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第25話:覚悟

「これで完璧ですね」

「あ、ありがとう、ございます」


 何だったんだ今の。


 オレは領主の館に入りシーナとは別々の部屋に案内させられた。

 大方洋服を着せられるから別々にされたのだろうと思い、その状況を飲み込んだ。


 けれど入った瞬間に、三、四人の男性からものすごい勢いで服を着せられ髪などのセットもされた。

 何が起こったのかわからないくらいの速さで着替えるのが進み、オレはほとんど動かずに完了してしまった。

 時間的には十分もかかっていない。


「失礼します。似合っていますよ」


 キサエルさんが部屋に入ってくると、オレの姿を見てすぐに褒めてきた。


 恐らく社交辞令みたいなものなのだろうな。

 思っていないことでも自然に本当に思っているかのように言えるのは凄いことだ。


「シーナはどんな感じですか?」

「もうそろそろ終わる頃だと思います。ついてきてもらえますか?」

「あっ、はい」


 キサエルさんについていくと少し離れた部屋に行き、その部屋に入った。


「失礼します。シーナ様、お似合いですよ」


 シーナはとてもとても可愛くなっていて、いつものシーナらしさがありその可愛さをドレスで際立たせている。


 可愛いな。

 やっぱり思っていたことだけど、シーナって可愛いんだな。

 それにドレスのおかげもあって凄く綺麗だ。


「ユーリ、ど、どうかな?」


 シーナが少し照れた表情を見せながらオレに感想を求めてきた。


「とても綺麗で可愛いよ」


 オレは今思ったことを素直に言うと、シーナは顔を真っ赤に染めて横を向いてしまった。


 シーナってこういうことを言われるのに慣れてないんだな。オレもあまりこういうことを本心から思いそれを口にしたことはあまりないけど。

 でもシーナには言っていいと思ったし言いたいとも思った。


「あ、ありがと」

「うん」


 ああ、絶対にオレの顔も真っ赤だな。とても顔が熱く感じる。

 冷静に考えるとこんなことを言うのは恥ずかしいことだと気づき、オレまで恥ずかしくなってしまった。


「ではお二人とも、こちらへ」

「「はい……」」


 声が重なってしまい、ますます顔が熱くなるのを感じる。

 シーナを見ると下を向き耳まで真っ赤なのが分かった。


「もう領主に会うんですか?」

「はい。ビーゼジル様は子爵家ながらこの国の宰相を務めている凄いお方なのです。領地でスタンピードが起きたと聞いて、一時的に領地に戻ってこられました」


 そういうことか。

 領主を見たことないのはそもそもあまり領地にいないからか。

 それにオレは貴族についてあまり詳しくないが、宰相は凄く偉い役職と聞いた。それを公爵家を差し置いて子爵家なのに務めるのは確かに凄いことなのだろう。


 今の王様は能力を重視する人だと聞いたから、宰相になれるくらいの才能を持っているということか。


「ビーゼジル様が気軽に話せるようにと、そこまで広い部屋ではありません。それに部屋の中にいるのはビーゼジル様だけです」

「了解しました」


 良かった。色んな人の前で領主と話すなんてことだったら、心臓が飛び出しておかしくなるところだったからな。


「こちらがビーゼジル様がいる部屋になります」


 止まった部屋は確かにあまり大きそうには感じないドアがしていた。

 オレ達のことを思って配慮してくれたのだろう。


 キサエルさんがノックをする。


「入ってよい」


 領主の許可を得ると、ドアを開き部屋の中に入った。


「君達が魔族を倒したという冒険者か」

「はい」

「そんなに緊張しなくてのいい。こちらに座ってくれ」


 領主の雰囲気はとても優しそうで、気さくそうな人だ。


