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第22話:本気

「〈神速〉! 〈跳躍〉! 〈空地〉!」


 セクスは何の魔法も使っていないのにオレが使う〈神速〉と同じ速さについてきている。

 オレは〈跳躍〉と〈空地〉を使って空中を飛び跳ねているが、セクスは背中についた翼を使い飛んでいる。


 あの翼でこんな速さを出せるものなのか。

 魔族がこんなにも強いなんて思ってもいなかった。


 今までは魔王がいなかったから弱体化していたのだろうけれど、魔王が復活したことによって力を得たのか。


 〈跳躍〉は空中を飛び跳ねれるが一度一度地面に戻らなければいけないため、〈空地〉を使って空中に簡易的かつ数秒で無くなってしまう空気の地面を作る。

 そして空中を飛べるのだ。


 ただこれは〈跳躍〉で飛んだ先に〈空地〉を素早く作らなければならないため、相当な技術と集中力が必要。

 それに今回の場合は〈神速〉を使っているためいつもよりも使うのが大変だ。


「速いですね、人族の分際なのに」

「いやいや、セクスに比べれば全然だ」

「当たり前ですよ。人族がワタクシに勝てるなんてあり得ませんから。むしろ勝てるなんて思っているなんて自惚れもいいところです」


 そんなの当たり前すぎだろ。

 空を飛べる奴が魔術で一生懸命飛んでる奴に負けるなんて、それこそおかしすぎ。


 オレは自分を強いなんて思っていないし、魔族に勝てるなんても思っていない。

 勝てるとは思っていないが、負けるとも思っていない。

 負けると思っていないというよりは、負けたくない。負けたらいけないんだ。オレが負けたらこの街が無くなってしまう。

 これは自惚れかもしれないし考えすぎなのかもしれない。でもそう考えれば全力が出せる気がするから。


「じゃあそろそろ本気出しますか」

「本気出すのですか」


 オレとセクスは空中で会話をしていた。

 セクスは翼をバタバタと動かし、オレは〈空地〉を同じところに一定のテンポで使って空中に留まっている。


「ならこうしましょうか」

「何を……!?」


 セクスは何故かシーナの方を向き魔法を放った。


「〈障壁〉!!」


 何を、何をしたんだ。落ち着け、落ち着いて考えろ。

 セクスがシーナに魔法を放った。その魔法はデーモン戦でデーモンが使った魔法だった。魔術の〈魔力弾〉に似た魔法だ。


 じゃあ何で魔法を使ったんだ。

 それもシーナに。

 オレに放つならまだしも、何故シーナに向かって。


 意味が分からない。意味が分からない。意味が、分から、ない。


 けど、もしもシーナが怪我したらどうするんだ。

 あの勢いと威力ならオレが守らなければ死んでいたかもしえないんだぞ。


 でも分かる。

 こいつはシーナを傷つけようとした。


 勿論戦闘しているんだ。戦っているんだ。

 ならシーナを攻撃するのも作戦のうち。


 オレは怒っている。

 何に対してだ?

 シーナを傷つけられたからに決まっている。


 シーナが死んだらオレは守れなかったことになる。


 ああ、また同じことになるのか。

 あの時みたいに。オレの力不足で、オレが弱かったから、オレのせいで。


 あれを繰り返すのか。そんなことが二度と起きないように強くなろうと努力したんだろ。だからここでシーナが死んでしまったら、オレはオレじゃなくなってしまうかもしれない。


 怒りに身を任せちゃダメだ。

 アイツを守れなかった時、オレはオレじゃなくなった。

 あんな思い、二度としたくない。

 だから今度こそは絶対に守ってやる。オレは誓ったんだ、オレ自身に。


 怒るな、落ち着け、冷静になれ。


 そんなことできるか。

 落ち着いてられるか。


「もう一度」


 また同じ魔術をシーナに向かって放った。


 あ、ああ、そういうことか。

 こいつはオレを怒らせて、本気を出させるためだけにシーナを傷つけようとしたんだ。

 シーナの命はどうでもいいんだ。ただオレを本気にさせたいだけで、シーナが死のうが興味ないんだろう。


 こいつを殺してもいいか。

 こんな奴殺したところで誰も悲しまない。

 むしろ人間には害悪でしかない存在なんだ。


「〈闇月〉、〈光月〉、連携。〈体力強化〉、〈筋力強化〉、〈魔術強化〉、〈速度強化〉。いいやこれじゃダメだ。〈体力強化覚醒〉、〈筋力強化覚醒〉、〈魔術強化覚醒〉、〈速度強化覚醒〉」

