第9話:裁判
「さて、ユーリ、殺人未遂案件と聞いたがどういうことだ」
オレはギルドマスター室にいる。そこにはもう一人いる。それは勿論ギルドマスター。
Sランクパーティーの盾使いをしていた元冒険者のザジロッグギルドマスターだ。【絶壁不落のザジロッグ】と呼ばれていたらしい。
当時のメンバーは皆凄い地位にいる人物だ。
「はい。パーティー【ゴッドドラゴンズ】がパーティーメンバーのシーナをジャングの森にて置き去りにされました」
「それははぐれただけじゃないのか?」
まあ最初はそう思うよな。
でもそれが違うことを証明することができることがある。
「いいえ。【ゴッドドラゴンズ】は行方不明届を出さずにシーナを探しもしない。その上、酒場で「やっといなくなったぜ」という発言をバックスが聞いています」
「ほう。ユーリ達と【ゴッドドラゴンズ】の言い分が異なっているな」
アイツら、この期に及んでまだ逃げようとするのか。
やっぱり邪魔者ということだけは言えない。
なるべくそういうことは言わない方がいいと思った。
「ちなみにどういう言い分ですか?」
「森の中ではぐれ、探しても見つからなかった。そこでユーリ、お前が見つけてくれたと言っていた。だから感謝しているだそうだ」
うわ、嘘ばっかりじゃないか。
それにオレに感謝なんて絶対にしてないだろうし。
ジェイク君はもう目覚めたのか? ジェイク君自身が言ったのか、仲間の奴らが言ったのか。
まあどっちでもアイツらがクソガキ共だということに変わりはないな。
「ならギルド裁判を開くか?」
「いいんですか。こちらが勝った場合は【ゴッドドラゴンズ】をギルド追放してもらいます」
「ははっ、大きく出たな。良いだろう。【ゴッドドラゴンズ】が勝った場合はお前とシーナを追放してもらうと言っている。重い処分だが本当に良いのか?」
アイツら無謀にも程があるだろう。
馬鹿は痛めつけても治らないか。それを止めないパーティーメンバーも馬鹿だな。
勝てばシーナも一緒に追放できる。
そういうところだけには頭が働くんだな。馬鹿でも悪知恵は働くということは覚えておこう。
一生思い出したくない知識だがな。
「良いですよ。【ゴッドドラゴンズ】をギルド内で処分してあげるだけマシだと思いますから」
「確かに。もしも殺人未遂をしていたら国で裁かれる筈だからな」
そうだ。殺人未遂は一生牢獄生活か奴隷になるかのどちらかだ。
それも被害者がどちらにするかを決める決定権利がある。
「で、使いたいか、あれ」
「いいんですか? そっち持ちでお願いしますよ」
オレとギルドマスターが言っているのは、ある魔道具のことだ。
膨大な魔力が必要なためあまり使われることがない。魔道具自体も高いんだが魔道具代はもう払ってあるため残りは魔力が必要になる。
消費魔力は一般の魔術師二、三十人分くらいだそうだ。
一般の魔術師とは言っても、ソロランクがDランク以上またはパーティーランクB以上の魔術師が対象となる。
まあたまに例外となる魔術師もいる。オレみたいな奴とか。
「いや、それは厳しいぞ。あれは馬鹿みたいに費用がかかるからな」
まあ確かに費用はかかる。
まず協力してくれる魔術師が少ない。だから対価がものすごい量かかることになる。
払う分の金ともらえる魔力が釣り合っていないのだ。
「ちなみにいくらくらいですか?」
「三〜五枚くらいだな」
最大五枚の金貨か。
金貨なんて上位の冒険者以外見たことない代物だろう。
それにギルド職員でもギルドマスターがもらえる給料が金貨一枚。良い場合でも金貨二枚だと聞く。
そう考えれば、莫大な金を支払うことになるのは目に見えているのだ。
「まあいざとなったら使いたいので、準備だけしててください」
「そうか。了解した。裁判の日時は……今からでもいいか?」
は? 今から? どういうことだよ。急すぎだろ。せめて一日くらいは空けないとダメだろ。
でもこの人は意外と忙しい。
