第19話:発生
シーナが魔力の感覚を掴んでから四日が経った。
四日間の間は基本的にずっとシーナと一緒に魔術の練習をしていた。
シーナは一生懸命毎日やっていたからか、初級の光魔術を使えるようになった。
まだ光魔術の適正を持つ魔術師なら誰でも使える〈光球〉の魔術だが、数日で使えるようになったのは早い。
努力の賜物だろう。
才能も多少はあるだろうが、それを凌駕するほどの努力があってこそだ。
努力をできる人間は多くいるが、その努力の質がここまで高い人は少ない。
その頃一方、ギルドが組んだ探索隊から収穫があった。
それはマイナス方面の収穫だ。
つまり魔物が確実にいなくなったことが確認されたのだ。
その情報を聞いた冒険者達はは次々にこの街から出ていった。
「リアも行くんだな」
「ええ、ここに留まる理由もなくなったからね。何か問題が起きた時は駆けつけるわ。まあそんなことは起きないと思うけど」
「ああ、そうだな」
もうここに残っている冒険者は二、三割ほど。
あと二日も経てば一割を切るだろう。
「じゃあね。シーナも頑張って」
「はい!」
そう言ってリアは馬車に乗り、街を出て行った。
「今日は武器が完成したらしいよ。折角なら取りに行って練習しようか」
「うん。そうしよう。楽しみだな、武器」
まあ楽しみと言えるのは今のうちかもしれない。
練習は地獄になるからな。
「それにしても、人、少なくなったね」
「まあ仕方ないことだな。冒険者は魔物討伐が本業と言っても過言ではないからな」
冒険者になる奴らは二種類に別れる。
一つは魔物を討伐する冒険者という職に憧れてなる者。もう一つは就く職がないから冒険者になる者だ。
まあ冒険者がここに残る理由が大半はなくなった。
魔物がいない場所では残りのクエストの取り合いになるだけ。ならばここを去って、他の場所で活動した方が儲けも多くなる。
冒険者も仕事なのだ。
金を得られないところにずっといるなんてことはしない。いやできないが正しいかな。
「どんな武器になってるかな」
「まあ良い武器に仕上がってると思うよ。腕は確かだから」
高額な値段は吹っかけてくるけど、腕は良い奴だからな。
ミューラさんは腕も人柄も良いから、あの武器屋以上の武器屋はないと思っているくらいだからな。
「失礼するよ」
「おう! やっと来たか。最高級の武器ができたぜ」
最高級の武器って、毎回言ってるだろ。
どんだけ最高級の武器を量産できるんだよ。
ミルドレードの中の最高級武器っていう物の基準が低いのか。はたまた他の鍛治師が作る武器が低いのか。
どっちでも良いが、まあ良い武器だからいいだろう。
「はいよ。これが注文の品の加護付き長剣だ。こっちの〈硬質化〉と〈鋭利化〉がついた武器が〈青月〉で、〈光剣化〉の方が〈赤月〉だ」
「〈青月〉と〈赤月〉ってなんですか?」
「ミルドレードで勝手に付けた武器の名前だよ。性能は変わらないが、ミルドレードが作ったオリジナルの武器っていう証明だよ。剣に彫ってあるでしょ」
「あっ、本当だ」
名前を付けるのは勝手だが、自分で付けたいものだ。
でも名前を彫れるのは世界が認めた鍛治師しか付けられない。
それも何人かいるが付けていいのはオリジナルの武器で、ミルドレードの場合は名前に月の文字が入ってなければならない。
オレの持っている弓は〈暗月〉だ。そして基本的に使う短剣が〈闇月〉で、予備用の短剣が〈光月〉だ。
「この〈青月〉と〈赤月〉もあれがついてるのか?」
「ああ、一応つけたが、一応な。まあ使えなければ使えないでいい」
「あれ?」
オレとミルドレードが話している『あれ』とはある加護の効果だ。
「あれっていうのは加護の連携だ。簡単に言えば〈青月〉と〈赤月〉を同時に使うと効果が跳ね上がるというものだ」
一応付けたと言ったのは、シーナが二刀流の剣使いじゃないからだ。
まあ練習すれば使えるようになるかもしれないから、付けてくれたんだろうな。
こういうことに関しては気が利く。
「オレがデーモン討伐の時に使った短剣が〈闇月〉で予備が〈光月〉だ。同時に使ったらオレの場合効果が五倍くらい上昇するんだよ」
効果が上昇するけど、オレはあまり使わない。
魔力消費が普通に使うより多くなるからだ。
〈闇月〉もオレの意思次第で効果を使わないようにできる。
その場合は魔力も消費しない。
「まあ魔力の消費量も多くなるんだけど」
普通なら効果の分だけ魔力消費量が多くなるんだけど、ミューラさんの腕の良さで最低限まで消費量を抑えてある。
それでも二倍ほどだから、使うのは控えている。
五倍の効果があるのに、魔力消費量が二倍で済むのは凄いことだ。
でもオレの魔力量の少なさからしたら使うのは本当にピンチの時だけど決めている。
もしかしたらまたパーティーを組んだから魔力量が多くなっているかもしれないな。
魔物と戦闘できる時があったら、自然と感じることができるだろう。
そうなればガンガンこの短剣二つを同時に使うことができるようになる。それも長時間高効果でって可能性も。
「わたし、二刀流の練習もします!」
「それはいいけど、まずは加護付き武器になれることだよ」
「はいっ!」
