第4話:もう一度
力?
どういうことだ。
【育成者】の力は発揮されているはずだろ。
パーティーメンバーに成長速度などを加速させたりしていたんだから。
【育成者】
所持者のリミッター解除。
【教え子】の潜在能力解放。
「急に力が……魔術、それにスキルまで」
「オレもだ。力が、湧いてくる」
数分後、オレと少女は落ち着くことができた。
オレの場合、体内の魔力量が急増した。それに慣れるまで数分かかった。
少女の場合は、潜在能力が覚醒したようだ。そして魔術を覚えたらしい。
「どういうことですか、これ。わたしが使えない魔術が使えるようになっています。それに【教え子】っていうスキルも持っています」
どういうことだ。
スキルは先天的なもので、後で取得することはできないはず。
そんなことが可能なのか? 潜在能力ということは元々持っていて隠れていたスキルが現れたのか。それともオレの影響で?
それにオレも、全属性の魔術が上級まで使えるようになっている。
スキルの覚醒。ということは今まで制限されていたということになるのか。
「分からない。けどオレのスキルの影響だと思う」
「スキルだけでここまでの力を引き出せるんですか? 凄いですね!」
少女は目を輝かせてオレを見てくる。
普通ここは喜ぶんじゃなくて、おかしいと思うんじゃないか?
自分になんらかの影響を及ぼしたんだ。怒っても仕方がないことだ。
それにオレのスキルが力を発揮したとして、条件はなんだったんだろう。
【育成者】と【教え子】だから間違いなくオレが少女になんらかの影響を及ぼしたのに違いない。
恐らく、オレと少女に臨時だがパーティーという関係性ができたこと。そしてリーダーがオレということがスキルが覚醒した要因じゃないかと思う。
【育成者】のスキルが覚醒して、少女には【教え子】っていうスキルを獲得した。
育成者=リーダー、教え子=メンバーということ。
だから教育をする者として実力を発揮しなければならない。そして最初の教えとして潜在能力の解放。
【教え子】というスキルが潜在能力の解放を引き起こし、オレと少女はスキルを通じて結ばれている。
もしかしたら、少女がメンバーじゃなくなれば、オレの力も少女の力も戻ってしまう可能性もある。
でも今は喜んでみるのも悪くないかもしれない。
この力があればデーモンに勝てるかも。
「行きましょう、デーモンを倒しに」
「行ってみようか。でも慎重にね」
「はい」
オレも少女もやる気を出した。
今力を得て、自信がついた。
この自信が命取りにならないようにしなければ。だから慎重にと念を押したのだ。
過度な自信は命取りになるが、ある程度の自信は力を引き出すことができる。
そしてデーモンが見える場所まで戻ることに成功した。
「行くよ」
「はい!」
作戦はオレが囮となり、デーモンを引きつける。
そのうちに少女がデーモンに攻撃を仕掛けトドメを刺す。
ただこれが通じるのは一度だけ。
つまり失敗したらどうなるか予想できない。
パターンはいくつか考えてはいるものの、絶対にそうなるという確証がないため危険ではある。
少女は木の上を飛び移り、デーモンの死角を探しながら素早く動き回る。
オレは再び〈魔術剣〉擬きを作り出し戦う準備を整えた。
「デーモン、こっちに来いよ。殺してやるから」
「グギギィィイイ!」
オレはデーモンに初級闇魔術〈挑発〉を使い、デーモンの意識を出来るだけオレに向かせた。
そして先ほど作った〈魔術剣〉擬きで攻撃をする。
防がれる前提で攻撃している。
自分を強化していない今、どう足掻いてもデーモンに攻撃を与えることはできない。ならば防がれるような甘い攻撃をして、なるべく相手からの攻撃を防ぐことに注力する。
魔術剣を使って攻撃してるのに素手でそれを防ぐって、やっぱり魔物は異常だな。
いや普通の魔物だったらこうはならないだろう。このデーモンが異常なくらい強い。流石は公爵級と言ったところだ。
オレが攻撃を仕掛けるとデーモンが即座に防ぐ。
そしてすぐにオレがその場から離れ、デーモンの視覚外と思われるところから攻撃をまた仕掛ける。
だが直感なのか気配で分かるのか、はたまた魔法か何かで視野を広げているのか。どれだとしても意識をこちらに向けられてばいいだけだ。
少女がその状況で死角を見つけることが出来ればいい。
