第23話:過去
「ここ、は?」
オレが見た景色は治療院でも宿屋でもない天井。
そうだここはギルドの特別治療室だ
「ユーリ!」
「ん? シーナ? どうかしたのか?」
起き上がると横にはシーナが座っており、壁際にはリアがもたれかかっていた。
シーナは涙目でオレの名前を呼んだ。
この光景、以前にも見たな。
その時はデーモンを倒した後で、オレが倒れてからリアに運んでもらったんだっけか。
今回も気絶したからリアが運んでくれたのかな?
「ユーリは、三日も眠ってたんですよ」
シーナは少し笑ってそう言った。
目の下はクマができていて、涙を流したあともあった。
三日……。マジかよ。オレそんなに眠ってたのか。
それにシーナに心配をかけてしまったな。
「シーナ、ごめんね。心配かけて」
「ううん、ユーリが生きてくれててよかった。でもなんであんなに怒ってたの? なんかいつものユーリっぽくなかったから」
シーナはよく見ているな。
確かにオレはセクスと戦っている時怒っていた。
でもその理由は言いたくない部分がある。だからオレは一部だけ掻い摘んで話そう。
「シーナが傷つけられそうになって怒っちゃったんだよ」
「そうなんだ。でも本当は?」
「んん?」
「本当の理由、教えてよ」
ちょっと待ってよ。どうしたのかなシーナ。なんでそんなに疑うの? オレおかしなこと言ったかな?
というかこんなに人を疑うような子に育てた覚えはないんだけど。
シーナはもっと純粋で可愛らしい子なはずなのに。
「教えてあげればいいんじゃない、ユーリ。パーティーメンバーなんだから教えるのも大事なことだと思うわよ」
「え、でも……」
魔族討伐の状況をシーナがリアに話したのだろう。
オレが何故あんなに怒っていたのかの理由が分かるのはリアくらいだ。だからリアはシーナのため、そしてオレのために話したほうがいいと言ってくれているんだろうな。
「実は、オレ、昔……」
言いたくないこと。
もうとっくの昔に振り返らないと決めて、その時の思いとかもあの時あの場所に置いてきたはずなのに。
なんで言うのが怖いと思うんだろうか。
でも言わないといけない気がする。
言ったらこの関係が壊れてしまうかもしれないけど、これを隠し続けることの方が失礼だ。
「人を殺したんだ」
「ユーリ、違うでしょ。ユーリは頑張った。でもあの子が、フェリが幼くて体力がなかったからであって、ユーリのせいではない」
確かに、客観的に見ればそうかもしれない。
でもオレがもっと早くもっと強ければ救えたかもしれない命だったんだ。
「確かにオレが直接的に手を下したわけじゃない。でもオレが助けにいくのが遅かったせいで、オレがもっと強ければ早く助けれたかもしれないのに……」
オレはその当時弱かった。
スキルもまだ使えない状態で、剣の練習も魔術の練習も始めたばっかりだった。
でもフェリに傷をつけた魔物は弱い魔物だ。でも子供のオレからしたら強い魔物。
オレは魔物を見たのが初めてだったから、どこが弱点でどんな攻撃をしてくるのかが分からなく、最初は苦戦してしまった。
一生懸命剣も魔術も練習をして、スキルも使えるようになって、魔物のことも知っていれば、救えていたはずなのに。
「フェリさんとは誰なんですか?」
「フェリは……」
オレはフェリのことを言おうとしたけれど、口籠もってしまった。
やっぱり思い出すこと自体がきつい。
その事実はもうすでに受け入れているし、認めてもいる。けれど話すとなると問題が違う。特にフェリについて話すのは未だに苦手だ。
「フェリはね、アタシの幼馴染でユーリの妹だよ。フェリが亡くなったのはアタシとユーリが七歳で、フェリが五歳の時だった」
「妹さん……」
フェリは幼かったため、魔物がいると思われる森付近まで気づかずに行ってしまった。
その日たまたま魔物が森の外に出ていたため、フェリは魔物に襲われてしまったのだ。
フェリがいなくなったことに気づいたオレは村中を駆け回り、もしかしたらと思って来た森で怪我をしたフェリを見つけた。
逃げることもできた。でもフェリの傷が深かったため激しく動くことはできないということを幼いながらに理解した。
だから戦うことに決めたのだ。
「アタシや村の人達が来た時には魔物は倒されていたけど、フェリは衰弱しきってたの。急いで村の医者に見せたんだけど、もうその頃には……」
「そうだったんですね」
オレがいた村には光魔術の特に治癒を専門とする治癒魔術師がいなかった。だから病気や軽い怪我くらいしか治せない医者しかいなかったのだ。
そのため深く負った傷を治すことができず、そのまま亡くなってしまった。
治癒魔術師は街と呼ばれるところの治療院か、村などにある教会でしか受けられないと言われている。
偶然冒険者の魔術師が治してくれる可能性もあるが、小さな村ならその可能性は低い。
オレのいた村は本当に小さく、村人も二、三十人くらいしかいなかった。
そんなところに教会はないので、治癒魔術師勿論いない。
