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第6話:理由

 ふぅと息を吐き、改めて覚悟を決めたようだ。


「わたしって、弱いんですよ」


 シーナちゃんが一言にオレは何を当たり前なことを言っているんだと思った。

 冒険者になって約三ヶ月の新人が弱いのなんて当たり前。


「それが一番の原因だったんだと思います」


 弱いのが原因。だから囮にされたのか。


 デーモンが現れた。それも公爵級が。ならば逃げるだろう。

 この街に常駐しているパーティーで【フューチャー】が一番高いAランク。その次がCランクパーティーがいくつかあるくらい。


 もしパーティーがCランクだとしてもAランクの魔物相手に新人がいる状態で挑むなんて無茶だろう。

 Cランクパーティーだとしたら弱い新人冒険者を囮にし生き延びようとするように考えるのは仕方ないことなのかもしれない。


 でもシーナちゃんはそんなに弱いようには思えない。

 覚醒状態だったとはいえ、ちゃんとした強さを持っていた。

 覚醒しても魔術は使えない。だから自分の基礎的な身体能力にプラスαとしてある身体能力等が格段に上がっただけでこれほどまで強くなった。

 元々の基礎の能力はあったのだろう。


「へぇ、そのパーティーってどんなの?」

「【ゴッドドラゴンズ】っていうパーティー名で、同じ村出身の皆んなで組んだパーティーです」


 リアが少しイラついている様子で質問する。


 【ゴッドドラゴンズ】って、伝説上の神と同等の力を持つドラゴンの名前をパーティー名に使うなんて、流石に恥ずかしくないのか?


 でも同じ村出身ならそんなことしないだろ。

 幼き頃を一緒に過ごした仲間を容赦なく囮にするなんて、流石に酷すぎる。


「今考えてみれば、皆んなわたしのことを嫌っていたんじゃないかと思います。わたしってノロマで弱虫で勇気もなくて、だから戦いにもあまりついていけてなかったんです」


 ノロマで弱虫か。

 オレと一緒に戦ったときは、きちんと動けていたと思うんだけど。


 それに勇気があるからデーモンに立ち向かえたのだと思う。

 ノロマで弱虫なのはパーティーのせいなのではないか? だから戦いで一歩踏み出すことが出来なかったんじゃ。


「それで囮にされたって訳?」

「囮に、なるんですかね。デーモンに出会ったとき、多分誰かに背中を押されて転けちゃったんですよ。そこでリーダーが「早く逃げるぞ」って言って、わたしを残して行っちゃったんです」

