第21話:魔物
オルトロスが吠えたあと、オレは自分とシーナに〈体力強化〉と〈速度強化〉、それに〈魔術強化〉を使った。
「シーナは右の頭を攻撃して、オレは左の頭をやるから」
「うん、分かった」
指示を出すと即座に行動に移した。
それぞれ視覚外に行くために走り、同時に首を狙って切ろうとした。
オレは短剣を、シーナは長剣を振り下ろす。
思いっきり振り下ろしたがガンッと音がしただけで傷一つ付けれず、それどころか跳ね返されてしまった。
オレは咄嗟にある魔術をオルトロスに気付かれないように使った。
「シーナ、剣に付与するからこっちきて」
オレはシーナを呼び、一時的にオルトロスと距離を取った。
「〈鋭利化〉、〈硬質化〉」
「ありがとう」
「どういたしまして。それでどうすればいいか、作戦を練ろう」
「えっ、でも、今はオルトロスが……」
「大丈夫。一時的に動けなくなる魔術をかけたから」
先程オルトロスに使った魔術は〈条件束縛〉だ。
〈条件束縛〉はかけられた者が一定の条件を満たすと動けなくするという魔術だ。
だけど動けなくなる時間は敵の抵抗力が強ければ強いほど短くなる。その逆もあり、使用者が使ったその魔術の攻撃力が高ければ高いほど長くなる。
今回の場合は一メートル動くとそのあと動けなくなるという条件だ。
そして条件発動中は攻撃ができない。
「オレがまずオルトロスの木を引いて眼を潰すから、その間にシーナは足を攻撃して。どの足でもいいから二つ潰してくれればいい」
眼を潰せば下手な動きは取れなくなるはず。もしくは暴れ回るかだけど。
この魔物は火系と水系の魔術に近い魔法を使うのだろう。光魔術に近い魔法じゃなければオレ達の居場所が分からない。
「うん。それでその後は?」
「シーナは下がってからこの鉄球をオルトロスに向かって適当に投げて。オレは色々と試してみるから」
シーナに鉄球を十個渡した。
この鉄球はある一定の速度以上で何かに当たった時爆発を起こす。その上爆発し散った鉄球はすぐに鋭い針となり、当たった相手に自動で襲いかかるという物。
鉄球はオレが半日かけて一個作れるくらいの品物で、一個作るだけでほとんどの魔力を持っていかれてしまう。
一応付与に分類されるが、限りなく加護に近い。
ただこれを加護でやると金はかかるわすぐ消費するわで、商品として売ることができない。
これの作り方を教えてもまずやる人がいない。そして付与を極めないと作れない。
戦いにも使いづらいという、持っていても邪魔になる物である。
「分かった。ユーリ、絶対に倒そう」
「ああ、勿論だ。倒してこの街を守らないとだからな」
オレとシーナはお互いを見て頷き動き始めた。
「ゴロロッ! ゴォォロォォ!」
オレ達が動き始めたからか、オルトロスも動こうとする。
だけどオレが使っていた魔術のおかげで動きを封じ込むことに成功した。
「今のうちだ!」
オレは〈飛翔〉の魔術を使ってオルトロスの右頭のところまで跳び顔に乗った。
オルトロスはオレを振り落とすため首を振ろうとするが、〈条件束縛〉影響し動くことができなかったようだ。
「ガルッ」
「じゃあな」
オレは二つの短剣で同時に両眼を潰した。
「ガルラァァァアアア!!」
右頭のオルトロスの両眼から血がどろどろと溢れ出してきた。
すぐに左頭に飛び移った。
「ガッ」
「うるせぇよ。じゃあ、お隣と一緒になれよな」
オレは次に左頭の両眼に短剣を剣の刃が見えなくなるまで突き刺して、ガッと横にスライドさせた。
「ガラァアア」
魔術の時間が切れ、座り込んだ。
オレが両眼を潰している間に、シーナは前足二つのアキレス腱を切っていた。
魔術で拘束されているせいで座り込むことすらできなかったのだろうな。
オルトロスは「ガルゥ」と小さな声をずっと発していた。
「シーナ頼む!」
「うん!」
オレはオルトロスを弱らせるために、色々なところに短剣で浅い傷をつけていく。
シーナは足元を集中的に狙って鉄球を投げ続ける。
バンッバンッと当たる度に小さな爆発が起きる。
偶然か意図してかは分からないが、オレが始めの方に付けた傷のところに鉄球が当たり爆発する。
オルトロスは「グゥ」と二頭とも吠えているが、徐々に声が小さくなっていく。
「ユーリ、鉄球が無くなった」
「ああ、もう大丈夫だ。これで終わりだからな!」
オレはそう言って右頭の首に短剣を当て、もう一本の短剣の柄の部分で叩く。そしてどんどん深く切り裂いていった。
「ガァァアア」
ガンッガンッと叩き続けると深く深く、いつしか見えなくなるほど深くまで切った。
