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第20話:魔族

「オレが先頭を行くからそれについてきて」

「でもユーリは先頭を進むタイプじゃ……」

「オレはこれでもソロランクBの冒険者だぞ。そのくらいのことなら容易くできる」


 そう言って短剣を二つ取り出した。


「〈闇月〉、〈光月〉加護連携」


 オレの短剣には同じ加護が三つと、別々の加護が二つ付いている。


 同じ加護は〈硬質化〉、〈鋭利化〉、〈魔術効果上昇〉だ。

 そして〈闇月〉には〈闇魔術強化〉と〈必中〉で、〈光月〉には〈光魔術強化〉と〈必守〉の二つずつだ。


 〈必中〉と〈必守〉は通常で一度、連携しても三回ずつしか使えないという燃費の悪い加護だ。

 でもその分効果も高い。

 〈必中〉は絶対に攻撃が当たり、〈必守〉は必ず攻撃を防ぐ。

 勿論、上手くタイミングを合わせないと両方とも使えない。


「はぁあ!」


 前列にいるゴブリンやコボルトなどの討伐難易度が低ランクの魔物がずらりと並んでいた。

 その魔物達を切り捨てていく。


 最初は右手に持つ〈闇月〉で魔物を突き刺し、刺さったまま思いっきり投げ飛ばす。投げ飛ばした魔物は他の魔物に当たり次々に倒れていく。

 左手に持つ〈光月〉では流れるように魔物を切りつけていった。


 それをテンポ良く繰り返していき、どんどん前に進んでいく。


「すごい。こんなに素早く倒していくなんて」

「シーナ、後ろからも追いかけてきてるから追いつかれないようにね」


 魔物の長がいると思われる方向へまっすぐと進んでいく。


「もうすぐだ。警戒していくよ」

「うん」


 近づいていくと徐々に魔力が濃くなっていく。


 この濃さ、ジャングの森の濃さをとっくに超しているぞ。こんなに濃ゆいなら近距離まで行ったらどうなるんだ。

 魔力が濃ゆすぎると身体に害を及ぼすから、これ以上は濃くならないでほしい。


 念のためこの魔力の濃さを緩和する魔術を使っておこう。


「シーナ、この先から魔力が濃くなると思うから、魔術をかけるよ」

「分かった。お願い」

「ああ。〈緩和〉」


 オレは自分とシーナに〈緩和〉の魔術をかけた。


 〈緩和〉は自分の身体に害を受けた場合、その症状や痛みを緩和してくれる魔術。

 それが今回の場合が魔力というわけになる。この魔術は初級魔術だが汎用性が高くとても便利な魔術なのだ。


「一気に行くよ。……えっ?」

「ユーリ、急に魔物が追いかけてこなくなりました」


 オレが一気に駆け抜けようとした時、魔物がもういなかった。

 これはいいことのはず。もう魔物の群れを抜けれたのだから。


 でもおかしいのだ。

 オレが直接この手で倒した魔物は多く見積もっても五十体くらいだ。真っ直ぐ駆け抜けたとしてもこんな少ない数じゃ済まない。

 これは明らかに意図的にこの状況を作り出されている。


 その証拠にオレ達を追いかけていた魔物は追いかけてこなくなり進軍している。

 あっという間に周りから魔物がいなくなってしまった。


「シーナ、周囲を警戒して」


 !?

 ちょっと待て、魔物の長の魔力が急に消えている。


 真っ直ぐ進んでいたのに、この先に魔力の反応がない。

 いや、それどころかこの魔物の群れのどこからもあの魔力の反応が見えない。


 逃げたのか? それとも消えた?

