第7話:ギルドにて
「ユーリちゃん、いらっしゃい」
「ナチカさん。ポーション入ってるかな?」
「いつものでいいね」
「うん。それと一つ上のポーションあるなら一つ頂戴」
「分かったわ」
オレがいつも頼むポーションは低級五つと中級を五つ、それにシーナちゃん用の上級ポーションを一つ買うことにした。
ポーションも不足気味だったし、丁度良かった。
オレの中でいう不足が他の人では十分らしい。元パーティーメンバーやリアから何度となく言われたな。
まあより十分にすることに悪いことはないだろう。
普通の冒険者は低級が人数分あれば十分。上位の冒険者になると低級と中級が人数分と予備が少しあれば十分らしい。
だけどオレの場合は、仲間の分が一人五本ずつ(低級中級別)で予備が十本。勿論低級中級別で。
「これでいいかい? でも結構な値段するけどいいの?」
「大丈夫だよ。いくらかな?」
「銀貨二十枚と金貨一枚になるね」
そんなにするのか。
どれだけ上級ポーション高いんだよ。
ここは低級は普通の値段の銀貨一枚だけど、中級は銀貨が二枚も安い銀貨三枚だぞ。ということは上級ポーションは金貨一枚もすることになる。
「これでいい?」
袋から銀貨二十枚と金貨一枚を取り出した。
そしてナチカさんに手渡しする。
念のため余分にお金を持っている。
銅貨銀貨は勿論、金貨も数枚は持ってきている。
「確かにもらったよ。他にいる物はあるかいな」
「今日はこのくらいでいいよ。ありがとう」
「またいらっしゃいね」
「また来るよ」
そう言って魔道具屋を後にした。
まだ一般の人達にはオレがまたパーティーを抜けたことを知られていないようだな。
もうそろそろオレが【邪魔者のユーリ】っていうことが有名になりそうだけど。
でも一般人は有名冒険者のことを知っているが、それ以外の冒険者や冒険者の内情については疎い節がある。
冒険者と触れる機会が多い魔道具屋のナチカさんでも知らないんだから、冒険者と関わることのない人達はもう全く知らないだろう。
「シーナちゃん、はいこれ」
「これって、上級ポーションじゃないですか! 頂けません」
「お礼をっていうか、お返しだよ。お礼はまた別でやるつもりだから期待しててね」
上級ポーションはお返しとしては大きすぎるかもしれないが、このくらいしてもいいと思っている。
何故なら、シーナちゃんがいたおかげでデーモンを倒せたし命も助けてもらえたし。
このくらいしても罰は当たらないだろう。いやそもそもお返しに罰なんて当たるわけないか。
「で、でも……」
「受け取ってくれないなら、捨てるしかないか」
「ダメです! 物を粗末にするのはいけません!」
「ならもらってくれる?」
「はい、それなら」
真面目だなぁ。
冒険者って適当に物事を片付けるような奴が多いのに。まあ上級ポーションってところと新人冒険者ってところが要因かもしれないけど。
上級ポーションを捨てる奴なんかいるわけないだろうけどさ。
そんな奴がいたらただの馬鹿だろう。
「そういえば、ギルドに討伐報告した?」
「あっ、してないです」
やっぱりか。
オレが倒れたからそこら辺を後回しにしてたのかもしれないな。
報告や金よりも人命を優先するのは良いことだ。
マジでクズな冒険者は人の命よりも金を優先するからな。
そんな奴を何度か見たことがある。でもそんな奴とパーティーを組んだことは一度もないけどな。
そう考えてみれば、オレはパーティーメンバーに恵まれていたのだろう。
「ここからギルドは近いし、折角なら行こうか」
「そうしましょうか」
そして近くにあるギルドに向かった。