「グギ」
「早くしろよ」
オレが振った剣がデーモンに触れた。
その時、少女が木から飛び降りデーモンの頭を狙って剣を振りかざした。
挑発したことで死角が出来た。もしくは死角が広くなったのかもしれない。
どちらにせよ攻撃できる隙が出来たのは良かった。
「グギギギィ」
「チッ、下がって、早く」
「はっ、はい」
オレは少女に指示を出して、それぞれ後ろに下がる。そして木の上に隠れた。
そのときデーモンはわざと逃したように思える。
何故ならオレは攻められたら防げるかもしれないが、少女は無理だっただろう。
覚醒し潜在能力が現れても魔術などはすぐ使うことは難しい。それに戦闘経験が圧倒的に不足しているように見える。
予想していたのか。それとも魔法であらゆるところを見ていたのか。
いや最初から少女のことを見ていたのだろう。だから意図的に隙を作ったのかもしれない。
変異種の魔物には知能を持っていると聞いたことがある。なりかけでも知能を持っているのか。
魔物は基本的に本能のままに行動をする。けれど変異種は知能があるから、普通の魔物がしないような行動を取ることもできる。
今の行動で知能があるということに確信を持てた。
「どうしましょう、逃げますか?」
「いや、それは無理そうだ。完全に目をつけられた」
デーモンが目をつけた獲物は確実の捕まえる。どれだけの被害が及ぼうとしても。
生きるためにはデーモンを殺す方法以外ない。
つまりオレ達には戦い殺す以外の方法がなくなったことになる。しかも目をつけたのはオレと少女二人ともだ。
少女を逃がしてもオレが殺されれば標的は少女に変わってしまう。
殺すか殺されるか、生きるか死ぬかの道しかない。
目をつけられてなければ失敗後の作戦を実行することが出来たが、それはもう不可能。
失敗後の作戦は全てが逃げる作戦だったのだから。
「幸いなことに興奮状態ではない。興奮状態になる前に仕留めよう」
「はい。でもどうするんですか?」
そうなんだよ、どうすればいいのかオレでも分からない。
臨時のパーティーだ。お互いを意識して連携を取ろうとしても無駄だろう。失敗に終わる未来しか見えないからな。
ならば作戦を考えた方がいい。
でもどんなに良い作戦を思いついたところで、完全に絶対に勝てる作戦を思いつくことができない。まあそんな作戦を思いつける奴なんていないだろうけど。
でも勝率が九割以上の作戦が望ましい。
でも思いついた作戦は賭け要素が非常に大きい。
「デーモンの弱点は光魔術。オレは光の上級魔術を使う」
「え、でも上級魔術は詠唱に時間がかかるんじゃ。詠唱中のデーモンの相手をどうすればいいんですか」
「オレがアシストするよ。君はいつも通りに戦って、オレが強化と援護をするから。その代わり詠唱時間は通常の三倍はかかると思ってほしい。それとなるべくオレにデーモンを近づけないでほしい」
「わ、分かりました。でも、わたしに出来る気が……」
不安なのも分かる。
オレだってこんな賭けをするのは嫌だ。
なら逃げ出せばいいんじゃないだろうか? それで体制を立て直したあとに挑めばいい。
でも邪な考え方だが、ここで少女と協力してデーモンを倒せばパーティーを組める確率がぐんと上がる。そしてこの力を維持できるかもと。
それに体制を整えるために下がってしまったら街に被害などを及ぼしてしまう可能性がある。
誰かに協力を仰ぎたいがそれはもう不可能なのだ。
これは下手したら死ぬかもしれない。
けどオレとしては命をかける価値がある。
これは少女からしたら迷惑以外のなんでもないだろうけど。少女が死んでしまったら、オレが殺したようなものだ。
だとしてもオレはこの勝負に賭けて勝つ。
勿論、オレと少女どちらも生きた状態でだ。
「安心して、いざというときはオレが守るから」
「は、はい!」
守ることなんてできるはずがない。
これは安心させるための嘘。
「もうすぐで居場所を突き止められる。その前に動こう」
「勝ちましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
オレは驚いた。
こんな状況で勝ちましょうなんて言える奴は滅多にいない。
絶望的と言えるこの状況。
この子は馬鹿なのかと思ってしまったが、今はその言葉が自分の中で良い方に作用した。