元気いいな。
やっぱり加護付きの武器を見て興奮しているんだろうな。
「で、金貨十枚だ」
「はい。金貨十枚です」
「毎度あり」
そう言って武器屋を出ようとした時、巨大な揺れが起きた。
「なっ、なんだ、この揺れ」
「地震……いや、これは違う。シーナ、今すぐギルドに行くよ」
「えっ!? なんで」
この揺れは明らかに地震とは別物だ。
「地震だったら、怪我人がいるかもしれない。その手伝いをしなければならない。緊急クエストみたいなものだ」
「うっ、うん、分かった」
「ミルドレード、ミューラさんを頼む」
「当たり前だ。お前達はさっさと行ってこい!」
そう言われて、慌ててギルドに向かった。
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「あっ、ユーリさん!」
「ミンスさん。どういう状況なんですか」
「それが、スタンピードが起きたんです」
スタンピードって、まさか、魔物が消えたのはその予兆だったのか。
クソッ。冒険者が少なくなったせいで、食い止めれるかどうか分からないぞ。
これはヤバい事態になった。
スタンピードとは魔物が一気に大量発生する現象のことだ。
でもスタンピードっていきなり魔物が大量発生するのであって、消えた魔物が急に現れるわけがない。
魔物は意図的に消され、意図的に現れたんじゃないのか。
スタンピードが起これば、魔物は真っ先に人が多くいる街を狙うのだ。
今回の場合ここが標的にされるだろう。
「冒険者達はどうしてるんですか?」
「招集をかけて、緊急クエストにしています。冒険者達だけで魔物を討伐するようにと、ギルド長からの指示です」
これは本当にヤバい。
下手したらこの街がなくなるぞ。
「騎士団は街の人達の避難にあたるから、魔物討伐に人を割けないらしいです」
マジか。
街に住んでいる人達の避難を優先するのは大事だが、今の冒険者の数じゃ間違いなく倒せない。
せめてリアがいてくれればなんとかなったかもしれないのに。
「あと三十分で街に到着するので、街からなるべく離れたところで戦闘をするようにと」
「他の冒険者はもう移動しているのか」
「はい。ユーリさん達もどうか協力お願いします」
ここで協力しても、街がなくなる可能性の方が高い。
無駄死にする可能性だってある。
だけど、ここには大事な人達がいるんだ。
せめてその人達の命だけは守らないと。
それに絶対シーナの命を守らないといけない。
オレは自分自身に誓ったんだから。
「シーナ、行ける?」
「はい! ユーリとなら」
「分かった。ミンスさん、オレ達も参加します」
「ありがとうございます、ユーリさん。ご武運を」
その言葉を聞き、オレとシーナは急いでギルドを出た。
「もうすぐで、戦闘地に着くよ」
「うん」
魔術を使い、急いで行った先にはもう目の前に魔物の群れがいた。
「【邪魔者のユーリ】、遅いぞ!」
「ああ、済まん、バックス。で、状況は?」
「最悪だ。魔物の数は推定三千。こっちは百人もいねぇ」
「確かに、最悪だな」
最悪って言葉でも収まらないくらいの最悪さだ。
「街は捨てて、人が避難する時間を稼ぐので精一杯ってところだぞ」
「バックス。この気配」
「ああ、群れは基本的にカスの魔物が八割で、ジャングの森にいた魔物残りの二割くらいだが、一体だけ異様に強い奴がいる」
「これは異常なほどに強いぞ」
一体だけ他の魔物が霞むくらいの強さを持っている魔物がいる。
その魔物はこの前倒したデーモンよりも断然強い。
今まで強い魔物と散々戦ってきたが、この魔物は別格だ。
あの魔物を倒せる奴はここにはいないだろう。
リアがいても勝てるかどうか怪しいほどの強さを持っている。
「もしかしたらその魔物がこいつらを率いているかもしれないぞ」
「その可能性は高そうだ」
あの魔物を倒せば、事が収まるかもしれない。
「バックス、オレはそいつを倒しに行く」
「正気か? 死にに行くのと同じだぞ」
「大丈夫だ。オレは死なないから。絶対に帰ってくるから、バックスはここで応戦しておいてくれ」
「そこまで言うなら、分かった。だが無理だと思ったらすぐに逃げろ。【邪魔者のユーリ】が引いた時は、皆んなでここから引くことにする」
「それまでは持ち堪えてくれ」
「無事を祈ってる」
「ありがとな」
オレは賭けに出ることしかできない。
ここで応戦していたとしても、勝てる可能性は限りなくゼロに近い。ならば魔物の群れの長と思われる奴を倒しに行く方が、可能性が高いはずだ。
「ユーリ!」
「シーナはここで戦っててくれ」
「ダメ! わたしもついていくよ。だってユーリのパーティーメンバーなんだから」
「……分かった。ついてきてくれ。でもオレが逃げろと言ったら、オレを置いてでも逃げるって約束してくれよ」
「うん。でも絶対にそんなことにはさせないから」
「頼もしいな。ありがと、じゃあ行くぞ、シーナ!」
「うん、リーダー!」
オレはシーナと共に長を倒しに行くことにした。
どんな最悪な状況になってもシーナだけは守り抜く。
オレは死んでも、シーナは死なせない。
そのことを一番に考え、オレとシーナは進んだ。