ギルドが近くにあるというよりは、ギルドの近くに魔道具屋や治療院があると言ったほうがいい。
ギルドの近くにあれば冒険者が多く来るから儲かるのだろう。
魔道具屋、武具屋、治療院などが多く並んでいる。
「魔石は持ってる?」
「はい。リアさんから言われて持って帰りました」
リアがいなかったら忘れていたのか。
命を懸けてまで倒したデーモンなのに、何もなかったら泣くところだったよ。
ギルドは討伐報酬と魔石報酬がある。
討伐報酬が出ないクエストは魔石報酬になり、討伐報酬が出るものは魔石報酬が出ない。
ただし討伐報酬で魔石が予想より大きかった場合は魔石報酬も追加でもらえる場合もある。
そうしているうちにギルドに着いた。
「ミンスさん。お待たせしました」
「ユーリさん、大丈夫ですか? 治療院に運ばれたって聞いたんですけど」
「ああ、少し身体が痛むけど大丈夫だよ」
「そうですか。良かったです」
心配してくれたのか。ありがたいな。
痛むのは少しではなかったが、動いていれば慣れてしまった。
「ミンスさん。デーモン討伐の件なんだけど臨時パーティー組んだからソロ討伐じゃなくてパーティー討伐ってことになるかな」
「了解しました。臨時パーティーですね。今パーティーを組めば、パーティーランクを一気に上げることが出来ますがどうしますか」
「それがこの子、違うパーティーに所属してるんだよね」
一応パーティーをやめるつもりだけど、オレとパーティーを組むかは決まってないからな。
できればここで決めてほしい。すぐにパーティーを抜けて組んでほしい。そうすれば少なくとも2ランク、多ければ3ランクアップが望めるかもしれないから。
ミンスさんと話しているとシーナちゃんがオレに引っ付いてきた。
「シーナちゃん、どうかした?」
「い、いえ、なんでも……」
明らかに怖がっているな。
誰か怖い冒険者でもいるのか? 冒険者にはいかつい奴がいるから仕方ないのかもしれない。
村出身ならあんまり冒険者を見たことないだろうしな。
まあいつか慣れることだし今は放置していても大丈夫だろう。
「シーナじゃないか、無事だったんだな」
いきなりシーナちゃんに話しかけてきたのは、シーナちゃんと年が近そうな少年だった。
シーナちゃんのことを呼び捨てにするってことは、それだけ親しい仲なのだろうか。
それとも少し知っているだけだけど、リアみたいに相手との距離感が近いパターンなのかもしれないな。
「ジェイク……」
「急に一人で何処か行くから心配してたんだよ。探したけどどこにもいなかったからさ」
「ちがっ」
シーナちゃんが反論しようとするも、ジェイクという少年に睨まれ黙ってしまう。
ジェイクって呼び捨てにしている。つまりある程度の仲であることは確かだ。
でも明らかにシーナちゃん、少年のことを怖がっているな。
「君達がシーナちゃんのパーティーメンバー?」
「そうだけど、それがどうしたのおっさん。早くシーナを返してよ」
おっさ……まだお兄さんだ。
お前らと五歳も離れてないわ。
こちとら思らよりも若い時から冒険者やってんだ。舐めるんじゃねぇよ。
冒険者がいくら実力主義だと言っても、お前らよりは強いに決まってるだろ。
「心配してたんだな。そういえばミンスさん」
「なんでしょう」
「行方不明届にシーナちゃんの名前ありますか?」
「えーっと、ありませんね」
やっぱりか。
心配しているなんて嘘だったんだな。
馬鹿にすることと嘘つくことしかできないクソ野郎なのか。
それでもシーナちゃんを取り返そうとするなんて何考えてるんだ?