「この度はスタンピードを止めてくれて感謝する。その上魔族の討伐までしてくれて、なんとお礼を言えばいいか」

「領主様、頭をお上げください」


 そう言って頭を下げてきた領主。

 オレは慌てて頭を上げるように頼んだ。


「ありがとう。お礼といってはなんだが、これを受け取って欲しい」


 目の前に出された袋に入っていたのは、袋から溢れ出しそうなほどに詰められた金貨だった。

 袋は三つ出され、一つだけ明らかに量が多かった。


「この二つは魔族の討伐とスタンピードを止めてくれたお礼だ。そしてこれは国王様からのお礼として貰った魔石の代金だ」


 ああ、そういうことか。明らかに金貨の量が多い袋は魔石の購入代ってこと。

 まあ魔族の魔石は高額だよな。

 それが市場に出回るくらいなら、国が保管しておいた方がいい。


 あの魔石には小さいくせに凄い量の魔力が入っていて、色々なことに使えるような物だ。

 そんなのが市場に出回れば、悪用されかねない。ならば国で保管しておこうってことになったのだろう。


「ありがとうございます」

「あっ、ありがとうございます」


 オレがお礼を言うと、それに続いてシーナもお礼を言った。

 シーナはまだ緊張しているようだった。

 それにこんな量の金貨を見せられたら、驚くに決まっている。


「それでなんだが、一つ頼みがある。お願いしてもいいだろうか」

「……。内容を確認してからでいいでしょうか」


 なにか厄介なことな気がする。

 そんな匂いのするお願いを二つ返事で応えるような馬鹿な真似はしない。


「入ってきていいぞ」


 そう領主が言うと、ドアが開いた。入ってきたのはドレスを着たいかにもお嬢様みたいな女の子だった。


「私の娘のエムラだ。是非君達のパーティーに入れてくれないだろうか」

「はじめまして、ご紹介されましたエムラ・リエータです」


 娘を冒険者にしたいって正気なのか?

 冒険者は危険な仕事ってことを知った上でのことだよな。


「どういうことでしょうか?」


 オレは一度確認してみる。

 本当に冒険者にしたいのか、それともパーティーというのは別のことなのかもしれないと思ったからだ。


「わたくしを貴方様の冒険者パーティーに入れてもらいたいのです」


 エムラというお嬢様から説明を受けた。


 これは断るべきだな。

 オレとシーナのためにも、このエムラちゃんのためにも。


「……無理です」

「なっ、なんでですか!」


 断られたことに驚き、思わず声を上げたエムラちゃん。


 そりゃそうでしょ。

 エムラちゃんがもしも死んでしまった場合、オレは責任を取ることができない。

 それに素人と思われる子を冒険者なんていう危険な仕事に就かせるわけにはいかない。


 冒険者っていうのははたからみればカッコいい仕事かもしれないが、本人達は必死で戦って金を得ているんだ。

 そんな遊び半分な子を冒険者にすることなんてできない。


「ユーリ殿、何故でしょう」

「冒険者という仕事は常に命の危険が伴います。そんな仕事をお嬢様にさせるわけにはいきません」


 断るにはこれが一番いい理由だろう。


「わたくしは、魔術適正もありますし槍も使えます。きちんと戦えるはずです」

「『はず』じゃダメなんですよ。冒険者は0か100かの仕事なんです。0とは絶対に勝てないんじゃなくて負ける可能性があるもの、100は絶対に勝てる成し遂げられるものです」


 オレはデーモンと戦って改めて実感した。

 冒険者とは100である絶対に勝てるクエストをするべきなんだ。無茶をして死んでいった冒険者を何人も見てきた。

 だから『はず』というのじゃダメだ。


「勇気を出して勝てた。それは確かに格好良く素晴らしいものです。でももし負けていたら死ぬんです。それは無謀と言うんですよ。勝ったという結果が冒険者では大切です。でもそれはただの結果論にすぎません」