「それでさ、オレ。がむしゃらに魔術の練習をしたんだよね。剣より魔術の方が利便性があるし、何より守れて戦えて助けれるから練習をしたんだ」
練習はしたものの、やはり指導者がいないと上達はしない。オレは初級魔術の〈火球〉を覚えるのに一ヶ月以上かかった。
毎日魔術の練習をしたから魔力切れで倒れることも多々あったくらいだ。
「その時、ある冒険者が村に来たんだよ」
「先生ね」
「そう。オレとリアの師匠となる冒険者がたまたま村に来たんだ。師匠はオレが魔術の練習をしているのを見かけて、教えてくれるようになった」
「その冒険者は誰なんですか?」
師匠は剣も弓も槍もなんの武器でも使いこなす凄い人で、その上魔術も全ての属性使える化け物と呼べるような人だ。
「【全支配のエリザリー】だよ」
「伝説の勇者じゃないですか」
師匠は魔王を倒した勇者の一人。
勇者の中でも一番有名と言っていい人で、あらゆる武器をあらゆる魔術を使いこなせる。全ての武器魔術を支配できることから【全支配のエリザリー】と呼ばれるようになった。
オレとリアが出会った頃は見た目は若いが年齢が六十歳を過ぎていた。
オレには全属性の魔術を剣と弓を、リアには風魔術と槍を教えてくれた。
そして免許皆伝された。そのすぐ後に師匠は村を去ってしまった。
リアは風魔術と槍の使い方を完璧にできていた。けどオレは全属性の魔術の初級までしか使えず、剣も弓もある程度しか使えなかった。
今思えばスキルのせいだったんだと分かったが、当時は酷く落ち込んだものだ。
師匠が去ってから半年ほどしたあとに一通の手紙が届いた。
その手紙は師匠が死んだ時に届くようにされた手紙で、それを読んだ時オレは号泣してしまった。
いくら強い師匠でも年齢には抗えなかったらしい。
「まあ師匠の話は置いといて。オレさ、フェリと約束したんだよね、絶対にオレが守るからって。……でも守れなかった。だから守ると誓ったシーナが死んだらと思ったら、怒りが込み上げてきたんだよね」
「だからあんなに怒ってたんですね」
オレはシーナが死んでしまったら二度と立ち直れなかっただろう。
精神が死んだ廃人になったか、自殺をしていたかのどちらかだ。
そうしていると急にドアが開き、ある人が部屋の中に入ってきた。
「出張治療サービスでボクが来たよ〜!」
「メリリルか。何しに来たんだ?」
現れたのはメリリルだった。
メリリルは確かこの街にある治療院の専属治療魔術師だったはず。それに基本は治療院から出ることはないし、治療院の敷地内にある家に住んでいるはずなんだけど。
「だから出張治療サービスって言ってるでしょ。ギルドにどうしてもって頼まれたから、院長が特別にってことでボクを派遣したわけさ」
「オレのためにか?」
「他に誰のためだってのさ。この街の英雄様のためにこのボクが来てあげたんだよ」
「英雄?」
どういうことだ?
明らかにオレのことを英雄って言ったよな。
「知らないの? 英雄様が持って帰ってきた魔石が、過去に勇者が持って帰ってきた魔石と同じ形をしていたんだよ。勇者が持って帰ってきた魔石は魔族の魔石だから、英雄様が倒した敵も魔族だってわけ」
「オレが、英雄……」
メリリルが言っていることは嘘ではないようだ。そもそもメリリルは嘘をつくようなタイプの人間じゃないしな。
それにしても実感が湧かないな。
やっぱりたった一人に言われてるだけじゃ、実感なんて湧いてこないか。
「そんなことより、さっさと治療させてよ。まあ確認だけどね」
「そうか。よろしく頼む」
三日も経っていれば治療くらい済んでいるからな。
だからあとは諸々の確認をするだけだ。
「……よしっ! 完了っと! 英雄様は魔力切れと身体を酷使しすぎたせいで気絶しちゃったけど、もう大丈夫だと思うよ」
「ありがとう。あとその英雄様っていうのをやめてくれ」
「なんで?」
「メリリルに言われると違和感があるからだよ。いつも通りにユーリって呼んでくれていいから」
英雄様なんてこいつの言われたら違和感があるし、何か裏がありそうで怖い。
「じゃあボクは失礼するよ。それとみんなユーリが現れることを楽しみにしてるから早く降りてあげてね」
「ああ、分かった」
そうか、ギルドにいるんだから下には冒険者もいるはずだしな。
そういえば魔物は元通りになったのかな?
「ユーリのおかげで全てがいつも通りに戻ったわ。冒険者達も戻ってきてるみたいだしね」
冒険者達が戻ってきたってことは、魔物も普通にいるようになったってわけか。
本当に良かったな。
「メリリルが言ってたし、下に降りようか」
「はい」
「いいんじゃない。でも覚悟しておいた方がいいわよ」
覚悟ってなんの覚悟をだろう?
もしかして……いや流石にそれはないよな。英雄とは言っても冒険者くらいにしか知られてないと思うし。
それに魔族を倒したって言っても、オレじゃなくてもリアがいたりすればすぐに終わったことだと思うから、そこまで言われるようなことではないはずだな。
そして下に降りてみると、予想とは大幅にかけ離れる事態になった。