「行方不明届出てないみたいだけど、本当に探してたの? 心配してるとかも嘘なんじゃない?」
「それは……。行方不明届なんて制度知らなかったんです」
馬鹿なのかコイツ。本当に馬鹿だとは思っていなかったんだが。そんな奴がいる状況でパーティーは成り立ってんのかよ。
「冒険者になるとき研修があっただろ? そのときに習ったはずだろ? 冒険者試験の筆記試験にもあったはずだし」
「そっ、それはですね、忘れてたんです」
「忘れてた? 君以外にも三人もメンバーがいるのに全員が忘れていたなんてことあり得るのかな?」
「皆んな忘れてたんだよ! そうだよな、皆んな」
シーナちゃんは完全にオレの後ろに隠れてしまった。
少年は後ろを向きメンバーに同意を求めた。
メンバーは「うん!」や「そうだよ」などと完全同意してしまっている。
「もし忘れていたとしてもギルドに帰ってきているなら誰かに言うはず。なのに誰にも言っていないなんて、もしかして置き去りにしたんじゃ」
「違っ! 俺達はずっと探してたんだよ!」
「探していた? ギルドに一度も帰らずに?」
「ああ、そうさ」
そう言われると返す言葉が見つからないな。
少年は勝ち誇った顔をした。
その顔を見た時、妙にムカついた。
コイツ、どうにかして懲らしめたいな。
殺したいとかは言わないけど。思いはするんだが。でもこの調子に乗っている姿を、泣き喚く姿に変えてやりたい。
「おい、【邪魔者のユーリ】!」
急にバックスから話しかけられた。
今かまってる暇ないんだけど。
「見たぜソイツら。昨日ここで酒飲んでたよ。確か、「やっといなくなったぜあの邪魔者が」とか言ってたな」
「へぇ、そうなのか。証言が出ちゃってるけど、本当に探してたの?」
バックス、ナイス!
初めてお前のことを良い奴だと思ったよ。ありがとうな。
それにしても、『邪魔者』か。オレと同じことを言われていたんだな。
オレは他人から。シーナちゃんはパーティーメンバーから。
その言葉を聞いてオレは二つの怒りが湧き上がってきた。
シーナちゃんを邪魔者だからといって殺そうとしたことに対しての怒り。そして仲間を幼馴染を邪魔者扱いしたことへの怒り。
同情から来た怒りなのかもしれないけど、それを放っておくことはできないかった。
「……」
「何か他に言い訳ある? 人殺しのパーティーリーダーのジェイク君」
「おい! 俺様を舐めるな! 決闘だ。俺達は人殺しなんかじゃない!」
決闘って、久しぶりに聞いたな。
決闘っていう一応ある古い制度は知ってるのに、行方不明届の制度は知らなかったって。
俺様系の自己中野郎か。
嫌いなタイプの人間だな。
「ガッハッハ! いいぞいいぞ!」
「やめてください。決闘なんてやらせるわけないじゃないですか」
そうだ、そうだ。
決闘なんてただ存在してるだけで、使わない古の制度だぞ。
「でも決闘には審判となる冒険者が必要だろ? それにソロランクがCランク以上じゃないといけないし」
決闘で死者を出すわけにはいかない。
だから決闘中に止めに入ることができるだけの実力を持った冒険者が審判を務めなければならない。
「ならやるぜ、審判」
バックス、何言ってんだよ。さっきの感謝を返せ!
確実にオレが勝つに決まってるだろうが。
オレがいくら弱いとはいえ、ソロランクはBなんだぞ。
それにうっかりしたらコイツを殺してしまうかもしれないだろうが。そこんとこ考えてんのかよ。
「そういうことなら、仕方ありません。訓練場で行ってください」
「いいな、おっさん。俺様が勝ったらさっきの発言を撤回しろ。それにシーナを返してもらう」
いや、だからおっさんじゃなくてお兄さんだから。
さっきの発言って人殺しだよな。ただの挑発にそこまで言うなんてまだまだお子様だな。
それにシーナちゃんがどうするかはシーナちゃんの自由だと思うしパーティー抜けるって言ってるし。
なんかシーナちゃんのことを物扱いしているような気がしてならないんだけど。
「ユーリさん……」
「大丈夫だよ。オレは絶対に勝つし、その後のことはシーナちゃんの自由だから」
シーナちゃん、自分の心配をするべきときにオレの心配をするなんて優しい子だな。
こんなクソパーティーにシーナちゃんを置いておくわけにはいかない。
「ジェイク君、行こうか」
シーナちゃんを解放するためにオレはこのクソガキをぶっ潰すと決めた。