、大捜索が行われた。

 HRKの敷地には、大きな森がある。

 捜索は困難だと、誰もが解っていた。

 二人一組で班を作り、捜索にあたった。



 

 談話室。


 ソファに腰掛け、貧乏ゆすりをしているデュオーリオン。

 アンバーが全員分のお茶を淹れる。


「落ち着いてください」

「あいつはあんなことする奴じゃないんだよっ」


「落ち着いて・・・」


 お茶の入ったカップを渡すと、デュオーリオンはゴクゴクと飲み干した。


「きっと何か、理由があるはずです」

「そうだよ」


 乱暴に、デュオーリオンはカップをテーブルに置く。

 向かい側のソファに座っているササラが言う。


「ショカが何で襲われなきゃいけないのさ?」

「だからっ、分かんないんだよっ」


「落ち着いて・・・」

「・・・ごめん・・・」



 ◇◆◇◆◇



 コズリと組んだのは、用務員の男だった。

 年齢は三十代ほど。


「なぜ休まれない?ケガをされてるんでしょう?」


 木の根に気をつけながら歩いている、コズリの質問。


「いや、あの子が心配で・・・」

「・・・そうですか・・・」



 ◇◆◇◆◇



「やっぱり俺もっ・・・」

 デュオーリオンは立ち上がる。


「ダメです。生徒は無断で森に入ってはいけません」


 冷静なアンバー。


「じゃあどうしてろって言うんだよっ?あいつ、見つかったら殺されるかもしれないじゃないかっ」


「だから、なんでショカをさらったのさっ?」

「知らねぇよっ」


 談話室から出て行こうとするデュオーリオン。


「ねぇ、どこにっ?」


「飼育塔だよっ」


 アンバーとササラは目を合わせる。

「どうする?」

「行く、でしょ?」


 アンバーとササラはソファから立ち上がった。



 ◇◆◇◆◇



「いたっっ」


 複雑に入り組んだ木の根の上に、メスのバーリオンが横たわっている。

 その体に凭れかかって、目をつぶているショカ。

 寝ているのか、気絶しているのか分からない。

 血だらけだ。


 傷を負っているのだろうか?


 バーリオンはショカを舐めている。

 遠目からだと、食べているようにすら見えた。


「いたぞっ」

「ショカ・フロースッ。無事かっ?」


 コズリは叫ぶ。


「いたっっ」

「待てっ。無闇に近づくなっ。応援を呼ぶっ」


 コズリの手には、いつの間にか魔法の杖がにぎられている。

 それを天にかかげた。

 雷光が上に向かって走る。

 合図だ。

 それとほぼ同時、用務員の男は銃を引き抜いた。

 銃声がこだまする。



 ◇◆◇◆◇



 晴天の霹靂。


「何だ、今のっ?」


 飼育塔のてっぺんにいた三人は、ちょうど手すりの内側から森を見つめていた。


「きっと合図だっ」

「見つけたんだっ」

 

 デュオーリオンはホウキを手にする。

 空中に浮かべると、それに飛び乗る。

 立ち飛びができるのは、学校でもデュオーリオンだけだ。


「生徒の無断飛行は禁止ですよっ?」

「バーリオンは主人の言うことしか聞かないんだよっ」


「じゃあっ・・・」

「俺は行くっ」


「私も行くっ」


 ササラもホウキに跨る。

 アンバーの答えを聞かず、デュオーリオンは空へ飛び立った。


「アンバーはここにいなよっ」

「嫌よ」


「は?」

「ショカは私の友達でもあるのよ」


「内申に響いたらどうすんのっ?私は別にいいけど、あんたは・・・」


「別にいいっ」


 アンバーはホウキを出すと、跨った。

 空で待っていたササラに近づくと、彼女は口元を上げた。


「行こうっ」


 二人はデュオーリオンのあとを追った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