そして首を落とすことに成功した。
「グワァァアアアア!!」
左頭が今までで一番と言っていいほど大きな声で吠え、魔法を使おうとした。
左頭は恐らく火系の魔法だろう。セクスが火系魔法を使うと言った時に見た頭が左頭だったからだ。
「シーナ下がって! 魔法を使うぞ!」
そう叫びシーナを出来るだけ後ろに下がらせた。
「〈障壁〉!」
オレは自分とシーナに〈障壁〉の魔術を三重で使った。
このまま戦っても無駄な体力を消費するだけだろう。
恐らく、十中八九でオレ達は勝てる。だけれどオルトロスの左頭に無駄な足掻きをされると、その分色々なものを消費するだけになってしまう。
だから、この魔術を使って終わらせる。
「〈反射障壁〉」
オレはオルトロスから魔法が発射される口のすぐ先に〈反射障壁〉という魔術を使った。
〈反射障壁〉とは本来自分を守り、そして相手に攻撃を反射させる魔術。
だけど今回はオルトロスの口元に使うことで、オルトロスの火系魔法の攻撃を口の中に反射させ自爆するようにしたのだ。
「グガッ……アアアァァァ」
オルトロスが魔法を使い、口の中で爆発した。
そのまま頭が吹き飛び、死んでしまった。
「ユーリ、今のは?」
「普通とは違う使い方をしたんだよ」
〈反射障壁〉は普通に使うと反射からどこかに当たるまでに威力が減っていってしまう。
だから近距離で発動することによって、威力を極限まで減らさないようにしたのだ。
自分の攻撃で死んでしまうとは、実に馬鹿だと思う。
魔物というものは知性がない。それがいい方に作用した。
パチパチパチ、と誰かが手を叩いている音がした。
「貴方達がここまで強いとは予想外でしたよ」
「オレ達は予想内だったぜ。絶対に勝てるって思ってたからな」
いや、絶対に勝てると思ってたんじゃなくて絶対に勝たないといけないって思ってたんだけどな。
でも勝てたからこんなことを言えるんだ。
シーナがいなければ絶対に負けていたと思う。
シーナとの戦闘は二度目だ。
二度目で簡単で雑な作戦だったのに、ここまで成功するとは全く思っていなかった。
やっぱりオレとシーナは相性がいいのかもしれない。こんな相性の良いパーティーメンバーは初めてかもな。
「即興の作戦でしたよね。それだけでオルトロスを倒すとは誰が予想したことか。貴方達は若いながらここまでの連携をできるほど修行を積んできたでしょうね」
「いいや、一緒に戦うのはこれで二度目だよ」
「二度目、ですか。末恐ろしいですね。貴方達を今のうちに殺すことができるのは幸いですよ。殺すのがもっと先だったら、負けた可能性もありますからね。まあ一億回戦って一度だけ貴方達が勝つくらいの確率ですが」
一億回に一度って、ほぼないに等しいだろ。
てか今のオレ達なら確実に勝てるって言ってるってことだよな。
確かに連携は取れている方だが、まだまだ荒い部分もある。
だから成長したら恐ろしくなるのは正しいかもしれない。でも今でも強いんだ。こいつに勝てる想像はあまりできないが、負けない自信はある。
「ではワタクシ直々にお相手してあげましょう。精々頑張ってくださいね。ワタクシ、弱者が足掻いて絶望して死ぬのを見るのが好きですから」
「凄い趣味してるな」
「ええ、とても素晴らしい趣味でしょう」
ああ、ヤバい方面で凄い趣味だ。
ドSどころかサイコパスって感じの発言だな。
「ワタクシは避けることが得意なんですよ。どんな攻撃も。避けれない攻撃は魔王様くらいだと思っていますから」
本当にこいつは魔王が好きだな。
魔王って奴は女なのか? それもとても美人か可愛いかの女。それだったら惚れてもおかしくないが、こいつは明らかにそういう目線で見ていない。
魔王に心酔している狂信者だろ。
「じゃあ行くぞ」
オレはそう言うと〈神速〉という初めて使う上級風魔術を使ってみた。
何度かリアが使っているのを見たことがあるから真似してみたが中々に難しい。でも使えないわけではなさそうだ。
「なっ、なっ、何をするんですか!? このワタクシを傷付けていいのは魔王様だけなのに、なのに貴方はワタクシを切った。許せない許せない許せない! 万死に値します。簡単に死ねると思うなよ、クソ人族がぁぁああ!!」
怒ったな。
オレは〈神速〉を使った時、すぐに短剣でセクスの頬に傷を付けた。
まだ上手く〈神速〉を使えなかったため、致命傷らしい傷を与えることができなかった。
「死ね……死ね……死ねぇぇぇぇえええええええ!!!!」
その叫びと同時に激しい戦闘が始まった。




