第18話:魔力
「シーナの魔術を使うために必要なことってなんだと思う?」
「魔術を使うために必要なこと? 詠唱を覚えるとか?」
確かに詠唱を覚えるのは大切なことだ。
オレは初級魔術はマスターしているから、詠唱を破棄して魔術を使うことができる。
でも詠唱を覚えるのは後でいい。
「まず初めに必要なのは、魔力の流れを感じることだ。魔力の感覚を知らないと魔術は使えない。それこそどんな魔術の詠唱を覚えたところでだ」
魔力とは魔術を使うのに絶対に必要なもの。
魔力がなければ魔術は使えない。だから魔術を使えない人は剣使いや弓使いになるのだ。
まあそれにもセンスや努力が必要になるわけだけど。
「どうすれば感じることができるの?」
「魔力を感じるには他人に魔力を渡してもらい強制的に魔力の流れを感じる方法と、適性魔術に合った感情を意識して感じる方法の二つがある」
前者は確実に魔力を感じることはできる。
だがデメリットとして他人の魔力が抜け切るまで魔術を使うことはできない。
その上魔力の流れを意識し続けなければならない。自然と自分の魔力を感じるようになるまで時間がかかる。
後者は魔力の流れがわかるのと同時に適性魔術の使う感覚まで覚えることができる。
だけど適性魔術の数を意識して感じ取らなければならない。そのため尋常じゃないと思えるほどの集中力が必要になる。
「時間をかけてもいいなら前者、早くやりたいなら後者を選ぶべきかな。でも後者は確実性がないから、無駄で終わるかもしれない」
「うん。わたしは早く覚えたい。だから後者を選ぶ」
前者は平穏な道に対して、後者は茨の道だ。
オレも茨の道を選んで、相当苦労したが感じ取ることができた。
オレの場合は全属性だったため、他人がやるよりも何倍も難しい。でもそれをやることができた。
その時の経験を活かして教えればいい。
「分かった。シーナは水と風と光だったよね」
「うん、そうだよ」
それぞれの魔術には合った感情が存在する。
その感情が大きく出た時、より威力が増すらしい。
「水魔術は悲しみや悔しさなどの感情、風魔術は癒しや優しさなどの感情、光が愛情などの感情だね」
「感情を意識するって難しそう」
「まあね。ポイントとしてはその感情にあった思い出から感情を昂らせる。そしたら魔力、正確に言えば魔術の感覚を掴めるよ。その付属として魔力の感覚も掴める。だから魔術の感覚をメインに意識しつつ、魔力の感覚も忘れないようにね」
ちなみに火魔術は怒りなどの感情。土魔術は喜びなどで、闇魔術は恨みなどの感情だ。
「じゃあ目を瞑って、集中して、魔術魔力を意識して」
「……」
座っていたシーナを寝かせて、オレは様子を見ることにした。
「それにしても凄い集中力だな」
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「誰か、助けて……」
これ、襲われた時の記憶?
わたしは一生懸命に剣を振り回し、デーモンを近づけないようにした。
できる限りのある限りの力を振り絞って。
確かに、この時は悲しかった。辛かった。
あと少し、たった一本しかない糸に縋って、仲間を信じてた。
でもその糸はあっさりと断たれたんだ。
仲間に裏切られたことが悲しかった。今まで信じていたのにその信頼がわたしだけしかなかったことが辛かった。そしてそこで何もできない自分が悔しかった。
悲しみに辛さに悔しさが、あの時はそんな感情だけが溢れ出てきた。
一滴の涙がわたしの頬を伝う。
その涙を手で拭き取った。
拭き取った涙を見ると、細く青い糸がわたしの心に繋がっているのがわかる。
これは感覚だ。
ただ感じ取っただけ、でも確信した。
『これが、魔力。これが水魔術』
感じ取った魔力はとても冷たい。
まるで凍っているみたいに。
「大丈夫だよ。オレは絶対に勝つし、その後のことはシーナちゃんの自由だから」
次の記憶?