 勝ったという結果、それが一番重要だ。

 けれどそれは実力を発揮したんじゃなくて、運が良かっただけだ。

 勇気なんてものは実力を引き出すのに少しは影響するかもしれないが、結局は努力や才能、そして経験が必須だ。


「勇気で勝ったというのはたまたまです。そんなのが毎回続くような甘い世界じゃない。この街の冒険者でオレが見てきた死者は何人だと思いますか?」

「二、三人……」


 やはり甘いな。この冒険者という世界を完全に舐めている。

 二、三人で済むような世界ならどれだけいいことか。


「毎年少なくとも十人前後は死んでいます。それが全て魔物に殺されるわけじゃない。護衛のクエストを受けて盗賊などに殺される人もいる。貴女は人を殺せますか?」


 人を殺せるか。それは極端な例だ。けれどないわけではない。実際にあったことなのだ。

 敵は魔物だけじゃない。


「こ、殺せます」

「そうですか。ならそれが肉親でもですか?」


 肉親を殺せる冒険者なんてあまりいないだろう。

 でもこれは脅しだ。冒険者をやるにはそのくらいの覚悟が必要だということだ。それに冒険者のさせないために言っている。


「それは……」

「相手が肉親でも悪の道に進めば、そいつを殺したことは正当化される」


 盗賊の討伐クエストが出るくらいだ。

 でもそのクエストで盗賊を殺す冒険者は少ない。大抵は生捕りだ。

 だけど自分が死にそうな時に襲われたら相手を殺さなけえばならない。その覚悟がない冒険者は続けることができない。


「ユーリ、そのくらいで」

「シーナ殿、いいんです。ユーリ殿が言っていることは極論かもしれませんがあり得ないことではない。娘を思ってのことだ」


 シーナがオレを止めようとするが、それを領主が止めてきた。

 領主もエムラちゃんには冒険者になってほしくないんだろう。


「オレの二つ名、知ってますか? 【邪魔者のユーリ】って言うんですよ。こんな二つ名を付けられたのは色々なSランクパーティーを離脱してきたからです。だけどそんなオレだからわかるんですよ。覚悟のない奴は強くなれない。それどころか死ぬかもしれない」


 オレの元パーティーメンバー達は確かに大きな才能があったのかもしれない。けれどそれに勝るくらいの努力をした。

 その努力と才能のおかげで強くなった。

 でも強い魔物に挑むのは覚悟と自信が必要だ。今まで積み重ねてきた努力や経験があったから、Sランクまで上り詰めた。


「覚悟ならあります! 絶対に強くなってみせるって!」

「ならばお嬢様と領主様の命を天秤にかけた時、貴女はどちらの命を取りますか?」

「わたくしは……お父様の命を取ります」


 その答えは間違っているわけではない。でも強くなれる奴の答えではない。

 ここはあえて冷たく言おう。


「それは偽善者の考え方です。かと言って自分の命を取るのは自己中の考え方。強い奴強くなれる奴っていうのは両方を救うって答えるんですよ。どれもが正解です。けど強い奴強くなれる奴は両方とも救うという覚悟を持っているんです。たとえそれが両方とも救えなくとも、救おうとするんですよ」


 何度か元パーティーメンバーにこのことを聞いたことがある。

 強くなった奴は両方ともと答えた。強くなろうとしている奴も同じ答えをした。


「冒険者をするのには才能、努力、経験、そして覚悟が必要なんです」

「わたくしは……それでも冒険者になりたいんです。昔助けてもらったあの冒険者様みたいな冒険者に」


 ああ、この子も冒険者の救われた類の人間か。

 だからここまで冒険者に固執するわけだ。


「……分かりました。いいですよ」

「えっ、ほんとですか!」

「はい。ですが一週間、自分なりに特訓して下さい。それを見て判断します」


 少し同じ気持ちの人間だと知っていいかもしれないと思った。

 だけどそんな人間だからこそ死なせてはいけない。

 夢は夢のままの方が何倍もいいんだ。夢は幸せ、そんな幸せを壊すようなことはしたくない。


「分かりました! 今から特訓してきます!」


 そう言ってエムラちゃんは走って部屋を出て行った。


「本当にいいんですか?」

「はい。けれど厳しく判断させてもらいますから」

「それでもいいです。父親としては複雑な思いですが、ここは娘とユーリ殿に任せます」


 そうだよな。わざわざ死地のような場所に送り出すような真似をする親はいないだろう。だけど娘の夢も応援したいはず。

 だからここは娘に全てを委ねたんだろう。


「ではオレ達も失礼します」

「失礼します」

「一週間後、また馬車を送ります」


 そう言って部屋を出て、馬車に乗りギルドへと戻った。

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