「それは立派な囮にされたのよ。意図的に押して転けさせたんでしょうね」


 嫌われているからといってそこまでするのはどうかと思う。

 逃げるのに必死だったとはいえ、仲間をそこまでして逃げようとするとは。


 冒険者は命懸けだからこそ、その分の見返りがある。

 ハイリスクハイリターンというやつだ。


 そしてパーティーというものは一心同体と言っても過言ではない。

 そのパーティーのメンバーを見捨てる。いやこの場合は殺すと言った方が正しいだろう。


 リアが現実をシーナちゃんに突きつける。

 容赦がない。だけどいつか分かることを早くしただけだ。それはリアなりの優しさなのかもしれない。


「そう、ですよね」


 やっぱり信じたくないんだな。

 薄々嫌われていることには気付いていたんだろうけど、そのことに目を背けていたってところか。

 そして囮にされた。

 そのことでさえ認めたくない。でも心のどこかでは分かっている。


 オレは自分の弱さに気付いて、自分から離れられた。オレよりも絶対に辛いし悲しいだろう。だってシーナちゃんは追放という名で殺されかけたのだから。


「今からそのパーティーをぶっ潰しに行ってくるわ」

「えっ?」

「リア、やめておいた方がいい」


 リアは人に感情移入しやすい。それも直感でか真実だと分かることに対してだけ。

 だからシーナちゃんが言っていることは紛れもない事実なのだろう。


 オレはリアの行動を止める。

 何故なら、それをまだシーナちゃんが望んでいないからだ。

 今回のリアは本気でやりそうな気がする。それ程までにシーナちゃんに感情移入しているということだろう。


「シーナ。どうして欲しいの?」

「わたしは、パーティーを抜けます。それだけで十分です」

「……そう。シーナがそう言うならそうするわ。でも次何かされたら言ってね、アタシがぶっこ……じゃなくてお仕置きしておくから」


 リア、今ぶっ殺すって言いかけたな。


 でも流石のオレでもそうしたくなる。

 オレが弱者だからか、弱い者には手を差し伸べてあげたくなるのかもしれない。同情かもしれないな。


「じゃあ、オレのパーティーに入らない? シーナちゃんと臨時のパーティーを組んだとき力が覚醒したしシーナちゃんの手助けもできると思うからさ」

「少しだけ、考えさせてもらってもいいですか?」

「うん、勿論。パーティーに入らなくても、できる限りの手助けはするからさ」

「はい、ありがとうございます」


 できるなら入って欲しいけど、これ以上無理を言うのもダメだと思う。

 デーモンと戦うときに無理を言ったから。


 シーナちゃんはもしかしたら冒険者を辞めるというかもしれないな。

 パーティーメンバーに殺されかけたんだ。人間不信になってもおかしくない。それでもオレ達に真実を話してくれたということは、本当に心が強いんだと思う。


「あっ、そういえばユーリ」

「ん? どうかした?」

「アンタ、しばらく身体のあちこちが痛むと思うわよ。魔力欠乏症だって医者が言ってたわ。痛みが引くのに三日はかかるらしいわ」


 三日か。思ったよりも短いな。

 やっぱりスキルが覚醒したから魔力量も多くなったのかな。いつもの状態でやったら、一週間くらいはかかったと思うから。


「じゃあアタシはこれで行くわ」

「ん? どこに?」

「ゴブリンの巣を退治しに」

「そうか。ありがとうな。いつかお礼をさせてもらうね」

「その時は槍に加護をつけてもらうわ」

「ははっ、お手柔らかに」

「じゃあね」


 そう言うとリアは去ってしまった。


 それにしてもゴブリンの巣の退治って。また凄い依頼を受けたな。

 ゴブリンは単体では弱くても、集団になると異常なまでに強くなる。

 統率が取れるようになったり、武器を使うようになったりと様々な力を発揮するようになるのだ。


「シーナちゃん、ちょっと行きたいところがあるんだけど、一緒に来てくれないかな?」

「え? いいですけど、動けるんですか?」

「ああ、このくらいなら大丈夫だよ。前に起こした魔力欠乏症に比べたらマシだから」


 オレはベットから起き上がる。

 やはり身体中が痛む。リアの言った通りだな。でも叫ぶほどの痛みじゃない。まだ耐えれるくらいだ。


 以前は本当に一週間くらいは動いたら激痛が襲ってきて、泣きそうになってたから。

 まあそれに比べれば全然平気だ。


「どこに行くんですか?」

「魔道具屋」

「何か必要な物でも?」

「シーナちゃんが使ってくれた分のポーションを返さないといけないからね」


 無理言って戦わせた上に値段の高いポーションまで使わせたんだから、せめてポーションを返しておいた方がいいよな。

 お礼は別でするつもりだし。


「いいですよ、それは別に。わたしを庇って負った怪我なんですから。それに結局怪我を治したのは治癒術師さんですか」

「それでも、オレが返したいんだよ」

「で、でも」


 こういうタイプの子は最終的に受け取ってくれない場合が多い。

 だから受け取ってもらうためのセリフがある。


「受け取ることも大切なことなんだよ。厚意を素直に受け取るのも優しさの一つ」

「そういうことなら」

「それじゃ、行こうか」


 そしてオレたちは治療院を後にした。


 ちなみに治療院の治療代はリアが払ってくれていたらしい。

 本当にありがとう。治療院って意外と金がかかるから。

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