第3話:本当の力
「クッ、は、は、はぁ」
流石は公爵級のデーモンだな。
まだデーモンは魔法を使っていない。ずっと殴る蹴るの攻撃だけ。
オレはその攻撃を避けながら、危ない時は短剣で攻撃を防いでいる。
やっぱり、舐められてる。
こちらもあまり魔術は使っていない。
使っているのは〈体力強化〉だけ。
流石にこれだけは使っておかないと体力切れで負けてしまう。
オレが負けてしまえば、オレも少女も死んでしまう。
いざとなれば、あの子だけでも助けるとしよう。
でも魔術魔法勝負となれば圧倒的にオレが不利。使える魔術的にも魔力的にも勝ち目がないといっていい。
オレは大きく後ろへジャンプし距離を取って作戦を考える。
「一発だ。まず一発決めよう」
相手が本気を出す前に倒したい。ならば一撃で仕留めれば良い話。なんだけど、オレにはその力が無い。
体力勝負になれば良くて五分五分だろう。悪ければ三割を切るかもしれない。
先手で思いっきりダメージを食らわせることが、作戦の第一歩だ。
「〈光剣〉〈硬質化〉〈鋭利化〉」
オレが短剣を使う時に、短剣に付与する魔術を使った。
〈光剣〉は短剣を長剣にする。短剣を包み込んで先は光の力を強く反映した魔力で成り立っている。
〈硬質化〉は魔力を硬質化し、霧散しづらくする。
〈鋭利化〉は硬質化した魔力を鋭利化し、剣として成り立たせる。
これは〈魔術剣〉に似せて作った物。
つまり模造品だ。
魔術を短剣に付与すると、短剣が光を纏った。
「〈超加速〉ハアッ!」
魔術を使って、普通の人間じゃ捉えられなくらいのスピードでデーモンのところに移動する。
そしてデーモンの首に向かって剣を振った。でもあっさりと手で剣を受け止められる。
「チッ。ミスったな」
自分のスピードも上げておくべきだったな。
〈速度強化〉した上で使えばもっと早く動けた筈。でもその程度ではデーモンに攻撃を食らわせることは出来なかっただろう。
もう相手は本気を出す筈だ。
魔法も本格的に使ってくる頃合いだろう。
このままではオレが負けてしまう。
「グギギ」
そして予想通り魔法を使われた。魔力を弾丸状にして飛ばしてくる。
魔術でもある初歩的な闇魔術〈魔力弾〉と似たようなものだ。
オレは放たれたのとほぼ同時に避けるために動いた。
オレが避けた先にあった木に当たり、その木は簡単に貫通して倒れた。
弾丸という大きさじゃない。
砲弾と言った方が正しいくらいの大きさの弾丸とだった。
これは、速さも威力も段違いだ。
やはり変異種になりかけだけあって強いな。もう少しで変異種になれるところまできてるんじゃないか?
まともにやったとしても死ぬしかない。
それに下手したら少女に当たってしまう。それも考慮しながら戦うのは流石にキツい。
一度下がって、あの少女をこの森から出そう。
一対一の方が戦いやすい。
勝てるかどうかは別問題だけど。
「グギギ」
「はっ?」
デーモンは少女の居場所を感知してしまった。
そして少女に向かって、先程オレに向かって使った魔法を使ってきた。
「〈光盾〉!」
少女に向かって魔術を使う。
危機一髪のところで、守ることに成功した。
危なかった。
オレの魔術だったら貫通されるかもと思ったが、打ち消し合ったお陰で守ることができた。
もう気付かれてしまったのなら、逃げるしかない。
デーモンの特性として、興奮状態じゃない限り自分の住処からは動くことはない。
幸いにもまだ興奮状態には入ってないようだ。攻撃を一度でも当てていたら、手に負えなかったかもしれないが。
デーモンは爵位が高い程、興奮状態になりにくい。つまり余裕があるから、興奮状態になる必要がないということだ。
でもどうして気付いたんだ?