支部のギルドマスターとはいえ、ここは駆け出しの冒険者からベテランの冒険者までいる上に、その人数は百はこえるだろう。
しかもジャングの森が近くにあることで、遠くから来る冒険者もいるくらいだからな。
「予定が一週間ほど空いてなくてな。それに早い方がいいだろ?」
確かに一週間もあれば逃げられる可能性がある。
リーダーはあんな感じだが、もしも殺害しようとしたことが証明されればどうなることか。
だったら早い方がいいと思う。
「分かりました。今からお願いします」
今ならジェイク君が起きていないかもしれないから、うるさくなることも少ないだろう。
それに負けたことでうるさく言ってきそうだし。
「もう皆集めている。あとはお前だけだ」
「そ、そうですか」
このギルドマスター。最初からやるつもりだったな。
こんなに早く集めているってことはまあ確実にジェイク君はいないだろ。そこは良かったところだと思う。
「じゃあ、移動するぞ」
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オレとギルドマスターは会議室へと移動した。それも第一会議室に。
このギルドには三つの会議室がある。
第三はソロ冒険者または小規模パーティー同士の争いを解決するため。第二は大規模パーティーのため。第一はギルドの要人などとの会議のために用意されている。
基本的に冒険者が第一会議室に入ることはない。
今回が殺人未遂案件だとしても第一会議室を使う意味がわからない。
「ああ、言い忘れたことがある」
「なんですか?」
「観客がいるからな」
「はい?」
どういうことだよ。問題案件を取り扱う裁判に観客がいるってどういうことだよ。
マジで意味がわからないんだが。
そう思った時には第一会議室に着いており、すでにギルドマスターがドアを開けていた。
そこに広がった光景は、シーナちゃんとゴッドドラゴンズパーティー。それに数名のギルド職員がいる、そして後方に二十人以上の冒険者がいた。
本当に観客がいるとは。
ギルドマスターの冗談だと信じたかったのだが、それは淡い期待だったわけだ。
もう仕方ないな。
「クソおっさん! ズルして俺様に勝ったんだろ! 卑怯だぞ!」
え? なんでいるの、ここに。
もう起きたの? 無理矢理起こされたのかな? それにしては元気すぎる気もするけど。
このうるさい奴がいるとは。面倒くさいことになりそうだな。
ここでもうるさいか。挑発しておこうかな。
「ズルって。負け惜しみはダサいよ。負け犬の遠吠えにしか聞こえないし」
「はあ? たまたま勝てたからって調子に乗んなよ! クソおっさんの分際で!」
いや、さっきと言ってること変わってない?
ズルして勝ったって言った後は、たまたま勝ったって。たまたま勝ったmんだったら勝ちだからいいだろ。
「静粛に」
ギルドマスターがオレとジェイク君を睨みつけて言った。
会議を進行するのはギルドマスターのようだ。
それにしても怖いな。
ジェイク君とか明らかにビビってるし。
「それでは裁判を始める。まずはこの魔道具。記憶を映像化する魔道具を使ってもらう。対象はゴッドドラゴンズメンバー全員とシーナの五人。この記憶で判決を下す」
ちょ、なんで? 誰が魔道具の魔力代払うんだよ。
ギルドが払ってくれるんだよな? だよね? オレ、そんな大金持ってないよ!
「え? それはダメです!」
「何故だ?」
ゴッドドラゴンズのメンバー一人が魔道具を使うのを止めようとする。
このメンバーはきちんと頭が働くんだな。
止めようとするということは、殺そうとしたことを自覚しているということになる。
「いいじゃないか! これで俺様達が正義だということが証明されるんだからな!」
あっ、やっぱりこの子馬鹿だ。
自覚がないのか。結構ヤバめのガキじゃないか。
「じゃあ始める。まずはシーナからだ」
「は、はい!」
裁判のための記憶の確認が始まった。
「シーナちゃん、大丈夫?」
「はい。もう覚悟は決めましたから」
そうしてシーナちゃんは魔道具に触れた。