この時はユーリの優しさに触れたんだ。
ユーリはわたしのために行動してくれた。
まだあの時は知り合いでもなければ仲間でもない。ほとんど初対面で一度だけパーティーを組んだ相手を守ってくれた。
あんなに優しくされたの、久しぶりだったな。
お礼って言って高いポーションを買ってくれたり、わたしの話を真剣に聞いてくれたりしてくれた。
これが終わったら言おう。
ふうっと息を吸って、はあっと出した。
そして練習としてこの言葉を口に出す。
『ありがとう』
吐き出した息が、まるでさっきのありがとうを表すかのような暖かい空気に変わった。
『これが風魔術』
またわたしの心と繋がった。
今度のは暖かくて、優しい感じがする。
この優しさはユーリの優しさなんだ。
わたしの風魔術はユーリの優しさからできている。とてもとても暖かくて優しくて、心がほっとする。
「シーナちゃん。オレのパーティーに入ってくれ。オレは神……いいやオレ自身に誓う。君を絶対に幸せにすると」
あの時の記憶だ。
ユーリがわたしに誓ってくれた。とても嬉しくなった時の記憶。
わたしのせいで怪我をしたのに、それでもわたしのことをパーティーに誘ってくれた。
ユーリは同情なんかでパーティーに誘ってくれたんじゃない。
本当にわたしのことを信じてパーティーに誘ったんだ。
仲間に裏切られた時、ユーリに助けてもらった。
仲間のことだって自分で蹴りをつけれなくて、ユーリに頼ってしまった。
冒険者として戦えないわたしを。
仲間との問題も解決できないわたしを。
そんなどうしようもない程ダメダメなわたしに、ユーリは手を差し伸べでくれたんだ。
わたしにとっての光はユーリだ。
わたしのことを助けてくれて、守ってくれて、一緒にいてくれる。
わたしのリーダーは、わたしのヒーローは、わたしの光は最強だ。
『光魔術……』
わたしのこころに灯された、ユーリという光。
その光がわたしと繋がった。
この光は熱い。
ユーリに向ける仲間としての愛がこの熱さを生んでいるんだろう。
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「ん、んん。ユーリ?」
オレは今シーナを膝枕している。
流石に地べたで寝かせるのも悪いと思い、こういう行動に出たのだ。
「おはよう。感覚は掴めた?」
「うん。それもユーリのおかげ。ありがとう」
シーナは自然に起き上がり、お礼と同時に頭を下げた。
オレのおかげ? ありがとう? どういうことだ。
膝枕をしていたからか。それともこの練習のヒントをオレが出したからか。
まあどちらにせよ、そういうことを聞くのは野暮なことだ。
「どういたしまして」
こう返しておくのがいいだろう。
何はともあれ成功したみたいでよかった。
「魔力の感覚も掴めたし、魔術の糸も掴めたよ」
「そうか。なら今日のところは休んで、明日から魔術の練習をしようか」
「うん! よろしく、ユーリ!」
なんか元気になったみたいだ。
それに何か吹っ切れたというか、なんというか。
まあ、魔力の感覚を覚えられたのは凄い。
「わたし、何時間くらいやってた?」
「えっと、六時間くらいかな」
六時間の間暇だったから、ずっと魔術でお遊びみたいなことをしていた。
「六時間なら短い方だよ」
オレの時なんか十時間かかって、その間部屋から出てこなかったから仲間から心配されてたからな。
起きた時はどんどんドアを叩いている音が聞こえて目を覚ましたくらいだし。
そのあとなんか皆んなが泣いて、怒られたからな。心配かけるなって感じで。大変だったなあのときは。
「じゃあ帰ろうか」
「うん!」
「あっ、くれぐれも一人で練習とかしないように」
「分かったよ。明日、ユーリと一緒に練習するの楽しみにしてるから」
それならよかった。
まだ魔力を使ったことない奴や使い始めの奴が一人で練習したら、魔力暴走を起こすかもしれないからな。
そうして宿屋へ帰り、シーナは魔力の感覚を掴むために頑張ったからかすぐに寝てしまったようだ。