 逃げたなら微かだけど感じることができるはず。あの魔力量なら間違いなく。

 なのに感じることができないということは、消えたんだろうな。


 消えたとすれば、魔物の消失にも説明がつく。


 でもそんな相手にどうやって戦うんだ? そもそも今から見つけ出さないと……。

 いや、ここから長距離離れてしまえば魔物の群れぼ統率が取れなくなってしまうはず。

 だからこの群れの遠くにはいないだろう。


「ククッ。やっと来ましたか、人族よ」

「!? だ、誰だ! どこにいる!」

「ここですよ、ここ」


 声の聞こえる方を見ると、男がいた。

 だがそいつは人間ではない。亜人でもない。

 そいつは異形の角を持ち、不気味な翼をつけている。とても禍々しいオーラを放っていて気味が悪い。

 それにこいつだけだろうが、片眼鏡をつけておりキチッとした服を着ている。執事に似ているかもしれない。見たことないけど、執事を。


「ハハッ。気付かなかったみたいですね。やっぱり人族ってノロマでグズで弱い下等生物。ワタクシ達のような高尚な魔族とは違うようです」


 そいつは自分で話している通り、魔族らしい。

 ここまで直接的に言われたことは中々ないぞ。

 これを高慢な貴族や王族なんかに言ったら、激怒してヤバいことになりかねないことを。こうも易々と言えるなんて。


 初めて魔族を見たが、こんなに傲慢な生き物だとは思ってもいなかった。

 というか魔王が倒されて弱体化していたらしいのに、偶々力があったからか急に力を得られたからか。どっちでもいいがここまで自分を傲慢にするなんて、力とは恐ろしいことだ。


「そうかもな。でもそれはオレだけだと思うよ。オレはノロマでグズで弱い【邪魔者のユーリ】だからな」

「フッ、何を言っているのかと思えば。確かに貴方はノロマでグズな下等生物ですが、弱いはずがないじゃないですか。貴方はこの街で一番強い筈ですよ」


 何言っているんだ。オレは正直言ってノロマでもグズでもないが、弱いとは思うぞ。

 オレと魔族とは感じ方が違うんだろうな。


「だってワタクシはこれを持ってますから」


 つけている片眼鏡を外すと、眼の中に見たことのない紋が刻まれていた。


 この紋はなんだ?

 全く見たことがない。そもそもなんなんだそれは。何か特別な能力でも秘めているのだろうか。


「これは魔眼ですよ。魔族でも一部の者にしか発現しない特別な眼。この魔眼は二種類の力を持っています。一つは魔物を操れる。もう一つは一時的に対象の姿を消せるのですよ。それにこの片眼鏡には特別製で相手の実力を計ることができるんです」

「へぇ、それは凄い。それならオレの実力も分かるだろ? 弱いってことが」


 魔物を操れるということはこのスタンピードも意図的に発生させたんだろう。

 魔物が姿を消したのもその魔眼というもののせい。


 魔眼は魔族にしか発現しないから人間はその存在を知らないのか。

 その中でも一部の魔族しか発現しないんだから、知られていないことも納得できる。


「いえいえ、貴方はこの街で一番の実力を持っています。魔族では全ての生き物の能力を計る技術を作ったんです。ですからこの街にいる人族全ての実力を計ったところ、貴方が一番強いと分かったんですよ」

「ならそれは壊れてるな」

「いいえ、壊れてませんよ。貴方が自分の力を過小評価しているだけです」


 過小評価か。

 もしかしたらシーナと正式にパーティーを組んでパーティーリーダーになったから魔力量や使える魔術のランクが上がったのか。


「ちなみにどんなことが分かる?」

「最大魔力量や基本身体能力値とそれのプラス値が明確な数字として見ることができます。それにそれぞれの武器に対しての相性度や技術値、あとスキルもですよ。ただ魔族が使えない魔術に関してのことはまだ研究段階で、確認することができないのが難点です」


 魔術は人間や亜人しか使えない。だから魔物や魔族が使う魔法の研究はこちらは進まない。

 それと同じように魔族も人間や亜人しか使えない魔術の研究は進まないのだろう。


 その技術は恐ろしいものだ。

 それをどこか一つの国が手にしたら技術革命が起き、その国だけで独占されてしまう。そしてその国が強くなり国同士のバランスが崩れてしまうかもしれない。


 今は魔族が来たことが些細な出来事としか思われないだろう。

 だけどこいつが持っている片眼鏡の技術がどこかの国に渡れば、下手したら国同士の争い、戦争になりかねない。

 戦争が起これば魔族に反乱の隙を与えることになる。


 魔王がいなくとも人間が争っていれば、もしかしたら、なんて思う魔族がいるかもしれない。

 国同士が疲弊しきった頃に魔族が戦争を仕掛ければ、少なくとも一つや二つの国は落ちるだろうな。


「貴方は驚くべきことに二重プラス値が表示されているのですよ。初めて見ました。魔族でも魔王様しか二重プラス値を持っていませんから」


 二重プラス値とはなんだ?