「本気、出してくれましたね」

「まだだ。〈体力自動回復〉、〈魔力自動回復〉。まだまだ……グ、ハッ」


 自分を魔術で強化し続けたせいで身体が悲鳴を上げている。おまけに血反吐まで吐いてしまった。

 でもダメだ。この程度じゃ、こいつを完全に殺しきれない。


「最後、に……〈自動防御反射障壁〉」

「準備は整いましたか? まあそんなんじゃ戦えても五分が限度といったところでしょうが」


 確かに、五分ほどしか身はもたない。

 自分にかけた魔術で身体がボロボロだ。魔力も無理矢理回復させているせいで、途切れてしまったら反動で自分がおかしくなってしまうかもしれない。


 でも、シーナを傷つけようとしたこいつを、オレは許すことができない。

 絶対に。


「〈神速〉」

「同じ攻撃が二度も通用すると思わない方が……?」


 オレは魔術を強化しているおかげで、今までとは威力が効果が何倍も何十倍も違う。


「〈神速〉! 〈神速〉! 〈神速〉!」

「ガッ! やめ、ろ……」


 オレはセクスに攻撃する隙を与えない。

 〈闇月〉と〈光月〉でセクスの身体を切り裂き、離れた時は〈業火球〉や〈聖水銃〉、〈超魔力弾〉などで攻撃する。

 セクスが少しでもオレに触れれば、その何百倍何千倍の力で自分にその攻撃が当たる。

 それも偶然オレに触れただけでも、攻撃と認識するようにしてある。


「死ね! 死ね! 死ね!」


 オレはもう魔術を唱えず、ただただ「死ね」という言葉を連呼して攻撃を繰り返す。

 セクスは「やめて」というが、腕が千切れても翼が破けても足が取れても攻撃をやめたりしない。


「やめ、て、く……れ……」

「……」


 オレはそんな声が聞こえても無視して、ひたすらに攻撃を繰り返す。


 やめてくれ?

 そんなこと言ってやめる奴は仲間のことを大切に思ってない奴だ。

 オレはシーナを傷つける奴を許さない。


 シーナはオレの仲間だ。シーナはオレが守ると誓った相手だ。だからシーナがいるからオレは力を発揮できる。

 だから傷つけようとしただけでもオレは許さないし、傷つけようと思っただけオレは許さない。


「死に方を選ばせてやる。一瞬で死ぬか、ずっと痛みを感じ続けて死ぬか、どっちがいい?」


 セクスは翼がボロボロになったため飛ぶことが出来ず、地面に叩きつけられるように落ちた。

 オレは伏せているセクスを上から眺め、選択肢を与えた。


「死にたくない、です」

「は? 死にたくない? 命乞いをお前ができるわけないだろ?」


 オレが選ばさせてやるって言っているのに、命乞いをするなんて思ってもいなかった。

 魔族というのはこんなに横暴でプライドが高いくせに、自分が死にそうになった時は命乞いをしてプライドを捨てるような奴だったんだな。


「じゃあ情けで一瞬で殺してやるよ。神々しき天から降れし輝きの光よーー」

「やめっ、やめて……」


 そんな馬鹿みたいになことを言いながら手を使って地面を這いながら逃げようとする。オレはゆっくりと歩いてセクスの前に移動した。

 そしてセクスの髪を引っ張ってセクスの顔がオレの前に来るように持ち上げた。


「いた、い」

「黒を消す白、闇を消す光、月をも照らす太陽、その全てを明るく灯す光の一部となれ」

「いや、いや、いやぁぁあああ!!」


 オレは息を吸い、大声で魔術を叫んだ。

 オレの近くで叫び暴れ回るセクス。


「〈陽光〉」


 〈陽光〉。それは光魔術の超級魔術。

 魔術の位で二番目に高いと言われる超級魔術をオレは使ったのだ。デーモン戦の時に使った〈天光線〉は上級魔術だから、それよりも位が高い。

 位が高い分、消費魔力やコントロールする技術が難しい。でもそれをするくらいのメリットとして、絶大な威力があるのだ。


「ガ、ガ、ガァァァアアアア!!!」


 セクスが断末魔を上げて、灰となり消えていった。

 残ったのはセクスがかけていた片眼鏡と、小さくて魔石とは思えないほどに綺麗な球体の魔石が落ちていた。


「限界、か」

「ユーリ!」


 オレが倒れそうになった時、シーナが駆け寄ってくれてオレを支えてくれた。


「大丈夫? 痛いところはない?」

「痛いところはないって言いたいけど、痛いところだらけだよ。でもシーナが無事でよかった。本当によかった」


 身体のあちこちが痛む。

 魔術で強化しすぎたから、身体への負担が馬鹿みたいにかかっていたんだろう。


 怒りに身を任せていた部分もあるから、それで冷静さが欠けてしまって痛みを忘れていた。

 怒りは痛みも忘れさせてしまうくらい恐ろしいものなのだ。


「ユーリ、なんであんなに怒ってたの?」

「あいつは、セクスはシーナを傷つけようとしたから。シーナはオレにとって大切な人だから」


 大切な人を傷つけられようとしたら誰だって怒る。

 オレの場合はそれが二度目だったから、こんなにも怒ってしまったのだろう。


 一度は失敗した。失ってしまったから、オレは二度目は失敗しない。無くしたり失ったりは絶対にしない。


「ユーリのおかげで魔物が去っていきましたよ。ユーリが魔族を倒したからです。全てユーリのおかげなんです」

「そうか。良かったよ」


 オレはシーナの肩を借りて、ゆっくりと街へ戻っていく。


「ユーリ! 倒したの?」


 オレのもとへ真っ先に駆け寄ってきてくれたのは、街を去ったはずのリアだった。

 リアは槍を地面に投げ捨て、走ってオレのところに来てくれた。


「ああ倒した、魔族を倒したぞ」

「魔族って、それ本当?」

「本当だ」


 まあ疑うよな。

 魔族なんてしばらく現れていなかったから、本当に魔族がいたと言っても信じてくれないのも納得できる。


「【邪魔者のユーリ】、ありがとう」


 あのいつもオレに絡んでくるバックスがオレに頭を下げ、感謝の言葉を言ってきた。

 だけどプライドなのか、【邪魔者のユーリ】と呼ぶのはやめなかった。


「バックス達こそ、これまで街を守ってくれてありがとな」

「お互い様ってことだ」


 オレはその言葉を聞いた後、体力の限界がきて気絶してしまった。

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