やはりオレの魔術が甘かったのか。それともオレの魔術のレベルを超すくらいの感知能力を持っていたのか。
どちらにしても逃げる以外の選択肢はない。
これ以上戦っても無駄としか思えないからな。
「逃げるよ」
オレは少女の元へ行き、抱きかかえて森から素早く撤退した。
木の上を飛び移って移動したので、魔物に見つかっても撒くことができた。
「す、すみません」
森から抜けると、少女が頭を下げて謝ってきた。
「わたしが居たから、本領を発揮できなかったんですよね」
この子、鈍いな。
全属性魔術師と事実だが殆ど嘘のようなことを言ったのに、まだそれを信じているとは。
でもオレ一人じゃ精々相打ちで終わるだろう。ここは頼りたくないが、スキルとその特殊能力を使うべきか。
「君、オレのパーティーメンバーにならないか?」
「え? どういうことですか?」
「少しの間でいい。オレのスキルを使えば、一時的だが強くなることができる」
スキル【育成者】の力はパーティーメンバーの成長度の加速。
それと特殊能力として一時的に使用相手の能力を格段に上げることができる。
「恐らくだが、オレ一人じゃ相打ちが限界だ。勝ったとしても戻れる力がない。だから君の力を貸してほしい」
「臨時のパーティーを組んでくれ」
「で、でも……」
オレは頭を下げてお願いした。
やっぱり躊躇うよな。
あんな強い魔物を見た後で、立ち向かおうなんて言われても躊躇するに決まっている。
しかも変異種に近い存在なのだ。そんな魔物に立ち向かおうなんて思えるはずもない。しかも殺されかけているのだから。
「いざとなったら、君だけでも逃す。だからどうか頼む」
再び頭を下げ、お願いする。
これで断られたら、ギルドに戻りクエスト失敗の報告をするしかない。
降級まではしないと思うがしばらくはBランク、下手したらCランクのクエストを受け続ける羽目になる。
「わたしには戦えるような実力がありません。だから、やっぱり……」
そうだよな。誰だってそう思ってしまう。
ましてやこの子はオレが来なかったら死んでた可能性だってあるんだから。
少女は下を向き、どうしようかと悩んでいるようだ。
ここは狡いがこの手を使う他ない。
「なら、オレだけでも行くよ。一つだけお願いだ。オレが一時間以内に戻って来なかったら、死亡報告を出してくれ」
「えっ、そんなことできません! 勝てないかもしれないなら、戻りましょう」
まあ、だよな。その反応が正しい。
でもこれ以上はパーティーを組んでくれる奴はいない。
だからソロ冒険者としてオレは成り上がるしかない。
ソロでSランクになる以外の道はないと思っている。
だからここでデーモンを倒せばアイツらに追いつけるかもしれない。そんなチャンスを捨てたくない。
オレはいつの間にかそんな淡い希望を持っていた。
心の中で無理だと思っていたのに、持ってしまった。
だからチャレンジくらいはしたい。無茶して死んだら冒険者としては仕方ない死に方だ。
「じゃあね。その命、無駄にしないように」
まあ、頑張れば奇跡くらいは起こってくれるだろう。
このスキルっていう不幸がオレには永遠に付き纏うんだから、こんな時くらいは幸運をもたらしてくれたって罰はないだろうな。
そうしてオレはもう一度森の中に入ろうとする。
「待ってください!」
「ん? どうしたの? 君は待っててくれればいいから。ほんの一時間だけ。それがオレへの恩返しってことで」
なんかこう言うと、オレが意図的に恩を売ったみたいに聞こえるが、まあいいだろう。そのくらいは。
「わたしも行きます! 臨時のパーティーメンバーになります!」
「いいの?」
「はい。助けられた命ですから、それに見合うくらいの恩は返したいので」
「そんなに気にしなくて良いのに」
さっきオレが言ったことが少女の意志を変えてしまったのかもしれない。
まあ意図的に変えたと言えるかもしれないが。
命を助けられた分だけの恩は返す。律儀だな。
でもその恩返しは最高だ。
「いいえ。恩は返さないと。もう一生返せないのは嫌ですから」
こうなった人は意志を変えてはくれない。
オレもこういう奴に会ったことがあるから、なんとなくで分かる。
命を懸けてまで恩返しをするなんて奴はそうそういないだろ。
誰だって自分の命が大事だ。だから命懸けの冒険もしたがらない。
命と恩返しで恩返しを優先するような奴はある意味馬鹿だろう。でもそんなある意味馬鹿な子で凄い子で良かった。
「ついて行きます、リーダー!」
「ありがとう」
条件クリア。
【育成者】解放。
スキル【育成者】の力を発揮します。
所持者及びその仲間の力が覚醒します。
そんな意味不明な声が聞こえた。