 プラス値が二つあるという意味だろうが、それに何か特別な意味でもあるのだろうか。


 それにしても魔王と一緒っていうのは嫌だな。

 そのことがバレたら魔王扱いされてしまうかもしれないからな。


「でも、第二プラス値はまだゼロですから、今後の成長に期待というところ。まあそんな成長することなんてありませんけどね」

「オレを殺すからとかつまらないことは言うなよ」

「そうですよ。正直言って、魔王様と一緒の力を持つ者なんていなくていいんです。魔王様は魔族にとっての光、神聖な御方なのですから」


 魔族の王なのに光なの? 魔王なのに神聖な存在なの?

 なんか魔王と光とか魔王と神聖とかって全く逆の、決して交わることのない言葉だと思うんだが。


「魔王様の御命令でこの街を乗っ取らなければならないのですが、ワタクシが戦うと全てが更地になってしまいます。ですからワタクシがわざわざ向こうから連れてきた魔物にこの場はお願いしようと思います」


 向こうから連れてきたってことは、魔王領から連れてきた魔物ということだろう。

 魔王領からってことはここよりも強い魔物だと思わなければならない。


 魔王領の魔物が強い理由。

 それは魔力の濃さだ。

 人間や亜人が魔王領に住むことはできない。数日もいれば魔力過多症になって、最悪死んでしまうかもしれないからだ。

 その魔力の濃さで育つ魔物はこっちで育つ魔物よりも数倍は強いと予想できる。


「シーナ、あの時のデーモンよりも強いかもしれないよ。覚悟しておいた方がいい」

「うん。分かった」


 あの時ギリギリで勝てたデーモンよりも強い魔物に勝てるか。

 いいや大丈夫なはずだ。今はオレもシーナも力を持っているからな。


 ただ不安な点が二つある。

 今持っている力をきちんと行使したことがないことと、シーナがまだ武器に慣れていないということ。


 デーモン戦よりも実力は発揮できると思うが、全力を発揮できるかが問題なのだ。


 それに魔物を倒して終わりというわけではない。

 魔物の次はこの魔族も倒さないといけないからだ。


 タイムリミットは一時間といったところ。

 バックス達冒険者がそのくらい耐えてくれるはずだ。

 それを信じて戦うしかない。


「ああ、そうそう。貴方の名前を知りたかったんですよ。まあまずはワタクシが名乗りましょう。ワタクシは魔王様直属、十三の配下、またの名をトレセ、その六番目、セクスです。よろしく、もうすぐ屍となる者」

「屍になる気は毛頭ない。オレはユーリ。【邪魔者のユーリ】であり、【エターナルオース】のリーダーだ!」

「ユーリですか。覚えておきましょう、ワタクシが殺す人族の一人として」


 殺される気なんて毛頭ないと言ったのが聞こえなかったのだろうか。

 それとも自分の勝利を確信しているタイプかもな。


「来なさい、オルトロス」


 セクスの隣にいきなり裂け目だでき、そこから魔物が出てきた。


 その魔物は犬型の魔物。

 見上げなければならないほどの大きさで、二つの頭がある。

 片方は真っ黒く、もう片方は紫色をしていた。


「オルトロスは別名冥界の番犬と呼ばれ、片方は一瞬で標的を燃やす火を操り、片方は一瞬で標的を凍らせる水を操る」

「所詮は犬だろ? 犬程度に負けるわけねえよ」

「そうですか。じゃあワタクシは高みの見物をしますので、精々頑張ってください」


 そう言ってセクスは消えてしまった。

 いや正しく言えばオルトロスが出てきた裂け目と似たような裂け目が出てきて、そこに戻ってしまった。


「シーナ、これを」

「これは?」

「長剣。なんの加護もついていないただのね。まだ使えないだろうから、今はこれを使って」

「分かった。ありがと」

「ああ。それじゃあ行くよ、シーナ」

「うん、ユーリ」


 オレは短剣を二つ持ち、シーナはオレが渡した長剣を持った。

 オレとシーナは完全な戦闘体勢に入った。


「ゴロロロロォォォオオオ!!」


 オルトロスの両方が同時に天に向かって大きく吠えた。

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